見出された江戸庶民のおかず〈おから〉×アップサイクル。米国スタートアップを筆頭に、ドイツ最大のクッキーメーカーも参画?

日本のスーパーフード「おから」を「OKARA(オカラ)」に。米国のスタートアップがオカラに見出したビジネスチャンスは、世界へ?
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古くは江戸庶民のおかずとして、日本人の食卓にのぼる健康食品「おから」。大豆から豆腐をつくる過程で豆乳を絞ったときに出る搾りかすのことで、食物繊維が多く低カロリー。ギュッと詰まった栄養価は豆乳以上に高いことから、近ごろではダイエット食品としても注目されたり、卯の花和えや豆腐ハンバーグなどのレシピに活用されたりと、日本でおなじみのスーパーフードだ。

一方、数年前から東アジア以外での“Okara(オカラ)”の認知度はまだまだ低く、「なにそれ? おいしいの?」状態。…だったのだが、健康ブーム冷めやらぬ米国では、〈おから〉をアップサイクルビジネスとしてスタートアップも登場、Okara市場がめきめきと成長しようとしている。

「MEET OKARA」でビジネス上々。おからからできたチョコチップクッキー

 やはり米国は商売上手だと思う。ウェブサイトには「MEET OKARA(紹介します、“オカラ”です)」。すでに日本ではなじみの顔・おからを、堂々と改めてみんなに紹介している。そしてきわめつけは、オカラは「SOYMILK’S SUSTAINABLE SIBLING(豆乳のサステナブルな“兄弟”です)」。こちらもまた古くから東アジアで浸透していた“漢方”を、いまさら「薬用キノコ」として巨大ビジネスにしている国だもの、さすがだ。

 日本では400年も前から親しまれていたおからを、ポップにキャッチーに米国に紹介しているのが、カリフォルニア州オークランドの食スタートアップ「リニューアル・ミル(Renewal Mill)」。豆乳の搾りかすをアップサイクル。おからパウダー「ピュア・オカラ・フラワー」を開発し、今年から販売中だ。

 そして、おからパウダーの開発は、彼らリニューアル・ミルの単独行動ではない。高級スーパー「ホールフーズ」や大型スーパー「ターゲット」、サラダストア「スウィートグリーン」、ミシュランのスターシェフを顧客に豆腐を販売するオーガニック大豆ブランド「ホードーフーズ(Hodo Foods)」とがっちりタッグを組んでいる。
 たとえばホードーフーズからは、これまでは地元酪農場などへ“家畜のエサ”として処理していた豆乳の搾りかすのうち、5パーセントから10パーセントを提供してもらい、高タンパク質でグルテンフリーの高品質健康食「おからパウダー」にアップサイクルしている。
 
 気になるおからパウダーは、約230グラムで500円、約450グラムで1,000円。値段は一般的な小麦粉と同等だ。おからパウダーを使ったオリジナル食品も作っており、これが好調。それもそのはず、リニューアル・ミルの製品開発責任者は、料理界のアカデミー賞”・ジェームズ・ビアード財団賞を3度受賞した料理本作家のアリス・メドリッチ。彼女が生み出した自信作「チョコレートチップクッキー」は、地元ベイエリア限定で絶賛販売中だ(100パーセント・ビーガン)。

 このコンセプトにより、昨年夏には起業家を支援する世界規模のネットワーク「テックスターズ」からの投資を獲得。昨年10月には世界5大穀物メジャー*の1つ、米カーギル社と研究開発のパートナーシップを締結。今年1月には、新興の企業を支援する投資会社「HG Ventures」から約2億5000万円の投資を受け、現在はドイツ最大のクッキーメーカー「バールセン」とグルテンフリークッキーのラインナップ開発を検討中と、オカラ・スタートアップを中心に、オカラ・ビジネスが着実にパワーアップしているのだ。

*多国籍穀物商社のこと。種子の開発から穀物取引,販売にいたるまで一貫して市場を独占的に支配し,世界の穀物需給に強い影響力をもっている。



オカラ・スタートアップの本音「食料廃棄・食料不足を減らしたい」

「オカラは、私が以前ジュース業界で抱えていた課題とよく似ていました。ジュース業界では、栄養価が高いにも関わらず、多くの果肉が廃棄されていた」とは、リニューアル・ミルの創設者のクレア・シュレンメ。オカラも、その栄養価がずっと無駄になっていた。「そこで、オカラをアップサイクルすることで、〈食品廃棄の削減〉と〈価値ある栄養価を無駄にしない〉の両方を解決できるのではと閃いたんです」。

 いまや世界で、その損失はおよそ100兆円にものぼるといわれている社会問題、「食料廃棄」。世界中で生産された食品の4割が消費されていないにも関わらず、食料不足は深刻化。米国にいたっては「7人に1人が食料不足なのです」とクレア。増える食料廃棄・問題化する食料不足という社会の矛盾を、おからで解決できないかと考えた。

 おからでアップサイクルを急速に進めるリニューアル・ミルだが、「オカラは、わたしたちのはじまりに過ぎません」。今後はブドウの搾りかすをグレープシードオイルや肥料に、ジャガイモの皮を動物の飼料に、アーモンドミルクの搾りかすをグルテンフリーのアーモンド粉に、と幅広く展開予定。「本来廃棄されるはずの食品にこのプロセスを使えば、35億人の食料不足の解消も可能かもしれません」。

 商売上手がオカラを「ビジネスチャンス!」にしただけではなく、根底には社会的な問題解決の目的があった。日本ではすでに“食卓の一品”だったおからが、スタートアップの手により企業も巻き込むビジネスとなり“食の好循環”を振り撒きはじめたとは、誇らしいじゃないか。

All images via Renewal Mill
Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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