本業「緊縛(きんばく)」の彼。 縛り屋のオーストラリア人が語る日本の伝統技術“SHIBARI”

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「緊縛(きんばく)」。真っ先にSMプレイを思い浮かべたのは、筆者だけではない(はず)。縄や紐、帯などを使い、身体を縛りあげ拘束するその行為だが。その「縛る」を本業にする男が、日本から遠く離れたオーストラリアにいると耳にした。

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伝統技術「SHIBARI」にとらわれたオーストラリア人

 裸体の女性を縄で縛り吊るし上げる「緊縛」という行為。身体の自由を奪い、パートナーを征服し、性的欲求を満たすSMプレイの一つと認識する。

 その歴史を遡れば、江戸時代。日本ではまだ手錠が充分に普及していない頃、罪人を拘束するために使われていたのが、縄。
 当時から緊縛が性的な意味を持っていなかった訳ではないが、広く認知されている訳でもなかった。明治以降は性的フェチズムとして認識されはじめ、戦後性風俗が栄えるなかで、SMショーやSMビデオの隆盛とともに、緊縛師という職業が成立するようになる。

 そして近年、どうやら海外では「ジャパニーズ・ボンデージ」「SHIBARI」「KINBAKU」と呼ばれアートとしての側面も世界に見せつけている。オーストラリア人アーティストGarth Knight(ガース・ナイト)も、その日本の伝統文化に魅せられた内の一人だ。緊縛を本業とする彼に、「仕事としての縛り」とは、を聞く。

HEAPS(以下、H):ガースさんは、縛りアーティスト。

Garth Knight(以下、G):イエス。大学では工学を専攻してたんだけどね、昔からアートにも興味があって。

H:アーティストとしての活動が先なんですね。

G:卒業後は6年間フォトグラファーとして活動していたんだ。で、その後、縛りアーティストとしてのキャリアをスタート。現在はその写真集の出版や、国内外問わずの展示会なんかで活動中さ。

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H:縛りの世界へのキッカケって何だったんでしょう?

G::1999年から、ロープを使った様々な手法を作品に取り入れてきたんだ。当時はパソコンを持っていなかったから、「SHIBARI」や「KINBAKU」といった日本のロープアートの存在は知らなかったんだけど。

H:17年も前から! パソコン持ってる人も少ない当時だと、縛りの認知度は低かった?

G:僕が興味を持ちはじめた頃はまったくだね。だから最初は興味本位で遊ぶ程度で、スタイルやテクニックを習得するため何年か独学した。
6、7年前に初めて海外で縛りブームに火がついたときに、はじめてそれが「SHIBARI」「KINBAKU」だと知って、意識するようになったんだ。それ以来、夢中になって、自分のスタイルにそれらの要素を取り入れはじめたんだ。

Garth Knight

H:たとえばどういった要素を?

G:技術的な精度はもちろん、縛り手と縛られる人に感情的な繋がりが必要なこと、奥深い歴史的背景に大きな影響を受けたね。

H:感情的な繋がり、といいますと。

G:縛られ、締めつけられ、動けなくなる。自由を奪ってしまうということは、モデルが安心して身体をゆだねられるよう、信頼関係がないといけない。縄での繋がりだけでなく、心の繋がりがあってはじめて「SHIBARI」が成立するんだ。
盆栽や書道、葛飾北斎の富嶽百景だったり、わびさびを大切にする日本の美的文化が大好きでね。あ、レディー・ガガの緊縛写真を撮ったアラーキーにも衝撃を受けたよ。

H:ガースさんのアイデアやインスピレーションはどこから?

G:イメージはほとんどが空想やドローイングに落書き、ランダムスケッチ。

H:たとえば、「Chthonic(ソニック)」シリーズ。これは特に手のこんだ作品という印象です。相当な時間を費やしたのでは…


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G:いかにも。どの作品も完成までにはかなりの日数をかけるんだけど「Chthonic」は格別だったね。
まず、最初に木のパートを作る。だいたい2、3時間くらいかかったかな。で、次に5、6時間かけてモデルを縛り、吊るして撮影。それが終わると、次のモデルに入れ替えるためにロープをほどき、さらに木の枝を徐々に拡張させていく。この作業を4回繰り返したから、完成までに2、3数週間かかったよ。

H:数週間も!ちなみにアシスタントは、いるんですよね?

G:いいや、すべて僕ひとりでやってる。撮影前のリハーサルもしないし、ぶっつけ本番さ。

H:なんと。縛っているときって、どんな気分なんですか?

G:作業中は何も考えず、ただただ縛ることに没頭している。縄からは呼吸や鼓動を感じることができるんだ。瞑想体験といったところかな。ちなみに縄には、人を落ち着かせる効果があるんだよ。だから縛られる側は逆に心がほどけ、眠くなるってこともよくあるんだ。

Garth Knight

H:モデルを選ぶ基準を教えてください。

G:モデルは仲間や友人、作品に興味があるって連絡をくれる人がほとんど。そこから作品のイメージに合うと感じる人を直感で選ぶ。ご覧の通り簡単なポーズじゃあない。だから、体力があって柔軟であればあるほどいい。

H:あのぅ、彼女、妊婦さんですか?

Garth Knight

G:あぁ、彼女は妊婦。前に一緒に撮影したことがあって、妊娠中に作品を残せたらね、なんて話してて。それでこの「Blood Consciousness(ブロッド・コンシャスネス)」シリーズのモデルに指名したんだ。
なぜならこれ、意識がどう身体を介するかというテーマだったから。血液がどのように身体を流れるか、ってな具合に。だから、意識を介して繋がる母親と赤ちゃんにはピッタリの題材だと思った。

H:なるほど。危険がともなう撮影だったのでは?

G:縛るときは細心の注意を払ったよ。縛る側は、縛られる側に起こる「万が一」を見極める役割も務めるからね。肉が挟まったとか、骨が当たったとか、手首が垂れ下がったままになってしまう橈骨神経麻痺(とうこつしんけいまひ)にならないよう、十分な技術、経験、知識が必要なんだよ。これは数年前の作品なんだけど、いま母子ともに元気いっぱいさ。

H:ガースさんならではの特技はお持ちで?

G:うーん。そうだね、誰にでもできるシンプルな手法を使って、幅広いアイデアを生み出せるところと、深い感情表現ができることろかな。


Garth Knight
Garth Knight
Garth Knight

H:日本では、緊縛はエロスとして見ることが一般的だと思うのですが。

G:僕ももちろん緊縛をエロや変態としてみることもある。縛るというと、動けなくするとか、締めつけるとか、そういう認識があるでしょう? SM的嗜好で縛ると、そういう捉え方になるんだと思う。

H:アートとしての緊縛と性的嗜好としての緊縛に違いはあると思いますか?

G:違いってのはないかな、両方が同時に存在すると思う。一瞬、エロティックで刺激的なものに見えるとする。でも次の瞬間にはアートに見えてくるかもしれない。縛りが必ずしもSMである必要はないし、かといってアートである必要もない。アートとしてか、性的嗜好としてかは、見る側の捉え方次第なのさ。

Garth Knight

All images via Garth Knight
Text by Yu Takamichi

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