「ありのままの自分を受け入れて」LGBTQの星、60歳のスーパースターエレンが放てば常套句もピリリ。アイコンたちのパンチライン

シティの真ん中からこんにちは。ニュース、エンタメ、SNS、行き交う人から漏れるイキな英ボキャを知らせるHEAPS(ヒープス)のAZボキャブラリーズ。
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5月のテーマは「アイコンたちのパンチライン」。パンチラインとは英語では「ジョークのオチ」、ヒップホップ業界では「印象的な部分」を意味するが、ここでは「発言中で一番の聞きどころ」。人の脳天と心に響く、パンチのある力強い言葉。古今東西、みんなの記憶に残る世界のアイコンたちを編集部がピック、彼らが口にしたパンチラインを紹介する。

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徹子の部屋を文字った邦題番組名で、知っている人も多いかもしれない。今回の主役は、米国民的トークショー『エレンの部屋』のホスト、エレン・デジェネレスだ。苗字がなかなか覚えられない。それはさておき、エレンはキャリアスタートがスタンドアップコメディアン、という根っからのエンターテイナー。コメディアンとして映画やドラマで俳優業もこなしつつ、昼のトーク番組『エレンの部屋』の名司会者として君臨。その明るくあっさりした人柄とユーモア利いたトークで視聴者とゲストの心を掴み、アメリカのお茶の間を賑やかにしている。

2003年からスタートした『エレンの部屋』は現在、16シーズン目に突入。平日毎日の放映で、毎回平均視聴者数は420万以上というメガトン級の人気番組だ。
 ゲストも、ライアン・ゴスリング(エレンがライアンに飛びつくというお決まり芸があるらしい)にジャスティン・ティンバーレイク、レディー・ガガ、ジェニファー・アニストン、ミシェル・オバマ元大統領夫人(番組セットを飛び出して、コストコやドラッグストアに一緒に行く企画などもあり、仲良し)、ラッパーのスヌープドッグ、マイクロソフトのビル・ゲイツ、テニス選手の大坂なおみ、防弾少年団など、映画俳優からアーティスト、政界、アスリートの著名人。そして、世間で話題となっている一般人たちも、エレンのゲストだ。最近だとお片づけコンサルタントの“こんまり”(もはや一般人ではないか)、9歳の天才ドラマーよよか、世界中の国名が言える地理の天才少年ネイトくんなども出演した。エレンの話術に乗せられ、ゲストたちがざっくばらんにカジュアルトークを展開するのが同番組の醍醐味。ゲームだってやるし、番組観覧者にはカメラやキンドル、海外旅行までの豪華プレゼントだってある。ちなみにエレンの声に聞き覚えのある人は映画『ファインディング・ニモ』をきっと観たことがあるに違いない。青い魚ドリーの声優だから。

レズビアンであることを公表し、2008年カリフォルニア州で同性婚が認められたことを機に女優のポーシャ・デ・ロッシと結婚したエレン。誕生日会には、レオナルド・ディカプリオから歌手のピンク、ジョン・レジェンド、リース・ウィザースプーン、アデル、ブルーノ・マーズ、オプラ・ウィンフリー、カニエ・ウェストなどA級リストのセレブリティが集まるなど、業界内の人気者でもある。どんなゲストともわたり合えてしまうエレンの、コメディアン節が利いた3つのパンチラインを紹介しよう。

1、「I like my coffee like I like my men. I don’t drink coffee.(男が好きなように、コーヒーも好き。でも、コーヒー飲まないんだよね)」

1997年、エレンは「私はレズビアンだ」とカミングアウトした。正確には、現在の『エレンの部屋』の前身となるコメディ番組『エレン』で、オプラ・ウィンフリー扮するセラピストに、役を通してレズビアンであることを告げたのだ。いま現在なら、そこまで騒ぐような告白ではないと思う(そりゃメディアはこぞって取り上げられるだろうが)。が、いまから20年前の話。それはそれは、大騒ぎである。「自分に正直になりたい」と、決断してのカミングアウト。彼女の番組やキャリアは波に乗っていたが、このエピソードが放映されてから、彼女の元には非難の手紙や殺人予告までが届き、エレン自身は芸能界から干され、番組は打ち切りまで追い込まれる。その後、彼女のキャリアは危ぶまれ、もう二度と業界にはカムバックできないと囁かれていた。その後、苦労して得た仕事を重ね復帰。『エレンの部屋』で舞い戻る。自身のコメディアン力と性格、話力でゲストを呼び寄せ、大成功した。

それから、2004年から女優のポーシャ・デ・ロッシと交際をはじめ、同性婚が認められたカリフォルニア州で08年に結婚。セクシャルマイノリティの啓蒙活動に熱心で、LGBTコミュニティのアイコン、レズビアンセレブとして、いまの時代のヒーローとなった。そんなエレンが放ったエスプリの利いたジェンダーに関するパンチラインがこちら。

I like my coffe like I like my men. I don’t drink coffee.(男が好きなように、コーヒーも好き。でも、コーヒー飲まないんだよね)

コーヒー自体は好きだけど、実際には飲まない。男性(人間としてということ?)は好きだけど、実際に試すことはないんだよね、という解釈でいいだろうか。一度は全国から大バッシングを受けた自分のセクシュアリティを逆手にとって笑いをとる。エレンに脱帽だ。

2、「Accept who you are, unless you’re a serial killer.(ありのままの自分を受け入れてあげて。まぁ、あんたが連続殺人犯じゃない限りだけど)」

Accept who you are,(ありのままの自分を受け入れてあげて)」。少し綺麗事のようなよくあるセリフだが、世間から非難轟々になりながらも本当の自分を受け入れて、正直さを貫いたエレンが言えば、言葉に魂が宿っている。そして、それだけで終わらないのが彼女のコメディアン根性。「unless you’re a serial killer.(まぁ、あんたが連続殺人犯じゃない限りだけど)」と落としてのパンチラインだ。

ルイジアナ州出身のエレン。大学に進むものの、大学生活に嫌気がさしドロップアウト。その後、レストランチェーン店でのウェイトレスやバーテンダー、ペンキ屋、牡蠣のカラ開け仕事や掃除機のセールスマンなど、さまざまな職種を経験しながら、スタンダップコメディアンとして小さなカフェやバーでドサ回りする生活を送っていた。コメディをやりたいという一心が、エレンの“ありのままの自分”だったのだろう。そして20歳のときに当時のガールフレンドを交通事故で失い、同居していた家の家賃も払えず、アパートの地下にある小さな部屋に泣く泣く引っ越し。ベッドはノミだらけのマットレスだった。

人生のどん底も味わった彼女は、その後、先述のカミングアウト干され事件でまたどん底に突き落とされるも、いまではお茶の間、LGBTコミュニティ、セレブリティから愛されるスーパーヒーローに。芸能以外にも、自身のレコードレーベルを立ち上げ『エレンの部屋』で才能ある原石を掘り起こしたり、不動産業にも着手、高級邸宅を購入してはリノベーションをし売却して稼ぐという。そうして総資産は、約500億円…。どん底からなんども這い上がり、「ありのままの自分」を追求していった先で掴んだ幸せ。この波乱万丈人生もエレンの人気の隠し味だと思う。

3、「I have a rule: if the temperature is less than my age, I don’t get out of bed.(マイルールがあるんだ。もし気温が私の歳より低ければ、ベッドから出ないっていう)」

エレンにとっての「私の歳」とは、61歳のことだ。立ち振る舞いや出で立ちが若々し過ぎて、40代くらいにしか見えないのだが。61歳ということは、華氏61度。つまり、摂氏だと16度くらい。「I have a rule: if the temperature is less than my age, I don’t get out of bed.(自分のルールがあるんだ。もし気温が私の歳より低ければ、ベッドから出ないっていう)」。肌寒い春の気温だと、エレンはベッドから出てこないようだ。

ちなみに、昨年の60歳の誕生日には妻からビッグサプライズプレゼントが。それは「ルワンダのゴリラ保護センター」。無類の動物好きで知られ、自宅でも犬や猫、馬などを飼い、アニマルシェルターへ食糧を寄付したり、動物保護活動家をしても熱心に活動しているエレン。ちなみに、妻とともにヴィーガンでもある。

「上り詰めるところまでいって、そしてすべてを失って、60歳になっていまのところまで這い上がってきたことは、とても信じられない」とかつてエレンは話した。「45歳で一からやり直した。この経験があったことは感謝している。これで強い人間になれたから」。

2016年には、オバマ元大統領から大統領自由勲章(文化的に貢献した民間人に贈られる最高位の勲章のひとつ)を授与され、目を潤ませていた。この“マイルール”も、数あるジョークの一つに違いない。


次回の「アイコンたちのパンチライン」は、
小学校のころの教科書、子どもの伝記全集に必ず登場する、夫人を紹介
(ヒントは、クラスに一人は“きゅうり夫人”と茶化す者がいたっけ)

“Be less curious about people and more curious about ideas.”
(人より、アイデアに好奇心を持ちなさい)

女性物理学者/化学者として、さまざまな“初”を成し遂げた夫人の天才パンチラインを放出する。

▶︎これまでのA-Zボキャブ

「ぼくは、ただの“音楽を演る娼婦”」フレディ・マーキュリー、愛と孤独とスター性が導く3つの言葉。アイコンたちのパンチライン

もしも〈平成邦画の主人公のセリフ〉が英語だったら第二弾。苦虫女、万引き家族の一言を嚙みしめよう。

もしも〈平成邦画の主人公のセリフ〉が英語だったら。空飛ぶ豚・フーテン寅さん・ジョゼ、平成30年間の「あの一言」。

「愛だけが、時間も空間も超えられる」2010s映画、歯の浮くセリフに罵り言葉を改めて細かく見てみましょう。

「シャキっとしなさい!」一筋縄ではいかない2000sキャラたちのパンチなひとことを吟味しよう。

「うげぇ、超サイテー」!—90年代癖あり名映画の名台詞を解剖。“90s米ギャル捨て台詞”まで。

このクソメガネ野郎が!—『E.T.』『スタンド・バイ・ミー』青春の置き土産、80s名台詞を解剖。

俺の仲間たちよ—『時計仕掛けのオレンジ』『タクシードライバー』主人公らの名台詞(英語)を解剖。

Eye Catch Illustration by Kana Motojima
Text by Risa Akita, Editorial Assistant: Kana Motojima
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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