「新聞の方がまだまだ読まれる」雑誌カルチャー発展途上のイスラエルで進める〈ジンカルチャーとジン制作〉

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諸説あるが、1920年代に一部のSF愛好家たちの間で交わされた個人出版物がはじまりだとされる。70年代のパンクにハードコアシーン、90年代のライオットガールムーブメントに引き継がれていく。インターネットなき時代にニッチでコアな情報を欲する“物好き”たちにどれほど重宝され、カルチャー形成に欠かせないものだったかはいうまでもない。
2018年。大変便利な世の中になったというのに、その古臭いカルチャーは廃れない。どころか、絶え間なく人間的な速度で成長し続ける〈ジンカルチャー〉。身銭を切ってもつくりたくて仕方がない。いろいろ度外視の独立した精神のもとの「インディペンデントの出版」、その自由な制作を毎月1冊探っていく。今回は「新聞の方がまだまだ読まれる」という、ジンカルチャーどころか雑誌カルチャーもまだ発展中の場所で自費出版するジンを(スカイプ越しに)直★撃。

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中東の超軍事国家という黒き名高さを轟かせながら、中東のシリコンバレーと評判高い国、イスラエル。近年では都市テルアビブスケボーやストリートアート、ナイトスポットといったアングラシーンも盛りあがりを見せ「世界でもっともヒップな街リスト」の常連だ。が、どうやら「ジンコミュニティはまだまだ小規模」とのこと。
「まだまだ新聞の方が読まれている」というほどに雑誌カルチャーは成長段階。その土地でインデペンデントに出版物をつくるって、どんな感じなんでしょ? 今回はそのイスラエルのテルアビブから、毎号多くのコントリビューターからの寄稿で四半期ごとに発信する『Issues Magazine(イシューズマガジン)』に、その制作についてを聞いてみる。毎号、ひとつの“イシュー(問題)”にフォーカスをあてて、それにまつわる様々なストーリーを集約。第1号では「コミットメント(責任)」、第2号では「ボディ(身体)」、第3号では「マネー(お金)」と、誰もが一度は頭を抱えたであろうテーマを扱う。

グラフィックデザイナー兼フォトグラファー兼ライターの編集長はマルチにいろいろできるのに「コントリビューターの人選と、ヘブライ語から英語への翻訳しかしない!」らしい。もうちょっと制作について聞きたいいなあということで、ベルリンにてリサーチ旅行中の彼女と6時間の時差を超えスカイプしてみた。

***

HEAPS(以下、H):こんにちは。今日はよろしくお願いします!えっと、まず自己紹介を。

よろしくね。私はタル・ソフィア(33)。イスラエルのテルアビブ出身。地元では3年間デザイナーとして働いたんだけど、大学でMFAを取るために最近カナダのトロントに引っ越したの。

H:大人の学生ですね。ところで、イスラエルのジンカルチャー、気になります。

イスラエルのジンコミュニティはまだまだ小規模。私はパンクシーンで育ったから「Let’s do it(やっちゃおう)」って感じではやくはじめた方だけど、 まだまだ新聞の方が読まれているから、ジンカルチャーどころかマガジンカルチャーも成長中ということろ。

H:新聞が人気、とは、情報収集の方が重要視されているという感じですかね?

そう。中東のいまの状況もあるから、毎日のニュースを新聞で取り入れるのね。ニュースを流すラジオも一時間に一回あるし。ジンという前にまず“マガジン”、これはまだまだラグジュアリーな分野ね。

H:ジンカルチャーとなると、それよりもさらに小さい。

お店で見かけられる雑誌といえば「いわゆる」なビューティー雑誌ばかり。もしもインディペンデントの雑誌を見つけられたとしてもものすっごく小さくて誰が知ってるの?って感じのもの。つまり、イスラエルではまだまだ“中間”のカルチャーが育ってないの。どちらか極端な方しかないし、西欧っぽいものは多いけど、オーセンティックのものがない。

H:ジンカルチャーも、ある程度育ってこそはじめてカルチャーになりますもんね。それこそ中間のカルチャーに。

そうなの。ジンはアートギャラリーでたまに見かける程度で、レコードショップが主催する小さいジンフェスはあるし、テルアビブのストリートカルチャーも成長中なんだけど、そういったカルチャーと相互関係を育むほどかといえばそうじゃない。やっと少しずつジンをつくる人が増えている、そんなところかしら。

H:ふむふむ。そんな中、イシューズマガジンはどうやって生まれたんでしょう?

「毎号違うテーマのジンをコントリビューターと作り上げる」アイデアが降臨したのは、体調不良でベッドで横になっているとき、夢の中で(笑)。起きてすぐに思ったの、なんてグッドアイデアなんだろうって。その後、夢に出てきた人全員に「ジン作りに協力してくれない?」って頼んで。

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夢から生まれた『Issues Magazine』。

H:夢の中で生まれたなんて(笑)。

もともと、『GRANT(グラント)』という英国の文芸雑誌のヘブライ語版の制作に関わったりと、その他にもグラフィックデザイナーとしてマガジン関係の仕事をしてたっていうのもあって、ずっと自分のオリジナルジンをつくってみたかったの。制作の流れは大体知ってたものの不安もあったけど。

H:なるほど。毎号のテーマ、これまでだと「「コミットメント(責任)」「ボディ(身体)」「マネー(お金)」これらはどうやって決めてるんでしょう。

テーマはどれも「住んでいる場所関係なく、誰もが持っている問題、かつ自分で対処しなきゃいけない問題」にしてる。あと、そういった問題って、「男性っぽい」か「女性っぽい」かってなんとなくあるじゃない。たとえばお金だったら男性、身体の問題であれば女性。そのへんを気にしながら「女性が抱えるお金の問題」も「男性が気にしている身体の問題」も読めるようにしたいとか、いつもそのあたりを悶々と考えてるかな。

H:だから毎回、多くのコントリビューターさんから寄稿を募るんですね。コントリビューターの方は地元で活躍している人を選ぶと聞きました。

そうだったんだけど、最近ではトロント、オーストラリア、ベルリンからも協力してもらってるの! 特にトロントに移住してからはたくさんの出会いがあるから、コントリビューターも増えてるわ。毎号20人前後に頼むかな。大体が学生時代から知ってるイラストレーターやデザイナーもいれば、なかにはナースやヨガインストラクターなんかもいたりして。

H:ヨガインストラクターとお金の問題、ナースのお金の問題も聞ける。おもしろいですね。

それでも足りないときはツイッターやインスタで募集。でも、基本的に横の繋がりから見つける。気が知れてる仲間とつくる方がいいじゃない?

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H:寄稿にはどれくらいディレクションするんですか?

「ガイダンス」程度の指示しかしないかなあ。純粋に他の人の考えを知りたいから。読者にはフィルター抜きにいろんな視点で物事を見てほしいし。となると、がっつり私の視点で編集するというよりはいろいろな考えを「選り集めた」ものにしようと。

H:ほうほう。

次号のテーマは「ドメスティック(家庭)」なんだけど、難民について執筆してくれるライターさんは、私よりも難民についての知識がずっとずっと深い。それから、難民の方に関わって仕事をしている人、実際に自身が難民の方もいる。下手に指示するよりもよく知っている、あるいは経験している彼らに任せた方がおもしろい記事があがってくると思って。あとはね、なんとなく知ったような顔をしている人よりも、実際イシューに面と向き合っている人に興味が湧いちゃうから、そのままを知りたいしね。

H:ジンのフォーカスが、それぞれの「問題」について考えていることだと、なおさらありのままを読んでみたいですねえ。

でしょ? それに毎号100冊しか刷らないしオンライン展開もしてないから、多少の間違いなら許される(笑)。地名度は上がりにくいっていう面もあるけど、自由度が高いから、「普段はしてみないこと」や「これって人にどう思われるのかな」と懸念することにトライしてみることもできるでしょ。彼らには気を張らずにゆるくたのしくやってほしいわ。

H:そうそう、なぜ100部しか刷らないんでしょう?

在庫をためないため(笑)。

H:現実的です(笑)。あと、タルさん自身は執筆しないと聞きました。自分のジンなのになぜ?

それはね、パーソナルのジンとマガジンの間を取るものにしたいから。私が書いたり隅々までディレクションするとパーソナルのジン色が強くなる。雑誌に比べたらボリュームは劣るけど、パーソナルジンにしては大分内容が濃い、ってところ。最新号の「マネー」では、「ミレニアルズ世代のいまどきの金銭問題」や、「世界のお金の90%が物理的な形で存在しない」「第一次世界大戦後のドイツのインフレ」のことだったり。幅広い意見が読めるし、知らなかったイシューと向き合ういい機会をあたえることができる。読者の多くはイスラエルにいる人たちだけど、なるべくアクセスを多くするためにヘブライ語のものは英語翻訳をしてるの。ベルリンとアムステルダム、トロントには置いてくれるお店もあるから。ネットからも買えるしね。

H:「マネー」はデザインもおもしろいですよね。いくつかの貨幣をカバーに使い分けて。

情報が多い分レイアウトはシンプルでクリーンにしてるけど、ディテールのこだわりをたのしんでもらえたらうれしいわ。「コミットメント」ではタイトル部分にスクラッチを入れたり、「ボディ」ではさまざまなボディタイプを意識して、テクスチャーの紙をいろいろと使用してみたの。

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H:オンラインで記事を展開する予定はありますか? いろんな問題のストーリーを集めたり、それから多くに読んでもらうとなると、オンラインは比較的やりやすそうですよね。

そうねえ。でも、「オンラインで読めないもの」を作りたいのがあるの。オンラインって情報が溢れ過ぎてて…ロストしちゃうでしょ。あとね、紙だとが出る度にローンチパーティーができるのも大きいの。

H:発売度にローンチパーティーをしているんですね?

もちろん! 家から飛び出て一緒に遊ぶ口実になるでしょう?

H:しかも、イスラエルでもベルリンでもやっていると。

読者とコントリビューターと関わる大切な機会だからね! ローンチパーティーが一番売れるのよね。小さいけど、関わりの密度は高い、そういうものを作りたいの。だから、今後このジンについては「success(成功)」よりも「improve(進歩)」、だと思ってる。

Interview with Tal Sofis, Issues Magazine

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Photos via Issues Magazine
Interview: Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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