「わたしの体の記録」が一ヶ所に。オンラインの日常的なケアからオフラインの定期検診まで連動、女性のためのアプリ×クリニック

「私たちは、“女性による、女性のため”の新しいヘルスケア医療モデルについて考え直しました」。女性の体のための人気アプリから、クリニックが誕生。オン/オフラインの、パーソナライズケア。
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アプリから誕生。“女性のため”の、いまどきクリニック

 病院に行かずとも病状を診断してくれたり、健康状況を把握してくれるアプリが数多く登場する昨今。ヒープスでも、朝立ちチェックアプリ「モーニング・グローリー」やアルゴリズムで危険日を特定する避妊アプリ「ナチュラル・サイクルズ」、すっぴんセルフィーを送ることで医師が遠隔でニキビケアをしてくれるアプリ「キュロロジー」などを取り上げてきた。

 女性のための健康管理アプリ「Tia(ティア)」もその仲間の一つ。2016年のローンチから90日間でユーザー1万人を突破、現在は3万人以上が愛用している。生理周期から排便、セックスやストレスなど日常の心身の動きをトラッキングする機能を搭載し、「頭痛がする」「乳房に違和感が」「セックスに痛みを感じる」などの悩みにはチャット形式でアドバイスし、必要に応じて医療機関探しをしてくれる。“医学の資格をもったポケットサイズのベストフレンド”を謳う。今回紹介するのは、このアプリ「ティア」と連動する、女性のためのクリニック「Tia Clinic(ティアクリニック)」。オンラインだけでなくオフラインでも一人ひとりのパーソナルケアを、と今年3月ニューヨークにて開院した。

 ティアアプリやソーシャルメディア、イベントを通じて集まったユーザーからのフィードバックをもとに、クリニックのサービス内容を決定。子宮頸がん検査などの婦人科検診に、IUD(避妊のため子宮内に装着する小さな器具)挿入、不妊検査、インフルエンザの予防接種といったものから、慢性片頭痛の治療などを含めた日常的なケア、さらに鍼治療まで、女性の健康を総合的に扱っている。


一人ひとりの女性の健康を管理する、ティア・アプリ。

 クリニックの内装や、女性の懐に入り込む気遣いも特筆したい。フラット&カラフルなアプリからそのまま抜け出したような内装デザインやインテリア、ギャラリーのようなデコレーションは、女性デザイナーが手がけたもの。元グーグルの社員でティア共同設立者のキャロライン(28)は「アプリユーザーの意見と、私自身のいち患者としての体験を反映させました」。従来のクリニックにありがちだった無機質さや殺風景さ、行きにくさを払拭。女性に対するちょっとした心遣いにも長けていて、検査時に着る着物風の検診衣は「乳房検査や内診の際に快適か、着衣した女性がどんな気持ちになれるのか、多様なボディタイプに合うのかなどを確認するため、ユーザーたちに試作品を着てもらって作り上げたデザインなんです」 とのこと。肌寒くないよう診察室の温度も暖かくし、靴下も用意。待合室では、CBD入り炭酸水だって飲めるのだ。

 通院するには会員登録が必要で、年間150ドル(約1万6,000円)、または月額15ドル(約1,600円)と、手の届く値段だ。会員は、アプリで担当医とのチャット、当日予約、スマホからの処方箋申請、検査結果の閲覧、コミュニティイベントへの参加など、通常のクリニックにはなかろうサービスが利用できる。保険にもバッチリ対応してくれるので、法外な請求額が来るのではという精神的不安も解消(加入保険が対象か不明な場合、保険証の写真を撮り、メールすれば教えてくれるという簡潔さ)。朝から夜まで残業で、平日にはなかなか婦人科に行く時間がないという働き方の女性のため、土曜もふくめて夜9時まで診てくれる日を設けている。



Photo: Kezi Ban of Blonde Artists / Courtesy of Rockwell Group

アプリとクリニックが連動。自分の健康記録をオン・オフライン通じて一ヶ所に。

 至れり尽くせりのティアクリニック。誕生の裏には、設立者であるキャロラインが持っていた従来の婦人科に対する疑問があった。婦人科に通院するも医師の誤診により、3年後に多嚢胞性卵巣症候群*であったことが発覚。さらに「婦人科の診察室の椅子に座り、男性の医師から『はい、避妊薬。今度は、不妊になったらいらしてください』と言われて」。もちろん、彼女のいち経験であって、すべての婦人科にいえることではないが、曰く「いままでのヘルスケアのシステムにおいて女性患者は、困惑、取り残されたような感覚などのネガティブな感情をもっていた。私たちは、“女性による、女性のため”の新しいヘルスケア医療モデルについて考え直しました」。

*卵胞が発育するのに時間がかかり、なかなか排卵しない疾患。

 ある調査(2017年)によると、ニューヨークでの新規患者の平均待ち時間は婦人科医で19日、プライマリ・ケア*で26日と、予約から診察までに膨大な時間がかかっていた。婦人科と一般内科のクリニックが別々となると、予約の手間もかかるし、自分のこれまでのカルテも各々の場所にある。ティアクリニックなら、アプリ経由で自分の健康記録が1つのクリニックに集まるから、パーソナライズされたケアを受けられるのだ。たとえば、婦人科系の悩みで診察を受ける際に、アプリに記録された健康状態から睡眠習慣や月経周期についての相談やアドバイスをもらったりすることも可能だ。1回の予約で女性の健康を総合的に診察してくれるシステムなのだ。

*健康診断の結果相談といった日常的な健康問題から、緊急時の対応までと幅広く行う総合医療。


Photo: Kezi Ban of Blonde Artists / Courtesy of Rockwell Group

 現在クリニックはニューヨークのみだが、全国のユーザーが通えるよう、今後各所にクリニックを増やそうと意気込む。アプリ、パーソナライズ、今風の内装デザイン、そして何より、オンラインとオフラインを通じて体のことを一ヶ所に集約して、定期的な検診をよりスムーズに。ティアクリニックは、どこか行きにくさを感じていた婦人科、日常的には通えなかったクリニックを、現代の女性のライフスタイルに違和感なく溶け込ませている。

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Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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