「15年、ギャング役」。汗滲むオーディション、“大物ギャング”と肩を並べる撮影現場。極道俳優ドミニクのどんぱち役者道

「最新作では、敵に銃をぶっ放した手下に向かってこう言うセリフがある。『片づいたか? ああ腹が減ったぜ』。これは俺のアドリブだ」
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遠藤憲一に小沢仁志、岩下志麻。日本の任侠映画やVシネに常連の“極道顔”の俳優がいるように、さまざまな移民系ギャングスターが集まるアメリカのギャング映画やドラマにも常連の俳優がいる。ギャングの大物をアル・パチーノやロバート・デニーロが演じるなか、同じ映画のセットで肩を並べる“名ギャング俳優”が、ドミニク・マンチーノだ。

ギャングのボス、実在マフィア、NY5大ファミリー構成員を演じる極道俳優

 俳優ドミニク・マンチーノ(65)と出会ったのは、昨年10月にクッキング・マフィアことトニー・ナポリに連れていかれた極道俳優が集まる年末パーティーだった。トニーの友人であるドミニクはこのパーティーの主催者で、参加した俳優たちのなかでも先輩格といった風体だった。俳優業は15年ほど。出演作品の大半でギャング役を演じる、極道俳優だ。

 これまでのギャング役歴を並べてみると、ナショナル・ジオグラフィック製作の“マイファについてのドキュメンタリー”で実在したマフィア役、数々の犯罪テレビシリーズでマフィア役、短編映画では地元ギャング役。イタリアのイケア(IKEA)のコマーシャルにも白いスーツで貫禄ありありなマフィア役で登場している。最近では、米労働組合の指導者ジミー・ホッファを描いたマーティン・スコセッシの新作『ジ・アイリッシュマン』で、ニューヨーク5大マフィア・ジェノベーゼー一家の構成員役として出演、パチーノと映画のセットで共演したと聞く。

 15年ものあいだ、数々の作品でギャングを演じてきた俳優に「ギャング役を演じる極意」を探ろうと、ニューヨーク5大マフィア・ガンビーノ一家のボスが暗殺されたというホットな(?)スポット、スタテン島にあるドミニクの自宅を、先月訪ねた。律儀にもイタリアの家庭料理「チキンパルミジャーノ」とケーキで取材陣を歓迎してくれた彼、夕方から近所の友人たちとポーカーの集まりがあるというので、それまでたっぷり俳優談義に花を咲かせてもらった。


俳優ドミニク・マンチーノ。

Dominick(以下、D):俺が出てる最新作の予告編、見るか?

HEAPS(以下、H):見たい。(予告編、再生)。あらあら、手下を両脇に従えて。ギャングのボス役だ。(予告編ではどんぱち、銃弾、血しぶきの嵐…。年末パーティーで見た顔もちらほらいる)。

D:日本人もどんぱち映画が好きだろう。これは『The Circle(ザ・サークル)』という映画だ。無名の出演陣ばかりだが、配給会社の目にとまってほしいね。

H:劇場公開されることを願ってます…。

D:そういえば、最近トニーとは話したか?

H:最近はご無沙汰です…。取材したのがなつかしい。

D:トマトソースの作り方を教えてくれただろう。トニーはホンモノだ。ヤツの家系はリアルだからな。俺の場合は、見せかけのギャングスター。演じているだけだけだ。銃を抜き出してお前を撃ったりはしないから心配するな。警官を演じることもあれば、マフィアを演じることもある。庭で芝刈り機を押しているご近所さんだって演じることもできるぞ。

H:これまで警官や刑事、企業のCEO、鍵屋などを演じてきたドミニクですが、やはり圧倒的にギャングを演じることが多い。今日はギャングスターを演じる極意について、いろいろ聞きます。

D:最善を尽くすよ。

H:まず聞きたいんだけど、マフィア俳優、およびギャング俳優と呼ばれても気を害さない?

D:いいや、まったく。役を演じるのが好きなんだ。イタリア出身のイタリア人は「マフィアのイメージがつくから」って(イタリア系ギャングが出てくる映画を)快く思わないことも多いけどな。でも、俺はみんながギャング映画をたのしんでるなら、全然いい。演じ続けたいと思っているし。

(H:ギャングとマフィアの呼び方の違い? 気になったらこの記事だ。)
▶︎「スヌーピーもコロンブスもギャング」ギャングの定義は?マフィアと呼ぶな?





いままで出演してきた映画を書き留めている。

H:ドミニクはイタリア系ですか。

D:ああ。ブルックリン生まれで、両親もアメリカで生まれたが、祖父母がシチリアからの移民だ。

H:俳優業をはじめたのは2000年代初頭。人生半ばを過ぎてからですね。

D:22歳で結婚して、家族を養い、ブルックリンの下町で電力会社の整備工として31年勤めた。いつもどこかに俳優になりたいという願望はあったんだ。テレビで俳優が演じているのを見て、「俺もできる」って思ってた。そして、子どもも育ってひと段落したから、やってみるかとな。『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』(NJ州のマフィアたちが主人公の人気ドラマ)のオーディションがたまたまあったから、行ってみることにした。宣材写真なんてもんもなかったけど、持っているスナップ写真を引き伸ばして。ダブルのツーピースの背広を着てな。

H:ギャング映画のオーディションにはやはりギャングスターのような格好で行くんだ。ソプラノズのオーディション…、どんな内容でしたか?

D:思い浮かべながら聞いてくれ。部屋へ足を踏み入れるとそこは漆黒のように真っ暗闇だ。唯一の点灯は、頭上にある小さな電球。12足の靴がぐるっと円になっている。その真ん中に立つんだ。

H:なんか秘密組織の集会みたいな構図ですね。その12人全員が面接官?

D:誰が座っているのかはわからない。見えるのは膝から下だけ。緊張しているのか、37度の真夏日のように暑く汗が吹き出る。そんななか暗闇から声がする、「オーケー。どうぞ」。オーディション開始だ。用意されていたセリフを言わなければいけない。他のオーディションではちょっとセリフの言い回しを変えたとしても大丈夫だったが、ソプラノズのオーディションでは一語一句書いてある通りに言わないとダメだった。

H:ギャング映画のオーディションって、いつもこんなに恐ろしいのか。

D:いや、ほとんどのオーディションにはキャスティング・ディレクターやエージェントがいて、三脚に置かれたカメラに向かってセリフを言うだけだ。ソプラノズが異常に威圧的だった。笑うかもしれないが、俺はオーディションに行くのが苦手だ。能面のように冷たい面接官に向かって、役作りをしてセリフを言っても「オーケー。次」って返されちゃあな。

H:苦手ながらも、オーディションでどんなことに気をつけていますか。

D:「いいですね」「もう一度やってください」「ちょっと違うパターンをください」って彼らが要求するがままに、応じて、終わったら「ありがとうございます」で会場をあとにする。役に合格したかどうかは、すぐには通達されない。大失敗だと思ったオーディションでなぜか2次審査の連絡がきて役にこぎつけたり、これ以上うまくできないというくらい完璧にかましても、音沙汰すらないこともある。要はキャスティング・ディレクターによるんだな。彼らが欲しいものをこちらが提供できれば合格するということなんだ。


H:結局、ソプラノズのオーディションから連絡は…?

D:役はもらえなかった。トニー・シリコやフランク・ヴィンセント(ソプラノズに出ていた俳優)に背格好や顔つきが似ていたというのが理由らしい。

H:ギャング俳優は、ギャング俳優のネットワークがあるんですか。

D:そうだな、俺の場合、映画の共演者はイタリア系ギャング俳優が多い。あとな、この手のイタリア系俳優たちは、自分が役を得られず、他のヤツが“何か別の役”を持っていってしまうことを非常に恐れている。

H:それはどういうこと?

D:たとえば、募集している役が痩せた男だったとしたら、そりゃ痩せた男が選ばれる。でも、オーディションでは他の役に当てはまる俳優を探していることもあるだろう。容姿が全然似ていない友人であっても、オーディションの情報はお互いに教えあわないということになっている。

H:オメルタ(マフィアの掟)のように堅いルール。

D:あとは、キャスティング・エージェンシーから電話がかかってきて、この役に興味ないか? と聞かれることもある。最近では、脚本を気に入ったら承諾することにしている。

H:“ギャング役”と一口にいっても、ごろつきからボスまで多岐にわたりますね。最新作ではボスを演じていますが、過去にはいろんなランクを演じてきた。

D:ギャング映画の役にはランクがある。まずはメイン・ガイ。これは(アル・)パチーノや(ロバート・)デニーロがやる。彼らの周りに脇役がいて、その次に1シーンだけ出演できる日雇いの俳優がいて、最後にエキストラ。俺も『スパイダーマン2』や『ロー&オーダー』(老舗刑事・法廷ドラマ)『コネクション マフィアたちの法廷』でエキストラ俳優としてキャリアをスタートしたんだが、その頃は服も自前だ。「シャツ3枚、ジャケット4着、靴3足もってきてください」と言われてな。その後、役者として成長して役を得ることができると、フィッティングしてくれて服をあつらえてくれる。靴だって用意してくれるさ。現場にもっていくのは自分の身でいい。



極道俳優のお手製、チキンパルミジャーノ。旨かった。

H:ドミニクは容姿もそうですが、ドスの効いた声に仕草など普段からマフィア感が漂います。どうやってその所作を学んだんですか。

D:そういうヤツらと一緒に育ったんだ。地元はブルックリンのカナージーだ。そこにはギャングがたくさんいたし、友だちの多くもギャングだった。入ったら二度と出てこれないという、ギャングが出入りする「ジェミニ・ラウンジ」という場所があったんだが、ここでたむろしていたヤツらが俺の友人でね。そんな環境に育っていると、二つ選択肢があったんだ。こっちの道(堅気)とあっちの道(ギャング)。俺は自分の顔が好きで、体を切り刻まれたくなかったから(笑)、ギャングたちには「元気でな」とバイバイして、こっちの道に来た。あっちの道に行ったヤツらは、もうこの世にいないか刑務所送りだ。

H:こっちの道に来てよかった…。ギャングを演じるのは、他の役を演じるのと比べてどんなたのしみが?

D:ギャングスターを演じるのは簡単だ。まあ俺は容姿がギャングっぽいけどな。よくみんなから「ロサンゼルスで俳優業をしたら」といわれる。ロサンゼルスのプリティボーイズ(俳優)がブルックリンガイを演じようとしても、うまくできないんだとさ。ホンモノのブルックリンガイのように話すことはできない。俺の場合、そこの角っちょでピザを食いながら悪童とふざけて小突きあっていた少年時代からの感覚として、ブルックリンガイがどんな遊びをするのか、どこへ遊びに行くのかなんてものは、もう身に染みついているからな。逆に俺はブルーアイのサーファーにはなれない。

H:俳優になってから、ギャングをうまく演じるためのコツ、何か学びましたか。

D:いい監督は、彼らが欲しいものを俺ら役者から引き出してくれる。最新作『サークル』では、大半のギャング俳優たちは間違いを犯していた。タフガイを演じるには、大声で怒鳴ったり叫んだりしなきゃいけない、と。「それは間違っている。大声で怒鳴らなくても、相手の目をじっと見つめ穏やかにゆっくりセリフを言うだけでもっと秀逸にタフガイを演じることができる」と学んだ。

H:これまで、アル・パチーノやロバート・デニーロなど名だたる俳優たちと同じ撮影現場にいたことがあります。

D:それに、デンゼル・ワシントンにスパイク・リー、メリル・ストリープ、ジョン・ボイド、ジェームズ・ガンドルフィーニ、アーマンド・アサンテ、フィリップ・シーモア・ホフマン…。銀幕のスターと一緒のセットにいると、アドレナリンが大量放出される。興奮もするし緊張もする。彼らは俺よりもうまい役者だけど、俺は彼らと肩を並べて演じることはできる。萎縮はしないよ。

H:俳優として、調子がいい日と悪い日は顕著に出ますか?

D:撮影現場には、毎回、万全な自分をもっていかなければいけない。あれは、『アイリッシュマン』の撮影のときだった。パチーノは毎回セリフを完璧に決めていたのに、デニーロは6回もセリフを忘れたことがあって。きっと彼の頭には、並行して他の映画の脚本があったのかもしれない。

あとはな、『ライフ・オン・マーズ』(テレビシリーズ)の撮影で、ハーヴィ・カイテルが監督から「こうやって演じて」と指示を受けた。でもカイテルは解せない様子。彼は「俺は俺の好きなようにやる。そしたらそれが、監督が欲しいものになるんだ」と。監督は、オーケーと承諾したわけよ。


H:ベテラン俳優は、言うことが違う。映画のセットで、大御所俳優たちと交流したりしますか。

D:『アメリカンギャングスター』(実在の黒人ギャング、フランク・ルーカスを描いた映画)で、俺は裁判シーンのエキストラとして出演したときのことだ。シーンの撮影後に、監督のリドリー・スコットが俺のところにやってきた。後ろにはデンゼル・ワシントンにラッセル・クロウもいたな。監督は「君の演技を気に入ったよ」と声をかけてくれた。デンゼルは親指を立てて、ラッセルはオーケーサイン。俺が「監督の指示通りにやっただけですよ」と言ったら、監督はニヤッと笑った。

H:あのリドリー・スコットに演技を褒められるとはすばらしい。

D:葉巻について雑談もしたりね。その時、俺は自分の名刺を渡す機会もあった。けど、そんなことをして嫌われて、映画のセットから追い出されたくなかったから、渡さなかった。

H:名刺を差し出して営業するなど、余計なことはご法度か。

D:監督は気になる俳優がいれば「あれは誰だ」で済ませるから、名刺なんて渡さなくていい。あと俺は俳優陣にサインをねだったこともない。嫌われたら、撮影現場から追放だからな。

H:役者、特にギャング俳優としての苦悩はどんなところにあるのでしょう。

D:毎日が挑戦だ。昨日ある映画で最高の演技をしたと思ったら、明日はクソみたいな演技になるときもある。台本を読もうとしてなんども目を通してもセリフを覚えられないこともある。演じる役はどんな人物なのか、このセリフを言うときはどんな気持ちなのか、監督はこのシーンでこの役からなにを引き出したいのかをよく見極めるんだ。

あと、役者であるには、神経が図太くないといかん。エキストラのときは300回も同じところを歩かされる。自分の子どもよりも若いスタッフにこき使われることもある。映画では短いシーンだったとしても、その撮影には10時間が費やされていたりもする。


H:その苦悩を乗り越え「ギャング俳優として成長した」と感じる瞬間は?

D:最初は緊張してガチガチだったけど、慣れていくうちに役を自分のものにすることができたときだな。カメラがどこにあって、どこを見て、どこを見ちゃいけないのかも把握できるようになる。演じることで一番難しいことは「演じないこと」だ。なるべく自分らしくいること。自分のキャラクターを少し役に入れ込んでみるんだ。タフガイを演じていても、時折ちょっくら笑顔をみせてみたり。

最新作では、敵に銃をぶっ放した手下に向かってこう言うセリフがある。「片づいたか? ああ腹が減ったぜ」。これは俺のアドリブだ。予告編を見て、はじめて「俺、そういえばこんなこと言ったな」と思い出したほどだ。脚本家って、この役はこういうことを言うだろうと推測してセリフを書くが、「こんなこと言わねえよ」ってことも多々ある。あとは言い回しか。「Are you coming?(あなたは来ますか?)」っていうセリフがあったら、俺なら「Hey, you comin’(おい、お前は来るか?)」って具合に自分流にする。いい監督は、俳優が自分の色を出した役作りを許してくれる。スコセッシも許してくれるだろう。

H:『アイリッシュマン』はようやく今年公開予定ですが、ドミニクの姿を拝見するのがたのしみ。

D:社交ダンスのシーンで、パチーノの隣でダンスしたんだ。パチーノだけにフォーカスがいくような編集になっていたら俺が見切れてしまうが、11日間もかけて撮ったシーンだからたぶん大丈夫だろう。パチーノは気さくな人だ。撮影の合間にも、ソースかグレイビーか*で盛りあがったぜ。

*イタリア系、特にマフィアは、トマトソースなどのソースのことを“グレイビー”と呼ぶ。

H:最後に、ギャング俳優としての心構えを聞かせてください。

D:この業界では、あの俳優どこいっちまったんだ? となんて話はごまんとある。(長く生き残るためにも)相手の俳優だけじゃなく、美容師、メイクアップアーティスト、ケータリング係など俳優を支えてくれる人たちにも敬意を払うことが大切だ。自分が接してほしいように相手にも接する。だから、相手がやさしくしてくれたら俺もやさしくする。クソみたいに扱ってきたら、ケツ蹴りだな。俺は実際に人を傷つけたりはしない。映画の中だけの話だ(笑)。

Interview with Dominick Mancino





All photos by Mitsuhiro Honda
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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