成功より「失敗談をシェアする会」スタートアップ失敗事例のシンクタンク『ファックアップ・ナイト』

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「一度でも失敗したら、終わりだ」などと息を潜めていては、新しいものなんて生まれるはずがない。何より、窮屈で生きにくい。「失敗はダブーではない。価値ある情報だ!」と豪語するのは、メキシコ発の「ファックアップ・ナイト(Fuckup Nights)」、スタートアップの失敗ストーリーをシェアしあう会だ。その会はいま世界80ヶ国、250都市で開催されるグローバルムーブメントに成長している。

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できたてホヤホヤの失敗ストーリーにこそ、価値あり

実際、多くのスタートアップは3〜4年で消え、9割は失敗に終わると言われています。なのに、失敗ストーリーってあまり聞かないですよね?」。

 成功ストーリーが世の中に腐るほど出まわっている一方で、失敗ストーリーは極めて少ない。いや、もちろんあるにはあるが、語り手は決まって成功者なのだ。「成功者だって過去には失敗していたんだよ」的な話ではなく、聞きたいのは「たったいま、失敗からまさに這いあがろうとしている人が語る、生々しい話」。
 
 そう話すのはメキシコ出身の起業家で、ファックアップ・ナイトの共同創始者レティシア・ガスカ氏。彼女は自らのリンクトインページに過去の事業の失敗経歴も大公開。なぜなら「失敗はタブーじゃない。むしろ、自分にとっても他の起業家にとっても有益なものだから」。自分の失敗を「黒歴史」として封印するのではなく、みんなにもっと積極的にシェアして、感謝されるべきだという。
 そこではじめたのがファックアップ・ナイトだ。世界各地で月に一回、3人のスピーカーがステージ上で自らの失敗ストーリーを披露。観客はそれをありがたく拝聴し、改善点について話し合い、気づきを共有して次に繋げる、というものだ。

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生ぬるい交流会、本当に繋がれてる?

 人と繋がることの大切さが叫ばれているが、「その割に人は腹を割って話そうとしない。僕も以前は、たくさんのビジネス交流会、異業種交流会なんてものに参加していましたが、『最近、ビジネスはどう?』という問いに対する答えが『いい感じだね( “doing really well” )』『絶好調さ(”Killing it”)』なんてものばかりで。せっかく交流するために集まっているのに、深い話に発展しないことが多かった」と話すのは、共同創始者のぺぺ・ビラトロ氏。
 ネガティブなことは言わない。それが相手に気を遣わせない大人のマナーなのかもしれないが、確かにぺぺのいうように、せっかくの交流会で、中途半端なポジティブトークは毒にも薬にもならない。

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ペペ・ビラトロ(Pepe Villatoro)

「僕も含めてですが、平日の午後6時頃にのこのこやってきて、当たり障りのない会話に時間が割けるという時点で、その人たちの事業の大きさは、たかがしれています。そんな人たちにこそ、生ぬるい交流会よりファックアップ・ナイトの方が有益なのではないかと思いましたね」

 事実、たったの5人の「酒の肴」としてスタートし、これといった宣伝活動は一切していないにも関わらず自然発生的に広がり、創設から3年たった2015年4月には世界100都市で開催されるように。17年時点では約250都市まで拡大している。月に一回、世界のどこかで開催され、毎月1万人以上の人が、ファックアップ・ナイトに参加している。

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もっとも多いスタートアップの失敗例は…

 
 創設から5年以上が経ち、相当な数のスタートアップの失敗例が集まったファックアップ・ナイト。現在は、スタートアップにおける失敗事例の研究を専門とするシンクタンクとしても機能している。「何がよくて、何が足りなかったのか」の教訓をまとめてデータベース化。そのスポンサーには、コカ・コーラやマイクロソフト、シティバンクなど大手企業が名を連ねる。ファックアップ・ナイトの事例を使いながら、自社社員のための“研修ファックアップ・ナイト”を開催している会社もあるのだそうだ。
 
 ちなみに、彼らのデータによると、もっとも多いスタートアップの失敗例は「予想外の出費」。レティシア自身も、これで一度失敗しているという。だが、曰く「こんな失敗はまだ序の口」らしく、中には、信頼関係を築いていたはずの社員に、出張中に顧客データや在庫をすべて盗まれた、なんて人もいるらしい。「彼はショックで心臓発作を起こして病院に運ばれたのですが、なぜかペースメーカーを右胸(心臓は左側)につけられた、といって会場を笑わせていましたね」。

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 変化の激しいIT、ベンチャー業界で生き残る為には、「失敗しないこと」より、「失敗から学べること」の方が大切だ、失敗は成功のプロトタイプだ、と言われて久しい。特に、シリコンバレーのベンチャーキャピタルは「同じようなビジネスモデルなら、失敗したことのある人に投資する」と言われている。「失敗したなら何かしら学んでいるはず」という判断だ。

 一方で、まだまだビジネスにおける失敗への許容が狭い先進国も多いと話し、その代表として「ドイツや日本」をあげる。「ですが、おもしろいのが、ドイツは発祥国のメキシコに次いで、世界で2番目にファックアップ・ナイトが積極的に行われている国なんです」。失敗から学ぶ文化や風土を根づかせる為には「トップが減点方式の評価をやめること」とも。新規事業の成否は誰にも予測できない。だからこそチャレンジの数が重要で、減点評価では誰も新しいことにトライしなくなる…、ってなんだか、日本人としては耳が痛い。

Fuckup Nights

All images from Fuckup Nights
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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