新種“エコマフィア”に、ボロ儲けの合法商売〈ゴミ処理〉を牛耳るヤツら。黒い匂い漂うギャングとゴミの関係—Gの黒雑学

【連載】米国Gの黒雑学。縦横無尽の斬り口で、亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がし痛いところをつんつん突いていく、十九話目。
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「友は近くに置け、敵はもっと近くに置け」
(映画『ゴッドファーザー』から)

「友情がすべて」のマフィオーソの道。しかし、
昨晩、盃を交わした友が敵になる。信頼の友の手で葬られる。
“友と敵の境界線は曖昧”でまかり通るワイズガイのしたたかな世界では、
敵を友より近くに置き、敵の弱みを握り、自分の利益にするのが賢い。

ジェットブラックのようにドス黒く、朱肉のように真っ赤なギャングスターの世界。
呂律のまわらないゴッドファーザーのドン・コルレオーネ、
マシンガンぶっ放つパチーノのトニー・モンタナ、
ギャング・オブ・ニューヨークのディカプリオ。
映画に登場する不埒な罪人たちに血を騒がせるのもいいが、
暗黒街を闊歩し殺し殺されたギャングたちの飯、身なり、女、表向きの仕事…
本物のギャングの雑学、知りたくないか?

重要参考人は、アメリカン・ギャングスター・ミュージアムの館長。
縦横無尽の斬り口で亜米利加ギャングの仮面をぺりぺり剥がす連載、十九話目。

***

前回は、今年で92歳を迎えたニューヨーク最古のストリートフェスティバル「サン・ジェナーロ祭」を現地からレポート。イタリア・ナポリの聖人を祀る祭りでは、伊カトリックらしいキンキラキンの聖像に、マフィアも大好きな(?)B級イタリアン屋台までが勢揃い。こてこてのイタリアど根性を見せつけられた。今回は、ギャングとゴミの意外な関係について。ゴミ処理ビジネスを牛耳るギャングや、イタリアでまことしやかに噂される環境破壊集団「エコ・マフィア」の正体について漁ってみることにする。

▶︎1話目から読む

#019「ゴミ収集業を操るNYギャング、環境を破壊する伊エコマフィア。ギャングとゴミのどこか匂う関係」

なぜか“ゴミ”と仲良しなギャングたち

 ニューヨーク、日曜なりたての午前1時のストリート。パーティーをはしごする千鳥足の若い輩や、ビニール袋に買い足したビールをぶら下げて部屋着姿で歩く男女が夜の道を独占する。そして一本通りに入れば、ヤツらに出くわすに違いない。「ゴミ収集人たち」だ。ゴミ収集車の端につかまり(彼らは走行中もトラックの後ろに立っている)、ゴミ袋やゴミが積み上げられた大きなコンテナを見つけると、勢いよくジャンプして下車。重いゴミ袋を華麗な手つきで、トラックにポコポコ積んでいく。長時間のキツい肉体労働だが、これが意外と稼げる仕事らしい。初年度でも平均年収915万円で、年収1000万超のベテランゴミ収集人もいるというから、あなどれない。毎日出るゴミの量は、街の象徴・エンパイアステートビルディングと同じ質量だといわれているニューヨークならではの儲かるビジネスだ。

 ニューヨークからピザが消えたとしても、ベーグルが消えたとしても、絶対に消えてはならないゴミ収集人たち(ピザやベーグルが消えても困るが)。彼らが仕事を放棄した暁には、通りはゴミで溢れかえり街が機能しなくなる。都市の最重要ビジネスである〈ゴミ収集・処理業〉だが、“組織犯罪”の関与がたびたび噂されている。組織犯罪、つまりギャングがゴミビジネスを操っているということだ。「ゴミ」「犯罪組織」と聞いて点と点がつながった人は、きっとあのドラマを観たことがあるんじゃないかと思う。ニューヨークのお隣、ニュージャージー州のイタリア系ギャング一家を描いた『ザ・ソプラノズ』。主人公でマフィアのボス、トニー・ソプラノの表向きの仕事が「ゴミ収集会社経営」だったからだ。
 いったい、ゴミとGたちはどう絡んでいるのだろう。頼みの綱であるアメリカンギャングスターミュージアムの館長さんに尋ねてみると、「ギャングとゴミ収集ビジネス、ですか…」と言ったきり口を開くことはなかったため、今回は調査結果をここに記すことにしよう。

 まず、なぜギャングたちがゴミビジネスをしたがるのか。これについては、すぐにでもはじめられる“儲かる合法ビジネス”だから、というのが有力な筋だろう。トラック1台と強靭な男を2、3人見つければいい。そして、この“合法”というのが肝。彼らは金のなるビジネスといったら、ドラッグや人身売買、ギャンブルなど危険な橋をわたる商売に走りやすいが、ゴミ収集ビジネスはれっきとした合法な商売で、しかも高い需要が常にあるのだ。

 また一説によれば、米国の多くの都市が商業用廃棄物の回収を民間の業者に頼むようになった20世紀半ばから、ギャングたちがゴミ収集ビジネスに本格的に乗り出したという。シカゴやニューヨークのイタリア系、もしくはアイルランド系のギャングたちは、カタギの回収業者をゆすったり、暴力に任せ勢力を拡大。ニューヨークでは、イタリア系ギャング、コーサ・ノストラが牛耳っていた。

 しかし、1990年代になると状況は変わる。ニューヨークでは、ジュリアーニ元市長(1994-2001)がゴミ回収会社の調査をおこなう委員会を設立し、組織犯罪によるゴミビジネスを一掃しようと徹底的に取り組んだ。その影響もあってか、ここ20年のギャングのゴミビジネスへの勢力は以前よりは弱まっているといわれている。とはいえ近年、トニー・ソプラノのニュージャージーではいまだゴミ回収業はマフィアが独占しているという報告書もあるなど、ゴミビジネスにはやはり黒いニオイが漂っている。ギャングとゴミの密接な関係。彼らがゴミ処理を牛耳りたい理由としては、見つかったらまずいもの(死体や犯罪に使用された武器、もみ消したい証拠品や書類など…)を隠蔽したいからともいわれているが、真相はゴミ山に葬られたままだ。

伊で暴れる環境犯罪集団「エコマフィア」の存在

 ギャングの本場イタリアでは新種のギャングが暴れているという。環境破壊集団、通称「エコマフィア」だ。麻薬を主な収入源にしていたイタリアのマフィアも、1980年代半ばからゴミビジネスに参入。主に「産業廃棄物の処理代行」を謳っていたのだが、蓋を開けてみると産業廃棄物をきちんと処理せず“不法投棄”をするビジネスだったのだ。彼らはカタギの処理業者に比べ格安で請け負い、野原や湖などに廃棄物を投げ捨てた。

 特にナポリのゴミビジネスはマフィアとの関与が色濃い。ナポリを拠点とするイタリア4大マフィアの一つ、カモッラはゴミの山にズブズブで、伊北部で出た産業廃棄物を船で搬送し、ナポリ周辺に不法投棄。結果、アスベストやタイヤ、工業用の接着剤など何十万トンものゴミが山積みとなり、ゴミの山からは有害なガスが立ち込めている。このことからナポリ北部は「死の三角地帯」という汚名まで着せられてしまった。

 ほかにも、有毒廃棄物を不法投棄場に押しこめたりするエコマフィアや、産業廃棄物をつめ混んだ船を爆破し海底に沈めるという桁違いの暴挙をやってのけるエコマフィアも存在。放置されたゴミから発生する有害物質や大気汚染による健康被害、農地や牧場の汚染による食料への被害が懸念されている。告発しようものならゴミ山行きになってしまうのを恐れてなのか、いまだ問題解決には至っていないようだ。

 次回のお題は「ギャングと車」。 派手好きで有名だったNYギャング、ジョン・ゴッティや、アル・カポネの改造車、銀行強盗カップル「ボニー&クライド」が逃走時に使った車など、Gたちの車への偏愛を語ることにしよう。

▶︎▶︎#020「伝説の犯罪カップル、大物マフィアは車好き。ギャングらがハンドルを切った“いわくつき”の車たち」

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重要参考人
ローカン・オトウェイ/Lorcan Otway

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Photo by Shinjo Arai

1955年ニューヨーク生まれ。アイルランド系クエーカー教徒の家庭で育つ。劇作家で俳優だった父が購入した劇場とパブの経営を引き継ぎ、2010年に現アメリカン・ギャングスター・ミュージアム(Museum of the American Gangster)を開館。写真家でもあるほか、船の模型を自作したり、歴史を語り出すと止まらない(特に禁酒法時代の話)博学者でもある。いつもシャツにベストのダンディルックな男。

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Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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