いまやオンラインショッピングは日々の暮らしに欠かせないものになっている。定期購入も含め、オンラインで注文した商品を月に4回以上受け取っている人も少なくないのではないだろうか。商品を受け取るときにもれなく付いてくるのが梱包箱(パッケージ)で、これについて2つの対極の流れが生まれている。
一つは、梱包箱も顧客にとって大切な買い物体験の一部であり、また強豪との差別化をはかるためにも「商品と同じくらいデザインにこだわるべき」という考え方。もう一つは「そもそも使い捨ての箱なんかなくしてしまえ!」という環境への配慮を優先した考え方。たかが梱包箱と思いきや、これがなかなか売上げに影響するらしいとくると一筋縄ではいかない話だ。
自宅でひとり小包を開封。それだけのことがスペシャルな買い物体験になる時代
そもそも、ネットで商品を注文をしたのは自分なのだから、箱の中に何が入っているかはだいたい想像がつく。むしろ「開けてびっくり」するようなものが予告もなしに届いたら、それはそれで困る。
いまほどオンラインショッピングが当たり前になる前は、どのブランドも消費者が注目した商品をできるだけ速く、かつ破損などせず良い状態で届けられればそれで御の字だった。しかし、AmazonなどのEC業界大手が全体のシェアを牛耳るようになり、小規模なECブランドは、大手とは違う新しい付加価値を模索しなければならなくなった。
小規模なECブランドは、Amazonのような大手と価格競争をするためのリソースや、安価で効率的な配送オプションを顧客に提供できるだけの余力はない。そのため利便性以外の分野、つまり差別化するためのブランディングや顧客ロイヤリティを高めるための対策を強化することで勝負するしかないというのが現状。その手法の一つとして注目を集めているのが、梱包パッケージの見直しだ。EC大手と同じような味気ないダンボール箱ではなく、ブランドらしさを反映したユニークなデザイン、そしてギフト包装のような特別感の伝わるものに変えることで、顧客や潜在顧客とよりパーソナルな関係を築くことを狙う。
それぞれのオンラインブランドにあったカスタムのパッケージを作るルミ。出典:LUMI Official Website
それまでに見たことのないようなユニークな小包が届けば、顧客がソーシャルメディア上に写真や動画を投稿する可能性もグッと上がる。実際、パッケージを開封する動画「#unboxing」「#unpackaging」は若者の間でかなりの人気を集めており、以前ならインフルエンサーも商品を身につけた写真を投稿するに止まっていたが、最近は「こんな小包が自宅に届きましたよ」というところからはじまり、ペチャクチャ喋りならがら、こりゃまたたのしそうに小包を開封し、中身を取り出して使用(着用)してみるところまでの工程をおさめた動画投稿の方が積極的だ。
もともと、ビデオブロガーなどが、新しく買ったアイテムをショッピング袋から引っ張り出して(Haul)、観ている視聴者に紹介する「ホール・ビデオ(Haul Video)」というのがユーチューブを中心に大人気だったが、それが近年は定期購入商品や、オンラインで買った商品など、自宅に「箱」で届くモノにも広がっている模様。ユーチューバーたちの功績により、自宅に届いたパッケージを開封するという行為自体が、なんだかわからない間に「スペシャルな買い物体験」として視聴者の脳に刷り込まれ、昇華しているのである。
「お洒落な箱で届くとまた買っちゃうかも」vs「クーポンもらえるならまた買っちゃうかも」
よく考えれば「自宅でひとり、小包を開封する」経験なんて、誰しもあることだろう。大したことではないはずなのだが、一度「スペシャルな体験に違いない」と思い込むと、それなりの演出でそれなりの高揚感を味わえてしまう人が一定数いるというのだから不思議だ。
Dotcom Distribution社の2016年のレポートによると、アンケート回答者のうちの50パーセントが「オーダーした商品の梱包がお洒落な場合、そのブランドのことを友人など周りの人にすすめたい」と回答。その数は15年次の調査から10パーセント上昇している。また、「お洒落な梱包で届くブランドの方がリピートしたくなる」という回答も29パーセントから40パーセントに増加しており、つまりは商品がこだわりのあるデザインで梱包されて届くといった要素は、ブランドへのロイヤリティに繋がったり、商品購入を決定する上で大きな判断材料となっているようだ。マーケターにいわせれば、箱を開ける体験は店頭体験に変わるものなので非常に重要だと。
一方で、「普通の箱かお洒落な箱か、そんな議論はどんぐりの背比べ。そもそも一回の配送で“使い捨て”るのがダメ。環境のことを考えてリユースバッグにしませんか」という考えも注目を集めている。本来、梱包箱は配送中の破損から商品を守るためのものにすぎず、商品が無事に届けられれば別に「使い捨ての箱」である必要はない。
たとえば、北欧や欧州で広がりを見せている「リパック(RePack)」は、軽量でウォータープルーフ・耐久性のある再利用可能なリユースバッグを開発し、オンラインの小売店やブランドと提携して「消費者にダンボール箱の代わりにリユースバッグでの配送・受取りをする」選択肢をあたえている。リユースバッグを選択した消費者は、商品を受け取ったあと、バッグをポスト投函して返却(返送料は無料)すると、次回使える割引クーポンなどの報酬が貰える。報酬の効果が大きいのか、バッグの回収率は「90パーセント以上」を誇り、提携サイトへのリピート率も高いそうだ。
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米国でも「ライムループ(LimeLoop)」というリユースバッグのスタートアップが登場し、リパックのような広がりを目指している。ただ、EC売上額の40パーセント以上をAmazonが占めている今日の米国で、市場のビッグプレイヤーを巻き込めるか否かは大きな課題になりそうだ。また、ポストに投函するだけで無料かつ手軽に返却できるとはいえ「使い捨て」の手軽さに慣れてしまった消費者にどれだけ付加価値を感じさせられるかにもかかっている。
オンラインの小売市場が伸びれば増える梱包材ゴミ
世界のオンライン小売市場は、年々拡大の一途をたどっており、2018年は前年比21.1パーセント増で約300兆円規模になると推計されている。この数字が意味することの一つは、市場が拡大するに連れてダンボールなどの梱包材ゴミも増えているということ。リサイクルできるとはいえ、いまやその量の回収や、原材料化や製造するために新たに費やされるエネルギーは膨大。そもそもダンボールなどの梱包材の多くは、一回の配送に使われるだけ。サーキュラー・エコノミー*の観点から見れば、使い捨てならリサイクルだけでなく「リユース」も進めるのが理想的だ。たとえば、通常のダンボール箱での配送を上述のリパックに置き換えることで、二酸化炭素排出量を最大80パーセントも削減することができるという。
*過剰な資源の使用、捨てられる素材、まだ使用できるのに破棄される製品などのあらゆる「無駄」を活用して利益を生み出すことを目指した経済循環の考え方。
Photo by Jon Moore
いまどき「環境に配慮しています」といわないブランドの方が少なく、梱包箱にリサイクル材を使用するのはもはやスタンダード。言い換えれば、リサイクル材の使用は、このスタンダードさえやっておけば消費者からピーヒャラ言われないというギリギリのラインにすぎない。その程度で(というのも何だが)どこもかしこも「環境に配慮しています!」と仰々しくアピールしているわけだが、「それが商売ってもんだよ」と言われたら言い返す言葉がない。
では、そこから一歩先に進むにはどうすればいいかを考えると、これはもうリユースバッグのスタートアップがどれだけクリエイティブになれるかより、消費者にかかっているような気がする。確かに、自分が買った商品を素晴らしい包装を開いて取り出すのは一つの大切な買い物体験かもしれない。しかし、すべての買い物にそれを求めている消費者はいないと思う。要は買い物ごとに消費者が選べる選択肢があって、消費者が選択する手間を惜しまない、というのが理想的。あとは消費者の方からECブランドに対して「御社には『リユースバッグ・ボックス』の選択肢はないんですか?」と問い詰めていくのも効果的な方法ではないだろうか。
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Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine