まるでSFな〈近未来的シェアオフィス〉降臨か?個人の1日のスケジュールに合わせてフロアを移動するキュービクル(個室)たち

「5分後、会議がはいってますね。空いてるスペースまで移動します」。ウィーン。可動ロボット搭載・“足の生えた個々の小オフィス”。
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仕事に集中しようと意気込んだときに限って耳に入ってくる同僚のボールペンカチカチ音にエンターキーを得意気に叩く「ッターン」音、はたまた茶をすするズズズー音。雑音のせいで削がれる集中力、結果的に落ちる生産性。

これだから扉や仕切りのないオープンなオフィスは嫌なんだよな…。そこで待ったをかけたのが某デザインスタジオ、これら悩みをまるっと解決してくれる(かもしれない)。ロボットを搭載した〈ユニークな近未来型のオフィスアイデア〉を降臨させた。

デザイン事務所の企み:ロボットと霧がフロアを“仕切る”オフィススペース

 仕切りや壁をつくらず、大勢の社員が机を並べるオープンなオフィス。日本企業ではこのオープンプランオフィスが主流で、米国でも約7割の企業がそうだという。それに加えて、いまや一般的となったシェアオフィスでは当たり前でしょといわんばかりに、フロア全体はオープンだ。開放感がありコストも抑えられ、従業員同士のコミュニケーションが向上するなどのメリットがある一方で、周囲の会話や雑音で気が散る、集中を妨げられるなどのデメリットも多くあげられる(背後から聞こえる異常に大きな話し声が気になり、しかし注意できるわけもなく、プルプル震えながら席を離れたことが何度か)。職場設計の専門家によると、オフィスワーカーの74パーセントが「雑音に迷惑している」と回答。現に、BBCが発表した調査(2017年)では、オープンプランオフィスで働く人たちは、個室で働く人たちよりも生産性が15パーセント低く、病欠率は2倍に上るとの結果が。

 では、どう対処しよう? イヤホンで音楽を聞くのが手っ取り早いかもしれない。だが、イヤホン禁止の職場もあるだろうし音楽があると集中できなくなる人もいる。最近はノイズキャンセリングヘッドホンもあるが、耳にずっとヘッドホンをつける疲れも否めない。仮に雑音を遮断できたとしても、そこは見通しのいいオープンオフィス。来客の姿や談笑中の同僚など、ふと視界に入るビジュアルノイズもまた遠慮なしに集中力をジリジリと削いでいく。それら全部ひっくるめて解消してくれるオフィスが欲しい。そんなあちこちからの声に、サンフランシスコ、ロサンゼルス、ニューヨークを拠点に活動するデザインスタジオ「ラプトスタジオ(Rapt Studio)」がこの度、近未来型オフィスを考案したのだ。

 米ビジネス誌「ファスト・カンパニー」主催プロジェクトの一環として始動したこの近未来型オフィス、〈ロボット〉と〈無毒の霧〉というふたつのテクノロジーを駆使して、集中作業用のプライベートスペースと共同作業用のコラボレーティブスペースを提案するという。

可動ロボットが1日のスケジュールを把握?動く〈自分のキュービクル(個室)オフィス〉

 集中力を削がれることなく仕事に取り組めるプライベートスペースを重視して作られたのが、小部屋のようなキュービクル型オフィス(以下、キュービクル)。各キュービクルの下には、縦横無尽に移動するロボットが搭載されており、そのキュービクルの利用者がリクエストするスケジュールに基づいてフロアを自動で移動してくれる。
 たとえば、「今日は丸一日、集中作業をしたい」とロボットにリクエストすると、自分用のキュービクルが1つ割り当てられる。「今日は会議がある」とロボットに伝えると、自分のキュービクルが他の会議参加者のキュービクルと合体して広めのスペースをつくってくれる。個々には完全プライベートなキュービクルがあたえられ、会議など複数人と顔を合わせる必要がある場合には、その個々のスペースが合体してチームの大きなキュービクルスペースとなるのだ。ラプトCEOのデビッド氏は、「ロボットには機械学習技術が搭載されており、継続的に従業員のリクエストを受けます。よって各従業員の好みや習慣、行動パターンを学び、次第にどのスペースに行きたいかを予測することが可能になるでしょう」と話す。


プライバシーを保護するのは、仕切りならぬ〈無毒の霧〉?

 もうひとつ、ロボット稼働のキュービクルとは別に考案されたのが仕切りもない個々の可動式チェア(デスク付)だ。
プライベートスペースとコラボレーティブスペースをオープンスペースで上手に混在させるべく、音響的にも視覚的にもノイズを遮断するツールとして利用されるのが、〈無毒の霧〉。この霧が個々の椅子、そして椅子が集まってできた作業スペースを覆い、視覚的・聴覚的なプライバシーを保護してくれるのだという。従業員同士がコミュニケーションをとりたい場合は、各自の扇風機で霧を取り払い相手を認識。
 プライベートな会話をしたい場合は、霧が結合してできる泡のようなものが話者たちを覆いつづけバリアとなってくれるため、会話の内容が泡の外に漏れない。泡はミーティングスペース用の大きさにも膨らむので、大人数での会議も可能にするらしい。


 どうだろう、従来のオフィスの概念を覆す近未来的なハイパーSFチックなデザイン。現時点では、まだアイデアが出揃った段階だ。現実的かといわれれば正直「うーん」といったところだ(特に、霧のアイデアはとてもシュール…)。が、デビッド氏は「驚くことにこの類のロボット技術はすでに存在します。よって想像するよりも近い将来に現実のものとなるのでは」と予想している。すでに存在? 「現にアマゾンはこういったロボットを流通・梱包施設ですでに利用*しています。ただ、オフィスに持ち込む際には規則や安全規定といった課題が山積みです。が、最終的にはこの技術はオフィスデザインをネクストレベルに引き上げられると考えています」とのことだ。

*アマゾンの倉庫では、自動走行ロボットが商品棚の下に入り込み、棚を持ち上げて移動するシステム「アマゾン・ロボティックス(Amazon Robotics)」を導入している。
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All images via Rapt
Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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