「毎週新しいビールに新しいビジュアル」同じラベルは使わない醸造所OTHER HALFの“ラベルの変”

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3、4年前のピークは過ぎたにせよ、いまだ米国では一日一クラフトビールブリュワリーが誕生しているペースで業界は成長を続けている。昨年に全米のブリュワリーの数は6,000に達した

ところで、ビール戦国時代の生き残り方もまた一つ、進んだ。クラフトをクラフトたるものにすべきは味だけではもはや足らず、「ブリュワリーはいいビジュアルを持つ」が前提条件。その中でも、ブルックリンのOTHER HALF(アザー・ハーフ)ブリュワリーは頭一つ飛び抜ける。そのビジュアルにはパターンがない。彼らは毎回新たなビールを出すたびに、まったく違うラベルを貼りつけるのである。

「え、それ、ビール?」なビジュアルがきている

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 少し前までは「ボトルのボディは余白多め、そこにすっきりとしたタイポグラフィ」。それか、パステルカラーでボディを一色に統一して、小綺麗なフォントをボディの中心に円を描くように配置。いわゆるミニマルデザイン、というやつだ。

 2011年から急増をはじめたクラフトビール醸造所。その業界において「クラフトビールのうまさ云々」はどこでもホットなトピックだった。ありとあらゆる誌面でクラフトビール特集が組まれ、新しいブリュワリーがひらけばテイスティングに駆けつけ「やっぱり今年はクリーミーテイストがきている」なんて小さなグラス片手にウンチク。

 そして、繰り広げられる味云々の話と同様に近年、話題にあがるのがその「デザイン」だ。先述したミニマルデザインは昨年夏あたりまでのトレンドで、他、主なデザインの分類としては「風景ラベル(緑系のラベル多)」や「フレーバーを伝えるデザイン(色やタイポグラフィを駆使)」、ヨーロッパは「ワインラベルっぽく上品かつアートっぽく(遊び心満載)」といったところか。クラフトビールデザイントレンド分析は季節ごとに刷新され、クラフトビール専門のロゴ・パッケージデザイン会社も続々登場した。

 だが、ライトビールなら雪山、醸造所の雰囲気を伝えるために風景ラベル、なデザインの括りはすでに古くなりつつある。ここ1、2年で増えてきたデザインの傾向に一つ新たなくくりをあたえるとすれば…「これ、ビールなの?」なデザイン。醸造所の風景はおろか、ロゴもあんまり見えず、ビールを表現するのに「ギャラクシー!」なんて書いてしまう。その自由度での代表格、冒頭に名前をあげたアザー・ハーフの人気ビールのラベルは、なぜだか散らばる「ブロッコリー」。チェダーチーズつきもある。自由すぎません?

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Photo via OTHER HALF

 ちなみに、この醸造所はニューヨークのブルックリンに3年ほど前に登場した「自分たちが飲みたいビールを作りたい」をそのまま体現した小さな醸造所で、この一年は「毎週新しいのを2、3試作する」という圧倒的なスピード感で稼働。ビール自体も大人気で定評があり、新たなビールを出せば数時間で売り切れるために毎度ブリュワリーをぐるりと囲むように行列ができる。ある時は前夜から11時間待ちの人々がいたほどだ。アップルの新製品並みじゃないですか(並んだ後のビールはよりウマそう。クセになったりして)。

もはや「いいビールにはいいビジュアルがあるのが当たり前」

 まずはもっとビジュアルを見てもらおう。これ、ビールに見えます? 


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Photos via OTHER HALF

 この数年で「いいビールにはいいビジュアルが当たり前になった。いいビールにひどいラベル、という組み合わせは少なくなったね。いいビールといいデザイン、これはもはやワンセット」とは、アザー・ハーフのサム・リチャードソン。ビールのレシピ担当で、毎週新しいビールフレーバーに挑戦するスピード感を支えるブレーンだ。気になるビジュアルについての戦略を聞けば一言「戦略なんてないんだよね!」。
 と言いつつ、「レシピとそのイメージからコンセプトだけはデザイナーにしっかり伝えるようにしている。たとえばこのブロッコリーとチェダーチーズ、まずアイデアとして、何かビールのホップに関係する緑のものを使いたかった。キャベツとかね。で、ヒップ“ホップ”という遊び心からブロッコリー(ラッパーがよく使うスラングでマリファナの意)にして、そこにお金を表すチェダーチーズをあわせたんだ。毎回、違う顔をもつビールにしたいから、ビジュアルイメージはこちらで決めるんだ」。基本的にすべてのデザインがジェンダーレスで、特に男性的デザインが多い(そして良し)とされる米国のクラフトビール業界では珍しい。


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サム・リチャードソン。
ブロッコリーのは、「写実的なブロッコリーはやめてね、という指示もしたよ」。

 ただし、「どんなにバラバラなラベルを出していてもそれが僕ら、アザー・ハーフのビールであるとわかるようにする、ということは意識している。定型のラベルがなくてもアザー・ハーフのビールだと認識される、これが一番大事なこと」。一定以上の自由度を持ちながらもブランドを認識されるための紐づいた線を引き、すべての缶が繋がるようにする。逆に言えばルールはそれくらいだ(が、それが一番難しいだろう)。彼らの自分たちが作りたいビールを作るとは「毎度好んだビジュアルにする」まで含まれているということだ。

 増加する醸造所に伴って増えるこだわり派の消費行動、「ビールは現地で買いたい、できれば醸造所で直接買いたい」。その場でドラフトが飲める醸造所、その場でビールを買って持ち帰りができる場所が増えているからこそ「買いに来た人を、その度にどこまで楽しませられるかが大事だと思っている。だから、次は緑かな、黄色かななどのカラーバリエーションだけではなく、それを越えてというかゼロベースから『今回のビジュアルは何にしようかな』と考える」。

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ビールの缶だけでなくそのビジュアルを使用したギアプロダクトの展開。この日、サムが被っていたのもブロッコリーラベルをキャップにしたもの。

缶にプリントではなく「缶にステッカー」

 新たなビールに毎回ラベルをつくるため、ラベルもすでに200以上。ところで、「毎週2、3新しいビールをつくる。だからそのスピードで新しいビジュアルの缶が必要になる」という、自由かつ超スピードを実現する工夫も一つ。それは「缶にプリントするのではなく、ステッカーを貼りつけている」こと。「ボディである缶は同じものを購入してストックしておく。で、そこに毎回違うステッカーラベルを貼るんだよ」。そもそも、缶の方が酸化を防ぐ、日光を通さないのでビールが傷まない(あの色のうす緑のビンのブランドのところ、変な味がすることあるでしょ。日光のせいだよ、とサム)。缶の方がクラフトビールに適しているという考えのうえで、プリントではなくステッカーを選択。「クラフトビールならビンでしょ」というイメージはまだまだ強いらしいが、最近のブリュワリーでは缶派が増えているという。

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いまって、みんな飲んだビールの写真撮るでしょ? それでインスタグラムにポストするでしょ?」だから、“見て楽しい、見て欲しくなる”ビジュアルは欠かせない、とサム。それでなければ、新たなビールが飲めよ飲めよと出続けるのでは「あのビールおいしかったけど、どこのだっけ」とグラスから溢れるように忘れられてしまう。
 そして、「あ、もう一つ缶のいいところ」。「クラフトビールが人気になってから、みんなどこでも飲めるものじゃなくて『ローカルなもの』を飲みたがるじゃない。缶はビンより軽いからビール好きの友人に気軽に送ってあげられるでしょ? ローカルビールの贈りあいって缶ならではのカルチャーになると思う」。

 ひと昔のレコードジャケ買いのように、ビジュアル買いしたくなるビールは多い。ただし、カラーパターンのみのビールブランドの“ジャケ買い”は一度だけだが、アザー・ハーフにいえば毎回買いたくさせるだけの新しさとおもしろ味がある。好きなことしてるだけ!、とサムが言うぶん次が予測できず、余計に楽しみになる。「これからは、缶ビールかつ、ビジュアルにこだわるものがさらに増えていくと思う。次のクラフトビール業界はさらにそこに注力していくはず」。そして、缶が増えれば漫画の貸し借りのように「友人間でのビールの贈りあい」。缶ビールを起点に育つビールカルチャーに要注目だ。

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後ろに見えるのがこれまでのラベルデザイン。

Interview with Sam Richardson of OTHER HALF


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OTHER HALF

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Photos by Shinjo Arai
Interview: Hideo Nakamura, Text by Tetora Poe
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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