首謀者が明かす。パナマ・ジャングルの“金を生む理想郷カル・ヤラ村”の全貌と実態「みんなずっと滞在したくなる」

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電気水道ガスなしのれっきとした自給自足生活だが、「金を生む」という点で、ただの脱俗的なヒッピーコミューンとは一線を画す「カル・ヤラ」という村。北米と南米のちょうど境、中米パナマのジャングルの中に位置し、学生インターンや研究者、起業家が定員いっぱいまで毎年ぞろぞろと集まり(18歳〜25歳までの若者が中心)、教育プログラムとビジネスを両展開させている。その謎多きカル・ヤラの実態、もっと知りたくないか? カルヤラを取り上げてから一ヶ月HEAPSが。先日、そのジャングルにいる首謀者との取材に漕ぎ着けた。

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教育やらビジネスやらやってるけど村「実際、どこまで現実的なの?」

 
 謎多きカル・ヤラについて現時点で知っていることを挙げてみよう。

教育プログラム
春・夏・秋学期ごとに“インターン”として80の学生が世界中からここを目指す。10週間を共に過ごし、“村づくり”に参加(カル・ヤラ自体をつくったのも先代インターン)する他、実践的な技術を学ぶ教育プログラムを受講。10以上のコースには、サステナブルアグリカルチャーや住居建築などのデザインシンキング、コミュニティ開発や起業家精神の育成などがある。

ビジネスモデル
村の収益元は、教育プログラムに加え、サステナブル生活を体験できるキャンプサイトやニューイヤーイベントの「観光業」、再来年から毎年20戸限定で家の販売「不動産業」、カル・ヤラのアイデアやコミュニティに共感する起業家や卒業生、インターンと共に事業を立ち上げる「アントレプレナーシップ」の4つ。

 こんなように、社会と隔絶せずに現代のエンジニアリングとデジタルライフも利用しながら、あくまでモダンで現実的なサステナブルタウンを構築している。しかし、だ。「実際どこまでビジネスモデルとして機能しているのか?」から「カル・ヤラでの暮らしの実態は?」「ジャングルに若者を集めて思想啓蒙するカルトでは?」などなど、その掴みづらい実態について疑問は山ほどあったのだが…数ヶ月の取材交渉のすえ、ついに首謀者であるジミー・スタイスという男をキャッチ。ニューヨークから数千キロ離れたパナマのジャングルにいるジミー(ちなみに現在秋学期の最中)とスカイプを繋ぎ全貌を聞いた。

James Stice Headshot
ジミー・スタイス

***

HEAPS(以下、H):ジャングルの中とはいえど、意外にもインターネットはサクサク動くんですね。

Jimmy(以下、J):こんにちは! そう、いまネットが通っている中央広場にいるんだ。ただ、制限はあるけどね。

H:貴重な通信ですね、ありがとうございます。まずはじめに「“モダンなサステナブルタウン”、カル・ヤラとはなんなのか」、もう一度首謀者自身であるあなたの言葉でお願いします。

J:端的に言うと、カル・ヤラは“社会的・環境的責任のある街”を構築するための試み。人類が互いにとって、社会や経済、産業システムにとって、そして地球環境にとって優しい存在になれるかを実践する場所だ。今後人類は、どう地球の自然環境を保護し向上させていくか考えなければならないからね。

H:それを575エーカー(東京ドーム約50個分)の広大なジャングルでの“実践”、思い切ってますね。そもそも草案は、少年時代に没頭していたシムシティ(自分の街をつくるシミュレーションゲーム)だと聞きましたが…。

J:そう、15歳のときからかれこれ20年以上、人類文明と地球環境の共存について考えていることになる。そして、パナマのジャングルに街をつくったのが10年前。ここだったら熱帯地域だからエネルギー豊富で水も太陽光もたっぷりあるから年中エネルギー供給には困らない。作物も育てることができる。冬だからと休業する心配もないしね。それにパナマは小さな国だけど、とてもインターナショナル。街を歩けば、スペイン語に英語、中国語にヘブライ語だって聞こえてくる。多様性に寛容な国だから、グローバルが核のカル・ヤラにとってぴったりの場所さ。

H:然るべき場所にカル・ヤラは生まれた。現在、7年前から開始した教育プログラムが絶賛遂行中です。原始的な“ザ・村づくり”から、現代に必須のメディアコースまで多岐に渡っている。毎期、定員を超えるほど人気があるそうですが、一番人気は?

J:サステナブルアグリカルチャー(持続可能な農業)だね。コースでは、コンポスティング(堆肥化)の実技から、化学物質による土の肥やし方、植物のライフサイクルに至るまで土に関するすべてを学ぶことができる。それに農家の野菜がレストランへ運ばれ、消費されるまでのビジネス面もね。

H:一つのコースで多角的に深く学べるんですね。そんな多視点から教えることのできるインストラクターを見つけるのも難しそうですが。

J:元カル・ヤラ生がなることも多いよ。

H:ん? どういうことでしょう?

J:プログラムスタッフの多くは元学生インターン、つまりカル・ヤラ卒業生ってこと。もともと同プログラムは3ヶ月限定のはずだったんだけど、修了した当時の生徒が「カル・ヤラを離れたくない」と現在のコースの基盤をつくってくれたんだ。それだけでなく、プログラムを成長させたのも卒業生。カル・ヤラ実生活をSNSにアップして、友人や同級生に拡散してくれる。ここ2年ほどはネットでも広告を出すようになったけど、それまでの5年間はすべて「口コミ」で認知されたんだ。

生徒がつくりあげた教育プログラムなんて、世界でここにしかないんじゃないかな? 生徒自ら自分たちが学びたいことや他の場所では学べないことを考えかたちにして…の結果が、現在の教育プログラムなんだ。

H:卒業生が新入生を呼びこみ拡大。成長の仕方もサステナブルです。そして気になるのが、インターンの実生活。どんな人たちがいてどんなスケジュールで一日過ごすんでしょう?

J:年齢は18から24歳までが中心だけど、30歳以上の参加者もこれまでにたくさんいる。で、7割は女性なんだ。参加者の出身国は多い順に米国(80%)、中南米(15%)、ヨーロッパ(5%)。

一日の生活は、こんな感じ。朝8時に朝食を知らせる鐘がなる。早起きの生徒はその前にすでにハイキング終了。朝食後、9時には午前のクラス、11時からはコースディレクターの補佐などをして昼食。午後は個人プロジェクトやグループプロジェクトに取りかかる。午後6時には夕食を済ませて、そのあとはバーに繰り出したり、本を読んだりして、就寝。2割は座学で3割はアシスタント業務、5割が個人プロジェクトっていったらわかりやすいかな。

ちなみにカル・ヤラでは、着いて最初の2週間はデジタルデトックス期間、ネットは一切禁止。都市生活でのデジタル依存から脱却してもらうためにね。

Coffee House
Current Town Square

H:これまで都市でスマホを片時も離さなかった学生たちが突如知らぬ国のジャングルで自足自給って180度違います。さらに昨日他人だった仲間と共同生活、というとトラブルも多々あるのでは?

J:確かに、みんな共通の最初の難題は「知らない誰かさんの隣で寝る生活に馴れること」だろうね。一人部屋が当たり前の生活から大逆転。寝ても覚めても四六時中、誰かと行動を共にし、折り合いをつけながらの共同生活は、それは大きなチャレンジだよね。それでも最初の2週間は物珍しいことも多く楽しい新婚旅行気分。次の3週間で試練を迎え、その後お互いの弱点を理解しはじめ、最終的には人間というものの素晴らしさを見出していくんだ。

H:10週間もあると、いろんな人間ドラマもありそう…。ケンカやロマンスもつきもの? やっぱり離脱する人もいるんでしょうか。

J:意外にも、ケンカはほとんどないんだよね。そんなドラマチックじゃないんだ(笑)。あ、でもカル・ヤラで出会ってのちに結婚したカップルもいたよ。

離脱者は…、今学期はまだいないね。これまでプログラム終了前にギブアップしたのは2.5パーセントだから、これは少ない方。あ、でもドラマといえば、以前メディアがやってきてカル・ヤラのドキュメンタリー番組をつくったことがあった。でも番組内容は事実からだいぶ歪曲していて。現在放送中の番組は、撮り直しバージョンになってるよ。

H:カル・ヤラが考える「現代に必要な教育」ってなんでしょう?

J:現代の教育システムで育った22歳って、失敗が人生の一部だって知らずになんとなーく“大人”になったって感じだよね。カル・ヤラの真髄は「挑戦」。そもそもジャングルで共同生活って現代人にとって大きな挑戦だし。
思うに、人ってもっと自分の手を汚して学び、自分自身を理解すべき。ただひたすら本を読んで頭でっかちになったところで、世界を変えることはできない。個人プロジェクトだって失敗することなんて日常茶飯。「成功させる」ってことがどれほど難しいことなのか向きあう機会をカル・ヤラは提供しているんだ。

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H:失敗と挑戦を体当たりで学ぶのが教育方針、ですね。では、今度はもう一つの核となる「ビジネスモデル」について。観光業、不動産業、そしてちょっと仕組みがわかりづらいアントレナーシップ(起業家精神の育成)がありますが、それぞれもう少し詳しく教えてください。

J:ここ最近で観光業は少しづつ動きだしている。訪問客やプログラム参加者相手のコーヒーショップやレストラン、バー、ガイドビジネス、コーヒーロースターなどのスモールビジネスも展開。生徒たち主導の売店もある。不動産面では、すでに買い手が決まっている20戸の家の建設が来年1月から着工予定。とはいうものの、このビジネスモデルで儲けが出るまでに至ってないのが現状だね、収益は新たなプログラム開発やスタッフの雇用などに再投資している状態なんだ。

アントレプレナーシップはというと、インターンたちが「サステナビリティを実現しどうやってこの村からビジネスを生み出すことができるか」考えを巡らせている段階。ぜひとも試したいのは、“メイド・イン・カル・ヤラ商品”の輸出。ジャングルだから生産できるものに限りはあるけど、たとえばカル・ヤラで栽培したオーガニックフードを輸出したり。あと、目に見える“商品”ではないけど輸出できるものといったら、カル・ヤラが提供するホスピタリティ。滞在を通じて訪問者がその知識や経験を体験談とともに自国に“輸入”してくれる。ここで教えるこんぶ茶の栽培法も母国に持ち帰れば、一つの輸出品になる。

H:なるほど、ジャングルの中でインターンや起業家たちの手で商品をつくって海外輸出というビジネスプランですね。せっかくパナマという特異な土地に村をつくったのだから、地元民やローカルビジネスと手を組むことも視野に?

J:もちろん。カル・ヤラ産商品や食品の輸出先はパナマシティにもなるだろうし、あるパナマシティの人気レストランは、ぼくたちがカルヤラで栽培した野菜を買いたいと前向きなんだ。

実際、ローカル民とのパートナーシッププログラムも現在進行中。非営利だけど、地元アーティストやファッションデザイナーを村に呼んでワークショップや近隣の村民を40人呼んで教育プログラムや農業を一緒にしている。それに雇用機会も提供。カル・ヤラの従業員の10人は現地の人だよ。

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H:参加者だけでの循環でなく、国内・国外すべてにおいてサステナブルを目指しているのですね。“地球に社会に優しい暮らしを実現するためジャングルで若者共同生活”とはじめて耳にしたときは、正直カルトかとも思ったのですが、詳しく聞いてみると実に地に足のついたプロジェクトでした。最後にカル・ヤラのゴール、そしてジミー自身の今後について教えてください。

J:時に人って、“地球がサステナブルじゃないのは人間のせいだ”っていうよね。でもぼくはそう思わない。カル・ヤラでは、人間は地球をいたわってあげることができる生き物だと証明したい。なにもカル・ヤラは、勝手に湧いてくれるアイデアの泉ではない。素晴らしいアイデアを持った者たちが世界中から集まり、アイデアを調和させたり試したりする実験台なんだ。ぼく自身、ひとたびカル・ヤラづくりが安定したら、次なるサステナブルタウンをどこかにつくろうと思っているよ。みんなに「カル・ヤラが実現したのは、たまたま運が良かっただけだろう」なんて言わせないためにね。

Interview with Jimmy Stice, Kalu yala

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Photos via Kalu Yala
Text by Shimpei Nakagawa
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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