政治家にならず、動画制作で政治に入り込む。注目の若手動画クリエイター集団の〈選挙キャンペーン動画〉、緻密な一連

動画を制作する若手のクリエイター集団、彼らは稀有な存在だ。やり方も、やっていることも。
Share
Tweet

選挙のキャンペーン動画で注目を集める若手の動画クリエイター集団がいる。「One Vote At A Time(ワン・ボート・アット・ア・タイム)」、目的は「銃規制」を進めること。だが、銃規制に対して直接的なキャンペーンをおこなうのではなく、自らが政治家として政治に入り込むのでもなく、「銃規制を推進する候補者を当選させる」べく、選挙キャンペーン動画を制作。クラウドファンディングやSNSを活用して資金調達をするなど、若手ならではのスキルを駆使した一連の動画制作で、政治を根っこから変えようと動いている。

動画クリエイターとして。「闘う責任がある」

 なぜ、悲劇は繰り返されるのか。
「私には、“銃は規制されるべきだ”という信念があります」。自らのスキルを武器に、信念を貫くために闘うか否か。

「私は、闘う責任があると感じました」。そう話すのは、ロサンゼルス在住のフィルムメイカー、サラ・ウルマン。2016年6月、当時28歳、政治風刺動画で注目を集めていた彼女は、その動画クリエイターとしてのスキルを銃規制のために、しいては政治を変えるために使うことを心に決めた、と振り返る。フロリダ州のナイトクラブで50人もの命を奪った銃乱射事件がきっかけだった。

 彼女はそれまでも、銃規制に関してSNS上で発信したり、団体に寄付をしたり、デモに参加したり、政治風刺動画を作成したり、といったアクティビスト活動はおこなってきた。同様の活動にコミットする同世代も増えている。しかし、それでもあの銃乱射事件は起きた。言いようのない「非力さ」を感じたという。

「銃規制は難しい」。長年、米国ではそういわれてきた。遡ること2012年、オバマ前大統領は「悲劇を繰り返さないよう、力をあわせて有意義な予防対策を取る」と涙ながらに決意を語ったことがあった。任期終了前の16年にも同じ決意を語ったが、結局なにも進まなかったことからも、その難しさの片鱗が窺える。翌17年は、近代の銃乱射事件で最も多くの死者を出した年となった。
 声を上げることや発信することは大切だが「政治の根本を変えないことには問題は解決されない」。
 やや小難しい話になるが、銃規制への第一歩としてあげられるのが、全米ライフル協会と癒着のある「保守派からの議席の奪取」だ。「銃規制」を推進する人が多い、中道よりプログレッシブ(進歩主義、以下、進歩派)と呼ばれる左派の議席が増えれば、法案が通りやすくなることが期待できる。保守派から議席を奪取するためは「進歩派の候補者を当選させることが必須」。そこでサラは「資金調達をして、候補者のために無料でキャンペーン用の宣伝動画を作ろう」と考えた。
 まずはフェイスブックで賛同者を募った。共同創始者とはその投稿を通じて出会ったという。こうして立ち上がったのが、草の根団体の若手フィルムメーカー集団「One Vote At A Time(ワン・ボート・アット・ア・タイム。以下、ワン・ボート)」だ。


ワン・ボートのオフィシャルウェブサイトより、実際の撮影現場。写真2枚目左、白のTシャツがサラ。

 しかし、大きな壁があった。特定の候補者を支援するために、資金調達をして選挙キャンペーンの宣伝に関わるには、政治資金団体「スーパーPAC(政治活動委員会)」を設立しなければならない。
 スーパーPACは、アメリカの民主政治が “金持ちの、金持ちによる、金持ちのための政治” に堕落してしまった一因として、一般有権者からあまり良いイメージを持たれているものではない。しかし「これがないと候補者のために宣伝動画を作れないのならば、設立するほかありませんでした」。弁護士を雇い、数ヶ月にわたって煩雑なペーパーワークをこなし、16年末に正式に設立した。
 近年、若いアクティビストや政治的な動画を発信するアーティストは増えているが、この「スーパーPAC」を保持している若手アクティビスト兼フィルムメイカーの存在は極めて珍しい。このことが彼女たちフィルムメイカー集団を希有な存在にしているのは言うまでもない。

200万円以上するサービスを、無料で提供する理由

 彼女たちが制作するのは、各立候補者の2分程度の宣伝動画だ。奇をてらったギミックや編集には頼らず、立候補者の人となりが伝わる誠実なストーリーテリングに軸を置く。立候補者には、一般論や「夢や希望を持とう」といった抽象的な理想論ではなく「自身の経験に基づいた話」をするようにディレクションをおこなう。

 たとえば、有権者と同じ地域で「移民として」「有色人種として」「労働階級として」「母として」どんな生活をし、どんなことに問題を感じ、そこにどういった策を投じるために立候補したのか。語り手の立脚点と信念を明確にすることで、有権者に政治を“自分ごと”に感じさせることに繋がり、有権者の関心を惹きつけ訴求力を確実に高めていく。


 こういったディレクション、撮影、編集といった動画制作サービスを、彼女たちは進歩派の立候補者に「無料で」提供している。同等のクオリティの動画制作を他の団体に依頼すれば、(日本円にして)「200万円以上はするのではないか」と話す。よほどの献金者がいるか裕福でない限り立候補者の負担は大きく、その中でももっとも大きな負担となるのが、「宣伝費」なのだ。より多くの有権者にリーチするためには欠かせず、当選に結びつけるにはそれなりのクオリティが求められる。

 サラがこれを「無料」にすることにこだわったのは、立候補者には「限られた資金を宣伝などではなく、視察や調査などもっと有意義なことに割いて欲しいから」。

ミレニアルズ流の「超」効率仕事。4,900万円の資金で、250本のキャンペーン動画

 いまにはじまったことではないが、近年は特に、巨額を投じてセレブや影響力のある人を活用した選挙キャンペーンの例が少なくない。セレブの発言や派手なキャンペーンほどメディアで報じられやすく、またSNS上で拡散されやすいので、結果それらが存在感を増していく。一方で「地方の小さな選挙、および、その選挙への立候補者への関心が低い」。それもサラの懸念するところだった。
   
「地方選の結果は、確実に国全体に影響します」。「銃規制」のために立ち上がった彼女がは、その後、動画でのサポートをする候補者の幅を広げている。「16年の大統領選以来、女性やマイノリティの人権や環境保全など、一般市民の生活を脅かす問題は深刻さを増す一方です。志が同じ、進歩派の候補者であれば、銃規制に限らず、人権、環境問題などに注力している立候補者も積極的にサポートしてきました」と語る。
  
 17年は、バージニア州選挙のために約400万円の資金を集め、19本の宣伝動画を制作。翌18年は、約4,900万円以上を集め、約10州で250本以上の宣伝動画を制作してきた。
 限られた資金の中でいかにしてこれだけ多くの動画を作成できたのか。彼女たちは、遠隔チームと協力しながら、少人数体制の効率的な動画制作フロー構築に成功している。

 撮影スタジオは、サポートする州の賛同者の自宅を借りることで、ほとんどレンタルコストはかからない。また、立候補者にそのスタジオまで来てもらうことで、撮影セットをイチから組み直す手間も時間も省ける。現場の撮影チームは5人ほど。撮影し終わったものから、遠隔拠点(ロサンゼルス)の編集チーム10人ほどに送る。ちなみにメンバーは全員女性だ。



 動画がバイラルになることは狙っていない。「地元のたった数十人が見てくれるだけでも、意味がある」。進歩派を当選させることがいかに大切かを知り、「投票に行く人が数十人増えれば、赤が青に変わる可能性は大きい」からだ。

 いまは、政治キャンペーンを、メディアがトップダウンで有権者に伝えるよりも「地元の一般有権者たちが、家族や友人、近所の人たちに、自ら伝えた方が効果的な時代」。だからこそ、人に伝えたくなる話、つまり上述のような「その人の立脚点が明確な」ストーリーテリングが重要だという。
 
 米国で昨年11月に行われた中間選挙では、過去最多となる女性が立候補し、下院の女性議員数は最多記録を更新するなど、女性の躍進が目立つ結果となった。また、その中からは「初」のイスラム教徒の下院議員や、ネイティブアメリカンの下院議員が誕生したことも記憶に新しい。   

 こうした新たな時代の幕開けを感じさせる時代の動きの影には、直接的ではないにせよ、彼女たちのような草の根活動があったことは、もっと知られるべきではないかと思う。銃に怯えずに生活できる権利、守られるべき人権、そういったものを手にするために、動画や写真、絵画、デザインなど、クリエイティブな力を活かして、政治家にならずして、政治を変える手段がある。彼女たちの姿をみて、これからの若い世代が自分たちの力を信じられるようになれば、きっと未来は明るい。

Interview with Sarah Ullman


今回、スカイプで取材に応じてくれたサラ。

Photos via One Vote At A Time
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

Share
Tweet
default
 
 
 
 
 

Latest

「可視化されていない時代の感覚を、僕らはどう言語化していくか」トライ&エラーを協働する企業と編集者、ソニー×若林恵

「そもそもね、僕らに“伝えたいことがあってはじめた”、というわけではないんですよ」。 企業の伝えたいことを、より魅力的に言語化して届けるために〈企業と編集者〉が組むことは、近年の常套。その関わり方を大きく飛び越えて「何が…
All articles loaded
No more articles to load