若者の自由でヒップな町おこし「クラフト・シティ」。カナダに“ブルックリン”作りました。
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「汚染された街」と汚名をきせられたエリアへ、大都市からわざわざ若者が移住している、と小耳に挟んだ。
今回の舞台は、カナダ。若者たちの町おこしで劇的に生まれ変わったその街は、いまや「カナダのブルックリン」の異名をとる。

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Photo by @rachleta

移住者急増、理由は「庭つき一軒家が月13万」

 トロントとナイアガラの滝の間に位置し、多くの鉄鋼工場が立ち並び「製鉄の街(Steel City)」「労働者の街」として知られる人口約75万人の都市、ハミルトン。ヒップさとはあまり縁のなかったこの街は近年、カナダの「ネクスト・ブルックリン」として若者たちから注目を浴びている。大都市トロントからその中都市ハミルトンに移住してくる若者が急増中。それゆえ、現在ではミレニアルズ人口が近隣都市よりも比較的多く、若者たちのやる気みなぎる町おこしが元気らしい。

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Photo by @forrisborris

「この2年で、ハミルトンは爆発的な成長を遂げたわ。先週はあそこに新しいレストラン、今週はここで新しいイベント、ってな具合に」とは、カナダのスタートアップのイベント会社を経営するAnna Wiesen(アナ・ウィーセン)。「大都市から小さな街にお引越しなんて想像してもいなかった」が、家賃高騰著しいトロントに見切りをつけ、2年前にハミルトンに越してきたミレニアル世代だ。

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Photo by @allsortspress

 
 8年前にハミルトンに移住してきたフリーランスライターのSeema Narula(シーマ・ナルラ)も、「越してきたばかりの頃はサード・ウェーブのコーヒーショップなんて1軒もなかったけど、ここ数年でわんさかできた」と嬉しげ。

 若者の移住や新しいビジネスの流入の根底にあるのは、やはり地価の安さ。都市では2ベッドルームの家賃13万円で家1軒丸ごと借りられるのだ。若い子持ちのヒップスター夫婦が引っ越してくるのもうなずける。

ゼロから作り上げる楽しさ。汚れた街がクールに一変 

 工場が多いため「dirty city(汚染された街)」と文字通り汚名をきせられていたハミルトンが、「クールな街じゃん?」になったのはここ3年のこと。

「Art is new Steel(アートは新しい鉄)”」。これはハミルトン・ミレニアルズのキャッチフレーズだ。主要産業だった鉄鋼業に代わる、新しい産業・原動力はアートだ、と若きクリエイターたちの勢いは良い。

 彼らの町おこしは、使われなくなった建物の再利用からはじまる。元工場や倉庫の空きスペースをDIYでイベントスペースに。マイナス、そしてゼロからプラスを生み出していくのが、ミレニアル世代のやり方。材料からこだわり抜いて作りあげる「クラフト=手作り」 がビールからワークブーツからハンバーガー、ラーメンにいたるまで何でも“ヨシ”の昨今、こちらはクラフト・シティともいえよう。

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Photo by @blonder

 ハミルトンのアートやミュージックシーンはまだまだアンダーグラウンド。街を歩いても、どこでどんなイベントが行われているかはわからない。イベント情報は“人づて”が基本。 
 だから「一晩で数え切れないほどのイベントがあるトロントに比べて、ハミルトンのイベントは数は少ないけど集客力は大きい。それだけクリエイティブコミュニティの結束も強くなるのよね」とアナ。
 いまやアングラカルチャーが徐々にメインストリームにも享受されつつあるいまのブルックリンにはない、エッジーなバイブも期待できる。

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Photo by @rachleta

インスタ駆使で“地元をレペゼン”

「インスタ駆使」もミレニアルズの町おこしには欠かせない。「sexdrugshamont(セックス・ドラッグス・ハモント)」というアカウントには、ハミルトン在住のインスタグラマーが切り取った地元の風景が並ぶ。
「ハミルトンってよく汚いって言われるけど、いい街だし。だから“汚い街”ハミルトンのダーティーな写真送ってね」とはじまったそうで、なんともミレニアルズらしいノリだが、若者たちが切り取る写真はどれもセンスが抜群によい。

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Photo by @forrisborris

 フォトジェニックな街に惹かれて、フィルムメーカーたちも惹かれて移住してくる。撮影コストが安く抑えられる、綺麗な建物や街並みだからと、拠点をハミルトンへ移す映画会社やセットデザイナーも新たな住人となっているのだ。

ちょうどいい距離なら「大都市にしがみつく必要もない」

 ハミルトンに移住する若者が増えるワケ。それは都市との距離感にもあるとアナは言う。
 通勤まで車やバス、電車で1時間ほど。トロント発ハミルトン行きの最終バスは、午前2時30分。「トロントで仕事・ハミルトンで居住」の二重生活が楽々できる。トロントでの仕事も辞めなくていいし、時々は大都市で夜遊びもできる。この距離なら移住は“人生をかけた大決断”とまではいかない。ゆるり移住、というところか。
 郊外に移住といっても、大都市の醍醐味だって手の届く場所にある。ライフスタイルに合わせて選べる安心感がミレニアルズにはちょうどいいのかもしれない。

 でも、とアナ。「5年、10年後には、もっとローカルビジネスが増えてハミルトンで雇用を増やして欲しい。今後トロントにある企業の多くが、土地代も安くて新卒も多いハミルトンにビジネスのポテンシャルを見つけると思うわ」

住むだけでなく「作り上げる」。コミュニティの一員になる幸せ

 さて、若者たちが移住を楽しめる醍醐味は、「You can do anything in Hamilton(ハミルトンでなら何でもできる)」。これがハミルトンの若者たちで最近流行っている言葉よ、とアナは教えてくれた。汚染された街、つまりはここから何をしようと自由。街を作るのは住人なんだという実感と充足が、発展途上の街にはある。

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Photo by @annawiesen

 19世紀初頭に建てられた元紡績工場で街のランドマーク「Cotton Mill(コットン・ミル)」を改装しアートスペースやアートスタジオに変えたり、ハミルトンでデザインされた服ブランドを作ったり、街中の古い建物スペースでフリーマーケットを開催、地元のハンドクラフト雑貨を売ったり。

 あるカフェは、従業員の代わりに100人のボランティアスタッフにすることで、ヘルシーな食事をかなり求めやすい価格で(コーヒー1ドル、スープ2ドル、オムレツ5ドル)提供している。というのも、地区によっては貧困率は30パーセントを上回り、低所得者向けアパートも立ち並んでいるのだ。後から流入してきた中流階級や彼らのビジネスが、元から住んでいた低所得者層とWin-winに関わっていくのも課題だろう。

@plateofpasta
Photo by @plateofpasta

「新しいカフェにブティック、ギャラリーをオープンできるビジネスチャンスもハミルトンの強み。でも一番ここに住む若者たちが得られるものって、自分がコミュニティの一員として属していると感じることだわ」とシーマは言う。

「私は、◯◯の住人です」ではなく、「私は、◯◯の一員です」。既存のカルチャーやコミュニティが出来上がった街ではなく、自分のクリエイティビティやビジネスアイデアが、街を成長させるための種になる。ミレニアルズが求める街は、自分がコミュニティを作る一員だと実感できる街だろう。

 5年後10年後、「カナダのブルックリン」は、本家ブルックリンと同じ姿になっているのか、それとも新しい街のモデルとなっているのか。それは「You can do anything in Hamilton」のanything(何でも)をミレニアルズがどう変えていくかにかかっている。

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Text by Risa Akita

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