メディアが(あんまり)報じない中国ミレニアルズの実態。 その1、『ネット規制もなんのその。SNS超たのしいです』

Share
Tweet

「尖閣諸島」「爆買い」「PM2.5」。これがわが国での近年3大トピックで、印象は「良くない」「どちらかといえば良くない」と答えた日本人、なんと91パーセント(日中共同世論調査)…。そう、お隣の中国のこと。みんな中華は好きだけど、国となると急に印象が悪くなる。
そりゃあそうよね、だってなかなかイイ話を聞かないんだもの…。
ということで、今回は、1996年に北京で語学留学し、その後、現地で職につき5年ほど北京で生活、東京に拠点を移してからもほぼ毎年中国出張をしている筆者が、その中国での生活の実態について、日本のメディアにはなかなか取りあげられない諸々を紹介していこうと思う。特に今回は、中国といえば「規制」、いわば“国からの束縛”を、親世代にはなかった方法で上手にくぐり抜け、独自のライフスタイルをたくましく築きあげているミレニアルズたちについて触れたい。

「並ばない」「うるさい」「ゴミはポイ捨て」

 成田から上海まで3時間、北京までは4時間。こんなに近いのに、中国のことを知らない。というか、あんまり興味がないわけで、日本でよく耳にする中国の話題といえば、先述の「PM2.5」「尖閣諸島」「爆買い」などが悪目立ちする。

 2016年12月、北京では2016年初の大気汚染警報としては最も重い「赤色警報」が発令された。PM2.5の値が日本の基準の10倍以上になり、北京空港では300便以上が欠航、小学校や中学校などは学級閉鎖に。北京在住の友人たちが撮影した、ある意味幻想的にも見えてしまう霞みがかった視界の悪い北京市内の写真が、SNS上にたくさんアップされていたのを覚えている。

pm2.5-Sun Xiaoxing 1
これが「PM2.5」の北京市内。Photo by Sun Xiaoxing

 2016年の訪日外国人観光客数は、過去最多の2400万人を突破。トップは600万人台の中国からの観光客だ。ご存知の通り、日本の各地で中国人の「爆買い」は話題になった。最近は少し落ち着いたとはいえ、銀座に行けば、免税店の前には中国人観光客が大量のスーツケースを手に道の真ん中で立ち話。そういう光景はまだまだ転がっている。
 それだもの、「中国人観光客」とググれば「マナー」「迷惑」の文字が飛び込み、「並ばない」「うるさい」「ゴミはポイ捨て」などマイナス三拍子。
 だが、このマイナス三拍子を盛りあげているのはどちらかといえば上の世代で、これで一括りされることに抵抗を覚える中国人、特にミレニアルズが多数いる。しかし、残念なことに中国の情報が少ないうえ、偏った情報だけが全面に出てしまうだけに、中国に対して「あんまり…」な印象をもつ人が増えてしまうのも無理はない。

restaurant beijing-Hitomi Oyama

Photo by Hitomi Oyama

「SNSはダメ」

 それじゃあ、中国のミレニアルズは自分たちの声を発信していないのか? というと、そんなことはなく、SNSをフルに使って自分たちの身のまわりのことをシェアしている。それが日本や海外になかなか届きにくい理由の一つには、言わずもがな、中国でのネット規制だ。

・Facebook
・LINE
・Instagram
・Youtube
・Google(もちろんGmailも)

 などなど、私たちが毎日当たり前に親しんでいるこれらはすべて通常ルートではアクセスNG(なので、筆者も日本から中国に行くときは、毎回かならずGmailから別のアドレスに転送されるよう設定をしている)。

「劇場公演はギリギリで却下されることもある」

 規制つながりでもう少し話すと、ネットにとどまらず、未だ「表現」も規制されている。たとえば、演劇を劇場で公演する場合、脚本と作品の通し稽古の映像(メイクも衣装も本番仕様にして)をすべて関係機関に提出しなければならない。そして「検閲」が行われ、問題がないと見なされて初めて公演許可が下りる。
 公演許可が下りなければもちろん公演はできない。映画も然り。政府批判、暴力、性表現、宗教などは完全にアウト…。中国の映画監督ロウ・イエ(婁燁)は、以前、中国でタブーとなっている「天安門事件」を扱った映画を撮影したため、その後、5年にわたり映画製作禁止、上映禁止の処分を受けたことでも知られている。

 ここ最近でミレニアルズに多くのファンを抱える演出家についても紹介しておきたい。現在30歳のスン・シャオシン(孫暁星)だ。
彼もまた検閲の圧力をうけた経験の持ち主。ニュースで話題になっていた政治的な内容の文面を、作中そのまま音声で使用したかったのだが、予想通り「待った」がかかった。「公演したいのであれば、その文面を削除するように」。そう求められ仕方なく、その部分には雑音を入れることで対処した。

《日常_非常日常》1(摄影:刘毅轩)
「待った」がかかった作品、『日常_非常日常』Photo by Liu Yixuan

Processed with VSCO with f2 preset
sun xiaoxing 3 huang zhihao
どちらも劇場以外の空間で発表、入場料取らず。上から、Photo by KillaiB、by Haung Zhihao

 検閲の圧力で何が困るって、公演許可の下りるタイミングが読めない、ということ。つまり、最悪の場合は公演前日になっても許可が下りず、公演できるのかやきもきし、大々的に宣伝できないことから、公演できたとしても集客数に影響が出てしまう。また、同じ作品が北京では公演可、上海では公演不可、という相反する判断が下されることも。地域、担当者によって結果が変わることもあるというから、作り手は振りまわされることになる。
 スンは、最近では入場料を設けずに劇場ではない空間で公演をする方法を取っている。これは「入場料を取らなければ正式な公演とみなされない」ことから、事前に脚本や映像を提出する必要はない、という。うまく揚げ足をとっての対処に思えるが、入場料が取れないということは、その部分の収入がなくなるということ。劇団の運営を続けていくのは、遅かれ早かれ苦しくなる。

「検閲がなくなることはないだろうけど」と前置きをしてから、検閲がなくなれば、中国のもっと多様なテーマが作品として見せることができるし、新しいスタイルのアーティストも誕生するはず、とスンは話す。

「中国で生活していて楽しいの?」

 ここまで読んで、「なんか、中国大変」「中国で生活していて楽しいの?」と思ってしまう人も多いはず。が、心配ご無用。中国の人たちは規制に慣れっこで、「ダメなら自分たちで作ればいい」とこれまで幾度となくオリジナルを開発してきた。

 たとえば、Twitterに代わる「Weibo(ウェイボー、微博)」。Twitter同様、フォロワーに対して140文字でつぶやくSNSだ。2017年2月のデータでは、Weiboのユーザー数は5.6億に達したとのこと。Twitterユーザー数が世界で3.1億というから、それをゆうに超えていることになる。
 しかも、この5.6億の中には中国人だけでなく、日本の俳優、歌手、アーティストもふくまれているというから驚きだ。たとえば、きゃりーぱみゅぱみゅ、flumpool、EXILE、小栗旬、田辺誠一、村上隆、などなど。中国のファンに向けて、写真とともに一言日本語でメッセージを入れたり、覚えたての中国語(間違っていたりするが、それがまた中国のファンにとって可愛かったりするのだろう)で書いたり。
 日本ではAV女優として有名な蒼井そら(2011年には歌手として中国デビューも果たし、中国では大人気)、彼女のWeiboフォロワー数はすでに1700万を超えている。

 中国版LINEといわれているのが「WeChat(ウェイシン、微信)」で、その登録アカウント数は11億を超える。その80パーセントを占めているというのが35歳以下のユーザーというから、ミレニアルズ必須のツールだ。このWeChat、ただオンラインでやり取りができるというだけでなく、光熱費の支払いやお金の振込ができたり、タクシーの呼び出しやホテルの予約、デリバリーの注文など、生活のあらゆる場面で役に立つインフラになっている。名刺代わりにWeChatのアカウントを交換し、仕事のクライアントともやり取りもしているとか。ミレニアルズにとって、公私ともに切っても切り離せないのがWeChat。まさに、日本人のLINEに近い存在だろう。

 YouTubeに代わる動画サイトは、ここ数年でぐっと増えている。特に「中国版YouTube」といわれているのが「YOUKU(ヨウク、優酷)」。「Y」からはじまるネーミングにしているところが憎い(笑)!2012年には、ライバルの「Tudou(トゥドウ、土豆)」を株式交換により買収し、より強力になった。

image1-21

「この服、いけてる?」
「なんか、配達員みたいじゃない?」
「いいじゃん!」
「そんなことないよ」
「あはは」
「goshaっぽい!」
「あはは、でも色がruaだよね」

Gosha、ロシアのブランドGosha Rubchinskiy(ゴーシャ・ラブチンスキー)は、
中国のミレニアルズの間で大人気らしい。
rua(ルア)とは、ネット用語で「イマイチ」の意味。
筆者はこの時、初めてruaの意味を知ったのであった。

image6

「一時間以上、生配信で人が食べてるとこ見た」
「我慢できなくって、麺と餃子を大量に食べちゃった」
「お腹いっぱいで、胃が痛い」
「あたしも」
「お腹いっぱいなのに、シュークリームとポテチも食べちゃった」

日本の大食いユーチューバー木下ゆうかは中国のミレニアルズの間でも大人気なのだそう。
(中国の各動画サイトにアップされている)

image4

「これ行かない?」
「23時から5時って。あたし、もうお年だからさ」
「早い時間だったら行くけど」
「あたし年寄りだから、無理だわ」
「あはははは」

イベントのお誘いも、もちろんウェイシンで。
20代で「年寄り」って…。

 2015年には中国最大の通販サイト「AliExpress(アリババ、阿里巴巴)」に買収されたものの、中国では相変わらず利用者を増やしている。中国ではテレビ番組も政府からの規制があるため、ミレニアルズはむしろ、比較的規制の手がかかりにくいネット動画を楽しんでいるという。
 ユーチューバーのような「ワンホン(網紅。ネット有名人)」や、オンラインで生配信する「ワンルオジーボー(網絡直播。ライブ動画)」も、中国の動画サービス界ではミレニアルズの代名詞。ライブ動画だけで生活費を稼ぐミレニアルズの存在は、中国の上の世代には理解不能らしい。
 なければないでサービスを作り、本家を数で上まわり(まあ人口が多いので)盛りあがってしまうのはなんともすさまじいパワー。と、規制の中でもおおいに使いこなしているのがわかってもらえたかと思う。

 さて、そんなミレニアルズたちの結婚観を表す時代のワードといえば「丁克族(ディンコーズー)」。これはこの世代に多くみられる「子どもは欲しくない人たちの総称」のこと。親世代が聞いたら「とんでもない!」と激怒しそうな価値観は、中国のテレビ番組を見るだけでも顕著に表れている。次回は、中国ミレニアルズの恋愛観、結婚観、ワークスタイルなどを紹介しようと思う。

▶︎その2、「結婚はしなくてもいいかなあ。あ、でもお見合いはおもしろそうかも」。彼らの恋愛・結婚・仕事観

———-
Text by Hitomi Oyama
Edit: HEAPS Magazine

Share
Tweet
default
 
 
 
 
 

Latest

All articles loaded
No more articles to load