“彫刻のお尻を見る”ツアー?美術館ツアー企画集団の「ミレニアルズが絶対に来たくなる変わりダネ企画」
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最近の若者にとっての芸術鑑賞は、もっぱら「スマホの四角いスクリーンの中で」になってしまったらしい。「見たいアート作品があったらインスタで(すぐスクショで保存できるし)」。アート大好きミレニアルズの美術館離れが叫ばれるなか、一風変わったアプローチで“若者ミュージアム回帰”を促す賢いミレニアルズグループがいる

A fun tour of the Met

まず、取っつきにくい“アート”は壊します

「まあ、確かにそうですね。美術館まで足を運んで入場料を払いコートを預けて…というプロセスより、アート画像が見たければインスタにログイン、アートについて学びたければTED Talks(テッド・トークス)」。若者の美術館離れを描写するのは、ユニークミュージアムツアーを仕掛ける団体、ミュージアム・ハック(Museum Hack)のイーサン。彼らの目的は「『美術館なんて退屈だ』と思うミレニアルズを美術館に呼び込むこと」。ニューヨークのメトロポリタン美術館やアメリカ自然史博物館などを拠点に、ロサンゼルス、サンフランシスコ、シカゴ、ワシントンDCなど全米の“ミュージアムシティ”で、いままでとは一味もふた味も違う、クセのある個性派ツアーを企画・実行する。

A team works to dechiper the scavenger hunt clues

「従来のミュージアムツアーは、アートのエキスパートであるツアーガイドが専門的な立場からアカデミックな知識を教える形でした。しかしぼくたちがやろうとしていることは、その逆です。もっと友だちグループのようなカジュアルな雰囲気をつくり、ツアーガイドと参加客の間にある“アカデミックな芸術を教える&学ぶ”という堅苦しい垣根を壊したいのです

美術館に響く罵り言葉、「おケツ」

 どれだけ有名な世界最高峰の絵画(モノ)を見たかよりも、参加して楽しいツアー(体験)がいい。物質的な価値より経験の質に重きを置くミレニアルズの「普通はイヤだ&個性派が好き」をくんだミュージアム・ハック・ツアーを見てみよう。

Tableau Vivant

・人気ドラマから中世に引き込む「Game of Thrones(ゲーム・オブ・スローンズ)」ツアー
ミレニアルズに大人気、中世ヨーロッパが舞台の同名ファンタジーテレビドラマがテーマのツアー。ペアを組んでドラマに関するゲームやクイズ、アクティビティ(中世時代の罵り言葉を学習!)をしながら中世の展示を探求する。

・人気のないセクションをわざわざまわる「Un-Highlights(アンハイライツ)」ツアー
普段ならすっ飛ばしてしまうようなセクションだけ(人によって違うと思うが、モネなどの有名絵画に比べて、たとえばイスラム美術など)をまわるツアー。絵画の裏に隠された世間に知られていないストーリーやゴシップをカジュアルに学ぶ。人とは違う個性的なモノ好きなミレニアルズにはぴったり?

・イケてる昔のビッチたちを知る「Badass Bitches(バッドアス・ビッチーズ)」ツアー
絵画に描かれている女性像や、女であることを自分なりに表現してきた力強い女性アーティストたちをフェミニストマインドで探求。ツアー名でミレニアルズ票獲得

・“彫刻のお尻”を見ない?「The Metropolitan Museum of Butts(メトロポリタン美術館、お尻編)」
ミレニアルズやセレブを中心とした“お尻ブーム”に便乗したと思われる。ギリシャ・ローマ彫刻のデカ尻娘たちやセックスシーンを描いた絵画、昔のトイレ事情も。

 ミレニアルズが好きそーーーなテーマツアーだが、これだけでないのがミュージアム・ハック。個人や企業が依頼できるプライベートツアーもカスタムメイドしている。たとえば、もうすぐ結婚する女友だちを祝う独身最後の女子限定パーティ(バチェロレッテ)ではワイングラスを掲げながら“ロマンス”がテーマの絵画ツアー、リーダーシップについての企業ワークショップでは探検家や革命家がテーマのツアーを企画。パーティーコーディネーター並みの、“ツアー職人”なのだ。

A group celebration

ツアー企画「やってみてダメなら、やめればいいじゃん」

 参加費は59ドル(約6,500円)とかなり高いのに毎回人気のツアー。とくると次に気になるのは、「どうやってツアー企画、立てるの?」。さぞかし動向リサーチにアンケートに緻密な分析に…と予想していたのだが、返答はそれを大きく裏切り「“誰かがこんなツアーおもしろそうじゃん”といったら試してみる」。その“誰か”とは科学者から歴史家、ミュージシャン、俳優、教授と幅広い60人ほどのチームメンバーや、時にはツアーに参加したミレニアル客。彼らの思いつきやアイデアを採用して、とりあえず“やってみる”というのだ。

Every tour begins with a cheer

 詳しい企画の立て方は専売特許なので教えてはくれなかったが(当たり前か)、「たとえば、チームの誰かが『ゲーム・オブ・スローンズがテーマのツアー、いいんじゃない?』と言ったとします。あ、いいね、やろうやろうとなったら、ツアー内容をウェブサイトにアップ。反応がよければ続行しますし、悪ければ取りやめます。アンケートやデータを分析して半年後に開始、ではなく、もっとスピーディーに実行します」。残る人気ツアーもあれば、消えていくツアーアイデアも。すべてはミレニアルズの感性と勘によるのだ。

 それにツアーのネーミングセンス(バッドアス・ビッチーズはその典型)も、もちろん計算のうち。「口語にすることで、“美術館=伝統的な堅苦しい空間”のイメージを払拭したい」。メンバーの大半がミレニアルズという企業だからこそできる、肩の力が抜けたツアーの作り方だ。

A team takes a photo as a scavenger hunt clue

ミュージアム・参加客と相思相愛になる術

 絵画や彫刻という「ハイアート(High Art:高級美術)」を所有する伝統的で格式高い美術館。高尚な空間に、ビッチーズだの、おケツだののワードで“ハック”してしまう彼らに、当然、最初はツアー許可を渋る美術館もあるようだ。「掟破りでも、結果ツアーが大盛況で来館客数にも繋がっているところを目の当たりにすれば、反応もポジティブになります」

 そして、重要なのは美術館リピーター増やしだ。「ツアーに一回参加して満足、もう行かなくていいや」ではなく、「ミュージアムってこんなに楽しめる場所だったんだ。じゃあ、今度は友だちを連れてこよう。ツアーで得た誰も知らないような知識もシェアしたい」が狙いだ。「木曜のツアー参加者が、土曜にツアー外で友だちを連れて戻ってくる。そんな形を目指します

A team having a great time sharing their scavenger hunt results

 ミュージアムは性に合わないと食わず嫌いしている若者を、キャッチーな謳い文句とツアー内容、挑戦的なアティチュードで館内に誘いこむ。観光客や年配のアート好きは黙ってでも来館するが、ミュージアムがリーチできないミレニアル客を集めてくる。「なにも既存のミュージアムツアーに取ってかわるつもりはないですし、ぼくたちのカジュアルさが好みでなければそれはそれでいいのです」。自分たちのツアースタイルにハマった固定ファンを逃さず、彼らから次なるミュージアムファンを増やしていく。そうして、自然の流れでお堅い美術館とも相思相愛に。ミュージアム好きミレニアルズの、少しドライで賢い手法だ。

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Museum Hack
The Museum Hack Team

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All images via Museum Hack
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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