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  • Feb 1, 2017
飼育員は囚人たち。フロリダのワケありな「刑務所動物園」
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先日、同じ車内に一匹の犬がいた。愛嬌のある目をくるくるさせながらじっと大人しく座っている姿に、疲れ顔のおばさんも携帯をいじっていたお兄さんも、母親に抱っこされた子も思わず笑みをこぼす。

人間と動物。医療や福祉、教育の場でアニマルセラピーが導入されているように、動物には人間を癒す力があるとされている。

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Photo by Rob O’Neal

さてここにもひとつ、人間と動物が特別な関係を築く場所がある。“ワケありの過去”を抱えた両者が、ユニークで美しい心の交流を紡ぎ出す空間。世界中探しても二つと見つからない、フロリダのとある小さな動物園のお話だ。

「囚人」が働く動物園

 舞台は、太陽さんさん注ぐフロリダ・キーウェストの「Monroe County Sheriff’s Office Animal Farm(モンロー郡保安官事務所のふれあい動物園)」。

 主人公は、150匹の動物とオレンジ服を来た世話係の“囚人”たち。そう、この小さな動物園があるのは刑務所の中。ここは「囚人が働く刑務所ふれあい動物園」なのだ。

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Photo via Monroe County Sheriff’s Office Animal Farm

「毎朝仕事場に行くと、動物たちが鳴き声で挨拶してくれるのよ」と話すのは、園長のJeanne Selander(ジェーン・セランダー)保安官。
 刑期が1年未満の囚人およそ700人を収容する拘置所「Stock Island Detention Center(ストック・アイランド・ディテンション・センター)」に、150の“住人”がのんびり暮らしている。

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Photo via Monroe County Sheriff’s Office Animal Farm
Sage Sohier
Photo by Sage Sohier

迷子のアヒル一羽から、150の動物まで増えたわけ

 一体なぜ刑務所に動物園が? さっそく謎解きをしよう。

 ことのはじまりは1994年。町の保安官が刑務所付近で迷子になったアヒルの群れを保護し、所の敷地内で飼いはじめたことがきっかけだった。次第に「あそこの刑務所では動物を保護しているらしい」という噂が立ち、それからというもの家なき子の馬やヒツジ、ブタ、ニワトリ、ウサギが預けられるようになったのだという。

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Photo via Monroe County Sheriff’s Office Animal Farm
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Photo via Monroe County Sheriff’s Office Animal Farm

 こうして動物は増え続け、ある日農務省の監査で規則違反との通達が。閉鎖の窮地で登場したのが、ジェーンだった。幼い頃から動物好きで、捨てられた動物を助けてきた彼女は「きちんと清掃して特別な動物園にしてみせます」と、園長に就任。その後10年かけて動物園を再生、「飼育放棄・虐待・寄付」された元ペットやホームレスの動物たちを受け入れてきた。

「ここは動物たちにとっての“Forever Home(永遠の家)”よ」

 動物園には、ミニチュアホースやウシ、ブタなど家畜動物、それにジェーンの抱っこが大好きなナマケモノの“モー”(ジェーンのことを木だと思っているという)、お転婆なキンカジューの“タッカー”、アルパカの“スノーフレーク”といった珍獣も。キツネザルにリクガメ、珍しいヘビやトカゲも仲間だ。

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Photo by Rob O’Neal
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Photo via Monroe County Sheriff’s Office Animal Farm
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Photo via Monroe County Sheriff’s Office Animal Farm

ヘビ好きに、七面鳥を怖がる囚人

「囚人たちにとって動物園は、刑務所を抜け出して、新鮮な空気を吸い自然光を浴びられる“少しばかりの自由の場”。穏やかで平和的な世界ね」

 ジェーンの元で働くのは4、5人の囚人。彼らの朝は、お腹を空かせた動物たちへのエサやりからスタートし、小屋掃除、動物の寝床作りなど1日みっちり8時間労働する。ときには檻を作ったり、獣医が来た時はアシストもする。

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Photo via Monroe County Sheriff’s Office Animal Farm

 動物に慣れてないと緊張する囚人に、ジェーンは世話の仕方や一匹一匹の性格を丁寧に教える。ある囚人は、七面鳥が追いかけてくると怖がっていたらしいが。

「動物にも機嫌の悪い日があるのよ。人間と同じね。抱っこされたくない日、小屋に来てほしくない日もあるから、囚人たちには動物の気持ちを尊重してあげてね、と教えるわ」

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Photo via Monroe County Sheriff’s Office Animal Farm

 馬や牛など大きな動物と気が合う者もいれば、鳥やウサギなどの小動物、ヘビやトカゲなど爬虫類好きもいる。「お前たちは俺よりもいい生活できて羨ましいな」と冗談を飛ばしながら世話に懸命だ。

堀の外とつながる唯一の場所

 10年間の園長生活で一番、という囚人と動物のストーリーを教えてくれた。瀕死状態で道端をさまよっていたところを保護された「全盲の馬」の話だという。

 人間に対して警戒心が強いため、その馬に近寄るときにはまず必ず声をかけるのがルールだった。

「動物の世話なんてしたことがないような大柄の囚人たちが、そっと静かな声で馬に話しかけてあげていたの。ブラシをかけてやったり小屋の掃除をしているときも、“ここにいるからな”とね。その光景がいままで見た中で一番幸せなものだった」

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Photo via Monroe County Sheriff’s Office Animal Farm

 ジェーンは続ける。「動物は愛情にあふれた生き物よ。決して人を判断しない、囚人だからって。わけ隔てなく無条件に私たちを愛してくれる」。辛い過去を持つ動物たちも同じで、囚人からの愛とケアで大きく育つ。 

 動物園は、囚人たちが塀の外のコミュニティとつながるチャンスでもある。月に2回動物園を開放って、一般客を呼ぶ。囚人たちも交流し、子どもたちからは「動物の世話をしてくれてありがとう」の声も。

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Photo via Monroe County Sheriff’s Office Animal Farm
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Photo via Monroe County Sheriff’s Office Animal Farm
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Photo via Monroe County Sheriff’s Office Animal Farm

 出所後も、家族を連れて動物園に遊びに来たりジェーンに感謝の言葉を口にしたり。アニマルシェルターで働きはじめた元囚人もいるという。
「囚人たちのこれからの人生にいい影響を与えたい。ここは『囚人・動物・コミュニティ』をつなぐ幸せの輪ね」。この小さなワケあり動物園は、囚人と動物が出会う、人生再起の楽園なのだ。

***Monroe County Sheriff’s Office Animal Farm***
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Photo by Sage Sohier

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Text by Risa Akita

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