ニルヴァーナとの最初で最後の1日。「泳ぐ赤ちゃん」の写真家が回想する数時間、昼寝するカートとメンバーの素顔 Kirk Weddleインタビュー
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1991年10月某日。ロサンゼルスのとある民家のプールでは、あるバンドのプロモーション用撮影が行われていた。カート・コバーン、デイブ・グロール、クリス・ノヴォセリック。グランジロックバンド、Nirvana(ニルヴァーナ)だ。

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その前月、彼らはアルバム『Nevermind(ネヴァーマインド)』をリリースしていた。ジャケットカバーは、水中で1ドル札を追う赤ちゃん。誰もが一度は目にしたことがあるアイコニックな1枚だ。

シアトル出身の彼らを一気に世界的バンドへと押し上げた同作が生まれて25周年を迎える今年、バンドのプール未公開写真が発表された。
赤ちゃんとバンドメンバー、両者の姿を水中で撮ったアメリカ人フォトグラファーのKirk Weddle(カーク・ウェドル)に、当時の撮影秘話を聞くべくスカイプ取材を試みた。

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H(HEAPS、以下H):カーク、こんにちは!

K(Kirk、以下K):(ビール片手に)ヘーイ!後ろにある写真見える?

H:見えます、これが噂のニルヴァーナプール写真! いまどこにいるんですか?

K:テキサス州オースティンにある、Modern Rocks Gallery(モダン・ロックス・ギャラリー)。ここで常設展示しているんだ。

H:25年経って初めて公開された貴重な写真もあるそうで。ニルヴァーナメンバーの写真もそうですが、そもそもどういう経緯で赤ちゃんのプール写真をあなたが撮ることになったのですか? プールで泳ぐ赤ちゃんという構図は誰のアイデア?

K:残念ながらぼくのアイデアじゃないよ。裸の赤ん坊に水中。シンプルでいて、最高にイカしたコンセプトだよね。
まあ誰のアイデアかってのはミステリーなんだけど(笑)、当時28歳、広告写真業界で“水中フォトグラファー”として売り出していたぼくが抜擢されたってわけ。あの頃、水中撮影できる人があまりいなかったから。

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H:確かレスキューダイバーの資格も持っていると聞きましたが…。

K:Yeah! 溺れた時は電話して。助けに行くよ。

H:(笑)。赤ちゃんの写真、撮るの大変そうですが、実際は5分で終了したとか。本当にそんなにスムーズだったのですか?

K:あの撮影はパパッと終わった。最初は人形を使って撮影練習、そして本番。赤ん坊をプールに入れて、シャッターを切った。あの赤ん坊はぼくの友だちの息子で、わずか生後4ヶ月。しかも水中に入るのがあの時初めてだったんだよ!

Nevermind stunt double
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H:ええ!人生初泳ぎの記念の瞬間が世界的に有名な一枚に。しかも満面の笑みで楽しそうな表情ですね。じゃあ、赤ちゃんよりもニルヴァーナメンバーのほうが手こずったり?

K:そうだね。3人一緒のところを同時に撮影しなければならなかったし、何より彼ら、水が得意ってわけでもなかったから。しかも、撮影日はどんより雲の寒い日。典型的なカリフォルニアの天気じゃなくてさ。

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H:ひょっとしてメンバーも気乗りしない感じだった?

K:うん。彼らちょうどツアー中でかなり疲れてて。連日、夜も遅いでしょ。撮影時間は朝の10時で。ぼくなんかは、10時なんてちょっと遅めのスタートじゃん、なんて思ってたけどミュージシャンにしたら早すぎたのかもね。

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カートなんて到着するなり、プールサイドで昼寝しはじめてさ。誰も起こさないから、ギターを彼の前に置いてこっそり撮っちゃったんだ。その写真がこれ。

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H:メンバーとは知り合いだったのですか?

K:いや、この撮影が初対面。正直、彼らのことはあまり知らなかった。どうやって初対面で気乗りしないメンバーを撮影ムードにしたかって? そりゃ、腹に一撃食らわせたんだ、ハッハッハ。

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H:カーク、冗談ばかり(笑)。実際に会ったメンバーの第一印象を教えてください。まずはカルチャーアイコンのカート。

K:感じが良くて素直な男。「俺、水苦手なんだよね」って、撮影もしぶしぶって感じだった。シャイでもあった。

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H:“音楽業界イチのいい人”で鳴らすデイブ、ベーシストのクリスは?

K:デイブは一番のプレーヤー、水の中でもクールだったね。上半身裸で寒かったのか、ぼくが着ていたウェットスーツ貸して、とね。

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クリスは「ジャックダニエルズ(ウィスキー)、持っている?」って聞いてきて。

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最初はみんな水に入るのもいやいやだったけど、だんだん慣れてきて楽しんでいた。みんないいヤツだったね。
実は撮影前は、「バンドのスターは誰なんだ? 写真のセンターポジションは誰にすればいいんだ?」と気にかけていたけど、そんな心配も無用だった。メンバー同士に順位なんてない、平等なバンドだったよ。

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H:撮影は長丁場に?

K:1時間半くらいかな。ぼくにしてみたら100年くらい経ったように感じたけど(笑)。水の中にいると、外の世界と隔離されてるようだから。

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H:フォトディレクションするのも相当大変そうで。

K:そりゃ、水中じゃ「はい、こっち見て。今度は目線はここ」なんて言えないからね。水の上に上がっては、こうこうこうしてと指示してまた潜る、の繰り返しさ。

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しかもぼくのニコンはオートフォーカスなし、撮った写真を確認する液晶画面もない、昔ながらのカメラ。だからバンドともその場で写真チェックできないから、幸運を祈ってと言うしかなかったっていう。

H:一か八かの撮影だったのですね。気乗りしないメンバーを説得し、水中という特異な環境で彼らのオフステージの表情を捉える。さすが水中撮影のプロです。しかも楽器までプールに入れちゃったところもまた…。

K:これもぼくのアイデアじゃないけど、考えてみたらすごいことだよね!小道具用の楽器を借りてきてさ。ギターとベース、はしごを取り付けた台に固定したドラムキットをプールに放り込んだ。

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H:撮影の日はバンドメンバーとはどんなことをしゃべったのですか?

K:実のところ、全然そんな時間なかった。彼ら、すごく多忙だったから撮影時間も限られていて。お互いに、フォトセッションは“仕事”だったからさ。呑みに行って人生について語り合うチャンスはなかったね。そのあとも、再会はしていないよ。

H:たった1日の数時間だけを一緒に過ごしたカークが思う、ニルヴァーナの魅力って何でしょう?

K:彼らはとてもユニークで、特別。音楽シーン全体が退屈になっていたころ、彼らはふさわしいタイミングで登場したんだ。そしてカートが若くして逝ったことで、永遠のバンドになった。

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H:カートが自殺したと聞いたときのこと覚えていますか?

K:信じられなかった。ロサンゼルスのハイウェイを運転していたときに、ラジオのニュースで知ったんだ。「うそだろ、うそだろ」って。

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H:最後に。自分の写真が世界中誰もが知っているアルバムカバーになるってどんな気分?

K:それがさ…。けっこういい気分なんだよね(笑)

 終始、冗談を飛ばしながら軽快に当時の様子を話してくれたカーク。一人のプロ写真家が一組のカリスマバンドとあくまでも仕事として行ったフォトセッションから生まれたショットには、メンバーが見せた、束の間の自然体が写っている。
 それはきっと、バンドと深い親交があったわけでもなく、長年の仕事仲間だったわけでもない彼だったからこそ撮れたカートであり、デイブであり、クリスなのだろう。

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Kirk Weddle
Modern Rocks Gallery

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All images via Modern Rocks Gallery
Text by Risa Akita

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