被写体もおデブ、撮り手もおデブ。プラスサイズ・フォトグラファー(女)に聞いてみた「太った女性クリエイターでいること」って?
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ビジュアルのよさで、仕事の幅がぐんと広がるこのご時世。それはビジュアルを武器にする仕事だけでなく、クリエイティブ業界もそうだ。クリエイターのビジュアルが実力より先行して注目されてしまうことだって実際にある。彼・彼女は雑誌にフィーチャーされ、インスタのフォロワーをどんどん増やし、仕事もどんどん増える。
そんな昨今のクリエイティブ業界のなかで、彼女のビジュアルはちょっと異色だ。はっきり言ってしまおう。彼女は、「おデブ」のフォトグラファーだから

大きな体をさらけ出した「プラスサイズ・フォトグラファー(女)」

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©︎Caroline Fahey

 この写真は、先月、過激なセルフポートレートシリーズとしてネット上で話題をさらった作品『Silver Lining(シルバー・ライニング)』からの一枚。そこまで露出が激しい訳でもないし、はっきり言って昨今、プラスサイズの女性を起用するのは珍しい企画ではない。注目を集めたのは、それが「セルフポートレート」だったという点だろう。フォトグラファーが被写体にプラスサイズの女性を選んだわけではなく、プラスサイズのフォトグラファーが被写体に自分を選んだ。被写体がおデブ、同時に撮り手もおデブ。さらに、写真がいまどきのテイストな分、不思議な腑に落ちない感。だって、こういう写真を撮るクリエイターって、インスタ映えもバッチリ、スタイルの良いお洒落なガールズ・フォトグラファーを想像してしまうから。この企画は、センセーショナルだと世間に受け止められた。

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©︎Caroline Fahey
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©︎Caroline Fahey
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©︎Caroline Fahey

私の他に、おデブの女性フォトグラファーを知らない。フォトグラファーである自分にとって、プラスサイズのロールモデルはいなかった」と、おデブの写真家、キャロライン・フェイヒ(Caroline Fahey)。自分の体を躊躇なくさらけ出した張本人。本人の発言も手伝い、興味が湧いた「昨今の女性クリエイターがおデブでいるって、実際どうなんだろう?」。

 写真家としてだけでなく、近ごろ世界的に有名な広告代理店でプロデューサーアシスタントとても働きはじめたという彼女に、他人の家に土足で上がるような疑問に答えてもらうべく、失礼承知のうえ、彼女の自宅へ向かった。

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Caroline Fahey、キャロラインちゃん。

HEAPS(以下、H):こんにちは!はじめに自己紹介お願いします。

Caroline(以下、C):こんにちは!今日は雨なのに、こんな小さなうちまで来てくれてありがとう。私の名前はキャロライン。ちなみに先月、ニューヨーク大学を卒業したばかりなの。

H : ご卒業おめでとうございます。大学では写真の勉強を? セルフポートレイトを撮りはじめたきっかけは?

C:高校生のときに写真をはじめてから暗室漬けで、大学でも写真を専攻したわ。セルフポートレイトは、大学一年生の頃から。だけど大学二年生になってすぐ、脳に血栓ができて、瀕死状態になってしまったの。これが、『シルバー・ライニング』のきっかけ。

H:といいますと?

C:血栓の理由が「太りすぎていた」からで。病気がきっかけとなって自分の体重だったり、体について考えるようになって『シルバー・ライニング』を作ることにしたの。

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©︎Caroline Fahey

H:自分の、周りの人よりも大きな体を意識しはじめたのはいつからなんでしょう?

C:生まれてこのかたずっと(笑)。体が大きいのも生まれてこのかたずっと。ははは。だって幼稚園の初日にね、自分より年上の男の子に「妊娠しているの?」なんて言われたり。こんなことだらけよ。

H:ちなみに、太っている自分をどう思っているんでしょう。

C:自分でいうのもあれなんだけど、私、太っているということをマイナスには気にしていないの。

H:それは昔から?

C:根が楽観的でカラフルな人間だからなあ。でも本当の意味で自尊心というのか、自分を大事にできるようになったのは、あの病気のあと。

H:今日が初対面だけど、あなたの“カラフルさ”はひしひしと伝わってきます。

C:服がカラフルだしね(笑)。

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H:あまり気にしていない、ということは太っている自分は昔からオープンでした?

C:うん。でも、「自分の体」について周りの人と話すようになったのは病気のあと。それまでは避けてた。デブな人って自分の体について話すの、嫌でしょ?

H:確かに、世間でいうスタイルがいい、という子たちのように互いの体について話しているイメージはないですね。

C:話すようになった結果、太っているだったり、痩せている、背が低いなんていう「ボディイメージ」について話し合えることがどれほど大切か感じたわ。

H:自身が「太っているクリエイター」という認識についてはどうでしょう?

C:太っているアーティストやクリエイターたちも、自分たちの「大きな体」について話すことってあまりないと思う。事実、私は他に女性のプラスサイズのフォトグラファー、知らないし。

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H:クリエイターとしての自信に影響を与えたりは?

C:どうだろう。自分にとってプラスサイズのロールモデルがいないという事実は、時として困難だと感じたりもする。

H:フォトグラファーとして活動する上で、太っているから困ったことなどは?

C:撮影に関しては、体が大きくて困ることはないかも。いまで言えば、制作内容が基本的に私一人で自分のポートレイトを撮る、だからね。

H:撮り手も被写体も自分ですもんね。

C:対峙する場合でも、「あなたは太っているから雇えません」だったり、「あなたは太っているから好きじゃない」なんて経験は、私はないかな。だから仕事の観点からいえば、ノー! でも人からの“ジャッジメント”という観点からいえば、イエス。

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©︎Caroline Fahey
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©︎Caroline Fahey

H:というと?

C:はじめて私を見る人が思うことってさ、「おー、あそこにデブがいる」でしょ?(笑)。その反応自体って、悪いことでもなければ良いことでもない。それは誰かに対して「ガリガリだね」っていうことと変わりはないもの。

H:ふむ。

C:ただ、何が問題なのかっていうと、「彼女は太っている」のあとに続く言葉。「(太っているから)ブサイク」「(太っているから)不健康」「(太っているから)怠け者」みたいに、太っていることの偏見に対して不快感を覚える。だから、それだけで判断されることは悔しいかな。

H:確かに、太っている、ということの後にポジティブなイメージがくることは少ないかもしれません。

C:クリエイティブ業界のみならず、「太っていることは恥ずかしい」というネガティブな認識がこの社会には深く刷りこまれている。だから、無意識でデブをからかっているようなことって日常生活でよくあるわ。発言する側は気づかなくても、当事者であるおデブはとても敏感よ。

H:「太った女性」でいることについて、仕事以外の面でも教えてください。

C:私の体型に合う可愛い服を見つけるのってものすごく大変。私のような体型の女性を雑誌やテレビなんかで見かけないでしょ? でも、私の人生においてハンデになるかというと「ノー」かな。太っているということが私の能力ややりたいことを妨げることはないからね。

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©︎Caroline Fahey
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©︎Caroline Fahey
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©︎Caroline Fahey

H:キャロラインちゃんはすごくポジティブだと思う。偏見を認識しながら、そうやって考えることってなかなか難しそう。

C:みんな一度私の内面を知れば、体のサイズが関係ないってことに気づいてくれる。私は「太っている」からって自分の限界を作りたくない。そうであるべきじゃないしね。

H:内面を知ってもらう、“次の段階で挽回しよう”と意識するのも、外見でジャッジされてしまうことが多いから、というのはありますよね。

C:そうね。事実、第一印象で「彼女は太っているから〇〇だ」と決めつけられることに日々苦しんでいる人たちがたくさんいる。それって全然オッケーなことじゃない。そんな社会への憤りが私の作品の原動力よ。

H:ポジティブなキャロラインちゃん、「太っている」ことで得られる特別な視点とかはある?

C:私の制作でいえば、セルフポートレイトを通して鏡には決して映らない自分の姿を見ることができたこと、かな。「自分が自分に見つめられる」ってとても興味深いことじゃない? 編集過程もおもしろい。セルフィーだったらベストショットを選ぶけど、私のポートレートプロジェクトは違う。自分を良く見せるというのが目的ではないから。

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©︎Caroline Fahey
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©︎Caroline Fahey

H:「自分で自分を選ぶ」ということについては、伺おうと思っていました。

C:「正直でいること」は私にとってすごく重要で、プロジェクトでも伝えたいこと。自分が綺麗に見える写真って、正直であるとは違うと思うのね。

H:はい。

C:たとえば、「この写真の私、とてもshit(最悪)だけど、あの時本当にshitって感じていた」くらいの方が正直。だって、みんな「私って、最悪」って感じることもあれば、「超セクシーじゃん」と思うこともある。だから、そう言った観点での“正直な写真”を選んだわ。

H:自分の気持ちや感情に忠実に映っているということですね。かなり大胆に自身を写したものだけど、発表前にナーバスになったりしなかった?

C:その質問は結構いろんな人にされたんだけど、ナーバスにはならなかった。大きな体をさらけ出すってことに対してみんな「勇気のあることだね」っていうけど、このご時世、インスタグラムなんかで、女の子が自分の体をさらけ出すなんて日常茶飯じゃん。まあスリムでセクシーな女の子にそんなこと言わないけどね(笑)。

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H:確かに、スリムでセクシーな女の子に「勇気いるね」とはなりません。そこも、すでにバイアスがかかってるんだなあ。

C:私の体は星の数ほど存在するボディイメージの一つであるだけ。何も恐れることはないと思っているの。それにここ数年で、SNSのおかげでボディイメージやプラスサイズについて話せるプラットフォームができたって感じてる。みんなが社会に向けて声を発せられるようになった。

H:プロジェクトに対する反応にはどんなものがあった?

C:オーディエンスには、私のように太った女性だけでなく男性もいて、おもしろいことにファット・シェイマー(*)もいたの。
面と向かってじゃないけど、ネット上ではいつものごとく「不健康」なんてネガティブなコメントもあったわ。

*fat-shamer(ファット・シェイマー):太っていること、太った人に対してネット上で晒しあげ笑いものにする(fat-shaming)人のこと。

H:気にならない?

C:全然気にならない。だってみんな、私がどんな風な食生活をしているのか、それに、実はジムに通っていることだって知らないわけじゃない(笑)?

H:ジムに通っているんですね、僕より健康的! このプロジェクトで、クリエイターとして、あるいはあなた自身に何か変化はあった? 

C:このプロジェクトは内なる自分との対話として、いわば“セラピー”のようなものとしてはじまったの。この大きな体は私のアイデンティティであって、それを隠すのってとても苦しい。というか隠そうにも隠せない見た目だしね(笑)。だから、このプロジェクトで自分の内を外に出すことができて、とても気持ちが軽くなった。そして、自分に対して自信がついたわ。元から自信はあるタイプだと思っていたけど。

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H:“太っているキャロライン”にしかできない制作です。そこに、クリエイターとして込める思いは?

C:今回、パーソナルプロジェクが思わず不特定多数の人に届いた。寄せられたコメントを通して気づいたのは、さまざまな人がボディイメージについて悩んでいてそれを話す機会がないということ。だから、作品、そして私の大きな体が、おデブもガリガリの人もセクシーな人も自分の体とのつき合い方やボディイメージについて話せる「プラットフォーム」になってほしい。

H:素敵です。最後に、ブームになりつつある「プラスサイズ」は、今後どのようになっていくと考えていますか?

C:ブームで終わらないことを祈るわ。体型は単なる“トレンド”じゃないからね(笑)。

Interview with Caroline Fahey

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Caroline Fahey
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Interview photos by Kohei Kawashima
Text by Shimpei Nakagawa, edited by HEAPS
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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