顔じゃなくて、ユーモア重視〈45文字の文章センス〉で出会う“超オールドスクールな出会い系”がいま熱々

出会い系なのに、まさかの“顔写真”がない。自分のこと・求めている人の情報を〈ユーモア込めた文章〉に仕上げ、たったひとつの出会いを探すのだ。
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「写真なし“文字”のみ」新感覚の出会い系プラットフォーム

 ビジュアルが命のインスタなのに、スクロールしても“文字”だけしか出てこない話題のアカウントがある。現在フォロワー43K、いま人気沸騰中の「パーソナルズ(PERSONALS)」だ。一見すると無機質なこのアカウント(テーマカラーはターコイズブルーでかわいい)、実は「クィア限定出会い系プラットフォーム」。出会い系なのに、まさかの“顔写真”がないときた。

写真があると、その人の内面に行き着く前に外見だけで判断してしまうでしょう。つまり左スワイプ(ナシ)の確率を高めてしまうのね」と話すのは、パーソナルズ考案者で、“いろいろあって”5年前にレズビアンに目覚めたケリー・ラコウスキ(ちなみにレズ文化やクィアのアーカイブ写真を共有する別アカ『ハーストーリー(フォロワー139K)』も運営中)。パーソナルズでは、投稿者は顔ではなく文字で勝負。閲覧者は紹介文だけを読んで気になる人を探す、という仕組みだ。

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 出会い系アプリの“あって当たり前”の写真をとっぱらった、「写真なし文字のみ」の超オールドスクールな出会い系サイト、パーソナルズ。新聞の個人広告と、80年代のレズビアン専門エロティカ雑誌の個人広告欄に影響を受けたらしい。個人広告とはなんぞやという話だが、米国では、インターネット以前は新聞に出会いを求める内容の投稿ができ、それは個人広告(パーソナルズ)と呼ばれていた。日本でも昔、雑誌にあった「文通相手募集コーナー」の投稿のイメージだ。

 パーソナルズのユーザー対象者は、レズビアン、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィア、インターセックス(男性、女性の定義にあてはまらない生殖・性的構造を持って生まれた者)、アセクシャル(他者に対して性的欲求を抱かない無性愛者)。大手の出会い系アプリにも、プロフィールに男性・女性以外のジェンダーを入力するオプションをつけたりとクィアのための機能は備わってきている。「でも、それはやっぱりあくまでオプション。私たちクィアのための、ちゃんとした出会いの場所が必要だと思ったの」。

「でっかい尻、でっかい心の持ち主」「私のアートのミューズになって」

 出会い系アプリにおいての判断基準だった写真がないとなれば、注目すべきは紹介文だ(それしかない)。「クィアにとって、自分のアイデンティティを存分に表現できる文章は最強の武器」。基本的に、紹介文は45文字以内と短めだ。「最近では文字数オーバーする人も多いの。でも、あくまで広告スタイルだから、ささっと読めるのがポイントよ」

 45文字に詰め込められたクィアたちのセンスを感じてみよう。

@spookisoap

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件名:でっかいお尻、さらにでっかい心の持ち主(BIG BUTT BIGGER HEART)

28歳、理想主義者、かに座。ガラス職人/指導者。インディペンデント、まったりな夜、ジン、飲み物にアルコール混ぜるのが好き。
カーハート(オーバーオールのブランド)着てるかわいい子に弱い。ユーモアセンスに小生意気を添えた、やさしい子を探しています。
関係は1対1(複数交際なし)で。アウトドア旅行とマック&チーズで甘やかされたい人、募集(25歳以上)。

@en.ruines

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件名:ガレージ・ママ(GARAGE MOM)
26歳。建築家。“ママ”ではないんだけどね。背高めのフェミニンな外見、でも心はタフなヤツ(自分のこと)が、
建築とかについて語り合える人を探してるよ。女の子っぽい子が好みだけど、獅子座はナシ。
私の屋上に来てイチャイチャしよう。好きなことについてひたすら語るのでも。

@irisablaze

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件名:バイセクシュアルのアーティストが“ミューズ”を探しています(BI ARTIST ISO MUSE)
クィアのいろんなカラダを描く練習しなきゃいけないの! 私のために、私の目の前でポーズを取ってくれる人、いない? 
それか最高にアーティスティックなセルフィーを送ってくれるのでもうれしい。それをスケッチにするわ。
私の目を通して、あなたの美しさを教えてあげる。

 日本語にしたものだとちょっと伝わりづらいかもしれないが、これ、件名が秀逸すぎてスクロールが止まらない。「AS STRAIGHT AS MY HAIR(髪と同じくらいストレート)」紹介文ではカーリーヘアと言っているので“ストレート”というのもユーモアか? 「ATHLESBIAN ISO ROMANCE(出会いを求めている“アスレチックなレズビアン”)」デートは一緒にジム通い? もしくはロッククライミング? 「SNACK IS MY LOVE LANGUAGE(お菓子が私の愛の言葉)」。新作は必ずチェックするお菓子マニアの方、どうでしょうか。
 などなど、コピーライターにひけをとらないセンスだ。じっくり時間をかけて考えたことも伺える。

 極論すれば、これはユーモア勝負だ。ユーモアセンスに乏しかったら楽しめないかも? 「イエス。無理して冗談を飛ばす必要はもちろんないわ。でも、もともと新聞の個人広告ってポップカルチャーの一部だと思うの、人々を楽しませたいっていうエンターテイメント要素が根本にあるから」

 でもでも。正直なところ、相手の顔面偏差値はやはり気になります…。「ポストには毎回投稿者のアカウントをリンクしてるから、ページに飛べば顔は見られるわ」。紹介文のユーモアでググッときた者は個人アカウントをクリックしてここから直接連絡する流れだ。

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文字だらけの投稿に混じって、パーソナルズで出会ったカップルの写真も。

 キックスターター効果やメディア露出もあり、掲載への応募は絶賛増加中。インスタのアカウントがあり英語が理解できれば、世界中の誰でも参加可能だ。18歳の学生から47歳のトラック運ちゃんまで毎月約400件押し寄せる応募のなかからケリーが選択し、毎日15件ほどポストする(ユーザーは5ドルの寄付金必須)。「ある日、パーソナルズを紹介したニューヨーク・タイムズの記事を読んだという77歳の女性から連絡が来たの。『インスタしてないけど興味がある』って。すごくうれしかった。だからインスタアカの代わりにメールアドレスをリンクして代行ポストする予定よ」

 外見ではなく、発する言葉、つまり頭の中身で判断するとなると、精神的にマッチしている部分はより多いといえる。ひとつの証拠に「パーソナルズでは“探していた人”に会える確率は高い」そうで、パーソナルズ広告塔のカップルは遠距離の末同棲中だし、ロサンゼルスとスウェーデンで遠距離していたカップルも最近結婚するという。またあまりの人気のため、インスタアカウントからアプリに切り替えようと開発中(今年6月、キックスターターにて資金集めに成功、目標金額400万円を難なく達成)。来年リリースに向け、現在スピードをあげて開発中だ。

「“文章”が自分を表現するのに、やっぱり良いツールだって気づいたんじゃないかな」

 〇〇ジェニックなどのフレーズが横行するビジュアル重視の現代で、文字だけのパーソナルズがウケている理由を、「たぶんみんな、やっぱり文字が自分を表現するのに十分かつ最適なツールだって気づいたからじゃないかしら?」。簡単な写真に頼らずに、自分の内面や求める相手について、ああじゃないこうじゃないと丁寧に文字にする方が、結局、深く伝わるんじゃないかと。
 また、タイミングが良かったとも。「もし、このニッチなクィアコミュニティが大手ティンダーと同時期に生まれていたら、埋もれてしまっていたかもしれない」。確かに、ティンダーの手軽さに出会いを求める男女が沸いていた頃だったら、いまほどの注目度もなかったかも。「ティンダーのことを悪く言うつもりはないわ。私自身、独り身時代はお世話になったし、実際にすばらしい人たちとも出会ったわ。でも経験上、シリアスな関係になるのは難しいと感じた。写真と簡単な紹介文だけじゃ、相手がどういう人を求めているのか、そしてそれが自分にあてはまるのかわからなかったから

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Image via Kelly Rakowski

 テクノロジーが進歩するにつれ人間関係が希薄になっていくとは、もう何遍も聞いた言葉だが「パーソナルズは、一度立ち止まるの。出会いまでのテンポをゆっくりに戻して、ひとつひとつのプロセスを大事にしながら、より時間をかけて考慮する。だから深い関係が築ける。その方が健康的でしょう?」。

 なんだか、互いの姿を見せあわないままに和歌を贈りあって想いを伝え、言葉の駆け引きをしながらもゆっくりゆっくり距離を縮める平安時代のようじゃないか。まあ、とほ〜い平安時代にまで思いを馳せる必要はないが、パーソナリティー(人間性)がじっくり読み取れるパーソナルズは、加速しすぎた出会いアプリ系文化の緩和剤になってくれると信じたい。

Interview with Kelly Rakowski

Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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