次にくるスロー・フードは「真のアメリカン」!?油も砂糖も不使用、忘れられたアメリカの味が蘇る
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多民族国家アメリカにいると、どこの国の料理も手軽に食べられる。目の前にはピッツェリア、角を曲がればチャイニーズデリ、タコスのフードトラックに、もう少し行けばハラルフードにエチオピア料理だってあるかもしれない。

ただ不思議なことに、“ある民族の料理”はなかなか見つけられない。それこそが、「本物のアメリカンフード」なのに、だ。

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Photo by Heidi Ehalt Photography

本当のアメリカン・フードって知ってる?

 アメリカ、いやアメリカのみならず世界中で見つけるのが困難な料理。それが、本物のアメリカン・フード、「アメリカ・インディアン伝統料理」だ。アメリカ先住民族に代々受け継がれてきた食事のこと。

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Photo by Becca Dilley for the Heavy Table

 確かにインディアン料理と言われても、ピンとこない。ましてや食べたことがある人はそうそういないだろう。なんとなく、自然派の健康食なんだろうなと想像はできるが。

 フードカルチャーでひときわマイノリティの存在で、忘れ去られたアメリカの食文化といっても過言ではないインディアン伝統料理だが、昨今、じわりじわりと「インディアンフード・ムーブメント」が起こりつつあるらしいのだ。

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Photo by Heidi Ehalt Photography

「小麦粉・塩・砂糖・ラード」は不使用! 本物のインディアン伝統料理って?

 馴染みのない人が多いと思うので、まずはインディアン伝統料理とは何か、からはじめたい。

 各部族や住む地域によって多少違いはあるものの、基本は同じ。欠かせない食材は「豆・トウモロコシ・スクワッシュ(カボチャやズッキーニなどの瓜系野菜)・ワイルドライス(マコモダケの種子)」。タンパク質は、バイソンやウサギ、シカ、カモ、七面鳥、リスなどの野生動物の肉や、スズキ、トラウトサーモン、マスなどの川魚が主だ。

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Photo by Heidi Ehalt Photography
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Photo by Nancy Bundt

 調味料は、ブルーベリーやチェリー、松の実、クルミ、ドングリ、セージ、ひまわりの種、ショウガなど天然物で、自然の甘さやフレーバーで味付けを。加工品や添加物が使われることはないという。

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Photo by Nancy Bundt
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Photo by Nancy Bundt

「小麦粉・ラード」が代名詞の由来はここにあった

 自分たちで狩猟採集できる自然の恵みや天然の味で、独自の食文化を形成してきたインディアンたち。しかし、19世紀末になると彼らの食生活に変化が起きる。アメリカ政府が彼らの生活に干渉してきた頃だ。

 北部や南西部の不毛な土地に追いやられ、インディアンたちは栄養失調気味に。それを見かねた政府は、小麦粉、砂糖、塩、ラード、ドライミルク、バター、チーズ、ピーナッツバター、挽肉など、脂質や糖分が多い加工食品を配給しはじめたのだ。

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Photo by Dana Thompson

 こうしてインディアンたちは高カロリーの食材しか手に入らなくなった。インディアンフードの代名詞でもある、小麦粉とラードを使用した揚げパン「フライドブレッド(fried bread)」は、この苦い歴史の末に生まれたものだったのだ。

レシピがないから長老から情報収集。インディアンシェフの手で蘇る伝統料理

 政府が変えてしまう以前の、大地の恵みのみで作るアメリカの伝統料理を復活させたい、と立ち上がったのが一人のアメリカ・インディアン。

 サウスダコタ州ラコタ族出身のシェフ、Sean Sherman(ショーン・シャーマン、写真左)だ。

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Photo by Dana Thompson

 レストランでの皿洗いからはじめフレンチやイタリアンのシェフ経験を積んだショーンは、ある時から、自分のルーツであるインディアンの伝統料理に興味を持った。
 そして2年前、インディアンフード専門のケータリング会社「The Sioux Chef(ザ・シオックス・シェフ)」を立ち上げ、仲間のインディアンシェフとともに、現代にインディアン伝統料理を蘇らせようとキッチンに立つ。

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Photo by Dana Thompson

 インディアン伝統料理の作り方は「口承」だったため、レシピが残っていないのだそうだ。コミュニティの長老や学者たちからの情報収集に加え、100年以上前に書かれた農業についての本を熟読、それにイマジネーションをひとつまみ。基本に忠実な、しかしそれでいてクリエイティブで見た目に美しい創作料理の数々を生み出した。

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Photo by Dana Thompson
ひまわりケーキのベリーソース添え

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Photo by Dana Thompson
カエデと挽き割りトウモロコシケーキ、スギのブロス、スモークトラウトサーモン

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Photo by Dana Thompson
スズキ、ローズヒップソース、トウモロコシのブロス

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Photo by Dana Thompson
スモークラビット、タマネギとクレソン

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Photo by Dana Thompson
カマス、スクワッシュ

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Photo by Dana Thompson
ベルガモット、スギ、モミ、カエデの薬草とローストしたシカ肉

デザートには、

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Photo by Dana Thompson
ドングリとハチミツのケーキ、ドライアップル、チョークチェリーソース

 あくまでも、「小麦粉・塩・砂糖・ラード・乳製品」に媚びない、大地の旨味と風味が醸し出された逸品となっている。

フードビジネスも促進。世界に通用する「インディアンフード」へ

 ショーンのケータリング会社は、全米初のインディアン伝統料理レストランオープンに向け準備を進めている。しかし、この先に見据えているのは単なる食のムーブメントではなく、「インディアンたちのフードビジネスへの参画」だ。

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Photo by Dana Thompson

 魚や穀物などの食材を地元の部族から仕入れてインディアンの食産業を応援するのはもちろんのこと、今後はインディアンフードに特化した料理学校を開き、インディアンシェフの育成に力を入れていきたいのだとか。シェフやレストラン経営など、インディアンたちのキャリアに食ビジネスを根付かせていこうと考えている。

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Photo by Dana Thompson
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Photo by Dana Thompson
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Photo by Dana Thompson

 伝統的な食文化や食材に原点回帰するスローフードともとれる、インディアンたちの伝統料理ムーブメント。フライドブレッドの普及により糖尿病や肥満などを改めるだけでなく、インディアンたちの食ビジネス進出への可能性を広げ、現代に忘れられていた“オリジナル・アメリカンフード”を提示していく。
 オーガニック・無添加・地産地消、と現代人が求めるヘルシーな食スタイルにピタリと当てはまるインディアン伝統料理、伸びしろはうんとありそうだ。

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Photo by Dana Thompson

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Text by Risa Akita

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