「あなたにはコレでしょうか」家族構成・子の成長も把握してリコメンドする〈AIショッパー〉日用品まで“お得意様対応”?

もうすぐお子さん中学生ですよね、こんなのどうですか?とすすめる。やり取りはスマホのメッセージで24/7で繋がる。あなたを待たせない。
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「明後日までに5歳の甥っ子へのプレゼントが必要。リコメンドして」「トイレットペーパーと洗剤がすぐ必要。いつものね」など、欲しいものをカジュアルにメールで伝えれば、パーソナルショッパーがあなたのために検索し、選んで、即日(か翌日)配送してくれる。もともと高級ブランドや百貨店がおこなってきた「お得意様対応」が、テクノロジーを通して日用品レベルにまで降りてきた。

敏腕パーソナルショッパー「ジェイ(J)」 が、あなたを特別扱い

 プロダクトを売るビジネスにおける企業と消費者のコミュニケーションツールとして、ウェブでもアプリでもなく「テキスト(SMS、以下、ショートメッセージ)を使っている」という話を、新興の健康ドリンクブランドを例に以前紹介したが、ついには、日用品から高級ブランドの家具や衣類までスマホの「1対1のメッセージ」でやり取りし、購入・配送までしてくれる、会員制のネットショップサービスが現れた。

 ネットショップサービスといえばやはりアマゾンだが、2018年に創業したばかりのこの「ジェットブラック(JetBlack)」というサービスは、アマゾン(プライム)よりもラグジュアリーなサービスを月額50ドル(約5,600円)で提供するという。仕掛けるのは世界最大級のスーパーマーケットチェーン「ウォルマート」*のインキュベーター・プログラムだ。共同創始者には「クローゼットをクラウド化する」という革新的なファッションレンタルサービスで注目を集めた「レント・ザ・ランウェイ(RENT THE RUNWAY)」のジェニー・フリースの名も。

*日本では西友が2002年に包括的業務提携を結び、09年にはウォルマート・ジャパン・ホールディングス合同会社を設立(現ウォルマート・ジャパン・ホールディングス株式会社)、国内に335店舗存在する。


ジェットブラック。

 注目すべきは、提供する商品の幅の広さだ。高級百貨店のサックス・フィフス・アベニューや、キールズ、セフォラなどを傘下に持つ「ブルーマーキュリー」や、インリアショップのウィリアムズ・ソノマやウェストエルムを傘下に持つ「ポッタリーバーン」などの商品も扱う。つまり、トイレットペーパーからプラダのバッグまでを買い揃えることができるのだ。ターゲットに狙うのは「都市部に住み、金銭面に比較的余裕のあるママたち」。子育てだけでなく、仕事や趣味にも意欲的な20代後半から40代の女性たちだという。
 
 商品のオーダーは、スマホのメッセージでやり取りするが、以下のようにカジュアル。ちなみに、パーソナルショッパーの名前(ニックネーム)は「ジェイ(J)」だ。

顧客AとJの場合

顧客A:
「Hi, J ! (ハイ、ジェイ!)」
「リリー(子どもの名前)用のいつものお尻ふきとオムツ。あと、パンツタイプのオムツをよろしく」

J:
「了解!〇〇(ブランド名)の赤ちゃん用お尻ふきを1つ、△△のサイズ2のオムツを1つ。そして、□□の赤ちゃん用トレーニングパンツを1つ。明日、お届けします」
「以上でいいですか?」

顧客A:
「ありがと!」

顧客BとJの場合

顧客B:
「Hey, J (ヘイ、ジェイ)」
「3歳のパズルが好きな女の子へのギフトが必要。リコメンドをお願い!」 

J:
「予算はいくら?いつまでに必要?」

顧客B:
「60ドルくらい。今週末までに欲しい」

J:
「了解。オススメのトップ3をすぐ送るから、ちょっと待ってて」

 
 ユーザーのなかには、上述のようなやりとりを、指での入力ではなくより効率的かつ直感的な「音声」インターフェイスを使用する人も多いという。

 パーソナルショッパーのJは、顧客の予算に応じて商品を選び、商品の画像とリンクをいくつか送ってくれる。顧客が「これにする!」と返事をすれば、それの時点で決済終了。あとは、Jがプレゼント用のラッピングを選び、必要であればギフトカードも用意して、指定の住所に送ってくれる。

 インスタグラムで見つけたアイテムも、スクリーンショットをしてJに送れば、探し出して最も良心的な価格のものをリコメンド。また、「アダム(子ども)が大きくなったから、新しいベッドとそれに合うオーガニックのマットレスを教えて」といえば、Jは過去の購買履歴からアダムが顧客の「長男」であることや、「今年5歳になること」を計算して、リコメンドをしてくれる。
 
 さらには、たとえばたまたま入ったブティックで素敵なドレスを見つけたが、その店には自分に合うサイズが置いていなかったという場合。そのドレスやタグの写真、そして「このドレスのXSを探している」とJに送れば、Jはすぐに提携するデパートやブランドの在庫を調べて、見つかり次第1〜3日程度で配送してくれる。

 反応の早いパーソナルショッパー、J。いったい何人の「J」を雇っているのかと思いきや、たったひとりの人工知能(AI)だ。AIが各顧客に合わせて、それぞれにぴったりのパーソナルショッパーJとなる。

 月額には上述のようなサービスはもちろん、即日(もしくは翌日)の配送費、ラッピング、返品対応(指定の場所まで人間が取りに来てくれる。ここはマンパワー)などが含まれているというから、確かにラグジュアリーなサービスだ。

アマゾンは選択肢をたくさんくれすぎる? パーソナルなつながりを構築

 月額12.99ドル(約1,440円)の米アマゾンプライムとのサービスの大きな違いは、顧客が必要なものを、無数の選択肢の中からを自分で選ばなくて良い点、つまり、選択する手間を省いてくれるところである。

 上述のように、「3歳のパズルが好きな女の子へのギフト」「眠くならない痛み止め」など、必要なものをザックリとメッセージすれば、パーソナルショッパーのJが“あなたのために”探し、最も良さそうなものを3つほど厳選してくれる。アマゾンだって、検索バーに欲しいものをザックリ入力すれば、それなりに“あなたのために”選んで表示してくれるし、アレクサ*を使えば音声でアマゾンショッピングをすることもできる。つまり、決してアマゾンにはない新機能を搭載しているというわけではなく、顧客とのやりとりのプラットフォームをウェブ上からショートメールというよりパーソナルな空間に移しただけ、ともいえる。

*米アマゾンが開発した、クラウドベースの人工知能(AI)音声認識サービス。

 ただ、アマゾンに「リリーのオムツ」「アダムのベッド」といったところで、アマゾンはリリーやアダムの年齢や性別を踏まえた検索結果を示してはくれない。ここにジェットブラックの強みというか、アマゾンプライムの約4倍にあたる月額のラグジュアリーが濃縮されているように思う。
 
 これは、昔から高級ブランドや百貨店、デパートがおこなってきた「お得意様対応」に通ずるところがある。新商品が出れば、個別に手紙や電話で「ご挨拶」をし、必要であれば商品を持って自宅に伺い、店に来店してもらえば、上顧客しか入れない専用の部屋にお通しする。誰もがスマホを持つようになった現代、こと米国の高級店では、販売員が顧客と携帯電話の番号(もしくはSNSアカウントやEメール)を交換していることも多く、新作が出れば「こういったものが入荷しました。〇〇様のスタイルにお似合いかと思いこのようにコーディネートしました」などと、写真を撮ってショートメッセージで直接営業をかけることも少なくないそうだ。
 
 こうしたスマホのショートメッセージを通じてのお得意様対応を、人間そっくりのAIを用いることで日用品レベルにまで降ろしてきたところに、ジェットブラックの新しさがある。仮に「お得意様」である会員数が何十万、何百万となっても、AIならば24時間どのエリアからの「ジェイ、〇〇が欲しいんだけれど」にも、即応答する。そして、お得意様本人のことはもちろん、その何十万人のお得意様の家族のこと、つまり長男のアダム、2番目の双子のリリーとサリーのことも把握することも可能だ。それによって、子どもの成長に合わせて「来月からアダムは中学生になりますね。何か必要なものはありますか」と、まるで親しい友人のように「リコメンド」という名の営業をかけることもできる。

 現在は、ニューヨーク近郊のみにサービス範囲を絞っているにも関わらず、開始から約半年で「すでに数千人の入会待ちができている」という。
 特にミレニアルという世代は「自分の価値観に合わせて選びたがる消費傾向がある」と言われてきたが、単純に選択肢は多ければ多いほど良いわけではない。膨大な数の情報量にさらされ続ける現代人の中には「選択のパラドックス」に陥っている人も少なくないのかもしれない。

Photos via JetBlack
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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