ハーバード大卒・韓国系による「ストリート・“スモーク”・ウェア」。イエロー (黄色人種) のマリファナ文化が生んだストリートファッション

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ストリート・スモーク・ウェア。煙の臭いがつかない画期的な洋服の話かと思いきや、マリファナ文化を反映したファッションのことだった。今年4月にデビューしたばかりの新しいブランド「サンデー・スクール(Sundae School)」が、多方面から注目を集めている。その理由は、スモークウェアというキャッチーさも然ることながら、一貫する彼らの裏テーマ「メロー・イエロー・ピープル」にある。“アメリカ育ちのアジア系”が、ファッションに落とし込んだ「私たち(アジア系)のユースカルチャー」に、多くの若者たちが感情移入している。今回の作り手は、韓国生まれの兄妹だ。

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ボブ・マーリーも、グレイトフル・デッドも「なんか違う」

 マリファナ文化を反映したファッションといえば、ラスタカラー、ボブ・マリー、デッドベア、もしくはわかりやすくマリファナの葉っぱマークがどーん!というのは、もう過去の話か。かつてのサブカルチャーのスタイルは「ミレニアルズ」「ジェネレーションZ」と呼ばれる若者たちには響かないらしい。

ぼくらにとって、身に付けるものはオーセンティックであることがとても重要なんだ」。そう話すのは、ファッションブランド『サンデー・スクール(Sundae School)』の創始者ダエ(24)とシンディ(21)。“ぼくら”、とは、ダエやシンディと同じ年齢層のミレニアルズ、ジェネレーションZと呼ばれる若者たちだ。

 デザインは「無論、クールであることが前提だけれど、オーセンティックなストーリーが欠かせない。あと、皮肉とユーモアの要素も」という。
 オーセンティック、訳せば正真正銘、正統派。つまり、真似ではなくリアルで「そこにしか(自分たちにしか)ない」というところか。それはつまり、必然的にルーツに直結するものになる。

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左からダエ(Dae)、シンディ(Cindy)

 彼らがテーマに選んだのが「メロー・イエロー・ピープル」。この場合、メロー(ここでは、ウィードを吸ってリラックスした)な黄色人種(アジア系)を指す。「メロー・イエローは(日常的にウィードを吸っている)レイドバックなぼくたちのこと。アメリカに育つアジア系の僕らにとって、感情移入できる『ストーナー・カルチャー』を反映したファッションがないことに気づいたんだ」

※ マリファナなどドラッグ類の摂取により酩酊した状態の人。

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Courtesy of sundae school
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Courtesy of sundae school
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Courtesy of sundae school
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Courtesy of sundae school

名門大学で学んだのは「数学とマーケティングと、ウィードの巻き方」

 ダエとシンディは兄妹だ。「生まれは韓国のソウル。12歳の時に家族とアメリカの東海岸へ移住した」というダエは、現在24歳なので「韓国とアメリカで過ごした時間がやっと半分になった」と柔かに話す。

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©sundae school

 アジア系移民のママといえば「タイガーママ(教育熱心で、しつけに厳しいお母さん)」。子どもには医者になってほしい、という厳しい母のもと、グレることも腐ることもなく、二人とも上等教育を受けながら健やかに育った。他のアメリカのティーンたちと同じように、ウィードを嗜む機会にも恵まれた。

 ちなみに、二人にはファッションのバックグラウンドはない。ダエはかのハーバード大学卒。同大学では「数学とマーケティングと、ウィードの巻き方を学んで」、卒業後は大手マーケティング会社マッキンゼー&カンパニーで3年ほど働いた。同ブランドをはじめたのは、その後。シンディは、アイビーリーグのビジネス・スクールに通う大学生だ。

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 ファッションブランドをはじめたのは「(ファッションが)好きだから」に他ならない。「何が流行っているか」や「何が求められているか」といった市場動向は、デジタルネイティブ世代ならではの肌感覚で「理解できていると思う」と話す。実際、ニューヨークで一度ポップアップイベントを行ったこと以外にこれといった宣伝はしていないにも関わらず、ファッション誌やインフルエンサーから注目を集めているのだから、彼らのマーケティングは上手くいっているのだろう。

「アーティストにイメージを伝えて、カタチにしてもらう」という二人は、ディレクションはするが、デザインはしない。コラボするアーティストを探すのはもちろん「インスタグラムを使って」だ。

日本で言えば「福沢諭吉にウィードを咥えさせてみました」?

 オーセンティックを重視する彼らがデザインのモチーフに選んだのは、韓国の歴史的英雄でお札にもなっている「世宗(せそう)」や「熊女」。ハングル文字を入れているものもあり、近年、流行の兆しをみせている「自分の生まれ育った文化や言語をデザインに落とし込む」スタイルだ。「Honor Rollers(名誉教授や名誉白人、の感じで “名誉ウィード巻き師”?)」など、控えめなフォントで「自分の気持ちを代弁してくれるシンプルな文言がクール」という彼らの世代独特の文化も、しっかり取り入れている。

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Courtesy of sundae school
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Courtesy of sundae school
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 日本で例えてみるならば「福沢諭吉や清少納言にウィードを咥えさせてみました、きっとマンチーにもなるだろうから、横にアイスクリームも置いてみました」というものや、「ウィードの葉のマークの横に『はっぱ』という平仮名(もしくはカタカナ)」というデザイン。これがアメリカと韓国をはじめとするアジア圏の若者の間でウケており、購買者の85パーセント以上はアジア系。それは、彼らにとって狙い通り。そしてそれ以上に、とても誇らしいことだという。
※ 大麻摂取時におこる食欲増進。

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 人生の半分以上を西洋文化圏で育った彼らからは、漠然とした「西洋人への憧れ」は感じられない。むしろ、西洋人たちから向けられる「君、アジア系だよね」という眼差しを意識せざるを得なかったため、否応無しに「韓国にルーツを持つアジア系である」ことを自覚し、比較的ポジティブに自らのアイデンティティの拠り所の一つにしてきたという。
 
 一方で、「やっぱり、アジア系は〇〇だよね」といった偏見には不満もある。真面目だ、エリート思考だ、無口、ジョークが通じない—など。裏テーマとして、メロー・イエロー・ピープルらしさを打ち出したのは、そういったステレオタイプへの皮肉とユーモアを含んだ反発でもある。
 メロー・イエロー・ピープルは、スケーターでもミュージシャンでも、アーティストでもないかもしれない。けれど「ストリートカルチャーが好き。時にやんちゃな遊びもする。そこにはいつもウィードがあって、みんなと同じように楽しんでいるヒップなヤツらだ」と。

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 メロー・イエロー・ピープルは、ずっと存在していたけれど、その存在をありのままに社会にアピールしようとしてこなかった。「たとえば、米国でブラック・コミュニティやLGBTコミュニティは、一丸となってその存在を社会にアピールしてきた歴史がある。一方、同じマイノリティでもアジア系にはそういう動きが乏しいと思う」。だから、サンデー・スクールを通してメロー・イエロー・ピープルのコミュニティの輪を広げ、その存在を社会にアピールしていきたいと語る。

 ストリートファッションは時代を映す鏡だ。「アジア系 × ユース・ストリート文化 × マリファナ」が共存するブランドが生まれ、そこに深く感情移入するオーディエンスがいる。いままで、どちらかというと、他のカルチャーを真似たり、そこに混じったりすることを得意としてきたアジア系が、独自のコミュニティを形成しながら、自分たちのユース・カルチャーをスマートかつクールに発信している—。いちイエローとしては、なんとも誇らしい気分である。

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Interview with Dae & Cindy Lim from Sundae School

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Interview Photos by Kohei Kawashima
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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