「笑わない自分と子どもたち」を撮り続ける母。 鬱と躁、双極性障害を患うフォトグラファーが伝えたいこと
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美しい。だけど、暗くて悲しくて、ちょっと怖い。
そんな写真シリーズを撮るのは、ノルウェー人フォトグラファーMaren Klemp(マレン・クレンプ)。

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妻であり二児の母である彼女は、他人から理解されにくい自身の「双極性障害(重い躁状態とうつ状態をくり返す慢性の病気)」を作品に落とし込む。

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目に見えない病気をビジュアルに。双極性障害を抱えての決意

 ノルウェーの首都オスロで、夫と2人の子ども、それに1匹の犬と暮らすマレンが「双極性障害」と診断されたのは3年前のこと。

「当時、すでに2人の子どもがいたわ。でもね、結果を聞いて正直ホッとしたの」。長い間、気分が無性に高ぶったかと思えば急に自尊心を失ったり。感情のコントロールに苦しみ「自分は異常」と悩んでいた彼女。病名が分かると改善のため、すぐに病気についての情報を収集しはじめた。

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 文字のみで淡々と説明された書物を読み漁るなかで、ふと芽生えたのが「自分にしかわからない内面の混乱を、ビジュアルとして見てみたい」。
 目に見えない精神状態を視覚的に表現してみる。それが「Between Intervals(ビトウィーン・インターバルス)」シリーズだ。

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リアルな内面を写し出したのは、赤の他人だった

 詩や短編ストーリーに没頭し、葛藤を綴った10代の頃。より豊かな表現方法を求め「絵を描くことにも挑戦したの。でもセンスはゼロ」。17歳の頃、父に初めて買ってもらったデジカメに「コレだ!」とハマり、大学ではファインアートフォトグラフィーを専攻、卒業後そのキャリアをスタートさせた。

 以来フォトグラファーとして活動してきたマレンだが、このシリーズは本人がセルフタイマーで撮影したわけではなく、アメリカ人フォトグラファーJose Escobar(ホゼ・エスコバー)とのコラボレーションにより実現したもの。

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 赤の他人が撮った。となれば、彼女は自分のアイデア、何よりも心の内を正確に伝えなければならない。
 果たして彼は彼女の内面とそれゆえ表現したいことを完璧に理解していたのだろうか? 第三者の介入によって、妥協はなかったのだろうか。精神を患った人間が自分の内面を理解し、たとえばペインティングなどで自らの手のみでアウトプットするのとはまた違ったはず。

「Flicker(フリッカー:写真共有サイト)で出会ったホゼとは、完成イメージがすぐに合致して。お互いの写真に対する理想像が似てることもあってプロセスはスムーズだったし、私の内面も完璧に表現してくれた。彼が提案した、ノルウェーの大自然を闇に例えた風景が、私のポートレイトと上手く融合したの」

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「この白い鳥は希望の象徴。絶望的な状況に追いやられながらも、それを羽ばたかせようとしているの。私のうつ状態を上手く表現できた自信作よ」

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「精神疾患と戦うことは、目に見えない戦争が心の中で勃発しているようなもの。正体の分からない“何か”に、心が乗っ取られていく感じ。この手形はそんな私の戦意を表わしているの」

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うつ状態を表した作品が多い中での、希少な躁状態を表した作品。「眩しいくらいに明るくて、ぼやけていてドラマティック。躁状態のときって、エネルギーと創作意欲が止まらないの」

 毎日、ロケハンを兼ねて犬と森の中を散歩。良さそうな場所があれば足を止め写真を撮り、帰宅後はイメージを下書き。衣装や小道具の準備、セッティングまで全て行なう。「時間はかかるわ。主婦業もあるし大変。でもこうやって労力を惜しまないことが、完成度の高い作品への近道だもの」

母の病気を理解する、11歳の息子と作る作品

 病気をビジュアルとして落とし込むだけでなく、大切な家族との関係性も伝えたかったというこのシリーズ。美化はせず「honest and true(正直さと真実)」を表現するため、撮影はすべて家の近所で行い、モデルはマレン自身と、実の息子と娘のみ。

 11歳の息子は、マレンの病気をある程度理解している。彼がまだ小さい頃からずっと写真を撮っているせいか、母の求める表情やポーズを、彼なりに把握しているんだという。「だから私は、カメラの方を見てって、簡単な指示をするだけ。そしたら、こういう美しい表情をしてみせるの」

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 一方で「病気のことは何も分からない5歳の娘に、指示をするのはちょっぴり難しい。でもリラックスして、目を閉じてっていうと、ほら」

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「私も子どもたちも、楽しんで撮影している。協力して創り上げるという過程が、彼らにとって大切な経験になる。ママのお手伝いして、お小遣い貰えてラッキー!程度に思ってるのかもしれないけどね(笑)」

精神疾患は恥ずかしいことなのか

 初個展では、「病気や奮闘を上手く表現している」と同じ精神疾患に悩む人からは賞賛の声があがった。
「『心の病を言葉で伝えるのは困難だから、家族に作品を見せてこの苦悩を伝えたい!』なんて方もいて」。こういった人のためにもシリーズを続けたいと、あらたに使命感が生まれた瞬間だった。

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「撮影後、うつ状態で見た作品はどれも満足がいかず自分に失望するばかり。逆に躁状態では、すべてが素晴らしく思えて批判的な気持ちには一切ならない」とマレンもいうように、その感情の起伏の激しさから、本当の苦しみは患った本人にしか理解できないと聞く。

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「最初は自分が双極性障害って言うの、恥ずかしかった。でもね、改善のためには事実を受け入れて、オープンになることが必要。世界の色んな場所でこの作品を通して、精神疾患に苦しむ人への理解が高まれば嬉しいわ」

 そう話してくれたときの彼女が、躁状態だったのかうつ状態だったのかはわからない。けれどその言葉は作品同様、生命力に溢れていて、確かな自尊心を感じた。

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Maren Klemp

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All images via Maren Klemp
Text by Yu Takamichi

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