生理用品に続け?男性のタブー「“薄毛”は恥ずかしいことじゃない!」なエンパワメント・ブランディングが興味深い

このパッケージをみて、誰が男性用のウェルネス商品だと思うだろうか。開けてビックリ。中身は薄毛とインポテンツ(勃起不全)の薬…

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ここ数年、女性の生理用品などを「新しくブランディングし直す」という動きが活発化してきた。いまでは「生理はタブーでも恥ずかしいことでもない」という“革新的”な広告が電車の中吊りをジャックすることだってある。一方で、男性にとってのセンシティブな問題—つまりは薄毛やインポテンツについて—は、かなり遅れをとっていたらしい。その証拠に、「薄毛もインポも、恥ずかしいことじゃない!」と、突然現れた男性をエンパワメントするブランドに、周囲がどよめいている

たとえば、抜け毛を観葉植物でアーティスティックに表現してみたり

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インスタ@himsもかわいい。@hims

 11月に誕生したばかりの男性による男性のためのスタートアップブランドの名前は「ヒムズ(hims)」。コアターゲットは20〜50歳の男性で、主力製品は、抜け毛予防のシャンプーや育毛剤、育毛効果が期待できるミノキシジやアミノ酸配合のガミーベアのグミ、そして、バイアグラ。ウェルネス商品の中でも「薄毛」と「インポテンツ」という、男性ならではセンシティブな悩みに寄り添う。先述したが、このブランドの特筆すべきはプロダクトがどれだけ優れているかではない。その売り出し方、だ。

「まず、薄毛やインポテンツへの世間の理解の低さが問題です」。そう話すのは、ヒムズの創始者アンドリュー・ドゥドゥム、現在29歳のミレニアルズ世代。

 たとえば、どちらも広告で起用されるのは、主に中年もしくは初老の男性で、中年以上の悩みとして扱われることが多かったが、彼らが米国男性を対象にリサーチをした結果、実際には66パーセントの男性が35歳までに薄毛になる経験をしており、そのうちの4分の1は20代前半に薄毛が進行し始めたと回答。また、約40パーセントの男性が、40歳までに勃起不全を体験しているという。「つまり、20〜30代の頃から薄毛やインポテンツに悩んでいる人は少なくないわけで、何も恥じることはない。ただ、従来の予防・ケア商品は、どうしても見た目が戸棚の奥に隠しておきたくなるようなものばかりだったので、そこから改善する必要があると思いました」。

 では、ミレニアルズ世代の男性が、身近に感じられるデザインとはどんなものなのか。ウェブサイトをみて驚いた。背景はミレニアルピンク。「抜け毛」を表現するのは、鏡を覗き込みならが生え際のきわどさに困った表情を浮かべる男性ではなく、パラパラと葉を落としつつある観葉植物。そして、「インポテンツ」を表現するのは、空に向かってピーンとそびえ立つサボテンだ。

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 この手法、そしてデザインもフォントも、思えば生理用品の世界に革命を起こしたシンクス(THINX)とよく似ている。シンクスは広告に女性器を思わせるオレンジやイチジクなどを使っているのだが、そのビジュアルは、デザイン性が高くて、親しみやすい。「女性器」を直球ではなく、アーティスティックな変化球で表現することでミレニアルズの心を掴んできた。
 また、「みんなのためのブランド」であることを表現すべく、起用しているモデルの肌の色や人種が様々である点も酷似。といっても、生理に人種も肌の色も関係ないように、抜け毛やインポに人種もセクシュアリティも学歴も収入も関係ない。アプローチの仕方が似てしまうのは、致し方ないことなのかもしれない。ただ、ビジュアルに関しては、どうしても女性をエンパワメントしてきたフェミニズムブランドの後追い感は否めない

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男性が抜け毛や勃起不全について話しやすい社会へ?

 

 フェミニズムブランドがもつ「生理はタブーじゃない」「生理のことを話しやすい社会へ」「生理についての正しい知識を」といった信念があるが、興味深いのは、この「生理」の部分を「薄毛」や「インポ」に置き換えると、そのままヒムズの信念になることだ。つまり、タブーをタブー視しない世の中を目指すという志はとてもよく似ている
 
 薄ピンクのラベルに、親しみやすいフォントで「hims」という文言だけをプリントしたパッケージ。それは「プロテインを摂取するようなカジュアルさで、バイアグラを摂取したい」「オフィスのデスクにビタミンのサプリメントを置くようなカジュアルさで、抜け毛予防に効くガミーベアグミを置きたい」という想いを落とし込んだ結果らしい。「そのグミかわいね」と言われたら、男性が「あ、これ、抜け毛に効くんだ!」と「話しやすい世の中を切り開いていきたい」と。確かに男性だけでなく、女性も親しみやすいデザインにすることで、より多くの人が薄毛やインポについての正しい知識を得られるきっかけになるかもしれない。

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右肩上がりの世界のウェルネス市場

   

 ヒムズが参入するウェルネス市場は、世界各国で右肩上がりで成長を続けている巨大産業。ビジネスモデルは、「急成長を遂げた美容系スタートアップ、グロシエー(Glossier)にインスパイアされた」そう。SNSやウェブサイトを通じて、若者たちが親しみやすい絵文字を交えたカジュアルな口調オーディエンスに話かける手法は、若い世代に響きやすい。

 また、医師の処方箋を必要とするバイアグラも、カウンセリングをオンラインで受けることができ、その回答をもとに提携する医師から処方箋を発行してもらえるそうだ。そのため、アマゾンで注文した商品が自宅に届くように、病院や薬局に行かずとも自宅(もしくは指定の場所)で受け取りが可能。これにより「手軽に専門家に相談できるようになっただけでなく、信頼性のある商品を従来のものより50〜80パーセントも安く提供することを可能にした」。その他にも自社でデザイン企画を行い工場に直に注文をするなど中間コストを大幅にカットし、商品を低価格で提供している点には共感を示す人も多いだろうし、価格以上の効果が実感されれば、リピーターは確実に増えると予想される。

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 ところで、資金調達が好調だったことについては「男性向け商品は資金調達に有利だから」という若干冷ややかな意見も。ヒムズが拠点とするサンフランシスコの投資家の多くは男性であり、創始者のアンドリュー氏も男性であることから「いままで、ウェルネス産業界の女性起業家は、男性投資家からの共感を得るのに苦労してきたが、男性同士なら話ははやいのではないか」と。

 アンドリュー氏自身も、もちろんヒムズユーザー。どうやら「母方の祖父が一本たりとも残さずハゲているので、できるだけはやいうちから対策しておこうかと」とのこと。この爽やかなイケメンの言葉とブランドに、一体、今後どれだけの若い男性が食いつくのか。興味深く見守っていきたい。

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Photos by hims
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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