賭博王にしてファッション帝王・ロススタインが確立した“ギャングスターの身だしなみ”

【連載】米国Gの黒雑学。縦横無尽の斬り口で、亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がし痛いところをつんつん突いていく、四話目。
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「友は近くに置け、敵はもっと近くに置け」
(映画『ゴッドファーザー』から)

「友情がすべて」のマフィオーソの道。しかし、
昨晩、盃を交わした友が敵になる。信頼の友の手で葬られる。
“友と敵の境界線は曖昧”でまかり通るワイズガイのしたたかな世界では、
敵を友より近くに置き、敵の弱みを握り、自分の利益にするのが賢い。

ジェットブラックのようにドス黒く、朱肉のように真っ赤なギャングスターの世界。
呂律のまわらないゴッドファーザーのドン・コルレオーネ、
マシンガンぶっ放つパチーノのトニー・モンタナ、
ギャング・オブ・ニューヨークのディカプリオ。
映画に登場する不埒な罪人たちに血を騒がせるのもいいが、
暗黒街を闊歩し殺し殺されたギャングたちの飯、身なり、女、表向きの仕事…
本物のギャングの雑学、知りたくないか?

重要参考人は、アメリカン・ギャングスター・ミュージアムの館長。
縦横無尽の斬り口で亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がす連載、四話目。

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前回は、雇用側を操り、金を巻き上げたギャングと(ユニオン)労働組合との絡みなどについて話した。今回の第4話では、ギャングスターとファッションについて。ギャングのヴィジュアルイメージをストリートのゴロツキではなく「成功したビジネスマン風」に確立したあるユダヤ系大物ギャングや、目立つ白いボルサリーノをあえて被っていたアル・カポネなど、ギャングの身なり、ファッション観を紐解いていく。

▶︎1話目から読む

#004「賭博王にしてファッション帝王・ロススタインが確立した“ギャングスターの身だしなみ”」

ラッキー・ルチアーノに“ファッション”を教えた男 〜ロススタイン効果〜

いつ頃だったけか、麻生元首相の“マフィアファッション”が話題になった。襟元ファーの黒ロングコートにボルサリーノ帽、マフラーといういでたちだったが、この“ギャングといったら”なファッション観、どこから生まれたものなのだろう。

「ギャングの世界に、これといった“ドレスコード”はありません。それに、たとえばファドラ帽をかぶることに何か意味がある、というわけでもない。強いて言えば、ギャングに求められているのは“良い身なり”をすることですかね」と館長は話すが、この“ギャングスターにとっての良い身なり”を定義づけたある大物ギャングがいる。伝説のマフィア、ラッキー・ルチアーノに「俺に“ファッション”を教えてくれた人だ」と言わしめたユダヤ系ギャング、アーノルド・ロススタイン(Arnold Rothstein)だ。

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ユダヤ系ギャングたちの肖像。ロススタインは下段、右から2番目。
Collection of Museum of the American Gangster

 ニューヨークのユダヤ系実業家を父にもつロススタインは、賭博師からキャリアをスタートし、カジノ建設や禁酒法時代のもぐり酒場買収、麻薬の密売などで大儲け。その他にも、ラッキー・ルチアーノやマイヤー・ランスキーなど駆け出し中の若手ギャングの面倒をみたり、フィクサーとしてギャングの揉め事を解消したりと、“組織犯罪の元祖”、“ザ・ブレイン”と呼ばれるにふさわしい働きで知られている。暴力で力ずくに幅を利かせたり、イタリア系マフィアのように伝統的な血筋にものを言わせるギャングスターの世界に、中産階級出ならではの金融や法といった要素を持ち込んだのも彼なのだ。ちなみに、スコット・フィッツジェラルド著『グレート・ギャツビー』に登場するギャング、ウルフシャイムのモデルでもある。

 そのロススタインは、3ピースのスーツやウール、もしくはフランネルのシャツ、蝶ネクタイなどスタイリッシュで上質なスーツに靴を身につけ、ギャングスターのファッションスタイルを「お洒落で気品のある、まるでウォール街のビジネスマン風」に仕立て上げた。「『ストリートの角で尖っているゴロツキのような身なりはしない。犯罪を一つの手段としているというだけの“成功したビジネスマン”のような身なりをしよう』という概念を、ロススタインは植えつけました。成功の為に身なりを整える(dressing for success)というロススタイン効果です」。質の良いアイテムをさりげなく身につける、「つまり、『裕福であるほど、微かなお洒落をする(more richer you are, more subtle you dress)』ということですね」

 ロススタイン効果がうまく作用したギャングには、同じくユダヤ系のマックス・ツヴェルバッハ(Max Zwerbach)がいる。若い頃は、明るい色のシャツにチェック柄パンツという、ワーキングクラス全開の派手でアグレッシブな格好をしていたツヴェルバッハ、自身が率いていたイーストマンギャング(ニューヨークのユダヤ系ギャング団。19世紀後半〜20世紀前半)がロススタインの護衛団として雇われたことからロススタインとコネクションをもつことになる。ボスのファッションセンスに薫陶を受け、気品あるスーツなどで自身のクローゼットを埋めることとなった。

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マックス・ツヴェルバッハ。ロススタインと出会った後のスタイル。
Collection of Museum of the American Gangster

 またロススタイン効果は“外見”のアップグレードだけでなく、ギャングの“内なる精神や立ち振る舞い”にも影響したと言える。「ラッキー・ルチアーノの弁護士がこう言っていたのをどこかで見ました。『通りでルチアーノとぶつかってしまったら、彼の方から謝ってくるでしょう』」。質と品に重きをおくロススタインのファッション精神は、中産階級のビジネス倫理とビジネスマンとしてのマナーとも繋がっているのだ。

ハリウッド俳優顔まけのバグジー、白いボルサリーノを“あえて”かぶったカポネ

 ファッショニスタなギャングは、ロススタインだけでない。長身ハンサムで鳴らしたユダヤ系ギャング、ベンジャミン・シーゲル(通称バグジー)も、お洒落に金をつぎこんだ一人である。ニューヨークからラスベガスに移住した彼は、ホテル&カジノ「フラミンゴ」の建設に着工するなど“ラスベガスを築いた男”として知られており、ファッションにも力を入れていた。ビバリーヒルズの行きつけバーバーショップでは爪にマニキュアを施し、シルク製のシャツに袖を通すというこだわりよう。ハリウッド映画俳優とも交友関係を結んだりしていたという。

 最後に、「アル・カポネの白いボルサリーノ帽」についても触れておこう。その昔、都会に出るときにはジャケットにネクタイをし、帽子をかぶることが“身だしなみをわかっている男”のマナーだったが、大物ギャング、アル・カポネは白いボルサリーノをこのような理由からかぶっていた。「まず第一に白い帽子は、西部劇でもそうですが、“善人”を意味しています。第二に、“人混みでも目立つ”からです」。FBIの捜査の手が迫っていたときも、カポネは隠れずに堂々とコミュニティの中心に鎮座。『(禁酒法を撤廃するため)市民のために闘っている』というスタンスを突き通し、白いボルサリーノであえて目立とうとしていました」

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Collection of Museum of the American Gangster

 次回は、みんな大好き、ギャングたちも大好き「食」の話。イタリア系ギャングがこだわるトマトソース、刑務所飯、ギャングのおやつ…など、Gたちを胃袋から解剖しよう。

▶︎▶︎#005「真っ赤なトマトソースのように煮えたぎるギャングの食欲」

Interview with Lorcan Otway

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重要参考人
ローカン・オトウェイ/Lorcan Otway

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Photo by Shinjo Arai

1955年ニューヨーク生まれ。アイルランド系クエーカー教徒の家庭で育つ。劇作家で俳優だった父が購入した劇場とパブの経営を引き継ぎ、2010年に現アメリカン・ギャングスター・ミュージアム(Museum of the American Gangster)を開館。写真家でもあるほか、船の模型を自作したり、歴史を語り出すと止まらない(特に禁酒法時代の話)博学者でもある。いつもシャツにベストのダンディルックな男。

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Museum Photo by Shinjo Arai
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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