マリファナ産業「ブロックチェーン」に乗り出す。産業に変革をもたらすと噂の「パラゴンコイン」とは一体?

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21世紀の「ゴールド(金)」ことマリファナ。米国は近年、このグリーンラッシュに湧いている。連邦法では違法だが、医療用を合法的に許可している州は全50州のうち29州と年々拡大。だが「緑色の金」は未だ、ダークマーケットに覆われている部分も少なくない。一体、どこでどのように採れたものなのか。化学肥料は使われていたのか。土や水の質は?「身体に入れるモノだから、食べ物と同じくらい安全性にこだわりたい」。生産者の顔をみながら野菜を買うように草を買う—とはいかないにしても、マリファナ界に、それに近い品質の「透明性」を求める思想が生まれているのは事実。そして、それを可能にする唯一の手段は「ブロックチェーンである」と説く革命家が現れ、人々は様々なリアクションをみせている。
 

マリファナ産業が抱える矛盾

 

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 時に、法や規則で厳しく取り締まると、状況が悪化するということがある。もともとは「安全のため」「健全な社会を築くため」と、良かれと思ってはじめた取り締りであるにもかかわらずだ。
 1920年代のアメリカの禁酒法はいい例だろう。酒の製造と販売を取り締まったがために、アル・カポネのような闇の勢力が暗躍、彼らが密売で得た巨額の利益は犯罪組織の収益源となり、乱用による中毒者が犯罪に手を染め、結果的に治安は当初より悪化。一般市民たちの中にも密造酒を闇ルートで販売する人や、処方箋を偽造し薬という名目で酒を購入する人、粗悪な密造酒を飲んで死亡する人までいた。

 いまなお多くの国で違法とされるマリファナを取り巻く環境は、まさにこれと同じ“矛盾”をはらむ。取り締まるからこそ、地下組織が暗躍し、あらぬところに資金が流れ、出所不明の粗悪品が流通する。それにより、マリファナに対するネガティブなイメージが醸成され、取り締まりはさらに厳しくなり地下組織が一層勢力を増す—という悪循環。

ならば、合法化しちゃいましょう(経済、税収効果も期待できるし!)」と、動きだす国もちらほら。米国の一部の州や、最近ではウルグアイが合法化に踏み切ったことが記憶に新しい。ウルグアイは、日本のかつてのタバコのように、マリファナの栽培から流通、販売までを国が管理することに踏み切った。これにより、概ね闇組織経由の流通も中毒者の数も減らすことに成功しているのだとか。

 そんな「マリファナ産業の透明性」を求める心はウルグアイと同じ、ただ、よりカウンターカルチャー的思想が強く、エッジを効かせているのがアメリカのスタートアップ「パラゴンコイン(Paragon Coin、以下、パラゴン)」だ。彼らは、マリファナ産業が抱える矛盾を、とりあえず国家も法定通貨もすっ飛ばして、「ブロックチェーン技術で解決しましょう!」と呼びかけた

マリファナの取引にまつわるすべてを透明化しましょう

 2021年までには2兆円越えの収益になるとみられているマリファナ市場。「今後、合法化が進んでいく中で、その透明性や安全性が必ず問われるようになる」とパラゴンの創始者ジェシカ氏は語る。「マリファナの透明性」を追求した彼女は、最終的にブロックチェーンシステムに行き着いた。

 ブロックチェーンは膨大な情報を一つのデータベースで共有することができ、暗号化した分散型の台帳であるため、一度書き込まれたデータは改ざんされることがない。個人や組織を信頼しなくても安心して貨幣など経済的に価値のあるものや、個人情報を送り合い、取引を行うことができる。ではそこで「マリファナの取引にまつわるすべての情報を共有、公開してはどうか?」。

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(出典:Paragon Coin Official Website

 

 マリファナ産業にブロックチェーンを用いることで、消費者にとってはそれまで知りえなかった情報が手に入る。たとえば、生産者との取引においてはTHC*やCBD**の量はどのくらいなのかといったことはもちろん、そのマリファナが室内、屋外、どこで育ったものなのか、化学肥料は使われていたのか、摘まれてから何回輸送されているのか、といったことまでが情報として残る。いわば食の透明性と同じ、もしくはそれ以上の情報が知り得るのだという。「オーガニックスーパーマーケットで買った豆が、本当にオーガニックなのか、消費者は知りたいですよね? その感覚と同じです」

**大麻(マリファナ)の主な有効成分
***“大麻に最も多く含まれる成分「CBD(カンナビジオール)」。いわゆるハイ状態”にさせる成分(THC)を含まない。

起業家になったきっかけは「元彼のオーバードーズ」

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 ところで、彼女がマリファナ産業に入ったきっかけは「昔の彼氏」だ。アメフトのスター選手だった彼は「怪我の痛みを消すために過度の鎮痛剤を摂取し、オーバードーズで亡くなった」と明かす。
「当時、彼は鎮痛剤ではなく、医療マリファナを使用したいと訴えていました。ですが、私はそれを否定し『(マリファナより)専属医師が処方する鎮痛剤を飲み続けるべきだ』と言いました」。それが他界の直接の原因ではないにしても、少なからず責任を感じ、医療用マリファナの支持者になったそうだ。以降、積極的に事業を起こしている。

 パラゴンの前は、高品質の医療マリファナの宅配サービス「AuBox」を創設。実際、このスタートアップを立ち上げた経験が、パラゴンの創設に大きく影響しているという。「ある時、(マリファナ)研究所の研究結果が、必ずしも100パーセント精密でないことが発覚して。この時、さまざまな研究所の研究結果を一つのデーターベースで共有できたらいいのに、と思ったんです。また、患者の身元証明を確認するのも一苦労でした。これに関しても患者の情報が、一つのデーターベースの中にあったらいいのに、と」。膨大な情報を一つのデータベースで安全に管理できるもの—「あ、ブロックチェーン!」。

「このブロックチェーン技術は、マリファナ産業に関わる生産者も消費者も、すべての人を助けることに繋がると確信しました」
 

WeWorkのマリファナ版、コーワーキングスペースも

 では、パラゴンを利用することで、生産者、ビジネス側にはどんなメリットがあるのか。まずは「金銭のやり取りにおけるジレンマの解消」をあげる。実は、米国では一部の州でマリファナが合法になったものの、銀行でのビジネス口座はいまだ作れない。合法になったとはいえ、連邦法では未だ違法。そのため銀行側は「万が一のリスクを背負いたくない」と、マリファナを販売するディスペンサリーやマリファナ企業のビジネス口座開設を拒否している。ビジネス口座を作れないということは、家賃の支払いや経費、起業するにあたって必要な弁護士や税理士費用といった「すべての取引を現金で行うしかない」ということ。多額のお金が動いているにも関わらず、すべて現金取引というのはとても危険だ。資金調達にも支障をきたす。  
 
 そこで、救世主となるのが、パラゴンが発行する仮想通貨トークン「PRG(Paragonの頭文字を取ってPRG)」だ。「コーワーキングスペースの家賃も弁護士や税理士費用もこれで払えますし、マリファナを育てるための土やライトも購入できます」とジェシカ氏。


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Photo by Fabin Grohs

 さらに、パラゴンは「マリファナ産業のコワーキング」も提供。ここに、マリファナビジネスに関わる人々を世界中から集めて、シンクタンクを作るイメージだそうだ。コーワーキングスペースを建設する理由は、銀行口座に加えてマリファナ産業に関わる人がビジネスをする上でぶつかる壁、「スペースを借りられない」。「貸す側は万が一、違法行為に繋がることがあれば、リスクを被ることになるのでそう簡単には貸してくれません」

 仮想通貨もマリファナも、どちらも成長中でこれからの産業だ。「いまはまだ、なんだかよくわからない怪しいものだと感じている人も多いと思います。パラゴンは、どちらも信頼性があり、新しい未来を切り開くものだということを、一人でも多くの人に伝えていく使命を感じています。健康な人にとって、医療マリファナはいまは必要のないものかもしれません。しかし、今後痛みなどに苦しんだ場合に、オピオイド(鎮痛剤)以外の選択肢として知っておくことは大切です。仮想通貨についても同じことがいえます。近い将来、生活を劇的に便利にするものになる可能性は十分ありますから」
    
 究極の「透明性」をもたらし社会構造をひっくり返す可能性を秘めるブロックチェーン。そこに、マリファナを乗っけたところがパラゴンのおもしろさだと思う。マリファナ産業の革命家は「私たちは、いま大きな岐路に立っている。これは反乱ではなく、マリファナ産業を変える革命です」と強調した。

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Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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