バイヤー、ディストリビューター、パートナー「みんなインスタで見つけた」。成長がとまらない20歳のブランド戦略
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目覚めとともに「インスタグラムをひらく」。それは彼にとって、もはや無意識の習慣になっていた。その日の朝も、携帯を握りしめた右手の親指は、いつものようにインスタグラムのアイコンをクリック—。が、様子がおかしい。
「なんで、リアーナのポストに僕がタグ付けされているんだ?ってか、リアーナがかぶってるキャップ、僕がデザインしたやつじゃんか!」

2015年、この日を境に『ナサシーズンズ(NASASEASONS)』のデザイナー、アレクサンドレ・ダイランス(Alexandre Daillance)の人生は一転。18歳の秋のことだった。

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インスタ使って、セレブと繋がって。

 シンデレラボーイ、といえばそうかもしれない。ブランドを立ち上げて一年ちょっとで、リアーナ、ウィズ・カリファ、タイガ、リタ・オラなど、数々のセレブリティたちが『ナサシーズンズ』のキャップをかぶるようになったのだから。だが、ただの幸運なサクセスストーリーではない。有名になるための戦略は確かに存在していた。それも「インスタ起点」のだ
  
 パリに住む普通の高校生(16歳)だったアレクサンドレ(以下、アレックス)がブランドを立ち上げたのは2014年。ファッションブランドといっても、当時はベースボールキャップのみ。しかも、これとて斬新な素材を使ったわけでも、デザインが超前衛というわけでもない。そのキャップが、彼のインスタグラム戦略により世界的にフィーバーした。インスタグラムを使ってブランドを広めるためのキーパーソン(インフルエンサーやファッション雑誌の編集者)からバイヤー、ディストリビューターたちを見つけ出し、ダイレクトメールを送り続け、繋がり、ここまできたのだという。

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ブランドのロゴより自分の気持ちを代弁してくれる“#的”なフレーズがクール?

 いまでこそ、アメリカの大学へ進学し流暢な英語を話すが、当時は「そんなに得意じゃなかった」という。だが、英語メールで見知らぬ人やインスタフェイマスたちにコンタクトすることに「さほど抵抗なかったよ」。普段から知らない人にいいね、コメント、ダイレクトメッセージを日常的に行う、その文化の延長線上なのか。だから、というわけではないのかもしれないが、躊躇が少ない分、行動も早い。

 最初に攻めたのは、地元パリの人気セレクトショップ『コレット(colette)』。インスタグラムでバイヤーに直接メールを送り、面談のチャンスを手に入れた。「コレットのイメージに合わない」という渋顔のバイヤーに「じゃ、イメージを一緒に拡大していきましょう!」と食い下がった。最終的には「それじゃ、とりあえず、数十個だけ置いてみますか」と、半ば強引に “言わせた”のだという。結果はバカ売れ。「2時間で完売。コレットの完売最速記録」をつくった。しかも、その2時間「どんな人が買っているか」をきちんとモニターしていたというから、「売れちゃった、ラッキー」に付さない周到さもある。

 次のロサンゼルスのセレクトショップ『424オンフェアファックス(424 on Fairfax)』でも飛ぶように売れた。特に、リアーナが被っていた「I CAME TO BREAK HEARTS (ちょっと気になってたあの子と急に連絡がとれなくなって、若干、失恋した気分。だいぶ意訳)」の文言が入ったキャップは、いまも生産が追いつかないほどの人気だという。

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NASASEASONS, Tシャツ。
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“I CAME TO BREAK HEARTS”

 その他にも「Almost Famous(有名人かっていわれれば、まぁそんな感じ?)」「Single For the Night(今夜はシングルってことで)」など、直訳しにくい、つまり、誰にでも当てはまりそうで、どうにでも解釈できる文言がウケているのだそう。

「性別は関係なく、多くの若者の心情を代弁しつつ、かつクスッと笑える短い言葉を選んだ」のは、それが「クールだから」。身につけるなら、ブランドのロゴより、自分の気持ちを代弁してくれるシンプルな文言がクールってことか? ハッシュタグ的な文化か(違うか)?
  
 ところで、ロサンゼルスのセレクトショップということは「フランスから商品を送っていたの?」と聞くと、初期の頃から、生産はロサンゼルス(以下、LA)の工場で行っているのだという。
 そのきっかけもインスタグラム。突然、LA在住の高校生から、「LAにキャップを作るのにイイ工場がある。米国での生産と流通なら僕に任せて。タッグを組まない?」というダイレクトメッセージが届いた。
「僕としてもアメリカに進出できるなんてすごく美味しい話だったし。そのあと実際会ってみて、信頼できそうだったので彼にお願いした」とのこと。

 国籍の異なる10代同士が、インスタグラムのダイレクトメッセージを使って、海を越えたビジネスを行う。すごい時代がやってきたな—と、ただただ感心するばかりである。

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「ブランドの価値はインフルエンサーがつけてくれるから」。素材がチープかなんて関係ない。

 ところで、なぜ、ストリートではなく、あえてハードルの高いハイファッションを取り扱うショップとの契約にこだわってきたのだろうか。それは「いまの時代、Tシャツやパーカーを作って、ストリートブランドとして売っている若者なんてゴロゴロいる。違う方向性でブランディングしないと、その他大勢に埋もれてしまう」から。 
 
 ファッションブランドの価値は、「インフルエンサーと、インフルエンサー御用達のラグジュアリーなセレクトショップがつけてくれる」。そのことを最初から意識していたという。いくら魅力的な金額を積まれても、カジュアル路線の店に自分の商品を置かない。某カジュアルセレクトショップ(人気)からもお声はかかったが、「断った。誰もが手頃に買えるもの、つまりクラスのみんなが身につけているものに、若い世代は憧れを抱かないから」

20歳が語る、ジェネレーションZ世代とは。

 自分の経験からも「ソーシャルメディアほど便利なものはない」という一方で、せっかく才能があるのに、SNSに時間を割きすぎて何もクリエーションできてない若者も多いのでは、とも。「ソーシャルメディアのおかげで情報はいくらでも手に入るようになった。けれど、僕らの世代は、他人の意見を求めすぎて、自分の意見やテイストっていうのが欠けてる気がする」という。

 ソーシャルメディア世代とは、「メディアに踊らされずに自分の価値観で物事を選択する世代」だと言われることが多いだけに、アレックスのこの意見は意外だった。インスタグラムに熱狂していると思いきや、そうではない。インスタグラムに熱狂せずあぐらをかかず、一歩引いて見ているようだ。冷静な気づきがあるから「インスタに使われるのではなく、使う」ことができ、若い世代が求めているものを打ち出すことができる。
 そこに苦戦している企業やブランドは多い。業界大手が「若い世代にどう訴えれば、モノが売れるのか」と、20歳のアレックスのもとに駆け込む—ということが多々あったので、16年の12月から「ブランドコンサルティングもはじめた」そうだ。立ち上げから半年足らずでクライアント数はすでに15ブランド。ブランド名は出せないが、有名ストリートブランドや大手飲料メーカーなどが名を連ねる。

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「ジェネレーションZ(だいたい、いまの20歳以下をさす)」世代の中には、本当の意味での自己らしさを追求するために「もう少しSNSと距離を置くことを選ぶ人が出てくるのではないか」と、彼は予想する。小中学校の友達だから、地元が同じだから、という理由で、やたらに繋がるよりも、国や年齢の壁を超えて、本当に感覚のあった人と繋がることに価値を感じているそうだ。

 いつの時代も新しい流行をつくるのは若者だと言われてきた。が、「そうやって、若者は企業やブランドにうまく利用されてきた(商品を買わされてきた)だけだと思う」とアレックス。いまは、「LA(場所)、Tシャツ、工場」って単語を入れてググれば、中学生だって商品が作り手になれる。僕の経験上、「工場の人が気にするのは、依頼主の年齢ではなくお金を期日までに払えるのかどうか。若いからって断られたことはない」。10代でもクリエイターとして有名ブランドと対等になれるということを、彼は体現してきた。

 一年半前、彼は「仮に、ナイキやアディダスのような大手ブランドがコラボしようと言ってきても、僕は驚かない。だって、どのブランドも新しい若手クリエイターを巻き込もうとしているから」と、他紙のインタビューで答えていた。
 そのことについて尋ねると「僕、そんなこと言ったっけ。ってか、もうコラボしてるよ」とニヤリ。若干20歳、とんだビジョナリーである。

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Interview with Alexandre Daillance from NASASEASONS

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Alexandre Daillance
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Photos by Kohei Kawashima
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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