元電通社員の某シンガーソングライターに、元銀行マンの某Vシネ帝王。ググってみると「そうだったの!?」な異色の経歴の持ち主というのは意外といる。
この男もまた耳を疑うような経歴を持つ。前職から180度グルリし、命を救う仕事へ。ジェームス・ジュリアーニ(50)、全米最大最強マフィアの元メンバーの過去を払拭、いま汗水垂らし精を出すのは「アニマルレスキュー」だ。
足を洗った元極悪マフィア
逮捕歴10回に、ムショ暮らし4回。「詐欺に窃盗、ハイジャックに誘拐。ヤミ賭博に人も撃った。悪業は一通り全部やってきた」。ジェームスはニューヨーク五大マフィアの頂点、ガンビーノ一家の元メンバーだ。10代で組織メンバーとつるみはじめ、気づけばすっかり酒と麻薬漬け。周りにはそんなワルい男を好きになる女ばかりで「やめる理由なんてなかった」と、20年間その名をひけらかしてきた。
そんな彼だが、13年前、突然きれいさっぱり足を洗った。しかもだ。イタリア系マフィアの聖地*にて動物シェルター「ケノズ・アニマル・サンクチュアリー」を経営し、救助・保護活動に勤しんでいるという。時には命を奪う仕事から一転、“救う”仕事に従事する彼。一体、何がそうさせた?「怖いけど気になる」。おそるおそる取材までこぎつけた。
*ブルックリンのベンソンハースト地区
「シェルターの外観写真は、絶対撮るんじゃねぇぞ?」
取材当日、指定された住所にたどり着くとそこには一軒のペットショップ。店内はペット用のエサや洋服が売られているだけで、全然シェルターっぽくない(人懐っこい猫が3匹いたけど)。「ここはジェームスとレナ(ジェームスの妻)が経営するペットショップ。シェルターは別の場所にあるんだ」。こう話すのは店番をしていたレナの息子。どうやら夫婦で2店舗を経営しているらしい。
約束の時間から30分、音沙汰なし。フラれたか、と思ったところでジェームス登場。噴きだす額の汗をぬぐいながら、しゃがれ声ボリューム大で「遅れてスマン。動物たちの世話をしててな。さぁ、シェルターへ連れてってやる」。どうやらシェルターの場所は極秘のため、ペットショップに呼びつけたらしい。しかも近隣住民さえもそこがシェルターとは知らない。
「
HEAPS(以下、H):あのぅ、なんでシェルターの場所、秘密なんですか?
James Guilian(以下、J):いまシェルターでは52種類の動物を保護している。なかには市でペットとして飼うのが禁止されてるリス、ポッサム(フクロギツネ)、アライグマもいてね。立ち入り調査なんてされたら、たまったもんじゃねぇ。
H:ああ、てっきり足洗ったのに狙われているのかと思いました。「立ち入り調査こわい」ってとこ、マフィア臭が漂いますね…。なぜ動物保護活動を?
J:2006年だったかな。ある日、路地で捨て犬を見つけたんだ。毛は埃まみれで皮膚はただれて、衰弱りきってたシーズー。虐待されて捨てられちまったんだろうな。精一杯の力を振りしぼって、俺の顔を舐めてきた。それまで動物なんて大嫌いだったんだが、俺…。
H:動物嫌いだったんですか?
J:あぁ、大嫌いだったね。てめぇのキ◯タマを舐めた口で俺を舐めるんじゃねぇよって。服に毛が着くのすら嫌だった。でもそのとき、俺はそいつにキスをし返した。それがはじめて救助した犬、ブルーノさ。
H:いい話…。
J:ブルーノには腫瘍があって、それが癌だって知ってから、20年間毎日やってた酒もコカインも一晩でやめた。あいつと過ごす時間を無駄にしたくなかったんだ。
H:一晩で?
J:あぁ。昔は自分自身をコントロールできなくなって、銃片手に自殺しようとすらしたこともあったのに。この時は、一晩でセラピーにもリハビリにも頼らずにやめられた。妻のレナとブルーノ、それから自分の人生も失いたくなかったからな。思い返せばブルーノとの出会いがターニングポイントだった。で、その1ヶ月半後、ブルーノの死をキッカケにマフィアもやめた。あいつの苦しみを間近で見て、こんな思い、動物にさせたくねぇ、って。
H:ものすごい決意…。やめた後、マフィアメンバーに戻りたいとは思わなかったんですか?
J:そりゃあ昼間っから酒飲みながらドミノしたり、プエルトリコのビーチにいた方が楽しいさ。けど、変な使命感があってな。俺がやらなきゃ誰がやるってね。いまでもギャングの奴らとは仲がいいんだか、みんな俺の活動をリスペクトしてくれてる。あいつらも動物が好きだからな。
H:へえええええ。そして、2013年に奥さんレナとシェルターをオープン。
J:あぁ。オープン以来休みなしだよ。1日17時間働きっぱなしで、睡眠時間は3時間。
H:ストイックです…。レスキューの過程を教えてください。
J:まずは、動物レスキューに関しての連絡がくるんだ。毎日電話にEメール、フェイスブックからメッセージがひっきりなし、一番多いのは捨てられている動物の報告。保護するときは大体手づかみさ。だから見ろよ俺の顔と手。傷だらけだ。
H:ワ、ワイルド。
J:虐待されたあげく放置された動物が人間を怖がるのは当然だろ? 俺がビビってたらあいつらだって反応に困る。威嚇したり逃げたり、噛みつきもする。逃げて車にでもひかれたらたまったもんじゃない。まずは噛みつかせといて、そのまま捕獲。これが俺のやり方だ。一年に60~100頭のアライグマに、約30~60匹のポッサムを救助する。
H:しんどくなったり、投げ出したくなったりしないんですか?
J:エサやりに下の世話、散歩にしつけ。やらなきゃいけないことはたんまりある。近所に迷惑をかけたくないから掃除だって毎日欠かさない。この仕事はな、タイムカードを切って「お疲れさま〜」のパートタイムジョブじゃない。動物の命がかかってる、俺の生活そのものなんだ。
H:目的はやはり、里親を見つけることでしょうか?
J:YES(そうだ)! 1ヶ月に4、5匹の里親が見つかることもあれば、3ヶ月経っても見つからないこともある。いまここに残ってるやつらには、里親がまだ見つかっていない。無理もない、子どもの顔面に噛みついたり、病気で目が見えなくなって捨てられた犬たちだからな。でももしこのまま里親が見つからなかったとしても、俺がここで一生面倒を見る。絶対に死なせない。
H:なぜそこまで情熱をそそげるんでしょう? エサ代や家賃だってバカにならないでしょうし…。
J:はは、その通り。このシェルターとペットショップ合わせて毎月100万の家賃を払ってる。見ての通りよく食うやつばかりだから、エサ代も凄まじい。それでも続けるのは、たぶん昔の自分と動物をリンクさせてるのかもしれないな。歳だけくって、未来に希望が見出せない。だから助けてやりたいって思うのかもしれない。
H:マフィアとアニマルレスキュアー。働き方の大きな違いってなんでしょう?
J:一緒さ。しいていうならtaking(奪う)かgiving(与えるか)かの違いかな。俺ってやつはハマりやすい性格でね。昔は酒、麻薬、女に夢中だったけど、いまはそれが動物に変わっただけ。どうやって安くていいコカインをゲットするかと、どうやって動物を助けるか、って、かたちは違えど働き方は一緒だ。
H:今後も同じスタンスでアニマルレスキューを続けていくのでしょうか?
J:リアリティー番組に出演したし、本も出版した。でも、俺もう50歳だぜ? 別に有名になりたいわけじゃない。家族と動物を守っていければそれでいい。欲を言えば、俺が死んだときに「20年前に、あのアニマルレスキューしてた元マフィア知ってる?」なんて言われるように、俺がやってることを次世代にも残せたらそれで充分だ。
動物は好きな方だが、自分より大きな犬たちが興奮する姿や、里親が見つからない理由を聞いたあとシェルターの中に入るのは、正直怖かった。が、犬たちはしつけに忠実だったし、不思議と「絶対に噛みつかせない」と断言するジェームスを信頼できた。
デカくて強面、どこか近寄りがたいオーラを放つジェームスだが、実は正義感が強く誠実で献身的。マフィアという肩書きを捨て、動物がつけた顔と手の傷跡を誇らしげに不意にこぼした「俺はギャングスター・レスキュアーさ」。ネーミングセンスもその生きざまもどストレート、カッコいいじゃないか。
Interview with James Guiliani
James Guiliani
Photos by Saori Ichikawa
Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine