五人目「自主制作映画にテレビドラマの脚本、アップルの広告映像もぜんぶ同時並行だよ」【連載】日本のゆとりが訊く。アメリカの新生態系ミレニアルズは「青二才」のあれこれ
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「最近の若いのは…」これ、いわれ続けて数千年。歴史をたどれば古代エジプトにまで遡るらしい。
みんな、元「最近の若者は……」だったわけで。誰もが一度は通る、青二才。

現在、青二才真っ只中なのは、世間から何かと揶揄される「ゆとり・さとり」。
アメリカでは「ミレニアルズ」と称される世代の一端だが、彼らもンまあパンチ、効いてます。
というわけで、ゆとり世代ど真ん中でスクスク育った日本産の青二才が、
夏の冷やし中華はじめましたくらいの感じではじめます。
お悩み、失敗談、お仕事の話から恋愛事情まで、プライベートに突っ込んで米国の青二才たちにいろいろ訊くシリーズ。

五人目「自主制作映画にテレビドラマの脚本、アップルの広告映像もぜんぶ同時並行だよ」

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忘れた頃に連絡してくる人っていますよね。はい、そうです。前回から、気づけばすでに1年あまり。大変ご無沙汰しております。帰ってきました青二才!(忘れたなんて言わないで)。

連載開始から数えて五人目となる今回の青二才はジュリアン・マーシャル(Julian Marshall)27歳。青二才四人目に・戦場カメラマンルックで登場してくれたストリートフォトグラファーのジュリアン君 ではなく、こちらのジュリアン君は映画監督。

在学中にはウェス・アンダーソンの『ムーンライズ・キングダム』の制作に携わり、卒業制作には「OBEY(オベイ)」ことシェパード・フェアリー(Shepard Fairey)の学生時代を描いた映像が話題に。現在ではアップルや、インテル、BMWなどの企業広告を手掛けるなど、青二才と言ってしまうのは申し訳ないくらいイケイケな彼。でもでも、そうは言っても彼だって“ミレニアルズ”、エリート街道の道中には、そりゃあ我々が思う以上にも寄り道もあったはず(というかあってほしい)と予測し、1週間のニューヨーク滞在という多忙な日程の中、無理を頼んで話を聞いてきました。「(元?)青二才・映画監督ジュリアンのあれこれ」。

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ジュリアン君。

HEAPS (以下、H) :いやあ、さっぱりしたどデカイ部屋にお住まいですね。

Julian(以下、J):いまは、NYとLAを行ったり来たりの生活なんだ。来週も撮影でLAに飛ばなきゃならない。

H:多忙な中、本日は時間をさいてくれてありがとう。生まれはDC(ワシントンDC)だと聞いたけど。

J:そうだね。当時『Yeah Right!(ヤー・ライト)』*にやべーってなっていたスケートキッズだったよ。寝ても明けてもスケートざんまい。

*2003年に、現代では映画監督として有名なスパイク・ジョーンズと映像作家タイ・エヴァンスが監督を務め、スケートカンパニー「GIRL/CHOCOLATE」からリリースされたスケートビデオ。所属ライダーだけでなく、ウェス・アンダーソン映画でおなじみの俳優のオーウェン・ウィルソンが登場したりと、イタズラ心満載。史上最高峰のスケートボード映像ともいわれる。

H:まさにスパイク・ジョーンズ。

J:『ヤー・ライト』には若いながらに打ちのめされたよ。トリックだけに焦点を当てたそれまでのものと違って、スケートビデオにストーリーを持ち込み、僕にまったく新たな視点をあたえてくれた。

H:じゃあ、映画監督になろうと思ったきっかけはスケートだったってことで?

J:間違いなく、スケートが映画監督を目指すきっかけだね。

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H:好きな映画は?

J:フランシス・F・コッポラの『地獄の黙示録』とタランティーノの『キル・ビル』だ。

H:あ、そこに日本刀飾ってあるね(笑)。スケートをきっかけに映画監督を目指し、名門美術大学、RISD*に入学。すぐに「オベイ」**ことシェパード・フェアリーのスタジオで働きはじめることになったよね。

J:シェパードも同じ大学RISD(ロード・アイランド・スクール・オブ・デザイン)出身だから、校内で映像編集のアシスタントを探していて、友人づてに僕のところに仕事がまわってきたってわけ。

*ロード・アイランド・スクール・オブ・デザイン。あらゆるランキングで米国最高の美大とされる。

**プロレスラー「アンドレ・ザ・ジャイアント」や、近年だとオバマ元大統領をモチーフにした作品でおなじみのアーティスト、シェパード・フェアリーのストリートネームであり、同名でストリートウェアブランドも展開。

H:もちろん二つ返事でイエス?

J:うん、当時オバマをモチーフにしたアートワーク*でより広い層に認知されはじめていた「オベイ」で働けるのは良いチャンスだと思ったからね。

*2008年の大統領選でオバマのポスターを制作し瞬く間に拡散され、オバマ当選に一役買ったともいわれる。

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日本刀。
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左がOBEYによるオバマのポスター。

H:シェパードの元で働きながら、今度はウェス・アンダーソンの『ムーンライズ・キングダム』にもインターンとして参加することになるわけだけど。

J:あれはただただラッキーだった、先生と友人の父親との偶然の繋がり。

H:というと?

先生の一人に、映画監督のダレン・アルノフスキーと同級生だった人がいるんだけど、彼の映画『ブラック・スワン』の制作チームと、ウェス・アンダーソンの『ムーンライズ・キングダム』の制作チームのメンバーが結構被っていて。その面識を通じて、ウェスのチームに僕のことを紹介してくれたのが一つ。くわえて、僕の友達の父親がウェスの映画の多くにエグゼクティブプロデューサーとして参加していた。この二つが重なって、幸運にもウェスの元で働くことができた。

H:錚々たる面々が登場しますね(笑)。人気映画監督の元で働く経験はいかがのものだった? ウェス・アンダーソンは現場でどんな感じか気になります。

J:すばらしい経験だった。有名映画監督であるウェスだけど、彼はとてもハードコアだしインディペンデントな人だね。映画制作のうえで重要な、“職人気質”を学ぶことができる環境だった。

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ジュリアン君のデスク。

H:自身にはどんな影響がありました?

J:それまでテクノロジーが大好きだったんだけど、このプロジェクトの経験後、そのテクノロジー的な側面を一旦脇において、ストーリーテリングや心理学に重きをおいたんだ。いまからおよそ8年前、当時20歳くらいだっと思う。本気でダイレクションに注力しはじめたときだ。

H:そうこうするうちに近づいてきたのが大学卒業。そこで、話題になった、シェパード・フェアリーの大学時代を描いた映画『OBEY THE GIANT(オベイ・ザ・ジャイアント)』を、卒業制作として作りあげるわけだね。その制作費、日本円にして約650万円。ただでさえ学費が高いのに、そんな大金を一大学生がどうやって集めたのか。気になるところです。

J:もちろんその額を自分で集めれるはずなんてない。だからクラウドファンディングを使ったんだけど、3日間で650万円集めることができたよ(笑)。

H:・・・・・

J:ただ、これにも裏話があって、実は一度クラウドファンディングを失敗しているんだ。

H:え?

J:だって、20そこらの若者が「シェパード・フェアリーの映画を作りたいので、支援お願いします!」なんて言ったって、誰も相手にしないよね。

H:確かに。二度目はなにか工夫を?

J:1回目は失敗に終わるも、ここでも幸運が舞い降りた。近所に住んでいた子が失敗に終わったそのクラウドファンディングを見つけて、彼女の両親に教えたらしいんだ。すると、その両親が僕の映画の最初の支援者になってくれた。

H:最初の支援者? 一度目はまじでぼろぼろに失敗したんですね。

J:その支援金によって、実際に撮影に着手することができた。まずはトレイラー映像を制作し、それをファンディングページに載せたことで信憑性が増したんだろうな。二度目にして、これだけの資金調達に成功したんだ。

H:しかも3日間。そして当の映画、Vimeoでは37万回再生の数字を叩き出しました。

J:シェパード本人による告知なども大きかったよ、彼がこの映画を後押ししてくれたおかげだね。それに、他の生徒たちが僕のビジョンに賛同して協力してくれたことが何よりも大きな助けになった。これはいうならばコミュニティプロジェクトだね、僕一人ではなにも成し遂げることができなかったから。

H:有名監督の元で働き、卒業制作は話題に。はたから見れば順風満帆に見えるジュリアンの学生時代だけど、もちろんその中でも不安や、苦悩、葛藤もあった…はず。

J:もちろんあったさ。学生時代に作ったいくつかの短編動画をのぞけば、『オベイ・ザ・ジャイアント』は自分にとって初めての監督作品で、しかもそこには大きなお金が動いていた。プレッシャーはかなり感じていたよ。ただ同時に、当時経験もなければ有名でもなく、失うものなんてなにもなかったから、自分が正しいと思ったことただただ信じてやっていった。ウェスの元で働いた経験と、卒業制作の映画は、僕の大学生活のすべてであり、次なるステージに進む備えをあたえてくれたんだ。

H:学びの多い大学生活だったんだね。卒業後は、アップルをはじめとする大手企業の広告制作も手がけているけど、もともと広告業界にも興味が?

J:映像制作という点でみれば、映画や、テレビドラマ、広告など、様々なテイストがあって、そのどれもに魅力を感じるんだ。

H:自身の映画制作と並行して仕事をしている、と。

J:まず、映画を作るための資金集めは非常に難しいからね。いま現在で言えば、2〜3年後に制作しようと考えている自身の映画の脚本をコツコツ書き溜めながら、テレビドラマの脚本に、来週にはアマゾンの広告でLA、といった具合。

H:日本で耳にする「多動力」ってやつかな。ちなみに、映画、テレビドラマ、広告の3つを同時にこなすジュリアン、どうやって自分の感覚だったり脳みそを使い分けてるの?

J:まず初めに映画、テレビドラマ、広告の性質を理解しなくてはいけないよね。映画に関して、少なくともインディペンデントサイドで言えば、監督としてその映画は“自分の映画”でなくてはいけないし、責任もすべて自分。一方、広告映像において、仕事はクライアントのニーズに応えること。もちろんその中でも自己表現はあるのだけれど、あくまでクライアントに仕えるというマインドセットでなくてはいけないから。それに映画と違って、広告ではあなたのネームが必要不可欠なものではない。

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H:映画と広告ではマインドが真逆。テレビドラマはどうなんだろう?

J:テレビドラマは回が変わるごとに監督が異なるのが通例で、ニュアンスで言えば、映画と広告の間といったところなのかな。最近は有名映画監督がテレビドラマの監督を手がけることも増えてきているね。

H:この同時並行において難しさは感じたり?

J:僕は、それらの相異を見定めて同時にこなすことが性に合うんだ。それに、いいアイデアって見つけ出そうとしてないときにこそでてくるものだから、たとえばテレビドラマのプロジェクトの最中、映画にとって良いアイデアが浮かんだりするんだ。

H:話はガラリと変わって、近頃、映画『ゲッドアウト』や『ムーンライト』など、黒人映画監督による人種や偏見をテーマに組み込んだ映画の台頭が目覚ましいです。また、“白すぎるアカデミー”といわれ、映画監督スパイク・リーがアカデミー賞授賞式をボイコットした出来事にもあるように、米映画産業における人種問題は、議論を呼ぶトピックです。そんな問題に対して、いち黒人映画監督としてジュリアンが思うことは何でしょうか。

J:ゲットアウトにしてもムーンライトにしても、彼らは、人種問題や多様性といったことに対してまったく新たな視点、言い換えれば、違う言語を持ち込み、特定の人ではなくより多くの人に伝えることに成功した。本来、そういったストーリーは、肌の色や性別、年齢に関係なく、すべての人に届くべきだから。その現状が、いま刻一刻と変わりつつあると感じるよ。事実、以前だったら許されなかった“視点”で描かれた映画が支持されているわけだし。この流れは映画産業の多様化をより一層進めると僕は信じているよ。

H:一黒人映画監督でもあり、ミレニアルズ映画監督でもあるジュリアン。ジュリアンが考えるミレニアルズにしか作れない映画って?

J:ミレニアルズにしか作れない映画があるかというのは定かでないけど、ミレニアルズに響くであろう映画はあると思う。僕らミレニアルズが他の世代に比べて特異なことといえば、やはりインターネットの存在で、その影響力は計り知れないわけで。今後、“人間である”という意味さえも変えてしまうと僕は思っているんだ。以前にもまして、インターネットや、ロボット、AI(人口知能)に対して迎合的。だからこそ、僕ら以前の世代から受け継がれてきた大切なものを維持しつつ、いかに我々の生活を変えるこうしたテクノロジーに向き合っていくのか。こういう類のストーリーは、座ってスマホばかり眺めている人たちの目を覚ますと思う。そういった意味で、この世代に響く映画はあるってこと。

H:まったくもって青二才ではありませんでした。とても勉強になりました。

J:一つ言えるのは、青二才、プロフェッショナル関係なく、“Humble is so so so important(謙虚であることはとてもとても大切)”だね。

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Aonisai 005 : Julian

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ジュリアン・マーシャル(Julian Marshall)

1990年生まれ。「OBEY(オベイ)」ことShepard Fairey(シェパード・フェアリー)の学生時代を描いた、
大学の卒業制作映画『OBEY THE GIANT』が話題に。
現在は、自主映画やテレビドラマの脚本制作の傍ら、Appleや、Intel、Google、Under Armourなど数々の企業広告を手がける。
好きな食べ物はラーメン。

@julianmicheaux
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もっと青二才?こちらからどうぞ。

青二才、四人目「写真はシャッターを押すだけだからね。たくさん考えたくないし」。Julian Master(ジュリアン・マスター)
青二才、三人目「いま?ポケモンやって人生で最高に稼いでるわよ」。Ivy Saint Ive(アイビー・セイント・イブ)
青二才、二人目:「ダメだったら地元帰ればいいや」。River Donaghey(リバー・ドナギー)。

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Photos by Kohei Kawashima
Text by Shimpei Nakagawa
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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