砂漠でビジネスネットワークを構築「バーニングマン for 1%」“グラマラスな砂漠フェス”は誰のユートピアなのか?

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バーニングマンのラグジュアリー版」「バーニングマン for “1%” 」なんていわれている砂漠フェス「ファーザー・フューチャー(Further Future)」なるものがある。みんなコスチュームを着ているし、パッとみは確かにバーニングマンぽい。だが、蓋を開けてみると、なんだかな。お金の匂いがプンプンする。ってか、これって、意識高い系イベント? 砂漠という非日常の時空を一緒に過ごしながらビジネスネットワークを築き、ときに億単位の契約が結ばれることもあるというから驚きだ。

スパあり、高級ディナーあり。グラマラスな砂漠フェス

「ファーザー・フューチャー」は2015年にはじまり、毎年(といっても17年は諸事情により開催せず)4月の終わりから5月のはじめにかけての3日間、ラスベガス郊外の砂漠の中で行われる。冒頭で「バーニングマン」といってみたが、それとは似て非なりである。従来のバーニングマンでは(一応)使用禁止になっているスマホを使っていいし、快適なラグジュアリーテントで、スパやリラクゼーションサービスを受けることもできる。健康的なグリーンジュースミシュランレベルの高級ディナーも用意されている。そして、それらのラグジュアリーサービスは、“金銭のやりとり”によって手に入れるのだ(バーニングマンでは経済行為NG)。

 バーニングマンと似てる点は、参加者が奇抜もしくは極端に露出が多いコスチュームを着ていることと、開催地が砂漠であることくらいだ。なのに、なぜ「バーニングマンのラグジュアリー版」などと言われているのか。それは、このイベントを主催しているのも、参加しているのも、もともとバーニングマンの常連だった人たちだから。中でも、彼らは牧歌的なヒッピーというよりは「ガシガシ稼いで、ガシガシ遊ぶ」底抜けにアクティブな人たちだ。

 そして、ファーザー・フューチャーでは、その底抜けにアクティブな人たちがさらに細分化される。イベント関係者の言葉を借りていえば、これは「キュレートされたイベント」で、曰く(バーニングマンより)もう少し規模の小さいイベントが求められていたのだそう。そこに応えるように生まれたのが、西海岸の都市部、特にサンフランシスコを拠点とするテックサビーな起業家や投資家が集うラグジュアリーフェス「ファーザー・フューチャー」ということらしい。

あっという間に値段のあがる砂漠ステイ

 ラグジュアリーといっても、チケット自体は「350ドル(約3万8,000円)〜」と、べらぼうに高いわけではない。3日間の間に、EDMを中心とした世界的有名DJやミュージシャンが60組もラインアップされており、さらにビジネス成功者たちのTEDトーク的なスピーチも行われる。庶民の目線でみても、まぁまぁ妥当なのではないかと思えてくる。

 しかし、この金額にはラグジュアリーテントの使用権や高級ディナーは含まれておらず、さらにアップグレードをしたければ追加料金を払いましょうという実にアメリカらしいシステムになっている。色々追加していくと、あっという間に800ドル(約9万円)を越えてしまうではないか。とはいえ、そもそもお金を使うことに抵抗がない富裕層が集まっているので、彼らが快適さを買わないはずもなく「多くの参加者は、追加料金を払い、よりラグジュアリーな体験をすることに積極的」なのだそうだ。

「砂漠でわざわざ過酷を味わう必要ない」

 そんなに快適だったら「人生観が変わる体験なんてできない」し、そもそも砂漠でやる意味ないじゃん、という声ももちろんある。しかし彼らは、わざわざ砂漠という自然の脅威に身をさらし、自分自身のちっぽけさを痛感すること、そんな時に隣人の無償の愛に触れて心を震わすことになどそもそも興味はない。
 というのは言い過ぎだとしても、彼らにしてみれば、あらかじめ回避できるリスクは回避しておいた方がいいだろうし、そのためにかかる費用に払う価値があると思えば、払えばいいわけで。合理的な考え方をしているのではないかと思う。
 彼らは、ラグジュアリー路線に走った理由についてこう話す。「僕らの日常は、重大な判断や決断を求められる、非常に過酷なものです。なので、わざわざそれ以上に、過酷を味わう必要性はないと思います。それより僕らに必要なのは、広大な大地に身を置きながら、スパやリラクゼーションを受けることや、素晴らしい音楽やアートに触れることでしょう」と。



 
 写真を見ての通り、参加者は20〜30代の若者が多い。だが、決して若者中心の音楽フェスに終始していない。中には、グーグルの会長のエリック・シュミット氏MTV創設者のロバート・ピットマンといったビジネス界の重鎮たちの姿もある。このイベントに参加する最大のメリットは、同じ高い志を持った他のビジネスパーソンたちと、砂漠という非日常の時空を一緒に過ごしながら、ビジネスネットワークも築けることである。3日間の間には、ときに億単位の契約が結ばれることもあるのだというから驚きだ。

このスピーチをすばらしいと感じるか、ゾッとするか

 以下、2016年開催時にグーグル会長のエリック・シュミット氏が行ったスピーチの一部。

「ファーザー・フューチャーの関係者および参加者の多くは、サンフランシスコの起業家たちによって構成されており、その人たちはビジネスの世界で『成功者』になるであろう人たちだ。これはキュレートされたイベントであり、愛すべき仕事を手にした大人たちの集いである」。
   
 また、ファーザー・フューチャーの共同創始者ロバート・スコット氏はこう話す。「これは、これからの未来をリードしていくであろう高い志を持った“ビジョナリー”が集い、未来の無限の可能性を祝福するイベントだ」と。
 

 参加者も主催者も、自分は選ばれし知的特権階級であると多少なり自負している様子が伝わってくる。だが、彼らも日常生活の中では、「特権階級ですけど、何か?」という、あからさまな態度は出しにくいもので、多かれ少なかれ謙遜を強いられていたりするのではないかと想像する。そして、心のどこかで「そういうしがらみから解放されて、もっと自由になりたい」と願っているのではないか、と。というのも、そうでもない限り、こんなイベントに需要ありますか? と思うのだ。謙虚さなど微塵もみせない、というか、みせる必要など一切ない非日常空間だ。そこでは、自分たちが恵まれていることに対する大なり小なりの後ろめたさから解き放たれる。だからこそ、これらのスピーチ対して「イェーーーイ!!」と叫ばずにはいられないのではないか。
 
 きっとファーザー・フューチャーの間は、誰もが「自分は選ばれし人間だ」と信じることができ、果てしない優越感に浸ることができるのだろう。その感覚が一体どういうものなのかは知り得ないが、彼らのとってここが「砂漠のユートピア」であることは間違いない。ただ、誰かにとってのユートピアは、誰かにとってのディストピアだったりする。もし、この地球上のどこかに、すべての人が謙虚さを失った場所があるとしたら、そこは私にとって、まぎれもなくディストピアだ。

All images via Further Future

Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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