「弁護士辞めて、レゴに人生賭けた」。 レゴブロック・アーティストになった男の圧倒的作品
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単なる四角いプラスチックと思うなかれ。イマジネーション次第で無限に遊べ、子どもの頃、誰もが手に取ったことがある世界共通のおもちゃ「レゴブロック」。
あの頃の情熱をどうも諦めきれず、ある男は弁護士を潔く辞め「フルタイムでレゴ作品を制作する」仕事に転職。
レゴ社員? ではなく、レゴを自在に操るいち現代アーティストへ。

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世界初。現代アートにレゴを持ち込む

 レゴを世界で初めてアート界に持ち込んだNathan Sawaya(ネイサン・サワヤ)。世界最高レベルのレゴ作品制作能力を持つ一般人として、レゴ社が認定する「レゴ認定プロビルダー」、そしてレゴ社員にだけ与えられるコンテストを勝ち抜き選抜される「マスター・ビルダー」、その二つの称号を持つ世界でただひとりの男だ(ネイサンはたった半年だけ社員として働いていたということで、その称号を取るためだったという想像は難くない)。

Nathan Sawaya AOTB

 認定ビルダーらはレゴ・グループには属さず、ネイサンはインデペンデント・アーティストとして活動。
「規則や制約に縛られることなく自由に活動しているけど、レゴ・グループとはいいビジネス関係にある。なんせ僕、月に数百、数千のブロックを購入するユニークな客だからね」

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よく見てみてください、レゴです。

 ある日はレディ・ガガに依頼されミュージックビデオ用の彫刻を、ある日はアカデミー賞授賞式のオスカー像を制作したり。その界隈で知らぬ者はいない、名の知れた現代アーティストである。完成度の高い巨大スケールの作品は世界中からラブコールを受け、2007年から9年間、各国の美術館で「THE ART OF THE BRICK」展として駆け巡っている。なんでもなかには数百万円の価値が付く作品もあるとかないとか…。

Nathan Sawaya Yellow
レディ・ガガのシングル「G.U.Y.」のミュージックビデオに登場した「Yellow」。ビデオでは顔部分がガガに合成されている。

やっぱりレゴが好きだから、弁護士やめる

 5歳で手にしたレゴにすぐに夢中になった。10歳のとき犬が欲しいと両親に頼むも返事はNO。ならば、と実物大の犬を作り「レゴの箱にプリントされたイメージ写真通りに作らなくてもいいんだ、自由でいいんだ」と、人生で初めての“アハ・モーメント(ひらめきの瞬間)”を感じたというネイサン。
 大人になって一層レゴに没頭。いまでこそ「好き」を仕事に選んだ彼だが、実は元弁護士という経歴を持つ。大学卒業後、アーティストを志すもフルタイムをそれに費やす自信がなく法律事務所に勤務。アートとは無縁のオフィスで過ごす1日は、長かった。

「ストレス発散も兼ねて、仕事後や週末にレゴで好きなものを作りはじめたんだ」。やがてアパートの壁一面を埋め尽くした作品をまとめたウェブサイトは、公開と同時に予想外の大反響。これを機にアーティストへの転身を決意した。

Skulls

 退職後、初めて迎えた朝は「怖かった」と振り返るも「レゴスタジオでの最悪の1日は、弁護士事務所での最高の1日より気分がいいよ!」と豪語。「このセリフ、色んなメディアで散々言ってきたから、聞いたことがあるかな」

1日12時間、レゴとにらめっこ

 全長6mのティラノサウルスの骨格に、葛飾北斎の浮世絵の特大立体像、自由の女神のレプリカとその作風は幅広い。世界に13人存在する「レゴ認定プロビルダー」のうち、唯一オリジナル作品に精を出すのがネイサンの特徴だ。なかでも独創的で躍動的、不気味なくらいに感情が伝わってくる「ニューマン・コンディション」は彼の代名詞といえる。

dino
8万以上のパーツで組み立てられた。

 制作は、500万ピース以上のブロックを所持するロスアンジェルスのスタジオにて。
「個展で訪れた世界各地での人との出会い、異なる文化の経験からインスパイアされた」ひらめきからはじまっていくという。作品によっては、毎日10〜12時間の作業を2〜3週間行なう。
 足を運んだファンを特に驚かすのは、四角いブロックで作られたとは思えない、その曲線美だ。

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Grasp

 巨大な作品は、近くで見るとゴツゴツしたプラスチック製のブロックでしかない。しかし、下がって見れば全体の形状が見えてくる。ガタガタに見えていた線も、正しいアングルで見ると綺麗な曲線に見える。「人生と同じで、見方次第だね」

世界共通のおもちゃだから生まれるアート

CrackingUp

「Cracked(ひび割れた)」と名付けられた作品に「これ、どんな状況に見える?」と問われた。割れかかっている自分を戻そうとしているようにも見えるし、「オーマイガー」と絶望を表現しているようにも見える。
「僕の作品にはわざと定義を持たせない。だから、見た人が感じとったものすべてが答えなんだ。作品によっては何十通りもの解釈ができる」

 彼には「イマジネーションを働かせて、クリエイティビティを育むことが、人を賢く、そしてちょっぴり幸せにする」という持論がある。「僕みたいに、1ヶ月かけて巨大レゴ作品を作れってわけじゃないよ。子どもの手形だったり、イタズラ書きみたいな小さなアートでいい」。展示会をキッカケに、枠にとらわれないものづくりに挑戦してくれたらそれは本望だ、と。言語を必要としない世界共通のおもちゃを作品表現のツールにすることによって、アートを形式張った視点からではなく、身近に感じてもらえる。

Hugman

 デンマーク語で「よく遊べ」を意味する「Leg Godt」が由来のレゴがくれた子あの頃の好奇心を、ネイサンは忘れなかった。大人になったいま、より壮大に自由に遊ぶ。我々に見せてくれる驚きとひらめき、それから遊び心の詰まったアートはまだまだ世界を魅了していくはずだ。

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All Images Via Nathan Sawaya
Text by Yu Takamichi

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