世界中からパネリストを招待し、音楽業界の面々、ミュージシャンと交流。新しい才能を披露するショーケースも充実し、生まれているもの、あるいは新たに生まれるモノのいち早い情報共有の場所として存在するSWSX(サウス・バイ・サウス・ウエスト)…ではなく、KZNミュージック・インビゾ。いま、音楽の未来をになう国際カンファレンスが、南アフリカにて行われている。
独自の音楽を生みつつもそのビジネスシーンに遅れを取っていた南アフリカが、急激に成長をはじめた。そのシーンをKZNミュージック・インビゾの創始者、シペペロ・ンベレに紐解いてもらう。
KZN:KwaZulu-Natal、南アフリカ共和国のクワズール・ナタール州のこと。
HEAPS(以下、H):自己紹介をお願いします。
Sphe Mbhele(以下、S): ぼくはシペペロ・ンベレ、みんなにはミラクル・アットワークと呼ばれているよ。
KZNミュージック・インビゾ(以下、インビゾ)の共同創設者で、プロジェクトマネージャー。拠点のダーバンのシーンでは、2000年ぐらいから活動している。もともとMC/ラッパー、詩人だよ。
H:KZNミュージック・インビゾとは、一体なんなのでしょうか。
S:インビゾは、毎年8月の最後の週末に行われ、音楽業界においての教育、ネットワーク、情報共有を促進するために、ぼくらが2009年にはじめた音楽ビジネス会議のこと。インビゾは、すべてのジャンルに対応し、昼間は主にビジネス、夜はショーケースイベントに焦点を当てている。
世界各地からスピーカーを招待していて、これまでならアフリカと繋がる機会のない場所とのネットワークを探している。来てくれる人らは、ダンス、ワールドミュージックから、ゴム、マスカンディ、ヒップホップのようなポップ音楽にわたって、「アフリカ」というものを探しているんだ。
これまで、セイモア・スティン(ワーナーブラザーズの副社長でサイアレコーズの会長)、ジョセフ・シャバララ教授(レディスミス・ブラック・マンバゾ)、スティーブ・マヤル(ミュージック・アリー)などの人物、デンマークのVIPブッキング、ポッププントなどの機関を迎えた。今年もいつもと同じで、アフリカ中、そしてアメリカ、デンマーク、ハンガリー、イギリスなどからスピーカーを招待するよ。
H:インビゾのはじまりについてもう少し教えてください。何かモデルはあったのでしょうか。
S:インビゾは、2005年にヨハネスブルグで行われた、UNヒップ・ホップ・サミットにインスパイアされてはじめたモノ。人脈、交流のネットワーキングのための素晴らしいプラットホームで、ダーバンでも同じように評価されると感じたから。
それで、まず2007年、当初はヒップホップ関連からはじめた。ぼくらは音楽ビジネス全体について話していたつもりだったけれど、ヒップホップに焦点をあてたために、“除外された”と感じる人が多くいたんだ。なので、一年かけて研究し2009年に正式にスタートを切った。
H:インビゾが南アフリカで行われなくてはならない理由はなんだったのでしょう。
S:南アフリカ(アフリカ全般)は、音楽ビジネスの要素が欠けている。アフリカの大部分では、まだちゃんとしたレコード業界がなく、ライブをすることが重要。だから、彼らには出版社、音楽ライセンスなどはない。
南アフリカでは、音楽ビジネスはヨハネスブルクに集中していて、その他はまだレコードレーベル、出版社、アーティストマネージャーなど、音楽業界を促進するために必要なものについて理解しようとしているところ。それで、インビゾはこの状況をなんとかしようと生まれたんだ。ぼくらの地域で、すべてのプレイヤーが、それら価値ある物にアクセスできるように、すべてを一つにするプラットフォームが必要だった。
4年が経つと、「ユニークなプラットフォームを持っている」と確信を持った。このカンファレンスは、南アフリカでのすべてのジャンルを網羅し、初心者から経験者まであらゆるレベルのビジネスに対応している。だから、今度はこの土台を国際的に成長させられると思った。
H:2017年は9年目ということですが、最初の頃と比べ、何がどのように改良されましたか?
S:インビゾは2009年以来、驚異的に成長しているよ。アフリカの国際的なプラットホームに加え、アフリカ音楽の起業家のネットワーキングのプラットフォームになった。数々の国が成長していくのを見て、その周辺国からの出席も増えてきた。
H:フェスティバルの規模はどれくらいですか? 昨年は何人ぐらいが参加したのでしょうか。また、インビゾに参加できるのは、音楽業界やミュージシャンだけですか?
S:インビゾに参加するには専用のバッジが必要となるんだけど、2種類あるんだ。一つが訪問者バッジで、もう一つが代表者バッジ。代表者バッジは、主にビジネス面(パネル、スピード・ミーティング、ネットワーキング・プラットホーム)に興味のある人を対象にし、訪問者バッジは、展示に参加したり、機材のデモを見たりなど。オーディエンスの成長も目指しているので、一般の人もターゲットにしているよ。代表者バッジは限定400個で、訪問者バッジに制限はない。去年は3日間で1000人以上の来場があり、代表者バッジは200以上だった。
H:パネルディスカッションや音楽ショーケース、レーベルやミュージシャンへのネットワーキング、機材のデモなど、南アフリカ版SXSWみたいですね。SXSWに参加したことはありますか?
S:SXSWは2015年に参加したよ。それから、MIDEM(カンヌで行われる、国際音楽見本市)。ただ、この2つのイベントに参加する前から、KZNの構想には着手していた。
SXSWは、たくさんの業界要素を満たしていて、MIDEMはディスカッションやスピーカーを中心に展開していると感じた。
ぼくらインビゾのパネルディスカッションでは、毎年の大きなテーマの上(2017年はデジタルの未来)に、音楽業界に関するトピックをのせていくんだ。このディスカッションは、ビジネスや才能を探したりする場所になっているよ。
H:「デジタルの未来」が2017年KZNのタイトルとなっています。デジタルが音楽の世界をどのように変えていくと思いますか?
S:実は、去年のあるディスカッションからとったんだ。南アフリカは、特に小規模ビジネスの視点からすると、デジタル・ルートを利用するのに少し遅れている。まず、インターネットはまだ未発達で料金も高い。ほとんどの人はソーシャルメディアや他のサービスにアクセスするために携帯電話を使う。南アフリカの小さなビジネスは、携帯電話に音楽業界関連のアプリケーションを立ち上げることに利益を見出していないから、iTUNESのようなプラットフォームは競争相手がいないんだ。デジタルの使い方を知らない人が多いから、Eコマースもそんなに売り上げがない。
ここには、アーティストやクリエイターたちが使える、オンラインの強い存在がまだない。だから、その空間を探そうとしているんだ。オンラインのデジタルの売り上げは、世界的に伸びているし、音楽ストリーミングも音楽業界の復活として賞賛されているからね。
個人的な意見だけど、僕たちはみんな働く形式を求めていると思う。デジタルの空間は、多くの肯定的側面があって、オーディエンスは音楽にいつでもどこでも簡単にアクセスできる。アフリカ(特に南アフリカ)では、まだインフラから整えなくてはいけない状態だけどね。
H:参加する人々は主に南アフリカからですか?
S:現時点では、南アフリカとその他のアフリカの国(特に隣接するSADC※)からの参加がほとんど。徐々にヨーロッパやアメリカからの参加にも力を入れているよ。
ぼくらは、ミュージシャンが繁栄するための土台をつくってきたけど、音楽業界で最も大切なのは作品を出版する出版社だったり、アーティストを管理するマネジメントなどの「売る仕組みをつくる」人たち。それがないと、どんなに良い作品があっても誰にも届かないから。
現時点の進歩として、世界中にツアーに行くアーティストも出て来たし、業界での出版会社も増えてきた。
※SADC:南アフリカ開発共同体。現在15ヶ国が加盟(うち、一国は国内情勢により資格停止し中)。
H:フェスティバルを運営する上で一番大変なことは何でしょうか。また、どのようにモチベーションをキープしているのでしょうか?
S:大変なのは、資金調達だね。この大陸では、音楽やアートなど芸術に関することはビジネスとして真剣に取られないから、クリエーションのための経済を支持する情報や統計はほとんどないんだ。少しずつ変わってきているとは感じるよ。自分たちが、人々や政府の考えを変える一部分になれているのは嬉しい。
毎年、受け取るフィードバックが「KZNをもっと活気的にしよう!」というモチベーションになっている。毎年、たくさんの人がぼくたちのしていることに感謝を表してくれる。彼らが達成した物事で、僕たちに返してくれているんだ。
H:南アフリカでは、Gqomなどのダンスミュージックが人気ですが、これからはどんな音楽に人気が出そうでしょうか? おすすめアーティストがいたら教えてください。
S:人気ジャンルはたくさんあるけど、特にダンスが盛んだよ。ハウス、クワイト、ゴムなどは、みんなダンスのジャンルに入る。ダーバンにあるゲットーと言われるタウンシップから始まったゴムは、最近人が一番注目している音楽で、世界的に成長している。ヒップホップも若者の間では人気だし、一番売り上げがいいジャンルは、マスカンディ、アフリカーンズ、ゴスペル辺りかな。KZNでは、アフリカから生まれる、様々な種類の音楽を扱っていて、オススメは、OkMalumKoolKat、
Dr. Bone、Gaba、RobinThirdFloor、The Salaphi Sistas、Moonchild Sanellyあたりかな。これらはほんの少しで、ダーバン以外でもたくさんの若い才能が出て来ている。
H:インビゾの将来計画を教えてください。
S:ぼくたちはこの大陸で、何が重要な音楽ビジネスになるのかを模索していてしていて、向こう3年の素晴らしい計画を立てている。
日本や他の国など、東からの代表者を迎えたいし、ヨーロッパ、アジア、北、南アメリカなど世界中の、多くの段階での、アフリカの為のプラットフォームを作りたいと思っているよ。
Interview with Sphe Mbhele
Photos by Thanda Kunene
Text by Yoko Sawai
Edit: HEAPS Magazine