南アフリカでしか生まれない。タウンシップの自己表現「ゴム音楽」とそのシーンを現地で探る1

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近年、南アフリカの音楽シーンが興味深い。タウンシップ、「元・非白人居住地域」かのアパルトヘイト(人種隔離政策)時代に指定された、“黒人専用の居住区”で、新たな自己表現の音楽が着実に育ち世界に広まりつつある。
作り手たちが「この音楽は、南アフリカに住む人間だけが作れる、南アフリカの音楽」と口をそろえるのが、ゴム音楽だ。


Gqom 3 - pic by Thanda Kunene
Thanda Kunene/Courtesy of Imbizo festival

アパルトヘイト廃止から。南アフリカ新世代の音楽

 2017年早々に、南アフリカの最西南端の都市のケープタウンに行った。ニューヨークの元ルームメイトがサウス・アフリカ人で、彼の兄がケープタウンで筆者と同業の音楽ライターをしているというので、音楽シーンを紹介して貰おうと思ったのだ(というのは表の事情で、大家に訴えられ、さらにはスタジオを引っ越し機材も揃えなければというプレッシャーに挟まれヤケクソになっていた)。

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筆者の撮った南アフリカ、ケープタウン

 南アフリカは、そもそもヨーロッパから入ってきたハウス・ミュージックが人気で、筆者が好きなインディロック・ミュージックというのはまったく聞こえてこない。この南アフリカでいま圧倒的に人気があるのは、Gqom(ゴム)音楽で、その発祥は東にあるダーバンだ。

 もちろんケープタウンでも、若者の集まる観光地エリア(ロングストリート、ループストリート、クルーフストリート辺り)では、大勢の人が集まり、大音量の音楽がかかり、活気に溢れる音楽シーンは健在。空港近くのタウンシップという貧しい地域では、朝から晩までダンス・ミュージックがかかり、キッズたちがたむろする。車で近くを通ると「窓を閉めろ」「物はやるな」と同乗者に注意された。
 そのタウンシップで、ゴム音楽やシャンガーンなどの南アフリカ・スタイルの音楽が生まれている。

 南アフリカは、ヨーロッパの影響を受けていると書いたが、音楽と人、自然に魅せられ、何度も南アフリカを行き来している(なかには移住した)ヨーロッパ人も多い。彼らがこぞって言うには「いま、ヨーロッパのクラブ文化は新しく新鮮なものを求めていて、目をつけているのはゴム。ゴムの感覚は並外れている」。

Gqom 2 - pic by Thanda Kunene
Thanda Kunene/Courtesy of Imbizo festival

 筆者の知り合いの、ノルウェイで音楽配給会社で働くトロンド・トーンズ(Trond Tornes)もその一人。彼はこの10年で20回以上も南アフリカに来ていて、ダンス・ミュージックに精通している。

「南アフリカの音楽といえば、70年代後期の南アフリカのパンク・シーンや、90年代初期ニューヨークやシカゴからのガレージやハウス音楽など、アンダーグラウンド文化では、いつも部分的に海外からの影響を受けていた。90年代には、アパルトヘイト廃止後の自由への戦いを経て、南アフリカの新世代は、独自の音楽文化と海外の影響を合わせ、新しい文化を定義する社会に乗り出そうとしている。

たとえば、南アフリカのプロデュサーたちは、ハウス音楽のスタイルを真似するだけでなくテンポを工夫した(124bpmから106 bpmに落とした)り、歌や語りを入れたり、ベースラインをたくさん入れたりして、独自のものを作った。そうして生まれたのがクワイト音楽。そして、次にきたのがゴムだ」

 ゴム音楽発祥のダーバンで音楽フェスティバル/国際音楽コンファレンス、「KZNミュージック・インビゾ」をオーガナイズするSiphephelo Mbhele(シペペロ・ンベレ)、そして、プロデューサーのDJ nkoh (DJンコー)。南アフリカの音楽シーンをよく知る彼らに、勢いの止まらないゴム音楽を中心に、南アフリカの音楽についてを聞いた。

▶︎シーン2、ベッドのうえで作られた曲が世界へ。
ゴムはいかにして生まれ、広まっていったのか?

——
Text by Yoko Sawai

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