次世代トラベラー向けホテル計画「部屋よりパブリックスペースが肝」民泊に負けないホテルの法則
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「Airbnbと同じ宿泊費で、Airbnbにできないことをする」。以前、それで顧客を取り戻そうとするブティックホテルの快進撃を紹介したが、今年9月、またもコンセプト丸かぶりの同様のホテルが誕生。
これは…世界共通の「(富裕層でも、貧乏旅行を好むバックパッカーでもない)“中間層”トラベラーを惹きつける法則」が確立されつつある、と?

Magic Hour - Corridor + Topiaries (1)

今年9月、ニューヨークのマンハッタンの36丁目にできた「モクシー・タイムズ・スクエア(Moxy Times Square、以下、モクシー) 」。同ホテルのポイントは以下の4つ。

①宿泊費はリーズナブル。
②けれど内装はスタイリッシュ
③サービスは控えめ。だけど、
④レストランやバー、公共スペースはすこぶる充実の方向で!

このスタイル、前回取り上げた「パブリック・ホテル」—Airbnbから顧客を取り戻すために「Airbnbと同じ宿泊費でAirbnbにできないことをする」ブティックホテル—と、コンセプトが丸かぶりだ。

どうせ寝るだけだし。部屋は8畳くらいあれば十分?  

 ピンク色のネオンサインがシグネチャー。モクシーは世界最大級のホテルチェーン「マリオット・インターナショナル」が手がけるホテルブランドである。2014年にミラノに建設したのを皮切りに、世界各国(今年中に日本にもオープン予定)で好調なビジネスをみせており、今回のマンハッタン店は、モクシーとしては15軒目となる。ターゲットは、モダントラベラーことミレニアルズ(およびジェネレーションZ)。彼らの価値観に寄り添うホテルのあり方を提案し、その手腕に注目が集まっている

若い旅行者たちにとって、部屋はただ寝るだけの場所。彼らは部屋の中より外で時間を過ごすことを好むので、泊まる部屋の大きさにこだわらない」と、同ビルのオーナー。
 もちろん、眺めの良い広々としたスイートルームもあるが、全612室のうちの半分以上は8.5-11.5畳サイズ。しかも、このスペース中にダブルもしくはクイーンサイズのベッドが置かれ、また、シャワー室も組み込まれている。それじゃテーブルや椅子なんて置けないのでは、と思いきや「テーブルは折りたたみ、椅子は壁にかけられるものになっている」と得意顔。

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「モダントラベラーは、部屋の大きさは妥協できても、スタイリッシュさは外せない」。それゆえ、上述の折りたたみテーブルだけでなく、部屋の家具の多くは、パーク・ハイアット・ニューヨークなど、数々の有名ラグジュアリーホテルを手がけてきたインテリアデザイン事務所「ヤブ・プシェルバーグ」のカスタムメイド。また、ベットシーツも、コットン製品の中でも最高級ランクといわれるエジプト・コットンリネン100パーセントだったりする。
 そんな「狭いけど、高級ホテル並みのインテリア」の部屋は、シーズンにもよるが、一泊139ドル(約1万5千円)〜。近隣のホテルの相場はミドルクラスでも一泊2万円以上。ハイシーズンはさらに高くつくことを考えると、リーズナブルといえそうだ。
 

フロントデスクなし。でもレストランとバーは5つも

 また、オーナーは「若い旅行者たちは、荷物を運んでくれる人がいるかどうかなんて気にしない。それより、無料で高速ワイファイが使えるかどうかの方が大切だ」とも。パブリックホテル同様に、モクシーにもベルマンやコンシェルジュはおらず、フロントデスクもない。なのに、ホテル館内にバーやレストランは5つもあるという、見事なコントラスト。そのうちの一つ、マンハッタンの夜景を臨む最上階のルーフトップバー「マジック・アワー(MAGIC HOUR)」は、ニューヨークシティ内最大級の広さを誇り、なんでも「メリーゴーランド」まで作ったらしく、気合いの入り方が半端ない。今後、マンハッタン屈指の人気スポットになることを見越してか、宿泊者の特典には、このルーフトップバーへの“優先”アクセス権が含まれている。

Lobby Lounge + Meeting Studio
Meeting Studios Adjoined

 気合いが入っているといえば、ホテル内のパブリックスペースも、だ。1階からルーフトップ階まで、吹き抜けになっており、その空間には、世界各国から選ばれた旬のアーティストたちの作品を展示。なんというか、思わず写真を撮って、SNSにアップしたくなる要素がそこかしこに散りばめられている。
 前回のパブリックホテルでも述べたが、こういったホテル内のレストランやバー、バブリックスペースを通して“体験型”エンターテイメントを提供するというのは、従来の民泊にはできないサービスの一つとされており(近年、Airbnbは宿泊+“体験”というサービスを提供しはじめているが)、ホテルの強みかつ、収入源として注目されている。
 

110年の時を経て再び。次世代のホテル計画

 繰り返しになるが、モクシーを仕掛けるのは、インディペンデント系ではなく世界最大級のホテルチェーンだ。それは、フレンドリーな価格でラグジュアリー気分を味わえる「アフォーダブル・ラグジュアリー」ホテルが今後さらに増加し、スタンダード化していく可能性を示している。これまで「ホテルより安いから」を理由にAirbnb(民泊)を支持してきた中間層トラベラーは、この流れにどう反応するのか…。

 と、ここまでいろいろ述べてきたが、あまりにも商業的で鼻白んでしまった人のために、最後にちょっとノスタルジックな話を。このマンハッタンにできたモクシーは、建物そのものに稀有な歴史がある。

Moxy Times Square Exterior

 さかのぼること1907年10月のニューヨーク。市内に地下鉄が開通してしばらく経った頃、銀行員で博愛主義のデリアス・オグデン・ミルズという男は、あることを思いついた。
ワーキングクラスの男性向けのアフォーダブルなホテルを作ってはどうだろう」。小部屋と暖かい食事、シャワー(共同)を提供する、当時はまだ珍しかったビジネスホテルだ。彼はマンハッタンの36丁目と7番街の角に、15階建てのホテルを建てて、それを「ニュー・ミルズ・ホテル(New Mills Hotel) 」と名づけた。
 20世紀がはじまるまでに、この街にはドイツ系、アイルランド系に続き、イタリア系やユダヤ系など、大量の移民がヨーロッパから渡ってきた。米国の軍事産業、自動車、流通革命などの飛躍的発展の下には、こうした移民たちによる安価で豊富な労働力があった。マンハッタンの中心エリアでありながらも、近隣のホテルよりリーズナブルに泊まれる同ホテルは、53年に閉館するまで、その多くの労働者の生活を支えてきたという歴史がある。

 閉館後、建物は売却され、長年の間、オフィスビルとして使用されてきた。そして、14年に現在のオーナーの手に渡り、モクシーホテルと手を組み、21世紀における次世代のトラベラー向けのホテル計画がはじまったのだという。  
 110年の時を経て、再び「アフォーダブル・ホテル」として機能することとなったのは、偶然か必然か。もし、20世紀の宿泊者たちが、当時の部屋よりもさらに小さな部屋に滞在する21世紀の人々の姿をみたら、彼らは一体、どう思うのだろう。

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All images via Moxy
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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