〈悲しい〉をキーワードに繋がる女の子たち「サッドガールズクラブ」の成長にみるSNSコミュニティの新たな作用

子どものころからインターネットが存在し、その利用が日常である10~20代のデジタルネイティブ世代。彼らにとって、ソーシャルメディア上で、自分に合ったコミュニティを探し、その一員になることは決して珍しいことではない。それが好きなファッッションや好きな音楽に有名人、また同じ地域に住んでいるなどの興味や共通点などを軸にしたコミュニティであればわかる。ただ、これが「悲しい(Sad)」という漠然とした人の気持ちを軸にしたものでもコミュニティが成立しているのは意外だった。昨年発足した「サッド・ガールズ・クラブ(Sad Girls Club)」は現在インスタグラムに約35Kのフォロワーを持つ。最近はあのナイキもスポンサーについたという。

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インフルエンサーを追うよりも。自身を投影できる「身近なロールモデルと繋がりたい」

     
 直訳すると「悲しいガールズクラブ(Sad Girls Club)」。ハッピーやキュート、はたまたヒップ…、そんな浮かれポンチなポジティブワードではなく「悲しい」である。「サッド・ガールズ・クラブ」が発足したのは2017年2月のこと。同クラブは「鬱々とした感情や不安など、メンタルヘルスに関する悩みを聞いてくれる人を必要としているすべての女の子のための場所」。そう語るのはクラブの創始者でブルックリン(NY)在住の映像作家、イリス・フォックス(28)だ。

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Elyse Fox(イリス・フォックス)

 彼女に人目を引く華があるのは間違いないが、インフルエンサーやその類ではなく「ブルックリン育ちのいちアーティストにすぎなかった」と自ら。そして、クラブの名前は「悲しいガールズ(Sad Girls)」。一体、どのようにして35Kものフォロワーが集まったのか。

 ことの発端は自作のショート・ドキュメンタリーだった。内容は自身が経験した鬱や不安定な精神状態を元にしたもので、彼女自身や友人が出演し、慢性的に感じる孤独や不安についてを赤裸々に語っている。作品をソーシャルメディア上で公開し、しばらくすると見知らぬ女子たちから「私も似た悩みを抱えている」「相談に乗ってもらえませんか」といったダイレクトメッセージ(DM)が届いた。多かったのは10代から25歳くらいで「私のような女の子たち(有色人種、両親が移民、ミドルクラス出身)」と、バックグラウンドに共通点のある女の子たちだったという。


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@sadgirlsclub

 Vimeo上の再生回数は4,200回ほど。バイラルになったわけではない。にも関わらず、視聴者たちの少なからずが「自分の悩みを彼女に聞いて欲しい」と感じ、その直感にしたがってインスタグラムを使いイリスを探しメッセージを送ってきた。そういったアクションを起こす若きデジタルネイティブ世代には、イリスも驚いたという。

セレブの告白で勇気づけられた人たちが、次に求める存在

 最近まで、精神疾患について話すことは、同性愛について話すことと同じようにタブー視されてきた。だが、ここ数年で状況は急速に改善されつつある。その背景にあるのは、セレブリティや影響力のある人たちの公に向けてのカミングアウトだ。彼らは「実は鬱を患っていた」「不安障害に悩んでいる」と自身の経験をオープンにすることで「精神疾患について話すことは恥ずかしいことではない」「決して弱い人間だけが陥るものでもなく、誰にでも起こりうるもの。一人で抱え込まず、誰かに話し、きちんとケアすることで回復できる」といった認識を広げている。
 ただ「自分とは育った環境や世代があまりに違うセレブリティたちが語るうつとの闘いには、いまいち親近感がわかないというか…」。あくまでもセレブの体験は特別であり、彼らの意外なカミングアウトには勇気づけられるが、憧れの域は抜けない。いま、さらに求められているのは「自らを投影できるような身近なロールモデルではないか」とイリス。もしも、先述のイリスのビデオがバイラルになり彼女が話題のインフルエンサーとして言葉を発していたら、「話を聞いて」と言ってくる女の子は少なかったかもしれない。

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自身の動画作品でも赤裸々に見せたように、この日の撮影でも腕の傷あとは隠さず。

 彼女自身も10歳前後の頃から周囲に溶け込むことに難しさを覚えたり、慢性的な悲しい気持ちに苛まれていたと明かす。ただ、当時はまだ、子どもにとってソーシャルメディアはおろか、インターネットがいまほど身近にはなかった時代。「うつについての情報も少なければ、まわりに相談できる人もいなかった。ブラックガール(黒人の女の子)は強くあるべし、といった同調圧力も感じていたので、うつについての相談なんて恥ずかしくてできなかった」。しかし、いまはソーシャルメディアという便利なツールがあり、それを使って、同じ悩みを抱えている人たちや乗り越えた人たちと国籍や年齢を越えて繋がり、助言や精神的なサポートを求めることができる。メールを送ってきた人たちと接していく中で、「一人でも多くの子たちの力になりたい」と感じ、それと同時に「これはいまの自分が人の為にできることだと知り、より効果的に行うにはどうすれば良いかを考えるようになった」。そうして創り上げたのが、オンラインコミュニティ「サッド・ガールズ・クラブ」だ。

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取材はイリスの自宅にて。

ソーシャルメディアは毒だけでなく「薬にもなりうる」

 あえて「悲しい(Sad)」という言葉を使ったのは、10歳前後の子どもでも共感できる言葉であり、「悲しいと感じることをネガティブなままにしたくなかったから」。うつと闘っているならばそのことを「誇りに感じてほしい」と語る。また、「クラブ」をつけたのは「参加型のコミュニティであることを強調したかったから」。

 先日の母の日。インスタグラムが仲睦まじい「母と子」の写真やメッセージで溢れかえっていた中、イリスが投稿したのはこのイメージだった。

We love you #happymothersday rp from @thesagittariuswoman

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—子どもを亡くした母親たちへ
—母親を亡くしたあなたたちへ
—母親とピリついた関係のあなたへ
—子どもとピリついた関係の母親たちへ
—母にならないことを選んだあなたへ
—母になることに憧れを持つあなたへ

「誰にも置いてけぼりを喰らったような気持ちになって欲しくなかったので」。この言葉に、彼女の元に人が集まる理由を垣間見た気がした。世間が何かに浮かれているとき、その影には波に乗れずにいる人が必ずいる。そのことを彼女は見過ごさない。あなたのことを気にかけていますよ、と語りかけ、波に乗れなかった人たちを“承認”する。特に学生などは、家族や恋人、学校の友人からのベッタリとした承認を得るか得ないかに悩み、得られなければ病んでしまう、といった息苦しい環境から抜け出すのが難しい。だからこそ、ちょっと距離感を取りつつ、でもいつも見守ってくれるオンライン上の「同じ気持ちを知っているフレンドたち」の存在が求められているのではないか。

 自由な発話環境と、存在を承認してくれる唯一無二の思いやり空間。ソーシャルメディア上でこの二つが融合したスペースはいままでネットワークゲームのような、コミュニティ以外の人を寄せ付けない閉鎖的なものが多かった。「社会は自分のことをわかってくれないけれど、ここの人たちはわかってくれる」といった社会に対する絶望が前提になっていたからではないかと思うのだが、サッド・ガールズ・クラブにはそういった絶望や閉じた意識は一切ない。精神的な密な繋がりを構築しつつ前向きでオープンだ。うまくいかない悲しみやうつを承認して前向きになるために機能している。

Beautiful. Via @mosaiceye

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A cake for every occasion

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 そんなオンライン・コミュニティとして特異な存在であることと、そのコミュニティを牽引するイリスの姿勢には、大手企業も注目している。たとえば、ナイキはサッド・ガールズ・クラブに3キロのマラソンイベントへの参加を促し、そのための専門的なトレーニングやランニングウェア一式を無料で提供した。無論、それは企業にとってはコミュニティへの還元と宣伝効果を狙ってのことだと思うが、クラブにとっても「定期的に開催しているオフ会では、いままでメディテーションやヨガ、詩の朗読、アート関連の催しは行ってきたのですが、スポーツはやっていなかったのでとても良い機会になりました」と話す。 
 ソーシャルメディアは本来、人と人とのつながりを促すツールである一方で、個人の孤独感を助長する矛盾した側面があると再三の指摘があった。だが「孤独感から多くの人を救うポジティブな存在にもなりうる」と彼女は信じ、悩める少女たちの心にポッと小さな灯をともし続けている。

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Elyse Fox

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Photos by Hayato Takahashi
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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