「挑発的な女を描けないからプレイボーイを辞めた」筋肉×ヒール×エロのピンナップガールで挑む〈今日的ピンクなエロス〉

男たちの妄想をかき立てた“ドリームガール”たちに、筋肉と強さを下着姿に描き足して。描かれてきた〈エロス〉は変遷する。

男の部屋の壁に画鋲でピンされ米兵の軍服のポケットに入れられ、コカコーラのCMで微笑むのは「ピンナップ」の女たち。ヌードグラビアなき時代から、男たちの妄想をかき立てた“ドリームガール”たちだ。
だが、ここで「クッキーのお皿をもってにっこり笑顔、フェミニンなランジェリーでにっこり笑顔のピンナップガールばかりを描くのが嫌で」と、早々に古典的なピンナップに退屈した絵描きがいる。過去40年、筋肉とヒールにエロを重ねた〈挑発的でタフなピンナップガール〉の生みの親になった。

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“Here’s Looking At Me”  model is Bettie Page
Artwork Copyright © Olivia De Berardinis/All Rights Reserved

男のためのエロスから、女の表現のエロスへ。異色の“強い”女神たち

 聖母マリアのイコンのように、青春映画のヒロインのポスターのように、男部屋の壁に掲げられ拝まれる女性のイラスト、「ピンナップ(Pin-up)」。レトロなコカ・コーラのお姐さんに、ジッポライターやトランプカードの裏で艶かしくポーズをとる、あけすけなヌードのお姐さん、といったらわかるだろうか。
 壁にピンで留めることからその名をつけられたエロティックなアート、壁の女神さまたちの起源は第一世界大戦前からだといわれている。ヌードグラビアがなかったアメリカやフランスで広まり、のちにカレンダーにも登場。第一次世界大戦時には、戦債の広告や募兵ポスターにも描かれた。1940年代にはイラストレーターのアルベルト・ヴァーガスが雑誌『エスクァイア・マガジン』に発表した“ヴァーガスガール”たちを皮切りに、マリリン・モンローやジェーン・マンスフィールド、ベティ・グレーブル、ベティ・ペイジらピンナップガールたちがみんなの憧れに。第二次世界大戦では、兵舎や戦艦の壁、軍服のポケット、航空機のボディやフライトジャケットにピンナップは忍ばせられ、恋人と離れ異国の地で戦う兵士らを癒した。成人向け娯楽雑誌『プレイボーイ』が創刊した50年代にも、ピンナップガールたちは誌面を彩りに彩った。

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“Paradis” model is Bettie Page
Artwork Copyright © Olivia De Berardinis/All Rights Reserved

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“Sugarbush” model is Dita Von Teese
Artwork Copyright © Olivia De Berardinis/All Rights Reserved

 50年代のピンナップガールたちは、ガーリーでチャーミングというちょっと安易な形容詞がぴたりとはまってしまうほど、当時の男性が欲求する“女性らしさ”全開である。セクシーなランジェリー姿で恥じらいの笑顔、今日はあなたの好きなパイを焼いたのと言いたげな家庭的な雰囲気、あなたの電話待っているわの表情で受話器片手にこちらを見つめる。

 “男性向けのエロティシズム”、ピンナップアートだが、異色のピンナップガールたちが紛れ込むようになる。タトゥーが施されたはち切れんばかりの肉感的な体で、いまにも飛びかかってきそうなキケンな顔つきで、睨まれたら石にされそうなコワい目をもつ女たち。40年以上ピンナップ界に君臨する女性ピンナップアーティスト、オリビア・デ・ベラーディニスのピンナップガールたちだ。

 フェミニンなランジェリーでにっこり笑顔の伝統的なピンナップガールではなく、女のエロスダダ漏れでいて強く、挑発的でタフなピンナップガールを描いてきた。時代とともに、男の目の保養としてのエロスから「女の強さを表現するエロス」へと変遷してきたピンナップガールたちの下着の紐を、オリビア先生と一緒に解いていこう。

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ピンナップアーティストの大御所、オリビア先生。

オリビア(以下、O):あらぁ、ちょっと緊張しているわ。私、あまり話し慣れていないから。

HEAPS(以下、H):大丈夫、私もそうです。オリビア先生の専門は“描く”こと、私のは“書く”ということで(笑)。

O:そうね。私は絵描きだわね(笑)。

H:40年間ピンナップガールたちに息を吹き込んできたオリビア先生ですが、はじめてピンナップを目にしたときのことを教えてください。

O:そうね、いつだったかは忘れちゃったけど…。家ではカリフォルニアガールの母親が真っ裸でウロウロしていて、父親が購読していた『プレイボーイ』が郵便受けに届く。そんな家庭だったわ。父親のプレイボーイをめくるとヴァーガスのピンナップガールたちがいて。12か13くらいのときだったかしら。

H:母親の裸にプレイボーイのヌード。女性の裸体への免疫は幼いころからあったと言えますね。

O:ええ。私、もうすぐ70歳になるんだけど、私が育った50年代はいまとは別の世界だったわ。保守的で性的にも抑圧されていた社会だった。ドラマの『マッドメン*』ってわかる? 女性の職業といったら秘書にフライトアテンダント、という世界よ。

*1960年代のニューヨークの広告業界を描いた海外ドラマ。

Mamie HEAPS
“Jungle Red” Model is Mamie Van Doren
Artwork Copyright © Olivia De Berardinis/All Rights Reserved

H:実際の社会の女性たちも性的に抑圧されていたということですが、それはアートで描かれる二次元の女性たちも同じだったのかと。というのも、オリビア先生は他紙で「アメリカにおいて官能作品で描かれる女性たちは、すごく粗野で無骨に扱われていた」と言っていたので。

O:私自身、はじめはファインアートの道を目指していたんだけど、当時業界を牛耳っていたのは男性で、女性はあまり真剣に取り合ってもらえなくて。だから食っていくためにも、70年代から男性向けの雑誌で官能イラストを描きはじめたのね。そういう雑誌に載っていた女性たちは、性器を丸出しにしているような描かれ方だった。モノとして扱われるような主権のない彼女たちを見て、興ざめよ。

H:それに70年代に女性アーティストが男性向けの成人雑誌で絵筆をとるというのも異例だったのでは? その昔、ピンナップアーティストのほとんどが男性だったと聞きますが。

O:その通り、ピンナップアーティストの大半が男性だった。でも私の場合は、男性誌で働いていてもなにも問題はなかったの。みんな敬意をもって接してくれたし。それに男性誌なんて女の私が“いるべきでない”世界でしょう。それが逆にたのしかった。

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Heavy Metal covers 2 copy
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H:そして、そのままエロティックアートの世界にとどまった。

O:結局、ファインアートの世界には戻らなかったわ(笑)。『ハスラー』や『クラブマガジン』『スワンク』『ペントハウス』などの男性向け成人雑誌で仕事をして、90年代後半に『プレイボーイ』での仕事をスタートしたわ。それから10年間、ヒュー・ヘフナー(プレイボーイの創設者で編集長)のピンナップページを担当することになって。あとね、プレイボーイマンション(ヘフナーがプレイガールズと住んでいた豪邸)で開催されるパーティーの招待状のイラストを描いたりもしたのよ。

H:プレイボーイの誌面を飾ったピンナップとはどのようなものだったのでしょう?

O:初期のころは、すでに描いてあったなかからベティ・ペイジのピンナップなんかを提供していたんだけど、後には、いくつかピンナップを新しく描いて、そのなかからヘフナーが選ぶという流れになったわ。彼の好みは、とってもクラシカルな50年代風のピンナップ。にっこり笑顔の、ね。それが嫌だったの。バラエティのないピンナップのチョイスにうんざりしちゃって、プレイボーイを辞めたというわけ。

H:オリビア先生のピンナップガールたちは、50年代のチャーミングな娘たちとは毛色が違います。往年のハウリッドスターの大女優のようなトラディショナルなものもありますが、タトゥーにアイラインがバリバリ入ってる、アグレッシブなバッドアスたちです。

O:私の描くガールズは、ハングリーでアングリー。襲いかかって噛みついてくるわよ(笑)。彼女たちはさまざまな種類のモンスターたち。50年代のピンナップでは、私のピンナップガールは絶対禁止よね。当時、女性は柔順であるべきで「アグレッシブな女性=魅力的」ではなかったから。それが変わったのは、70年代に起こったフェミニズムムーブメント。女性たちが平等のために闘った。だから私は自分の作品のなかの女性たちには、堂々と世間に立ち向かい、面と向かって社会とアイコンタクトをとって欲しかったの。

H:こっちが目をそらしてしまうほど、鋭いアイコンタクト。

O:たとえば、私の大好きなピンナップガールのひとり、マスイミ・マックスを見てみて。こんな挑戦的なポーズや靴、プレイボーイでは絶対載せられないわ。それ以前に、プレイボーイだったらヘフナーはタトゥーが嫌いだったから。プレイボーイのためにマスイミのピンナップを描いたこともあったんだけど、プレイボーイの彼女はこれとは正反対のスウィートでかわいらしい感じだったわ。

Scorpion HEAPS
“Scorpion” model is Masuimi Max
Artwork Copyright © Olivia De Berardinis/All Rights Reserved

Kaida HEAPS
“Kaida” model is Masuimi Max
Artwork Copyright © Olivia De Berardinis/All Rights Reserved

H:オリビア先生のピンナップガールは空想上の女性でなく、実際にモデルがいるのですね。

O:過去30年で描いてきたガールズのほとんどは本物のモデルよ。虚構の女性なんてつまらないじゃない。私のモデルたちは、自らの肉体や精神でもって私と会話してくれる。なかにはディタ・フォン・ティース(“バーレスクの女王”と呼ばれるダンサーでモデル)のように、のちに有名になったピンナップガールズもいたわ。

H:先生の作品の色使いも特徴的ですね。エレガントなピンクが基調のものもあれば、鮮やかなスカイブルーにベビーピンクのようなあどけないもの、黒に赤のロック調。世界観がはっきりわかれていて、美しい。

O:そうね、よく赤やピンク色を使うわ。それが女の子っぽい色だからというわけではなくて、赤やピンクはセクシャルな色だからなの。人間の肌の色だし、紅潮した頬の色でしょう。

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desktop shot- “catseye”  model is Bettie Page
Artwork Copyright © Olivia De Berardinis/All Rights Reserved

Franky's Bride
“Franky’s Bride” model is Tiah Eckhardt
Artwork Copyright © Olivia De Berardinis/All Rights Reserved

H:最近の先生は、キャットウーマンやワンダーウーマンなどアメコミのヒロインたちも描いています。先月開催されたサンディエゴのコミコンにも参加アーティストとして、ブースを出していたそうで。先生のファンはやはり女性が多い?

O:男性ファン、女性ファンは半々くらいね。キャットウーマンにワンダーウーマンみたいなアグレッシブな女性たちを描くの大好きなの。彼女たちはヌードではないけど、ピンナップガールたちと同じ淑女たちよ。女性ファンが、私のキャットウーマンやワンダーウーマンのポスターを壁に貼ってくれていると思うと、すごくうれしいわ。

H:40年ピンナップガールを描いてきたオリビア先生に聞きたいのですが、彼女たちの描かれ方はどう変遷していますか。

O:そうね…。“クッキーのお皿をもってにっこり”の50年代から、“ノースマイルで銃を携えてエイリアンと戦う”70・80年代になった、って感じかしら。80年代後半になると、筋肉のある女性が描かれて、90年代にはヒールを履いて真っ赤な口紅を塗りはじめたわね。いままでとは違う意味で。

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“Chat Noir”  Michelle Pfeiffer
BATMAN RETURNS and all related characters and elements © & ™ DC Comics and Warner Bros. Entertainment Inc. (s18)
“Chat Noir” Artwork © 2015 OLIVIA DE BERARDINIS All rights Reserved

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“Wildcat”   Michelle Pfeiffer
BATMAN RETURNS and all related characters and elements © & ™ DC Comics and Warner Bros. Entertainment Inc. (s16). “Wildcat” artwork © Olivia De Berardinis. All rights Reserved

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Gal Gadot is Wonder Woman in the film BATMAN V SUPERMAN: DAWN OF JUSTICE BATMAN V SUPERMAN: DAWN OF JUSTICE and all related characters and elements © & ™ DC Comics and Warner Bros. Entertainment Inc. (s18)
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“Meanwhile at the Sweetshop”  Julie Newmar & Adam West
 BATMAN  and all related characters and elements © & Ş DC Comics and Warner Bros. Entertainment Inc. (s16)
“Meanwhile..at the Sweet Shoppe”  artwork © Olivia De Berardinis. All rights Reserved

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“The Tongue Lashing” Michelle Pfeiffer & Michael Keaton
BATMAN RETURNS and all related characters and elements © & ™ DC Comics and Warner Bros. Entertainment Inc. (s16). “Tongue Lashing” artwork © Olivia De Berardinis. All rights Reserved 

H:というと?

O:新しいピンナップガールたちは、自分たちのためにお化粧をしてドレスアップをしているということ。男を誘惑するために着飾った50年代のピンナップガールとは違って、いまの彼女たちはヒールを履いて口紅をひいて魅惑的な服を身につける、その工程を心底たのしんでいるようだわ。

H:なるほど、自分たちが“したい”からと強めのセックスアピールをしたLAパンク姐さんたちのようだ。そんな時代の移り変わりに、オリビア先生のピンナップスタイルも影響を受けましたか?

O:一緒に仕事をする雑誌が変わったから多少スタイルも変わったかとは思うけど、絶対変わらないのは、私の描く女性はアグレッシブだということ。アグレッシブというのは適切な言葉ではないわね…。自分の主導権を握っている、の方がいいかしら。自らの手でセクシュアリティを表現し、支配的であっても服従的であっても決して“犠牲者”にはならない女性たち。

H:だからでしょうか。先生のガールズはすごくエロティックだけど、決して蓮っ葉で下品ではない。

O:ありがとう! そう言ってくれてとっても感謝しているわ。

私たちは、みんな性的な生き物(sexual creatures)。女性たちは、たとえどんな姿・形であっても女性であることを楽しんではいけない理由なんてない。唇の真っ赤なリップだって、体についた筋肉だって。

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 “Tiger Lily” model is Masuimi Max
Artwork Copyright © Olivia De Berardinis/All Rights Reserved

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“Zanzibar”  model is Lyniese Burke
Artwork Copyright © Olivia De Berardinis/All Rights Reserved

H:無数の女体を紙になぞってきたオリビア先生。どうして女体をこんなにも美しく描けるのでしょうか。

O:私がその“持ち主”だからだと思う。女性の体がどのように機能して、どのように感じるのか、人生をかけて知り尽くしてきているからね。私は女性の体の借り手(renter)ではなく“所有者(owner)”だから。

H:どのピンナップガールも、スタイルは違えど女性の体を讃美していることには変わりない。ただ、ピンナップの役割が「男の目をたのしませるエロス」から「女の強さを表現するエロス」と広がっている、ということか。

O:その通り。ちょっとここでピンナップがどうやってはじまったか、私の見解を話してもいい? すごく時代を遡るんだけど、日本の芸者たちだと思うの。彼女たちはショーガールで、ピンナップガールだった。私もすごく好きな画家たち、葛飾北斎や喜多川歌麿は芸者の絵を木版で大量に刷って、大衆のために売ったのね。そのずっとあと、戦時中は兵士たちが「なんのために戦っているのか」を思い出させ、戦地での恐怖を和らげる癒しだった。

H:芸者もピンナップガールか! 江戸時代の“ピンナップ”から400年以上経ったいま、未来のピンナップの姿、予想できますか。

O:未来はわからない。私はアーティストとして、ただ前へ前へ突っ走るのみ。でも、考えようによっては、タイムズスクエアや東京の雑踏に掲げてある、美しい服に包まれた美しい女性の巨大広告だってピンナップといったらピンナップじゃない? ピンナップは絶対にどこかへ消えたりはしない。なにかしらの文化という壁にピンで留められていると思うわ。

Interview with Olivia De Berardinis

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“Boo and Giaffant”  Model is Gia Genevieve
Artwork Copyright © Olivia De Berardinis/All Rights Reserved

Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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