ストリート、トイレ、ラップトップ、車。あらゆる場所で、端的に主張をする薄い存在—といえば、ステッカーだろう。
時は2000年、ジョン・フィッシャーはいち早くそのポテンシャルに気づき、自宅の地下で一人ステッカービジネスをはじめることにした(この時、ビジネスど素人)。現在、クライアント数は3万。昨年には39人の従業員で年間売上10.2億円を達成し、今年、フォーブスのForbes 25 Small Giants(最も優れた小会社 25)に選ばれた。彼はこう主張する。「ステッカーが社会から衰退することはない」
ステッカーは、子どもも扱える「簡単な自己主張ツール」である
多くの人間が、社会における最初の自己主張をする道具として利用する一つはシールだ。襖からテーブル、窓、ありとあらゆる場所に貼り付けて母親に怒られたっけ。それでも確かに、筆箱やペン、ノートに自分の名前シール、お気に入りキャラクターシールを貼るのは「これは自分のもの」というはっきりとした主張だったと思い返す。子どもたちは手始めに、シールを貼るという行為でれっきとした自己主張をするのである。
「それこそが、シールやステッカーが昔から子どもから大人に愛される主要な理由。簡単で誰でもできる。そして、雨が降ろうと人にぶつかったりして擦られようと、簡単には消えない。こんな簡単で強い主張はあるかい?」
ステッカーとは最も古いソーシャルメディアである
ジョン・フィッシャー(John Fischer)は、時代を問わず・老若男女を問わず、の愛されプロダクトであるステッカーが持つポテンシャルに気づき、会社StickerGiant(ステッカー・ジャイアント)を立ち上げビジネスにした。以来、同社は成長を続けている。
あらゆる講演会や大学の講義にも引っ張りだこだが、ガツガツのビジネスマンというよりも、ジョンの印象は穏やか。もともとは子どもの頃から熱心なシールコレクターで、学生時代の専攻はアート。ビジネスから遠く離れた机で熱心にシール帳を眺めていた男が、ビジネスマンとなるきっかけは2000年の大統領選(アル・ゴアとジョージWブッシュ候補)だった。最終決戦を目前にし、その当時、誰もが口にしていた「He is not my president(彼は私の大統領じゃない)」というフレーズのステッカーを大量に注文して買い込み、簡単なサイトを立ち上げて転売すると、飛ぶように売れた。一枚3ドルで3,000枚、9,000ドル(当時のレートで約96万円)を売り上げた。
「このシールで、人々は簡単に自分の主張をしたんだ。車にはり、パソコンに貼り、マグカップに貼り。大統領選においての自分の意思をシンプルに表明することができた。そして僕にはこう腑に落ちた。ステッカーこそ、もっとも古いソーシャルメディアのフォームの一つである、と」
ジョンの考えはこうだ。ソーシャルメディアとは、簡単に誰もが自分の存在、考え、体験、思い、哲学を広く主体的に共有するツール、プラットフォームである。その筋でいえば、確かにステッカーはその役割を果たしている。
そういえば昔、冷蔵庫に貼ってあった古いシールにはその会社のキャラクターとメッセージがかかれていたっけ(「手をよく洗いましょう」とか)。
他の大統領選でもまさしくそうで、OBAMA(オバマ)とかかれた、あるいはオバマ候補の顔のイラストのステッカーは、それだけで「私はオバマ候補を支持しています」という端的な主張となった。
ビジネスを開始した当初は「Amazon of Stickers(アマゾン・オブ・ステッカー)」をアイデアに、世界に存在するステッカーを一箇所に集めて売るという、ステッカー小売業としてスタートを切る。当時、この手のサービスがなかったことと、SEOに力を入れネット上のステッカーに関するあらゆる検索結果でトップの表示になるようにしたことで一気にカスタマーは増え(スクービードゥー/ステッカー、バンド/ステッカーなど)、12ヶ月で黒字化。だが、その5年後の2006年に、ジョンはオリジナルデザインのステッカー印刷サービスに移行した。
「いろんなステッカーが簡単に手に入るようになり、今度はカスタマーの多くがオリジナルのステッカーを欲しがった。そりゃあそうさ、だって会社も個人も主張はオリジナルなものを持っているから」
そして、ステッカーは最も安いプロモーションである
ロゴをステッカーにして、会社の車やスーツケースに貼るだけ。最も安く、偶然性を保持しながらカンパニーの存在、プロダクトの存在を主張するアドバタイズの手法として、ステッカーでのプロモーションは常套化した。
ステッカーのオンライン小売業からカスタムステッカー印刷業へ、という大きな針路変更には「不安はあった」。が、会社は急成長を続けクライアントは増加の一途、現在は3万の会社やブランドに選ばれている。そこにはAppleやNASA、Googleなどナショナルクライアントも含まれる。
いまではオリジナルのステッカーを印刷してくれるサービスは少なくない。なぜ、ジョンのステッカージャイアントが選ばれるのだろうか。
「Fast and Easy(早くて簡単)」これだけだよ、と返答はシンプル。具体的に何をしているかと聞くと、より早く送るために作業を見直し効率化することと、ステッカージャイアントの利用を簡易化するために、カスタマーからの細かい要望すべてを徹底的にレビューし、サービスの向上と注文経路であるウェブサイトを毎日改良する。他社との差別化というよりは、シンプルにステッカーの印刷というサービスをどこまで向上できるか、に重点を置く。
簡単で早い。まさにステッカーの持つ性質を、自身のビジネスの基本にした。注文が入れば基本的に即日発送を守る。次の10年で、従業員を現在の40人から100人に、売り上げも2倍にする。それが目標だという。では、次の10年でステッカーという存在はどう変わっていくだろうか。
「大きな変化はないだろうね。だって、この数十年、ステッカーというものが変わったかい? 変わってないだろう。なぜかって、最初からベストな形を持っているものは、そのままでいい。それを普及させるサービスの方をいかに良くしていけるってことだね。僕が力を入れるのは、もっと早く、もっと簡単に。ステッカーのようにシンプルだよ」
ステッカーとは、ソーシャルメディアの最も古いフォームである、ということだったが、それでは、SNSのフェイスブック、ツイッター、インスタグラムという、早さも手軽さも、さらにはワールドワイドな広さも兼ねそなえるツールがある現在でもステッカーが持つアドバンテージは何か。
「ステッカーだけがフィジカル、という点だね。他はラップトップに貼れないだろ? Wifiがなくても、誰でも簡単にどこでも主張できる」。だから、いいサービスがある限り「ステッカーは廃れない」。主張はシンプルでいて確か。強力なステッカーさながらだ。
Interview with John Fischer from StickerGiant
———
All images via StickerGiant
Text by Sako Hirano
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine