「麻薬ではなく香水を」世界の紛争地帯から原材料を調達、平和を作る“ピース・パフューム”。マス市場に届いた9年の香り

創設から9年、インディーズ香水ブランドが全米展開中。「私たちは〈香水〉で平和を目指します」。彼らがつくる〈ピース・パフューム〉の正体。
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動物実験フリーのシャンプーに、フェアトレードのコットンを使った洋服。環境破壊や強制労働などの問題を抱えない人工ダイヤモンド。ファッション、ビューティーにもサステナブルやエシカルが当たり前に問われる時代となった。

いまから9年前。まだビューティー業界に“エシカル”が浸透していなかったころ、究極のエシカル〈平和〉を掲げた香水ブランドが生まれていた。

原材料の産地は、紛争地帯の“ピース・パフューム”

 今年の夏、米大型コスメショップ「セフォラ(SEPHORA)」の店頭に並んだ香水のボトル。オレンジの花やバラ、ジャスミンなどの芳香を放つ、カナダ発インディーズ香水ブランド「ザ・セブン・ヴァーチューズ(The 7 Virtues。以下、7V)」だ。パッケージは雑貨屋やセレクトショップにおいてあるような洗練されたデザイン。シャネルやディオールなど重厚ボトルの古典的香水ブランドよりも、ずっと若向きなインディーズブランド然としている。近年、このような新しい見た目のインディーズ香水が流行るが、たんなるその一派というわけではない。その理由は、この香水が「ピース・パフューム(平和の香水)」と呼ばれているあたりに隠されていそうだ。

 なにゆえ、“平和の香水”なのか?「原材料には、“紛争地帯”で採れたものを使用しています」がその答え。原材料となるオレンジやバラ、ジャスミンなどの花の精油(エッセンシャルオイル)は、アフガニスタンやハイチ、ルワンダなどから輸入。いずれも、紛争や災害からの復興に取り組む地域だ。現地の小さな花農家から公正な価格で精油を取引をし、復興地域の農業を支援している。


フェアトレードにくわえ、パラベン(防腐剤)フリー・動物実験フリー・オーガニック・ビーガンで、「世界にいい、肌にいい香水」と謳う。

「ある日、アフガニスタンの農家についての記事を読んだんです。彼(アブドゥラ)は、オレンジとバラの花を栽培し精油をつくっていました」。ピース・パフューム誕生のきっかけについて回想するのは、カナダ人起業家で7Vの創設者、バーバラ・ステグマン。9年前、軍人だった親友が平和維持活動のため赴いたアフガニスタンで大怪我をしたことをきっかけに、平和活動をミッションに掲げていた。「記事は、アブドゥラの精油ビジネスが麻薬密売組織によって潰されてしまっている、と報じていました」。

 アフガニスタンでは、アヘンなど麻薬の材料となるケシの栽培が拡大している。栽培は比較的簡単で安価なため、ケシを育てる農家は増加。そこで、イスラム原理主義組織タリバンもケシビジネスに着手、ケシ栽培農家から利益の一部を“税金”として徴収している。

 生計を立てるため「違法なケシ栽培」を余儀なくされ、タリバンに搾取される農家。または、地道な栽培を頑張るも麻薬組織が操るケシビジネスの肥大化に押しつぶされる、アブドゥラのような小さな農家。アフガニスタンにて「合法な花の栽培」でふんばる小さな花農家たちを「助けなければ、と直感で思ったんです」。
 アフガニスタンの花農家から採れた精油で香水をつくる。「香水ビジネスに足を踏みこむなんて思いもしなかった」バーバラの平和活動がはじまった。


7Vの創設者、バーバラ・ステグマン。

オレンジの花「1杯の精油」からスタート。リーダー的農家を中心に拡大「収入は倍増」

 違法ケシ栽培の勢力に負けず、合法な花を育てる農家を支援したい。どうやったら、彼らのつくる精油を買うことができるのだろう。カナダ国民は安全上の理由でアフガニスタンへ入国できないため、カナダ人のバーバラは現地に赴くことはできない。そこで、現地のNGOと提携する政府機関を通じてアブドゥラに接触。2010年、オレンジの花から採れた精油を1杯を買うことからスタートし、その次にはバラの精油1リットルを約100万円で購入した。「私たちの香水のために花を栽培する方が、違法のケシ栽培をするより、2倍も多く稼ぐことができます」。

 やがて提携する農家の数は増え、1000の小規模農家が香水の精油づくりに参加するようになる。現地に行かずも香水ビジネスのネットワークが拡大した理由については、「アブドゥラは、地元の農家ネットワークでもみんなが敬意を払う中心的な存在です。彼はとても影響力のあるコミュニティのリーダーでした」。花栽培農家たちのネットワークでアブドゥラが中心となり「麻薬ではなく香水を(“Perfume Not Poppies”)」を啓蒙、7Vとのビジネスの土台を築いたようだ。「ケシという違法なものを栽培することはイスラムの教えに反するため、アフガニスタンの農民は本当はケシなんて育てたくないのです」。






アフガニスタン。

 気になるのは、危険地域でもある現地で採れた精油を、どうやってカナダまで無事に運ぶのか。バラの精油にいたっては、産地ジャラーラーバードから首都カブールまでの世界有数の危険地帯を通り抜けなければいけない。「輸入に関しては、一度も困難なことはありませんでした。政府機関から認定された団体を通して取り寄せています」。地元のNGOや政府機関、慈善団体など現地の農家とすでに信頼関係がある第三者を通してビジネスをおこなうこと、が成功した理由だという。「慎重にプロセスをふめば、一見するとリスキーな物流システムも支援できるということを、ほかの企業にも伝えたいですね」

 アフガニスタンに次いで、2011年には地震で復興中だったハイチを訪れベチバーという精油を調達。また、アフリカの紛争地域ルワンダではパチョリというハーブ、インドではジャスミンの精油、マダガスカルからはバニラの精油を。イスラエル産のグレープフルーツの精油とイラン産のライム&バジルの精油も買いつけた。
「ルワンダの農家は、コーヒーを栽培するよりも3倍稼ぐことができました。そのお金で学校の制服を買ったり、家を建てられるようになったんです」。来年1月には中米プエルトリコにも赴き、7Vが新しく開発するスキンケア製品とキャンドルのために原材料を調達してくる予定だ。





ルワンダ。

2018年、“エシカル・ビューティー”はマス市場で売れる

「私が7Vをはじめた9年前、『社会的企業』という概念は広く浸透していませんでした。そんな言葉さえ耳にすることもなかったのです」。社会的企業とは、事業を通じて社会問題の改善を目指す企業のこと。香水で復興地域の農業を救う7Vは、まさにこの社会的企業にあてはまる。

 いまでこそ、食品業界からファッション業界、旅行業界、そしてビューティー業界にも、エコロジー・エシカル・サステナブルを兼ね備え、〈社会にいいことをするビジネス〉はそう珍しくもなくなったが。「当時、私たちのブランドは唯一無二の存在でした」。
 アフガニスタンからはじめて精油1杯を買うときも困難だったと思い返す。購入資金が必要だったため銀行の融資をうけようとしたが、「ピース・パフュームのビジネスコンセプトも理解されず、融資は下りませんでした」。それから時は過ぎ、時代はエシカル全盛期となる。

いまでは、ミレニアルズやジェネレーションZが、ビーガンや動物実験フリーで改めて“ビューティー”を再定義しています。これには感謝しますね。彼らがエシカルなビューティー製品の一番大きな購買層ですから」。将来のエシカルとビューティー業界の関わりについては、「ビーガン・動物実験フリーなど、エシカルな美容製品の動きは完成化されると思います。いつかビューティー業界において、エシカルは満たさなければいけない“ノルマ(標準)”になるでしょう」。万人が購買層となる大型コスメショップ、つまり“マス市場”に、エシカル志向の香水が展開されたのも2018年ならではのこと。今年中に、全米100店舗の棚に並ぶ予定だと話していた。




The 7 Vertuesの香水たち。

 エシカルへの興味の有無関係なく手にとったビューティープロダクトが、紛争地域の小さな農家を救う。ボトルの見た目がきれいだから、匂いが気に入ったから買う。一定の購買層にしか響かなかった“エシカル”が自然と大衆のレシートのうえに現れる。エシカルへの入り口にこだわらず、結果的にエシカルがきちんと一般社会に溶け込み自然と消費されていく。たんなる流行のエシカルではない、究極のエシカルの流れ方だ。その長流の入り口には9年前、香り高く、誇り高い香水のストーリーがある。

Interview with Barbara Stegemann, The 7 Virtues

All images via The 7 Virtues
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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