研究者とゲームデザイナーが開発中〈薬物依存症・治療アプリ〉ゲーム感覚・熱中プレーは依存者を救うのか?

現在、ニューヨークのとあるスタートアップが開発中。研究者にくわえて“ゲームデザイナー”も携わってプロジェクトを進行中だ。

ゲームデザイナーも開発に参加「ビデオゲーム感覚」の“たのしい”依存症克服アプリ

 いま、米国を蝕む社会問題といえば「オピオイド危機」だ。オピオイドとは、医療目的でも使用される麻薬性鎮痛薬。聞きなれない言葉かもしれないが、あのヘロインやモルヒネもオピオイド系鎮痛剤に分類される。本来は手術後の痛み止めやがん患者の治療に使用されるものだが、その中毒性により麻薬代わりに摂取し、依存症に陥る人が急増*しているのだ。

*米国では処方せん薬として合法的に手に入るため、広く蔓延してしまう。

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 2016年、17年と立て続けにこの世を去った歌手のプリンスやトム・ペティも、オピオイド系鎮痛剤の過剰摂取が死亡原因だといわれている。米国疾病予防管理センターによると、16年には4万人以上がオピオイドで死亡している(薬物過剰摂取が原因で死亡した人数は約6万、過半数を占める)。単純計算すれば1日に115人にもなり、交通事故や銃犯罪による死亡数よりも多い。大統領が非常事態宣言をするまでに発展したことからも事の重大さがわかる。

 そんな21世紀最大“危機”のひとつともいえるオピオイド危機に“アプリ”で立ち向かうのが、ニューヨークのテックスタートアップ「Data Cubed(データキューブド)」。彼らは、ビデオゲーム技術を活用した麻薬依存症の治療アプリResQ(レスキュー)を目下開発中だ。

 “ビデオゲームみたい”という治療アプリ、モットーは「手軽にたのしく」。ユーザー(患者)はアプリ内でのアバターをカスタマイズしてゲームをこなしていく。ビビッドな世界観にゆるキャラが登場するなか、ユーザーは人生ゲームや宝くじ、ロールプレイゲームのような遊びでポイントを稼いだり、「今日の調子はどう?」「昨日はしっかり眠れましたか?」「家に長くいるとソワソワしますか?」などの質問に回答していく。
 一定期間薬物の使用を控えられていると、ゆるキャラが「いい調子!」とコメントをくれる。ゲームやアンケートのデータを通して、ユーザーの日々の衝動性や欲求、感受性、リスク許容度などをスコアで測定。治療中のユーザーの精神状態をさりげなく探り、再発を防ぐように設計されている。

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(出典:Data Cubed Official Website

 その設計の背後にいる重要人物が、プロのゲームデザイナーたちだ。開発にあたり、オピオイド依存の研究者たち(米国立衛生研究所)にくわえ、ゲーム業界の第一線を25年走り続けるオンラインゲーム会社の「ブリザード・エンターテイメント」や世界に23の拠点を展開するライアットゲームズ」といったゲーム界の巨頭たちに協力を得たのだという。

 これまでにも、アップルのヘルスキットなどの健康管理アプリや薬物依存症克服のためのアプリなどは世に出ている。しかし「ほとんどのユーザーインターフェイスやユーザーエクスペリエンスは、アカデミックな専門家たちによって設計されていると感じました。型にはまった作りで、患者であるユーザーの体験に対してあまり注意が払われていない。そこで、ユーザーのエンゲージを増やすためにも、ゲーム的要素を取り入れようと思ったのです」。データキューブドのCEOで、過去10年間、公立病院や診療所でオピオイド依存の研究を重ねてきた神経生物学者・心理学者のポール氏はそう話す。

ソーシャル機能が“カウンセラー”に。アプリやソーシャルでメンタルを安定

 薬物依存症の克服アプリにゲームを持ち込んだのも画期的だが、レスキューはソーシャルネットワーク機能も持ちあわせている。ユーザーは、あらかじめ友人や家族、カウンセラーなど“サポーター”となる人たちの連絡先をアプリに登録し、彼らに目標と達成度を共有することが可能、チャットもできる。サポーターは日々ユーザーたちの状態をモニターし、ユーザーの調子がいいときには「ハグ!」「おめでとう」などのゆるキャラ絵文字を送ってあげることも。

 さらに、再発の危険性があるとアプリが判断したユーザーには、そのサポーターに連絡がいく仕組みも。サポーターたちには「再発しかねないユーザーに、どうアドバイスをし接してあげればよいか」プロの助言するなど、「診療所でカウンセラーがおこなうようなカウンセリング術」を教授してくれるという。米国ではオピオイド中毒に苦しむ約1000万人のうち120万人が治療プログラムに入っているが、臨床医へのアクセスが限られているのが現状だ。「実際、大きな病院では週1回以上カウンセラーに会うのは不可能です」。都市の大病院では患者の数も多く、薬物依存症患者のメンタルを定期的に手厚くケアする機会を提供するのは難しい。「アプリなら、毎日そのサポートを提供できます」

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 近年は、プチ鬱の人々向けに深刻化する前にヒーリングしましょうと「ポッドキャストでメンタルケア」や、インスタ上で〈悲しい〉をキーワードに繋がる女の子たちのコミュニティ「サッドガールズクラブ」などが登場。“心を安定させる”を、まずはスマホで解決しようとしている。レスキューも薬物依存という大きな社会問題にも「毎日遊びたくなるゲーム」「不安になったら繋がるネットワーク」で立ち向かう。来月リリース予定を控えるデータキューブドのレスキュー、今後はユーザーたちに“アプリ中毒”になってもらいたい、と願っているだろう。

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Text by Chaz Bear
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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