現代インディアンは「米国政府の管理下暮らし」。故郷を捨て都会に飛び出したインディアン青年、二つのライフスタイルを語る

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服装といい髪型といい、ブルックリンキッズといった出で立ちの青年。彼の左手には、見慣れない単語のタトゥーが彫られていた。「Kumeyaay」。クミアイ、と読むのだそう。

これは彼のアイデンティティであり、彼の属する民族の名前。Tommy Pico(トミー・ピコ)、32歳。彼は現代社会に住むミレニアルズ・アメリカインディアンだ。

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アメリカ・インディアン(アメリカ先住民族、ネイティブ・アメリカン。以下、インディアン[※])。アメリカ大陸に初めて足を踏み入れた“真のアメリカ人”なのに、アメリカ人として忘れられた存在だ。長い間迫害を受け、実は現在でも連邦政府の管理下でリザベーション(居留地)暮らしを送っている。

その多くが居留地で一生を過ごす中、大都会ニューヨークに移り住み詩人として生きることを決めた、ひとりの珍しい現代インディアンを取材した。

※インディアンという名称は一部差別用語だという意見もあるが、トミー自身もネイティブ・アメリカンやインディアンと両名称を使っていたので、ここではあえてインディアンとする

いまブルックリン注目の詩人は、ゲイのインディアン青年

 今年すでに2冊の詩集を出版したトミーは、ニューヨークの文学界で活躍する若手詩人。

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 彼の詩は形式張ったものではなくフリースタイル。最新作なんて一冊まるまる一続きの詩だ。自身のアーバンライフや日常の喜怒哀楽、ゲイとしての恋愛経験、都会で感じる孤独感などをインスピレーション源にする。

「『ゲイのミレニアル・ニューヨーカー・インディアンの青年』。詩には、僕の3つのアイデンティティがつまっているんだ」

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 ニューヨークにやってきて13年目。新しい詩集の出版を間近に控えた彼は、「今年はいい年だった。いま絶好調だよ」と微笑む。 

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「綺麗な砂漠の星空よりも、星なき都会の空を見ていた」

 なかなか知る機会のないインディアンたちの暮らし。「最後に住んでいたのは19歳のとき、故郷には3年帰っていないけど」と前置きをしつつも、トミーは、カリフォルニア州サンディエゴにある故郷・クミアイ族の、現代における居留地生活を教えてくれた。
 
 サンディエゴ中心地から離れた山岳部にある人口わずか300人と、居留地の規模は小さい。「近所の人たちとは家族のような距離感」の平穏な暮らしだったが、経済的には苦しかったという。

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 居留地での暮らしは部族によってさまざまだ。ティピーと呼ばれるテントで伝統的な暮らしをするインディアンから、カジノリゾートを経営する者(カジノはインディアンの主幹産業)、観光客相手にガイドツアーや土産屋を開く者など。
 悠々自適なインディアンもいるが、米国の低所得者層の大半を占めるのが、彼らという現実もある。貧困率は28パーセントと他の人種に比べて一番高く、失業率もおよそ50パーセント。それに伴い、健康的な食事にありつけないことから肥満や糖尿病などの疾病や、アルコールやドラッグ依存が蔓延、特に若者の自殺率が全米平均の3倍という実情。彼の知り合いにも自殺やアルコール中毒を理由に命を失った若者もいた。

 部族長を務める父と、パートを掛け持ちしているアーティストの母。決して裕福な家庭ではなかったが、詩や物語作りに没頭した少年時代。でも心はどこかしらいつも空虚だった。

「何も新しいことが起こらないコミュニティから抜け出したくて。夜空を見上げると、砂漠地帯の左手には一面の星。都会がある右手の空には大気汚染で星なんか見えなかった。みんなは綺麗な星空の方を見るかもしれないけど、ぼくはいつも都会の空ばかり見ていたんだ」

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 大学進学を機にコミュニティを去ろう、と心に決め、とにかく「故郷からいちばーん遠いところに行きたかった」と、ニューヨークを選んだ。「それに、ゲイフレンドリーな土地で、もっとデートしたかったしね」。

上京して迷う。詩人になったきっかけは「フラれた」こと

 スローライフの居留地生活から一転、“世界で最も忙しい街”ニューヨークに上京。来たばかりの頃は正直怖かった、と漏らす。

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 大学では、自分の才能じゃ他の人にかなわないと、詩とはまったく関係ない医療関係の勉強に勤しんだ。週末になるとバーをはしごして、オンラインで出会ったゲイたちとのセックスライフ。詩の世界からは自然と遠のいていった。

 だが、ひょんなことから幼い頃から好きだった詩の世界へと戻る。当時の恋人にフラれたことがきっかけだった。「関係が終わって心が空っぽの時って何かしなきゃと、じっとしていられなくなる。自分の想いを詩にぶつけることで悲しみを紛らわせたかったんだよね」。自分のやりたいことは、やっぱり詩を書くことだ。そう確信した。

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次世代のインディアン・ミレニアルズをインスパイアする存在へ

 彼の知り合いに、都会で生活するインディアンはいないという。「居留地を一時的に出たとしても戻ってくるのが暗黙の了解ってところがあるから。大半は居留地での暮らしに満足していると思う。ぼくは変わり者だ」

 オンラインデートにはもう頼らず、バーや街角で好みの男性に声をかけられるようになった、と笑う。

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 詩集を出版するようになってから、トミーのツイッターにはインディアン・ミレニアルズたちのフォロワーが増え、SNSでも好意的なメッセージが多く寄せられたという。

「インディアンの若者たちに『変わり者でいい。自分の個性を自分なりの方法で表現することが大事』と伝えたい」

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 彼には実現したい夢がある。ライターやアーティストなど、クリエイティブ職に興味を持つインディアンの若者向けに短期養成プログラムを作りニューヨークに招待、クリエイターとのコネクションやプロフェッショナルなキャリアネットワーク作りをサポートすること。

 居留地で暮らすというインディアンの伝統を捨て、大都市暮らしを選んだ。都会の真ん中で他の若者と一緒になってもがき、人生や仕事、恋愛に悩み、夢に向かって奔走する中で駆られたのは、「故郷から遠く離れることで、インディアンとしてのアイデンティティを失ってしまうのか」という不安だった。
 だが、彼は決して自分のルーツを忘れたりはしなかった。「ニューヨーク唯一のクミアイ族であることの誇り」をタトゥーにしたのだ。

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Tommy Pico

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Photos by Saori Ichikawa
Text by Risa Akita

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