「サステナブルだけでは意味がない」20年エシカルを追求し続けたLUSHが掲げる“リジェネレーション”とは?

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特にここ近年で市民権を得たサステナブル、エシカル、企業が社会的な責任を果たすCSR。トレンド化したこの言葉がすんなり耳に馴染むずっと前からエシカルを追求してきた企業がある。

材質には厳格な規定を設け、自分たちのプロダクトに問題があればどんなに売れ筋でも「売らない」選択肢を取る広告は打たない。世間でのイメージをあげるためだけの安易なプロモーションもしない。ストイックな追求をすでにおおよそ四半世紀続けているのが、カラフルなバスボムや香りゆたかなバスアイテムやスキンケア、ボディケア商品で有名な化粧品メーカー、LUSH(ラッシュ)だ。彼らは言う—「わたしたちがやっていることは、サステナビリティやCSRではありません。これは、リジェネレーションです」。

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Lush創立者、マーク・コンスタンティン(Mark Constantine)

生成り色でもヌーディーカラーでもなく。ビビッドで「オーガニック」

 ピンクやブルー、ビビッドな色使い。少し暗めのムーディーなバスルームでも目に鮮やかなバスボムや香り豊かなボディケアプロダクト、何より「切って計り売りするソープ」で知られるLUSH(ラッシュ)。いい匂い、かわいい、ちょっと高めの上質なボディケアプロダクトのイメージが強く 、その後ろに続く「エシカル」を追求してきた足跡はあまり知られていない。もしかすると、その発色の(かなり)良いプロダクトすべてが「オーガニック」「ビーガン」と知って驚く人も多いはず。


これももちろん全部オーガニックでビーガン。

 1995年設立(英)のラッシュ、その前身の会社まで遡ればエシカルにこだわったプロダクトをつくり続けてもう40年以上だ。そのスタンスを崩すことなく、ラッシュは23年で49の国と地域にビジネスを展開、全世界での店舗数は日本も含めて930店舗を超える。エシカルでいることと、ビジネスを両立してきた。

 今回、HEAPSは姉妹メディアBe inspired!とともに、ラッシュが毎年ロンドンで行うLUSH Prize(ラッシュプライズ)に参加し、5人の創立者*のうち二人、ロウィーナ・バードとマーク・コンスタンティンに会うことができた。彼らとの会話から、次世代が真に必要とする、サステナブルで終わらないリジェネレーションについてを探る。

*LUSHの創立者である5人は、前身であるCosmetics to Go(オーガニックのハンドメイドボディケア/コスメティックの会社)を共同創始・経営していたが経営破綻。LUSHは同じメンバーで二度目の起業である。

後ろめたさのあるハッピーは「いらない」

 20年前のしゅわしゅわと発砲するバスボムの発明から、シャワージェリー、フレッシュフェイスマスクに固形シャンプーバーなど数々の先駆的なプロダクトを生み出してきた。その根底にある思いは「カスタマーにいつでもよりハッピーを感じて欲しいから」とシンプルで明快。常々、新たな商品の開発に取り組んできた。

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ロウィーナ・バード(Rowena Bird)

 ハッピーのもととなる原材料選びの観点は、「エシカルであること」。「そのエシカルとは、いかに良質か、オーガニックか、未加工の良質な原材料か、サステナブルな生産環境下で生産されたものか、という話ではなく(それは大前提です)、その労働環境は適切か(児童労働などはないか、人や地球に負担をかけていないか、など)、動物実験をおこなっていないか、ということなどです」と話す、ロウィーナ・バード。創業当時から一貫、つまりは人々が消費においてオーガニックやサステナブルについて考えはじめるずっと前からだ。動物実験反対においては「動物実験を行っているサプライヤーと原料の取引は一切しません」と徹底する(「でも、動物実験していないと危ないんじゃないの?」という疑問については、次の記事 ▶︎動物も人間も救う「21世紀の毒物学」とは? で詳しく話そう)。

 そのこだわりは「ラッシュのハッピーなプロダクトが他者を犠牲にして成り立つものではあってはいけないから」。売れ筋の一つであるソープも「もう3、4度、フォーミュラ(精製方式)を変えたわ。もともとはパームオイルを使っていたけれど、環境に良くないこと・その土地の人々にも良くないとわかったので使用をやめ、代わりの石けん素地を開発しました」。バスボムやラッシュのコスメラインに多用していた鉱物の一種であるマイカ(雲母)が「調達において児童労働をしていないとは証明できない」とわかった際には、これも「プロダクトへの使用を一切やめました」

ラメ入りのアイシャドウのラメがもしかしたら児童労働を搾取していて、時には命まで奪うかもしれない。そうやって作られていると知っても、ラメのアイシャドウをつけたいと思う? No(いいえ)、だってたかがアイシャドウだもの」。どんなに売れていても、問題の芽が見つかれば「リフォーミュラ(代替の精製)ができなければ売らない」と断言するロウィーナ。提供するハッピーに「後ろめたさ」はつくらない。

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ドーセット州にある、一店舗目。

液体のシャンプーと固形シャンプー「どっちを買いたい?」

 昨年は、シャンプーをボトル詰めのものと固形でパッケージなしの2通りで売り出した。パッケージのいらない「ネイキッド(裸売り)」も、過剰包装が問題視される化粧品業界においてラッシュが力を入れる一つ。シャンプーとしての質は同じ、固形の方が長く使える。その情報を知らせたうえで、どちらを買いたいかお客さん自身に選んでもらう売り方だ。「わたしたちは、カスタマーに何かを強制することは絶対にしません。だけど、」。買い手が自主的に選ぶことによって「Education(教育)」になると考えている。

 現代の消費者は賢い。この鶏肉はどこ産でどうやって作られたのか、など食品業界を皮切りに浸透した「自分が消費する商品について知りたい」という意識。自分が消費している商品に納得する、その次は「自分が使ったお金が社会にどんなインパクトをあたえているかを考え、自分の消費行動に誇りを持てるかどうかを考えます」。後ろめたさが一切ない、とは、「“ラッシュで買い物をしたハッピーな体験”が、買い手の知らないうちに社会にとって良くないことに加担していた、という状況をつくらない」ということでもある。

 オーガニックを、“本質的なもの”の意で考えると、ラッシュにおける根底のオーガニックとは、材質でもプロダクトでもなく企業そのものの意思だろう。自社プロダクトについて「わたしたちは、いつでもmore beautiful(もっと美しく)、more beneficial(より有益に)を考えます」。続けて、「それは、for our customers(カスタマーのためにより有益で) 、and for our planet(それから、わたしたちの地球のためにより有益)なものをつくります」。つまるところ、彼らのいう美しいプロダクトとは「消費された後まで」のサイクルがより美しいかどうか、なのだ。


これはシャワージェル。パッケージとネイキッド(包装なし)のもの。

“サステナブルだけ”では意味がない「誰かが使った土地を再生させる必要がある」

いま、世界ではどこの国でも同じ問題がある。それは、これまでにいろんな土地をダメにしてきたということ。サステナブルだろうと、使うだけ使って何も返していない。だから、今度は、誰かがそれを再生(リジェネレーション、regeneration)させなくてはいけない」。もう一人の創立者であるマーク・コンスタンティンは続ける。ラッシュは49の国と地域に展開し店舗は930以上、「わたしたちは、この問題に対し世界で結託して取り組むことができます」。その国の人間の言葉で伝えられる情報があり、その土地に根ざした視野で考える人間が世界各地にいる強みは大きい。各地において、常に当事者として話をし、問題に反応することができる。

 リジェネレーション・“再生”の例として、福島の菜種油を例にあげた。菜の花畑を栽培し、それ由来の菜種油を実際にラッシュのプロダクトに使用する。菜の花は、採取した油に放射性物質は検出されず、さらに土中の放射能を吸収する働きがあることから、土壌の再生にも繋がると期待されている。「わたしたちが考えるリジェネレーションは土地とコミュニティの再生です。それは、そこで再び生産できる資源があるか、そこの土地の人々と一緒に働けるか。それを考え、実践していく。そこではじめて、土地は再生していきます」。また、それはその土地での暮らしが再生するということでもあり、その後、何世代にも渡って繋がっていくその土地の暮らしの基盤をもう一度つくる(再生する)ということ。そのためには、サステナブルにこれを使っています、だけでなく「これをつくっています」が次世代には必要である、と。

 ラッシュ創立から四半世紀あまり経っても、パッションが衰えることはないというマーク・コンスタンティン。最後にこの言葉で締めくくった。“You can cheat sustainability, but you can not cheat regeneration.(サステナビリティは小手先でもできてしまう。リジェネレーションは、小手先などではうまくいかないのです)。ラッシュという企業の存在自体が本質的なエシカルであり、そこに根ざすすべてのアクションは、次世代のより大きなハッピーを耕そうとしている。

Interview with Rowena Bird and Mark Constantine

LUSH
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Photos via Lush
Text by Sako Hirano
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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