忙しいホームレスも。平日の昼間の炊き出し並びは「ちょっと難しい」
「あまり知られていないようですが、日中に仕事をしているホームレスも多いのです」。彼らの多くは、決まった日の限られた時間に行われるホームレスへの炊き出しや物資支給にあまりありつけていないのだという。この問題を解決すべく生み出されたのが、英国発ホームレスのための「自動販売機」、24時間アクセス可能だ。
これがその自動販売機
水や果物、サンドイッチ、エナジーバーといった食べ物から靴下、タオル、歯ブラシ、サニタイザー(手などの消毒薬)といったものまで、自動販売機の中にあるものは「すべて無料」。ここでは、通貨やクレジットカードではなく、使用できるのはホームレスシェルターや支援団体、および提携する組織団体で配布される専用のキーカードのみ。24時間いつでも利用可能だが、入手できるのは24時間以内にひとり最大3品まで。また、専用キーカードを使い続けるには「週に1度、支援団体に出向いて15分ほどの”チェックイン”と呼ばれるいわばカウンセリングを受けること」が義務づけられている。カウンセリングは、仕事は見つかったかどうかや健康状態などについて話すもので、「ホームレス生活からの脱却を目的としたものです」。
そう話すのは、この自動販売機の発案者はイギリスの非営利団体「Action Hunger(アクション・ハンガー)」のメンバーのフィザイファ氏。よく使う駅で何人ものホームレスと出会い会話を重ねていると、彼らがある共通の問題を抱えていることに気づく。それは「食料や物資の支給が決まった日時に行われること」。それによって「長時間並ぶことになり、それで仕事に遅刻してクビになってしまった」「用事が終わってから向かったけれど間に合わなかった」と口にする者が多くいた。
調べてみると「ホームレスへの物資支給の窓口は日中の4時間だけといったものが多かった」。まるで銀行の窓口のように午後3、4時には窓口が閉まるとなると、日中に仕事をしているホームレスは仕事を休まないと物資にありつけない。
Photo by Clem Onojeghuo
「ホームレスにも仕事や家族や友人との面会など各々に予定がある。よく考えれば当たり前ともいえることですが、見落とされてきた部分ではないかと思います。彼らのスケジュールを尊重しながら社会復帰を長期的に支援できる方法はないか」と考えるようになったそうだ。そこで思いついたのが、この24時間いつでもアクセスできる自動販売機だ。
長蛇の列に並ばなくていいし、好きなときにアクセスできる“コンビニエンス”
社会復帰を目指すホームレスたちが、仕事の前後などそれぞれのスケジュールで利用することができるし、並んで待つ必要もない。運営する側にとって低コストであることも魅力のひとつ。自動販売機一台で1日あたり合計100人までが利用できる物資をストックできるそうで、1日1回足りなくなったアイテムを補充するだけ。運営する人員は少なくてすむ。
ただし、「この自動販売機は、既存のチャリティ活動に取って代わるものではありません」とフィザイファ氏は強調する。これまでの活動で補いきれなかった部分を主にホームレスの自立に向けた長期的サポートを目的としたもので、既存のチャリティと協働していくことを目指す。
昨年12月に英国ノッティンガムに第一機が設置された同自動販売機、来月2月にはニューヨークにも設置予定。その後はカリフォルニアやシアトルなど、全米に設置数を増やしていく計画だそうだ。
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Photos via Action Hunger
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine