「買い時なのに、なぜ買わない?」。若者のマイホーム離れが叫ばれて久しい。いまなら安いよ! と言ってもダメ。ミレニアルズは、モノにお金を使わないのか—と思いきや、どう考えてもコスパの悪い「アボカドトースト」には夢中。だったら「マイホーム購入の特典に、アボカドトーストを無料でつけるってのはどうだろう」。とある米国の企業は真剣にそう考えた。
日々のアボカドトーストか将来の家か「迷わなくていいですよ」
若者のマイホーム離れに業界は悲鳴をあげてきた。そんな中「うちで住宅ローンを組んだら、あなたの一ヶ月間分のアボカドトーストを保証しますよ」という、冗談みたいなキャンペーンが注目を集めている(ここ数年、米国でアボカドトーストは絶大な人気を博しており、ブランチをやるならこれを外してはならない)。その不思議な7月限定キャンペーンを行っているのは、米国サンフランシスコに拠点をおく、ミレニアル世代の高所得者向けオンライン融資を手掛ける会社「SoFi(ソフィ)」。
「奨学金、学生ローンすら返しきれていないのに、家なんか買えるか、ボケー!」。そんなミレニアルズたちの声が聞こえてきそうだが、ソフィはこう返す。
「いえ、あなたたちは買えます。私たちはそう信じています。しかも、頭金が払えるまでの間も、アボカドトーストを諦めなくていいんですよ!」と。アボカドトーストは、トレンドフードであり、ミレニアルズの大好物だが、家を買うこととアボカドトーストにどんな関係あるのか。
きっかけは、今年の春に、オーストラリアの不動産ミリオネア、ティム・ガーナー(35)が「ミレニアル世代は、アボカドトーストを食べるのを止めるべきだ。そして、家が買えるようにお金を貯めるべきだ」「私が最初の家を買おうとしていた頃は、アボカドを潰してトーストに塗っただけものに19ドル(2,200円)も払ったり、一杯4ドル(約470円)のコーヒーを一日4杯も買ったりしなかった」などと発言したことに遡る。マイホーム+アボカドトーストキャンペーンは、彼の発言にインスパイアされて思いついたそうだ。
実際のところ、ニューヨークでお洒落レストランで提供されているアボカドトーストは、19ドルではなく8ドル前後が相場。だが、そんなことはどうでもいい。要は、お金がない、生活が苦しい、と言いつつも、アボカドトーストのような、「それ、家で作れるだろ?」と突っ込みたくなるものに熱狂し乱費するところにミレニアルズの矛盾と価値観が現れているのである。
そこで、「ミレニアルズの味方」を謳う金融会社ソフィは「金欠でもブランチで食べるアボカドトースト、諦められないですよね」と共感を示し、「あなたのアボカドトーストはウチで保証するので」と微笑み、「マイホーム、買ってみませんか?」とたたみ掛けた。
彼ら曰く、「なにも、外でアボガドトーストを食べるのをやめれば家が買える、と言っているのではなく、家を買うための頭金が貯まるまでの間もアボガドトーストを諦めなくていいですよ、というキャンペーンです」。将来のことを考えて家を買うべきだと頭ごなしに説き伏せる訳でもなく、家を買うかアボカドトーストを買うかどちらが有益か考えてごらんよと説教する訳でもなく、「あなたたちの大切なもの、わかります。提供しますよ」と、言ってしまえば共感して強引にマイホームに繋げたのがこのキャンペーンだ。ちなみに、サービスするアボカドはオーガニック。そして、パンは、普通かグルテンフリーかを選べるのだという。ただ「パンは自分で焼いてね」とのこと。新居にはトースターが必要だろう。
もう一つ、近年の若者離れと言えばホテル。AirBnBに夢中で振り返ってくれない彼らの心を掴もうと、スマートに対応しはじめた新しいホテルの取り組みを紹介しよう。
同じ金額なら、AirBnBとラグジュアリーホテル「どちらを選びますか?」
Photo courtesy of PUBLIC Hotels
「要は、顧客が欲しがっているものを与えることが大切」。そう言うのは、イアン・シュレーガー氏。この人物、ニューヨークの伝説のディスコ「Studio 54」の共同創始者であり、80年代からは「モーガンズニューヨーク(MORGANS NEW YORK)」を皮切りに、数々のブティックホテルをプロデュースしてきた名手。むしろ、彼こそがブティックホテルというコンセプトを世に広め、ホテル業界に革命を起こした人といっても過言ではないだろう。
そんな彼がこの春、マンハッタンのローワー・イースト・サイドにオープンした「パブリック・ホテル(PUBLIC Hotels)」は、素敵なラウンジも中庭もあり、ソーシャル・コミュニティ・スペースも充実。部屋もラグジュアリーと呼ぶに相応しい内装でありながら、一泊あたりの金額は、150ドル(約1万5000円)〜とお手頃。これ、近隣のAirBnBの宿泊金額と変わらない。そもそも、ミレニアルズがホテル離れしたのは「ホテルの宿泊料がバカ高かったから」ではなかったか。パブリックホテルのインスタグラムを見れば、コアターゲットにミレニアルズを意識している様子。ミレニアルズのモデルやインフルエンサーたちが、ホテルで楽しいひと時を過ごしている様子を捉えた写真が並んでいる。
内装こそラグジュアリーでありながら、ここには、ベルマンも、荷物を運んでくれるポーターも、コンシェルジュもいない。宿泊客は、「機械でチェックインをすればスムーズだし、スーツケースには車輪がついているのだから、荷物は自分で運べる。そんな人件費など、若い宿泊客は誰も払いたくないはず」。また、ルームサービスもない。その代わりに、地上階には、朝から遅くまで営業しているカフェもレストランもバーもあるので、そちらを利用すればいい、とのこと。「誰も軽い朝食とコーヒーに、30ドル(約3,500円)も払いたくないだろう」と。従来のホテルじゃ高いし全然若者にウケない!、と思い切り大胆な路線変更(たとえばグランピング)をするのではなく、従来のホテルの“何を若者が無駄だと思っていて”、“逆に何が必須で、お金をかけてもいいと思うのか”に立ち返り、抑えるところは抑えて、いらないところをごそっと削っただけ。確かに、同じ金額ときたらAirBnBとホテル、どちらを選ぶかは迷うところだろう。インスタ映えを考えたらラグジュアリーホテルに心揺れるのではないか—。現在、このパブリックホテルに若者へのアプローチについてもう少し詳しく聞くべく取材打診中だ。
住宅もホテル産業も、離れていくミレニアルズたちを指をくわえて見ている訳ではない。無理な値下げに頼ったり、必要以上に媚びることで自らの首を締めるようなことはせず、あの手この手で、知恵を絞り解決の糸口を模索しているのである。
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Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine