青二才、十四人目「ソフトウェアエンジニアでもないしプログラマーでもない。テックを使う“文化のアーキテクト(建築家)”だ」

【連載】日本のゆとりが訊く。世界の新生態系ミレニアルズは「青二才」のあれこれ。青二才シリーズ、十四人目。
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「最近の若いのは…」これ、いわれ続けて数千年。歴史をたどれば古代エジプトにまで遡るらしい。みんな、元「最近の若者は……」だったわけで。誰もが一度は通る、青二才。
ゆとり世代ど真ん中でスクスク育った日本産の青二才が、夏の冷やし中華はじめましたくらいの感じではじめます。お悩み、失敗談、お仕事の話から恋愛事情まで、プライベートに突っ込んで米国から世界各地の青二才たちにいろいろ訊くシリーズ。

十四人目「ソフトウェアエンジニアでもないしプログラマーでもない。俺は、“文化のアーキテクト(建築家)”だ」

ついこの前、インパクト大な青二才を4人続けて紹介したばかりですが、ここでとどめの1人を放出。なんでいま、って? それはね、重大発表もあるからです。
さて、準備はいいですか。よくなくてももう紹介します。アイドリス・サンドゥ(Iddris Sandu)、22歳(取材時は21歳)。いま再注目の「テック界の天才」だ。月並みな表現でゴメンナサイ、ニューヨーク・タイムズをはじめ、彼をフィーチャーする記事のヘッドラインには総じてその文言が並ぶんだもの。

10歳にして、初代「iPhone」の登場を目の当たりにして新世紀を感じ、プログラミングを勉強しはじめ、ひょんな出会いから、13歳でグーグルのインターンを経験。それからというもの、15歳でツイッターのデータ解析にはじまり、16歳でインスタグラムへアルゴリズムを提供すれば、18歳を過ぎる頃には、ウーバーやスナップチャットのコンサルを歴任。もう、これだけで「テック界の天才」と呼ばれるに相応しい軌跡を辿る持ち主だけれども、それだけに止まらない。アイドリスの電話帳には、カニエ・ウェストやジェイデン・スミスらの名が並び、2017年には20歳で「アマゾン・ゴー」よりも早く、世界初のスマートショップをラッパーのニプシー・ハッスルをポップアップでつくってしまうなど、テック界とポップカルチャーを縦横無尽に駆け巡る、デジタル時代の寵児なんです。そんな彼は、自分を「カルチュラル・アーキテクト(“文化の建築家”とでも訳そう)」と呼ぶ。カルチャーを理解してテックを使いこなして新しいサービスを具現化する彼は、文化の基盤をつくれるということか。それについては彼自身の言及もあるのでインタビューを読んで欲しい。

はい、じゃ、重大発表いきますよ。来たる紅葉の秋、9月、ヒープスはアイドリスを日本に呼んでイベントをします! そう、MEETHEAPS Vol.06は、アイドリス・サンドゥに決定しました。青二才シリーズから初のMEETHEAPSゲスト。イベントの内容はというと…まだ企画段階。先週はアイドリスとスカイプで企画会議をしました(アイドリスのアイデアが多すぎて話が縦横無尽に飛び散った1時間でした)。今回も、イベントを一緒に創っていきたい人、コラボレーター、企業さまも大歓迎。詳細は、FBイベントページに随時アップデートしていきます(記事最後にもURL掲載)ので、是非「興味あり」をポチッとしてね。

さて。そろそろいきますか。LA在住のため、スカイプでのインタビューを申し込んだところ「実は、いまちょうど、ニューヨークにいるから会って話そうよ」と、ラッキーにも対面取材が実現。取材中、たびたび、おいてけぼりを食らうほど、天才の桁違いのマシンガントークが炸裂した一時間強、どうぞ、ご静聴あれ(テンポ良しの1万字インタビュー)。「青二才(?)、アイドリスのあれこれ」。

HEAPS(以下、H):今回はなんでまたニューヨークに?

Iddris(以下、I):リサーチと、打ち合わせ、あとは取材を受けるために来たんだ。数ヶ月に一回はニューヨークに来てるよ。

H:忙しいなか、今日はありがとう。早速はじめちゃうけど、カリフォルニア育ちなんだよね? 天才といわれるアイドリスの幼少期を知りたい。

I:両親はともにガーナ生まれガーナ育ちで、俺が3歳のころにアメリカに越してきた。小さなころは医者になるのが夢だったんだ。あと、メンサ(MENSA)*に入会してたから、テストを受けたり、知らない人がよく家に来たりしてたのを覚えてる。

それはさておき、俺はカリフォルニアのハーバーシティっていうエリア、コンプトンの外れにあるエリアで育ったんだけど、みんなコンプトンと耳にすると…。

*1946年にイギリスで設立された、全人口の内上位2%のIQ(知能指数)の持ち主のみが入会できる国際グループ。

H:やっぱり、ギャングスタ、刑務所、キャデラックって感じ(笑)。

I:コンプトンで育ったっていうといま君が言ったようなものだったり、「バスケットや野球をして、友だちと遊んでた」なんてイメージを持たれることが多いけど、当時、俺は誰にも理解されずに、独りで自分自身の道を進んでたんだ。俺のなかには、小さいながらもすでにマルコム・X*の精神と、スティーブ・ジョブスの精神が同居していた。

*公民権運動が激化した1960年代に活躍した、黒人公民権運動活動家。黒人運動団体「ブラック・ムスリム」や「アフリカ系アメリカ人統一機構」を率いたが、暗殺された。黒人解放運動に多大な影響を与えることとなった。

H:つまり活動家の精神と、テクノロジストの精神があったと。プログラミングを独学で勉強しはじめたのは10歳のときだよね? きっかけはなんだったんだろう。

I:間違いなくスティーブ・ジョブスだね。もともと、物心ついた頃からアップルに夢中で、初代のアップルコンピューター「アップル1」や「アップル2」、それからコモドール社(いまはなき米コンピューター会社)なんかについて調べるのが幼い自分にとってすごく重要なことだったんだ。2007年だったかな、アップルが初代iPhoneを発表したとき、ジョブスによる発表会で、彼は「SDKもリリースする予定だ」と…

H:ちょっ、ごめん。わりこんで申し訳ないんだけど、SDKってなに?

I:「Software Development Kit(ソフトウェア開発キット)」のことだよ。iPhoneの登場以前だと、携帯業界はブラックベリーに一点集中で、当時は誰かが自由にアプリを作れる場所というのがなかったんだ。でも、アップルのSDKの登場で、それが可能になるんだっていうのが、いろいろ調べていくうちにわかって、それで俺は「次の1000年が変わる!」って。10年じゃない、1000年が変わると確信したんだ。子どもながらに新たな時代の到来を感じたんだよ。思い立ってすぐに勉強をはじめた。「プログラミングって、いったいなんだ?」ってところからね。2年間、晴れの日も雨の日も図書館に通いつめた。ユーチューブで学べる時代じゃなかったしね、まだ。


アイドリスくん。カフェで落ち合った。

H:どうやったらそんな10歳になれるんだろう(笑)? 図書館では具体的にどんな勉強を?

I:コンプトン図書館と、ハーバーシティ市立図書館に通ってたんだけど、アセンブリ言語やBASIC(ベーシック)のような古典的なプログラミング言語に関する書籍から、Java(ジャバ)、C#(シーシャープ)、Python(パイソン)、Javascript(ジャバスクリプト)…………などに関する書籍をとことん読み漁った。10歳から12歳とちょっとまでの間かな。

H:(途中からついていけなくなったけれど)、たった2年間でプログラミングの基本を習得できてしまったわけだ。

I:2年間で、プログラミング言語しかり、「アイエヌティー」「ブーリアン」「プログラミング変数」などのプログラミング用語は頭に叩きこめたんだけど、じゃあ、いったいどうやってそれを実践的に活用するのか、ということについては、当時てんでわからなくて。

H:そんなタイミングで、グーグルでのインターンの話が舞いこんできた、と。

I:まさにその通りで。

H:これまた、どんないきさつ?

I:俺が市立図書館で毎日毎日借りて読んでいたのは、誰も読まないようなプログラミングに関する書籍でさ。そしたらある日、男性に話しかけられたんだ。「やあ、突然で驚かせて悪いけど、とある本を探していて、フロントに聞いたら君が持ってるって聞いてね。ここ2日間、プログラミングに関する本をずっとここで読んでるみたいじゃないか。君は、この本を読んで、何をしてるんだろう?」って。

H:きたきた。

I:そう聞かれても、本を読んでただ情報に浸る以外に別に何をしているわけでもなかったから、なんて言っていいかわからなくて。とりあえず「ただ、この世界にインパクトをあたえたい」って答えたんだ。

H:かっこいい。で? そしたら?

I:少しだけ他愛もない話をした後に、「オーケー。じゃあ明日もここで会えるかな。君にサインしてもらいたい書類があるんだ」。それで、彼が翌日持ってきたのが、グーグル社でのインターンシップ同意書だったわけ。

H:アイドリスさん、それはドラマティックすぎやしませんか?(笑)。ちなみに、13歳がグーグルでインターンってさすがに普通のことではないよね?

I:基本的にグーグルの規則では15歳以上でないとインターンできないことになってるんだって。だから、俺は彼の付き人としてインターンをさせてもらったんだ。

H:特例中の特例だ。インターン中は何をやっていたの?

I:彼は当時「グーグルプラス」のチームを率いている人で、7ヶ月ほどついてまわったんだ。一緒に会議に参加して、たとえばUI(ユーザーインターフェース)実装における配置、配色について意見を述べたり、アプリなどのコーディングについて実践的に学ぶ機会をそこで得られた。

H:その経験をもとに、怒涛の経歴がスタートします。15歳でツイッター社のデータ分析を担当し、高校在学中に母校の生徒や教員の管理プログラムアプリを制作してオバマ前大統領に表彰されたり。インスタグラム社にもアルゴリズムを売却など、高校時代から大忙しに。そのあいだも学校には普通に通っていたの?

I:高校は2年生の後期には卒業したんだけど、卒業までは通っていたよ。ちゃんと毎日ね(笑)。2年生のときに、その学校の管理プログラムのアプリを作ったんだけど、それを口実として教室にラップトップの持ち込みを許可してもらったんだよ。おかげで、授業中は量子力学だったり、人工知能や、いまとなっては興味がなくなってしまったけど、ビットコインやイーサリアムなどのブロックチェーン・テクノロジーについて勉強してたんだ。で、毎日6限目には学校を出て、インターンへ向かうっていう生活だったね。

H:同級生とは話合わなさそうだね(笑)。いまでも高校時代の友だちとは連絡とったりするの?

I:いまでも連絡はとるよ。つい最近だと、ジ・インターネットってバンドのギターやってるやつと連絡をとったよ。

H:スティーブ・レイシーじゃん。同級生なんだ?

I:彼は俺の一つ下の学年だけど、同じ高校に通ってたんだ。それからタイラー・ザ・クリエイターなんかも校舎に遊びにきてた。タイラーは当時スタバで働いてたんだけど、スタバの制服のまま、うちの高校にきてラップしてたよ(笑)

H:じゃあ、わりとカルチャー界隈の人たちが集まる高校だったのかな?

I:そういうわけでもないかな。コンプトンにおけるステレオタイプを超えられたのは、俺らの世代ではスティーブ・レイシーと俺の二人だけだと思う。知る限り、だけど。

H:ちなみに、その後も10代で、ウーバーやスナップチャットといったみんなが知るテック企業のコンサルティングなどをしてきたアイドリスだけど、これまでにシリコンバレーを拠点にしたことはあった?

I:会社に勤務したのは、13歳のときにインターンしたグーグルだけで、あとは基本的にすべて遠隔でまわしてきたからずっとLA拠点なんだ。昨年、マイクロソフトに買収された「ギットハブ(GitHub)」は知ってる? 開発者のためのインスタグラムみたいなもので、みんな自分のコーディングスキルを披露する場といったところなんだけど、ギットハブを通じて毎月20件以上「ベイエリア(シリコンバレーのある地域)に来て欲しいんだけど」なんてオファーがある。でも、拠点を移すつもりはないよ。

H:なんで? どんなに好条件でも?

I:俺、プログラミングしているときは机の上で足を組むことだってあるし、聞いてる音楽に合わせてリズムだって刻んじゃう質(たち)なんだよ。数週間前に友人を訪ねに行ったグーグルのオフィスではさ、みんなシャッキと背筋を正して作業してるわけ。それが飯を食うときであっても、だよ? それ見て、みんなロボットみたいだな、って。

H:へー。

I:食べることだけじゃなくて睡眠だってとることができて、まるでディズニーワールドみたいな場所なんだけど、俺的に、あそこで生活している人は社会的じゃないと感じちゃうんだよね。

H:筆者も含めて、プログラミングになじみのない人に、プログラミングについても教えて欲しい。たとえば、アイドリスにとって最も骨の折れる作業は?

I:難しいことね…、オーケー。プログラミングをやってる人だったら、みんな口を揃えていうと思うんだけど、プログラミングって、たった一文字のスペルミスでも、すべてが台無しになりうるんだ。たとえば、「ある一人の男を月に送りこむプロジェクトのプログラム」を君が書き込んでいるとして。当たり前だけど、そこでは一字一句のミスも許されないわけ。

H:校正抜けがちだと向いてないですね…。

I:何が一番難しいって、結局は鍛錬(たんれん)なんだよ。プログラミングには忍耐、反復に基づく鍛錬が必要不可欠だってことを理解しなきゃいけない。誰だって、はじめからうまくいくやつなんていないからね。辛抱強く、自分のコードに目を通す。正解にたどり着くまで試行錯誤を繰り返すことで、3、4日でアプリを作れるようにだってなるんだから。ところで、“Wabi-Sabi(わび・さび)”って聞いたことある?

H:もちろん。理解しているかと聞かれれば、それは定かではないんだけど。

I:わび・さびは俺が規範とする観念なんだ。“完璧”は存在しないということや儚さ、自然を理解し、受け入れること。そうすることで、これまで人類が作ってきたアプリや、プロダクト、デザインを超越できると思うんだ。


H:デジタルと、自然の摂理。相反する二つの観念を汲み取るアイドリスはスティーブ・ジョブスさながらだね(笑)。昨年の秋には、スタンフォード大学で特別授業をおこなったんだよね?

I:UX(ユーザー・エクスペリエンス)とプロダクトデザインについての授業をおこなったよ。

H:プログラミングをこなしながら、あちこち飛び回っているにも関わらず、あらゆるものに理解や造詣の深いアイドリス。寝る時間はちゃんと確保できてるの?

I:もちろん。3年くらい前、たぶんあれはアラン・ワッツ*の本だったと思うんだけど。そのなかで「もし世の中が8時間睡眠を推奨するならば、4時間睡眠を週6日続ければ、24時間、つまり、もう1日得られるわけだ」と読んでから、毎日4時間睡眠にできるようにトレーニングを続けてきた。

*1915年イギリス生まれの哲学者。1938年にアメリカ西海岸に移住。東洋哲学を西洋に紹介し、普及させた第一人者として知られており、仏教、禅に傾倒した著作が多いのが特徴。

H:かー、ストイック。じゃあいまはだいたい1日4時間睡眠だ?

I:うん。体調が悪いときやストレスが溜まってるとき、疲れ切っているときはもちろん別だけどね。それに、俺は起きたらすぐに頭の準備ができてるタイプで、それはたぶん、俺がADD(注意欠陥障害)だからだと思うけど。

H:えっ、ということは集中力はあんまない?

I:それが、20時間くらい一つのことに集中することもできるんだよね(笑)

H:集中できない、とかは少ない?

I:ひっきりなしだよ(笑)

H:集中できないときのアイドリス流の解決方法は?

I:こいつ(iPhoneを指して)の電源をオフにする。なにが一番集中を削ぐって、こいつなんだよね。だから、俺が集中しようとしてるときには、先にみんなに電話をかけて「俺、いまから集中するから」って伝えて、スマホの電源をオフにする。
こいつの電源をオフにしただけでは集中できない、ということももちろんあるよ。そんな時にはいつも、この問いを思い出すようにしている。「今日一日でどれだけ“ノー(No)”を言った?」
スティーブ・ジョブズがジョナサン・アイブ(アップルのチーフ・デザイン・オフィサー)に投げていた質問だよ。もし君がその日に起こるさまざまな誘惑やチャンスに“ノー”を言えたとすると、しっかり集中できてるということ。複数のことを同時にこなすこともできるけど、どんなにうまくこなせる人だって次第にその手は疲れてくるからね。マルチタスキングが求められる現代においてしっかり理解すべきなのは、一つずつタスクを達成しよう、ってことだね。

H:ちなみに作業中に、なにかつまむものはあるの?

I : 最近、体に良いものを食べようと心がけているけど、作業中はチップスだったり、なにかを口に運んじゃうね。あとは水。コーヒーも普段あんまり飲まないし、お酒、タバコ、ウィードだってやらないから。意外でしょ?(笑)

H:そう言われてみれば(笑)

I:ウィードは吸わないって言ったらみんなびっくりするからさ。「いかにも吸ってそうじゃん」って(笑)。でも俺はいつもナチュラルにハイだから別にいいんだ(笑)

H:(笑)。ところで、2017年には、アマゾン・ゴーよりも早く、「世界で初のスマートショップ」をラッパーのニプシー・ハッスルと企画したよね。当時、アイドリスは20歳。音楽やファッション業界に足を踏み入れるきっかけはなんだった?

I:俺は昔からおしゃれ好きなキッズだったからね。

H:世の中のプログラマーに対するイメージとはかけ離れていますね(笑)

I:テクノロジーのインターセクショナリティ*を考えたときに、改めて俺は俺でいなきゃいけないと感じて。「自分のスタンス、スタイル」をテック業界で明確にするべきだと思ったんだ。

H:黒人でテック界にいるアイドリス。「黒人とテックのギャップを埋めたい」ってインタビューで言っていたもんね。スタイルでいうと、テックとカルチャーを横断しているところ?

I:テックと音楽やファッションを組み合わせたのは俺が初めてというわけじゃないんだけど、誰も真剣に気にしちゃいなかったと思う。だって、見てくれだけのとってつけたようなものしかこれまでなかったから。ニプシーとのポップアップストアがうまくいった理由は、その逆だったから。

H:というと?

I:そのストアでは、ニプシーの長年のフォロワーたちがニプシーの限定曲やコンテンツを、特別にダウンロードできて、“ニプシーとパーソナルに繋がってるような体験”ができた。いまでいうブランドと顧客が直接つながる「D2C」みたいなもんだよね。間を通さずに、アーティストから直接受け取る。正真正銘のストーリーテリングがそこにあったんだよ。
こういった企画を今年はいろいろ考えてる。コンプレックス・コン**では確実になにかあるよ。あっ、でもこれについてはどれだけ話して良いかわからないから、これ以上は突っ込まないで(笑)

*人種や宗教、国籍、性的指向、性自認、階級など、ひとりひとりが持つ社会的、文化的属性や、それによる差別の分類がどう多層的で”交差”しているかを分析する社会学の理論の一つ。
**米国の大手メディア「コンプレックス」がカリフォルニア州ロングビーチにて主催するファッションやミュージック、ストリートカルチャーの祭典。

H:気になるところではあるけど、マネージャーからの目配せもいただいたので、了解です(笑)。ニプシー以外にもカニエ・ウェストやジェイデン・スミス、バスケットボール選手のステフィン・カリーらと交友があるみたいだね。出会いはいかにして?

I:「得る前に、与える」「求める前に、与える」ってことを初めて誰かと会うときには徹底していて。たとえば、ジェイデンと初めて会ったのは、ラスベガスにあるヴェネチアンホテルだったんだけど、「(彼に)なにか見せるべきだな」って思って。ホテルの部屋に戻ってすぐに、4時間くらいでアプリを作ったんだ。彼のMVで一番有名な『ICON(アイコン)』ってわかる? あのビデオを丸っと3Dに落とし込んだ。あのムーンウォークが立体的に見えるんだぜ?  翌日、それを彼に見せたら、「まじかよ、これやばいじゃん」って。それで一気に打ち解けた。

H:行動と仕事の速さ、あっぱれです。

I:自分自身に明確な意思があるならば、なにかを与えて相手の感情を掻きたてる。特にヒップホップコミュニティに関していうとね。テック業界にいる人の多くはカルチャーを理解しようとしてない。その逆もまた然りで、カルチャー界隈にいる人たちは、テック業界にいる人をジャッジしがち。ただ、一度その隔たりを埋めて対話を進めることができれば、大きく前進すると思ってて。

H:近年、ファッションとテクノロジーの融合についてはより注目を集めているけど、テック業界のメインストリーム(ベイエリア)とポップカルチャーの結びつきって、まだまだ弱い気がするっていうか。アイドリスのいうように、見えない隔たりがあるような印象を受けるんだけど、テックとファッション、ひいてはポップカルチャーの親和性に対してはどう感じてる?

I:ファッションとテックに関しては、いがみあってる兄妹みたいだよね(笑)。両者のあいだには親和性がたーーーくさんあるのに。互いに意思疎通すればすばらしいものが作れる。そのことに気づいたら勝ちだよね。

少し話は飛ぶけど、その昔、ファッションをはじめとするさまざまな産業にテクノロジーがもたらしたものって、生産性の向上、そしてそれによって、より多くの人々が多くのより良い製品にアクセスする機会を持てたということ。つまりそれは、民主化のことだったと思うんだ。

H:より良いものが多くの人に届くという、モノの民主化。

I:そう、“クオリティの民主化”だ。でも近年、製品の値段は下がるんじゃなくて、どんどん上がってると思わない? スマホだって、まだまだ値段が上がっているし。民主的な概念はそこにはないよね。

H:そういう姿勢には断固反対なわけだ?

I:間違いなくね。これ以上、スマートトースターみたいな、スマート◯◯なんてものは必要ない。必要なのは、地球上に存在するすべての社会においての、クオリティの民主化だ。NYやLA、シカゴなんかのテクノロジーが発展しきっているところに住むと「基本的な需要」を忘れちゃうんだよね。まだまだマックブックを必要といている地域だってある。まずは、テクノロジーを民主化させていくことの方が先決だと思う。それが俺たちのチームの第一目標。だから俺は、自らを“アーキテクト(建築家)”と呼ぶんだよね。自分はソフトウェアエンジニアでもなく、プログラマーでもなく、“アーキテクト”。

H:そう、そこ詳しく聞きたかったんだ。なぜアイドリスは自分のことを“カルチュラル・アーキテクト(Cultural Architect)”と呼ぶのかについて。

I:辞書で“アーキテクト”という言葉を調べると「建物を建てる人」のほかに「アイデアの構想を生み出す人」だったり「想像を実際のかたちにする人」とあるんだ。俺は、何かを作り出して、それを多くの人が利用できるように民主化していく。

H:建築はその土地の生活基盤を作りますねよね。テクノロジーが普及していけば、現代の生活の土台になるし、カルチャーへの理解が深いほど文化の基盤にもなる。

I:みんなご存知のヴァージル・アブロー*が「現代の若きアーキテクツは建物を建てずに世界を変えることができる」と言っているように、俺たちの世代は現代の指針にもなりうるし、このミレニアム(千年紀)における変革ともなりうると思う。


*カニエ・ウェストのクリエイティブディレクターで、建築家、アーティスト、デザイナー。また、ルイ・ヴィトンの新メンズ アーティスティック・ディレクターに同メゾン初の黒人デザイナーとしても抜擢された。

H:いま21歳のアイドリスは、ミレニアルズより一世代下の「Z世代」にあたると思うんだけどヴァージルもいうように、なぜ、特にZ世代が、変革の可能性を秘めていると思う?

I:俺たちの世代は、ほかの誰かが問題解決することを待ち続けるのではなくて、自ら問題解決に向けて闘っているからだと思う。だから、俺たちの世代がチェンジメーカー(社会変革の担い手)だといわれるようになる日もそう遠くはないんじゃないかな。

H:先ほど少し触れていたけど、アイドリス自身が取り組む変革は、テクノロジーの分野により多くの人種が参加している「多様化」と、テクノロジーが広く普及する「民主化」ですよね。実際にどうやって取り組んでいこうと思っているのだろう。

I:何よりも進めなくちゃならないのは、テック業界のインフラストラクチャーにおける多様性の実現だと考えている。たとえば、いまのところ、俺が作るアルゴリズムにしても、サービスだったり、プロダクトにしても、利益を得るのはある特定の層、つまり白人だけ。なぜなら、そのインフラを所有、コントロールするポジションにいるのも彼らであるから。テクノロジー産業には偏りがありすぎる。だから、まずはそのポジションにいかに多様性をもたらしていくのかが重要なわけで。それを実現するために、まずいま俺たちが取り組んでいるのは、アジア系、ラテン系、黒人などマイノリティの若者たちの意識を変えること。

H:具体的にはどうやって?

I:テクノロジー産業には「インフラそのものを創出・所有している層」「インフラを消費者に流通させる中間層」と、「データを所有する消費者層」という大きく3つの階層がある。たとえプログラミング方法は教えてくれても、いま触れた構造についてはもちろんのこと、インフラ開発にせよ、いかにしてそのポジションにたどり着くのかにせよ、テック企業は教えてくれない。だから俺は、それらを正直かつアクセスしやすい情報にして、世の中に広めることで、テック業界におけるチャンスをより平等に届けたいんだ。

H:スケールがすごいね、本当に。ところで、方々で“テック界の天才”と称されるアイドリスだけど、天才って言われることについてはどう思ってるの?

I:ニューヨーク・タイムズにしても、CNN(大手報道局)にしても、確かにいろんなメディアで「天才(genius)」って表現されてはいるんだけど、はっきり言って「天才」って言葉が嫌い。なぜかっていうと「天才(genius)」って言葉は、98パーセントの割合で男性に使われていて、女性には滅多に使われないらしくて。女性が「あなたはとても賢い(you are a very smart woman)」とは言われても「天才(genius)」とは言われないっておかしな話だろ? 俺が何度も口にする民主化っていうのは、認識だけじゃなくて、言葉にも同じことがいえる。あ、でも「神童(prodigy、主に子どもや若者に使われる)」の方は悪い気はしないね(笑)

H:(笑)。マネージャーが先ほどからチラチラ時計を気にしてるので、これを最後の質問にするね! “天才(prodigy)”アイドリスの将来の展望を教えてください。

I:うーん、将来の展望か…。厳密にいうと、この質問には答えられないよ。なぜなら俺らみんな“シミュレーション”に生きてるから(笑)

H:???

I:ハハ。誰にも未来なんてわかりっこないからさ、死ぬ以外約束されていることなんて、何もないからね。答えるなら「今日ここで話をしたことが実際に起こり、それを自分の目で確かめる」ってことかな、将来の展望は。

H:その決定的な一打は、きっとアイドリスだね。

I:と、“みんな(WE)”だ。“俺(I)”ではなくて、“みんな”。魚の大群について聞いたことあるだろう? 小さな魚たちが一緒に泳ぐことで、大きな魚のように見せかけると、敵が逃げていく。俺たちもこんな感じ。俺たちはいろんな種類の小さな魚の集合体で、1匹の大きな魚となるんだ。

H:なんだか、絵本のスイミーみたいだね。

MEETHEAPS Vol.06 SEP 2019


こちらのイベントについては、以下のページにて随時アップデートいたします。
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▷HEAPS編集部ツイッター(@HEAPSMAG

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Aonisai 014: Iddris

Iddris Sandu(アイドリス・サンドゥ)

1997年生まれ。
10歳でプログラミングを独学で学びはじめ、13歳でグーグルのインターンを経験。15歳でツイッターのデータ解析にはじまり、以降、インスタグラム、ウーバー、スナップチャットと仕事をこなす天才プログラマー。近年、有名ラッパーとのコラボレーションなど、ポップカルチャーとの結びつきも強く、テック×ハイプなニュージェネレーション。

@iddrissandu

Photos by Kohei Kawashima
Text by Shimpei Nakagawa
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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