「まだ着られる服は捨てずに寄付しろ、リサイクルしろ!」などと、消費者である私たちには厳しい世の中だが、実はその衣類を作るデザイナーなど生産者たちには、意外と甘かったりするらしい。「良いものを作るためなら、少々ゴミ出すくらい、目をつぶれ!」ってことか? いやいやいや…。
ファッションの街ニューヨークでは、実は作り手が出しているゴミの量は、消費者である私たちの40倍にもなるらしい。

服、作るだけじゃなくて、布の切れっ端もどうにかしないと!
私たち一人ひとりのリサイクル意識は高まっている。着なくなった服は、ただ捨てるのではなく古着屋やリサイクルショップ持っていく、また、施設に寄付するなど以前よりは実践するようになってきたのではないだろうか。
「ニューヨーク市民が年間に出す衣類ゴミ(洋服やリネンなどの繊維製品)の量は約20万トン以上」というインフォメーションは、「市民のみなさん、ちゃんと(リサイクル)やってください。困ります!」という、煽りでもある。責めに責められ、消費者である私たち一人ひとりの意識は変わってきた。もちろん、消費者の一人ひとりのリサイクル意識の改善は大切。だが、「より深刻」なのは、ファッションを作る生産者側だったりする。
実は、「消費者よりも約40倍もの布地をゴミとして捨てている。ある意味、作る側のテコ入れをした方が、衣類ゴミ問題解決へのインパクトは大きいです」と話すのは、ファブスクラップ(Fabscrap)の創始者、ジェシカ・シュレイバー(Jessica Schreiber)だ。
「ファブスクラップ」は、ニューヨークのファッション生産者、つまり、ファッションデザイナーやブランドから、服を作る際に出した布の切れ端(スクラップ)や、汚れやシミなどさまざまな理由で不要になった布(ファブリック)を回収し、リサイクルを行う非営利団体だ。

ジェシカ・シュレイバー(Jessica Schreiber)
法律が機能しないなら「私がテコ入れします」
実際、生産者側が出す衣類ゴミを取り締まる「州の法律はあるんですけどね」とジェシカ。
各ブランドや企業が出す全体のゴミの中で、布類ゴミが10パーセント以上を越える場合は、なんらかのリサイクル方法を見つけなければならない—、ということになっているが、実際のところかなり見過ごされている。というもの、「衣類ゴミ」というカテゴリーには、まだ着られる不良品(在庫や不備あり商品)だけなく、布の切れ端やサンプルなど、「リサイクルのしようがないよね?(=価値なし=結局ゴミじゃん?=じゃ、捨てるしかないよね)」なものも含まれており、どこまでが許容範囲なのかが曖昧で、取り締まるのが難しいから、だとか。

ジェシカがこのゴミ問題に気づいたきっかけは前職。市民の古着リサイクルを集めるため、市内のアパートに古着回収ボックスを設置するプロジェクトに5年ほど従事していた。
「当時、ファッションデザイナーや工場から『ぜひ、リサイクルに参加したい』とリクエストは多数もらったのですが、彼らが送ってきたのは、まだ着られる古着というよりもただの布の切れ端で…」。それらを寄付していたパートナーからは「切れ端はいらないよ。もうデザイナーからの回収はやめてくれる?」と言われてしまった。
「それで、ファブスクラップをはじめたんです」。立ち上げは2016年6月。今年に入るまで社員は彼女だけ。ボランティアを募りつつ、たった一人で運営していたという。
システム自体はシンプルだ。提携したファッション生産者に、2種類の袋(ベージュ&黒)を渡す。黒の袋には、ブランドのロゴが入った生地や、バーバリーのような一目でどこのブランドかがわかるパターン(柄)生地を、ベージュの袋にはその他を入れてもらい、「一杯になったら、私たちが引き取りに行く。自社倉庫へ運び、仕分けをし、再販、リサイクル、ダウンサイクルを行う」。そうすることで、ゴミ処理地に行き、環境汚染を引き起こしていた衣類ゴミ量の削減を行なってきた。



マーク・ジェイコブスも参加。リサイクル率「数値化。求められています」
生産者が負担するのは、一袋あたりの回収費用35ドル(約3,850円)のみだが、他の私営の回収業者よりは割高だ。以前「お直し」専門のアパレルブランドの記事で「廃棄する方がコストが安いゆえに、衣服のリサイクルが進まない」という問題があることを述べた。が、どうやら「ちょっと割高でも、環境に優しいブランドになりたい、グリーンブランドとしてのスコアをあげたい」というブランド側の欲求は着々と広がっているようだ。
創設から1年でファブスクラップのクライアント数は50以上に成長。中にはマーク・ジェイコブス、アイリーン・フィッシャー、エクスプレスなど、有名ブランドも含まれている。営業に力を入れずとも「ほとんど口コミで広がった」。それはファブスクラップが「ニーズにあったサービス」であることの証でもある。



ジェシカはニーズの高まりについてこう話す。「消費者や株主が、企業やブランドに対して、サステナビリティの実績の開示を以前より求めるようになっていますよね。グリーンブランドとしてのスコアをあげる社会的利益が適正に評価され、それがブランドの価値に反映されています。だからこそ、ファブスクラップのサービスへのニーズが高まっているのだと思います」。
彼女は、クライアントから受け取った衣類ゴミが、何にリサイクルされ、それがニューヨーク州の衣類ゴミ量の何パーセントの削減になり、その削減が環境汚染を何パーセント減らしたか…、といった「数値」を弾きだして各クライアントに提出している。曰く、「どれほど、環境問題への生産性が上げられたのか」など、数値で効果を表し経済的メリットを明らかにすることは、これからますます求められていくそう。サステナビリティへの取り組みが数値で評価される時代は「既にはじまっています」。
※1ドル110円で換算。
Interview with Jessica Schreiber from fabscrap

—————
Photos by Kohei Kawashima
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine