「商品にかかったコストの内訳もみせてください」
オーガニックコットンでこだわって作っているから「この値段(ちょっと高め)なのです」。そのこだわりに共感し、応援したいから買います、という消費行動はとても民主的だと思っていた。だが、ブランドのこだわりや熱意のストーリーはいってしまえば精神論で、価格の妥当性ははかれなくないか? という意見も。純粋なコストにいくら上乗せされていて、私たちは一体何にいくら払っているのか。
だから、「商品にかかったコストの内訳もみせてください」。賢くなった消費者と、彼らが支持する一歩進んだ「透明性」を明示するブランドたち。ブランドの民主化がまた進んでいる。
「安さ」ではなく「価格の妥当性」で勝負
「良いモノを長く使いたい」。だが、私たちは「良いモノ」の値段が適正価格なのか、本当に理解しているのだろうか。若者を中心に支持を集めているバッグブランド「オリバー・カベル(Oliver Cabell)」。
売れ筋バッグをネットでみていたら、こんな詳細が。
布地:1,842円
レザー: 1,332円
裏地:653円
ベルト:90円
ナイロン:300円
補強:500円
ジッパー:491円
金属製品:426円
裁断/加工/品質管理:5,533円
運搬:672円
関税:851円
梱包:833円
輸送:1,137円
※本記事では1ドルあたり115円で換算。換算後の円表記で統一
これは、「売値:32,775円」のバッグ一つを作るのにかかったコストの内訳。上記コストの合計額は14,660円。売値32,775円からコスト14,660円を引いた差額は18,115円。この、コストの約1.2倍の金額が粗利であり、ここから従業員への給与や運営費などの販管費が引かれた金額が純利だ。
Photo: Courtesy of Oliver Cabell すべての商品コストの内訳をウェブサイトで確認できる。
オリバー・カベルは2015年に誕生した、製造から小売りまでを一貫して行うオンライン小売業だ。職人が1点ずつ手作りした高品質で都会的なデザインのバッグと革製品。裁断から縫製まで、全工程をイタリアの工房で行うアンチ大量生産のマインドを持ったブランド。だが、そんなブランドはオンライン上に山ほどある。クラフトマンシップだけで勝負していたら、埋もれていたかもしれない。しかも、価格だけ見れば、安い商品ではない。それでも消費者に支持されているのは、上述のように透明性の分野で、一歩先を行っているからである。
「良いものは高い」を過信していいのか。
創業者のスコット・ガブリエルソンはアメリカ人だ。イタリア人ではない。にもかかわらず「イタリア製」にこだわっているのには、理由があるという。
前職はヘッジファンド。ファンションのバックグランドはなかったが、2013年におきた、バングラデシュの首都ダッカ近郊での縫製工場崩落事故に衝撃を受け、ファッション業界の裏側に興味を持ったという。本当のコストを研究すべく、彼は20代半ばで仕事を辞め、オックスフォード大学のビジネススクールに通った。
「当時、アジア圏の縫製工場を視察しましたが、従業員の多くは女性で日当は約800円。彼女たちがつくるバッグの中には『イタリア製』で有名な、あの誰もが知っている高級ブランドもありました。調べてみると、実際、製造にかかるコストはたったの1万2,000円以下。なのに、そのバッグは一個約14万円で販売されていました」。
この調査結果を機に、「本当のイタリア製(イタリアの職人が手作りする)」の「高品質」のバッグで、ブランドの民主化を進めるべく勝負を決めた。つまり、「うちも本当のイタリア製ですよ? でもコストの1.2倍しか取っていないですよ」をしよう、と。
Photo: Courtesy of Oliver Cabell
約25兆円規模といわれる、巨大なラグジュアリーファッション産業。その75パーセントを牛耳っているのが、ルイ・ヴィトンやグッチなど誰もが知っている有名デザイナーブランド。それらのブランド中でも「バッグや革製品は特に人気が高い。高くても売れるから、(上述のように)売値は原材料費の10−20倍というのが、当たり前になっている」とスコット氏。冒頭でも触れたが、彼のブランドのバッグ一個の粗利がコストのたった1.2倍であることを考えると、メガブランドの粗利率たるや、おそるべし。
消費者は、サイズや色、素材の詳細だけでなく「原材料費の内訳も知る権利があります」
商品ごとのコスト内訳明示。オリバー・カベルの取り組みは「価格の透明性:(Transparent Pricing)」と呼ばれ、近年、欧米のオンライン発のブランドを中心に広がりをみせている。このサービスにより、消費者は何にいくら払うのかを理解したうえで、モノを購入することができるようになった。
ファッション業界の「価格設定の透明性」の先駆者であり、ビジネスとしても大きな成功を納めているのが、2011年にサンフランシスコで誕生したEC特化型ブランド「エバーレーン(Everlane)」だろう。宣伝費はかけず、自社でデザイン企画を行い、直接工場に注文することで無駄な中間コストを大幅にカット。その分、高品質の商品を低価格で消費者に届けられるわけだが、その生産背景をこのようなわかりやすい図で、消費者に示してきた。
EVERLANE
生産コストの合計は4,140円。「同じクオリティのものを従来のブランドが作った場合、おおよそ2万円になるところ、エバーレーンは、それを7,800円で販売します」。同社は、男性用と女性用、それぞれ衣類、バッグ、靴、その他アクセサリー類とさまざまな商品を展開しているが、全商品においてコストの内訳を明示し、価格の妥当性を裏付けている。
たとえば、「スタイリッシュで丈夫な、毎日使える通勤用のバッグが欲しい」と、オンラインでも実店舗でもどちらでもいいが、買い物に出かけたとする。気に入ったバッグは2つ。サイズも機能性もほぼ変わらない。一つは2万円、もう一つは3万円。どちらのブランドも「上質な素材を使った長く愛用できるもの」だという。となると、決め手は価格だ。「毎日使うし、せっかくだから良い方を買おう」。こんな心情の時ほど「良いもの」=「高価」だと思いこみ、高い方を選んでしまわないだろうか。
だが、内訳が明示されていない以上、価格ほど不透明なものはない。だって、高い方は、梱包や流通、またブランド料といったものにコストが割かれているだけなのかもしれないのだから。
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Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine