密室「ラブホ」で撮る。日常と乖離したハコで外国人フォトグラファーは何を見た?写真集『Japanese Whispers』
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「ラブホテルは美術館に飾られるアートより、よっぽどアートだ」。編集者・都築響一氏は言い、たしかに日本特有の文化として海外のメディアにも繰り返し取り上げられてきた「ラブホ」。回転ベッドに、メリーゴーランド、方々鏡で囲まれた部屋など、日常とは乖離した特異な空間は、人々を魅了して止まない。それは日本人だけでなく、外国人も然り。

もはや日本の文化遺産と呼んでも過言でない、そんな「ラブホ」の空間そのものを写し出すものは、これまで世の中に数多く存在するのだが…。

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 ベルギー人フォトグラファーZaza Bertrand(ザザ・バートランド)の写真集『Japanese Whispers(ジャパニーズ・ウィスパーズ)』もまた「ラブホ」が舞台。異なるのは、その被写体だ。よくある異質な内装を写し出したものではなく、ザザが切り取るのは「ラブホ」を利用する「人々」、そしてその間にある相互関係と距離感だ。一聞すると、どこぞやの企画モノに聞こえなくもない、このプロジェクトだが、そこにまったく「ポルノ」要素はない。

 海を渡った遠い国ベルギーで生まれ育った「外国人」フォトグラファーに聞く、日本の「ラブホ文化」にみる、日本の「LOVE&SEX」とは。

HEAPS(以下、H):初めまして。

Zaza(以下、Z):コンニチハ。

H:まずは、あなたのことを。

Z:ベルギーのGhent(ゲント)っていう街で生まれ育ったわ。この街にある、The Royal Academy of Fine Arts(ザ・ロイヤル・アカデミー・オブ・ファイン・アーツ)っていう大学で写真を専攻。その後、オランダにある新聞社でフォトジャーナリストとして数年間働いた。

H:現在、ドキュメンタリーフォトグラファーとして活動されているようですが。

Z:給与はとってもよかったんだけど、それが本当に私のやりたいことではなかったから、またベルギーに戻ってきたの。その後、フリーランスで写真の仕事をする傍ら、自分のパーソナルプロジェクトとして、ドキュメンタリー写真を撮っているわ。

H:そのパーソナルプロジェクトである、「Japanese Whispers(ジャパニーズ・ウィスパーズ)」。まず、「ラブホ」を知ったきっかけは?

Z:私の友人が日本を旅行した際に、滞在先として「ラブホ」を利用していたことを聞いて、「ラブホ」という存在があるということは知っていた。海外メディアでも見かけることもあったし。

H:はいはい。

Z:その後、別のプロジェクトで2度日本に行く機会があったの。そこでたまたま通りかかったのが、「ラブホ」ね。「なんだここ!」って(笑)。

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H:あなたのドキュメンタリー精神に火がついた。

Z:「intimate moment(インティメイト・モーメント:イチャイチャする時間)」に対し、お金を払うってことはとても人工的だなと思ったの。それに、もともと、日本人が持つ相互関係性と社会的行動にとても興味があった。

H:といいますと?

Z:たとえば、日本では公衆の面前でキスするのって、決して適切なことではないんでしょう?
そういう目に見えない圧力みたいなものはこっち(欧米)にはないわけ。加えて、海外のメディアが報じている、若い世代の結婚ばなれや、少子化問題なんかは結構大きな問題だと思う。

H:人によって様々ではあるとは思いますが、総体的に見て人間関係における日本人と欧米人での感情表現の「違い」はあるかもしれません。

Z:社会的背景の違いによって起こる、人間関係性の違いが私のパーソナルプロジェクトにおいて常に重要な要素だからね。

H:そんな日本社会が作り出した、「ラブホ」を記録したわけですね。つかぬことをお伺いしますが、これまでザザさんが個人的に(撮影以外で)「ラブホ」を利用したことはありますか?

Z:昨年、家族で日本に訪れた際に利用しようとしたんだけど、残念ながらまだ「ラブホ」ヴァージン。

H:なぜ?

Z:旦那と行ったんだけど断られちゃった。多分、脇に息子を抱えていたからだと思う。

H:ははは。それは断られますね。次回、是非リベンジしてみてください。
「ジャパニーズ・ウィスパーズ」は、特異な内装等を写し出したありがちなものではなく、被写体が「人」です。どのように被写体を集めたのでしょうか?

Z:いやー。撮影当初、被写体集めにとても苦労した(笑)。だって、実際の「ラブホ」利用者が必要だったから。

H:ですよね。どうしました?

Z:プロジェクト開始直後は、通訳である日本の友人と共に、自ら「ラブホ」前で利用客を待ち伏せて、直接交渉をしたわ。

H:(笑)。見事つかまりました?

Z:当然、ノー!

H:ですよね。「本番前」でムードが高まるカップルにとって、ただの「不審者」でしかないですもん。

Z:そうよね。ほとんどの人が耳を貸さないばかりか、挙句の果てには怒鳴られることもあったわ。

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H:直接交渉はダメだったと。その後はいかがしたのでしょうか?

Z:これではダメだと思って、友人の手を借りて、インターネット掲示板に広告を掲載したの。「最大3時間、あなたのラブホ代をお支払いするので、写真を撮らせてください」ってね。

H:反響は?

Z:Bull Shit(冷やかし目的なもの)も少なくはなかったけど、予想以上の反応があり、被写体を確保することに成功したわ。

H:おめでとうございます。やっと撮影がスタート。みんな気になるのがその現場。教えてください。

Z:撮影当日、被写体との待ち合わせは、事前に被写体に指定されたラブホ前集合で、もちろん初顔合わせもラブホ前。どんな人たちが来るのか、少し不安はあった。

H:ラブホ前集合(笑)。会ったら不安は解消?

Z:ほとんどの撮影でね。被写体がとってもナイスだったから。

H:どんな人が現れたのでしょうか?

Z:年齢も、趣向も、バラエティに富んだものにしたかったから、そういう観点で被写体を選んだのね。だから現れる人々は年齢も職業も様々で、中には「還暦を迎える自分を記念にとって欲しい」と一人で現れる男性もいたの。

H:還暦記念写真を「ラブホで」。いいですね。ちなみに撮影した部屋はあなたが選んだんですか?

Z:そのあたりは基本的に被写体に任せたわ。

H:初めてのラブホ、いかがでした?

Z:「kitschy(キッチー):飾り立てた」って言葉はとてもしっくりくるね。だからあえて、海外の人が「ラブホ」と聞いて、連想するようなキッチーな場所はなるべく避けたわ。

H:撮影風景はどのようなものだったんでしょう。

Z:ドキュメンタリーだから被写体の思うようにしてもらったわ。だからそれぞれね。自分たちをただただ撮ってほしい人もいたし、撮影を理由にラブホがただになるならって人たちもいたから。

H:おっぱじめちゃう人とかいなかったんですか?

Z:あるカップルから行為を撮ってほしいって言われたんだけど、私の今回のプロジェクトの目的はポルノグラフィ(SEX)ではなく、ラブホテルという異質な空間が存在する日本の不思議なリレーションシップを描くポートレイトというものだったから、断った。

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H:他に、印象深い撮影は?

Z:一人で撮影に来た、風俗嬢の女の子のストーリーはとても印象に残っているわ。

H:何か深いものがありそうです。差し支えなければ教えていただけますか?

Z:見た限りとっても若い女の子なんだけど…ハタチそこらの子だと思う。ホスト?にどっぷり浸かってしまって、いま風俗で働いているって言ってた。

H:何かよく聞くようなストーリーですね。

Z:よくある話なのかしら?ただ、その子をみて感じたのが、「寂しいのかな」っていうこと。リアルではないその関係にここまでしてお金を払う彼女のストーリーを訊くということはとても感慨深いものだった。

H:被写体とのコミュニケーションはいかに?

Z:「コンニチハ」「ハジメマシテ」とか、申し訳程度の日本語しか話せなかったから、英語と簡単なジェスチャーのみ。だからいくつかの被写体とはあまりコミュニケーションが取れず、距離はあったかも。

H:それは結果的に、『ジャパニーズ・ウィスパーズ』で描く、日本人がもつ特有の距離感と関係しているのでしょうかね。
ズバリ、日本人と欧米人のその距離感や人間関係の違いとは何でしょう。

Z:人に対するアプローチがやはり欧米人に比べて、難しさを感じる人が多いのかなって思う。

H:最後に、『ジャパニーズ・ウィスパーズ』を通して感じたことを教えてください。

Z:私がこのプロジェクトを通して感じたのは、多くの人が寂しさを感じてるんだなってこと。そして、多くの人が、人との出会いを求めているように感じた。「ラブホ」という空間で被写体とともに時間を過ごすことがなければ、それを目撃することはできなかったと思う。

 ザザが『ジャパニーズ・ウィスパーズ』で記録したものは、外国人というレンズでもって見た、日本社会のごく一部のみであるのは確かだ。プライバシーカーテンの奥に隠されたその特異な空間、そしてそんな空間を作り出す日本社会は、違う社会に住む、外国人を惹きつけるのは至極当然のこと。

 だが、日本人“特有”といわれる、言葉にはできないその機微な距離感や人間関係、そしてそんな空気を生み出す日本社会を外国人がみて、可視化したこの作品は、むしろ日本人である読者のみなさんに見て欲しい。そこに気づきは少なくないはずだ。

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Zaza Bertrand

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All images via Zaza Bertrand
Text by Shimpei Nakagawa

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