「霊柩車はヴァン代わり」年間300組をブッキングする男。NYC半世紀の“俺流”バンドプロモーター業

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「グレイトフル・デッドのセキュリティもやった。俺の番犬は急所に噛みつくよう調教されていたぜ」「ヘルズ・エンジェルスも俺の客。うっかり間違えたバンドをブッキングしたら、殺されちまうぜ(冗談)」「全長6メートルのデカいキャデラックの霊柩車を買い取ってさ、それにバンドと機材つんで乗りまわしてたんだぜ」

これは、コンサートプロモーター、ブッカー、バウンサーとしてニューヨークのナイトシーンに半世紀鎮座する顔役、フランク・ウッドの退屈知らずな日常の片鱗にしかすぎない。

プロモーター歴45年、“NYナイトライフのドン”

 フランク・ウッド(62)は、筆者が知っている中で一番アクの強いダミ声の持ち主だ。それは、長年の酒と葉巻にやられた喉のせいなのか。黙っているときの方が圧倒的に少ないほどにつねづね喋り倒しているせいなのか。そして、誰よりも一番メガネとヒゲ(お手入れしたばかりらしい)が似合っている。
 ニューヨークにライブをしに来るバンドには、こう助言が入る。「とりあえず“ミスター・ウッド”のところへいけ」。コンサートプロモーター歴は45年、毎年300組のバンドを老舗ベニューにブッキング。4つのフェイスブックアカウントを使いわけ、コンサートをプロモートする(友だちはリミットの5,000人まであともう少し)。画面の割れたパカパカガラケーにかかってくるシゴトの電話をピックアップし、バーにやって来るお客さんのIDをチェックしながら、かなり年季の入った「俺の武勇伝」を披露してくれた。

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プロモーターのドン、ミスター・フランク・ウッド。

HEAPS(以下、H):ミスター・ウッドは、ベテラン・バンドプロモーター。

フランク・ウッド(以下、F):そうだ。俺は、バンドプロモーターでブッカー(ブッキングエージェント)、セキュリティガイでもある。

H:初歩的な質問なんだけど、プロモーターやブッカーってどんな仕事? 

F:プロモーターは、担当バンドのライブを宣伝する。新聞やソーシャルメディアで告知して、フライヤーを外で配るんだな。で、ブッカーは、ライブハウスに問い合わせてライブをブッキングする。たとえば、あるバンドから「ニューヨークでライブをしたい」と電話がかかってくるとする。俺は、バワリー・エレクトリックやベルリン(いづれもニューヨークの人気ライブハウス)に電話して「◯日、押さえておけ」と言うんだ。で、10発中9発はOK。ぐふふふふ。

H:ライブハウスから「どんなバンド?」って聞かれないんですか?

F: いいや、そんなこと聞かれない。「いいバンドがいるんだけど(I gotta good one.)」と言えばいいだけ。まあ、45年もこんなことやっているから、俺の評判が物を言うってわけよ。

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H:ははあ。毎年300バンドをブッキングしているミスター・ウッドが言うんだから、いいバンドに間違いない、と。

F:まあ、ウェブスターホール(今年閉業した老舗有名ライブベニュー)を埋めたことだってあるからさ。それに、俺の庭みたいなこのバー(オットーズ・シュランケン・ヘッド、略してオットーズ)でやってる毎週日曜のコンサートナイトでバンドを出演させ続けて15年。CBGBやマックス・カンザス・シティ(今は無き伝説のナイトクラブ)でもブッキングしたな。フロリダのクラブも知っているから、東海岸ツアーさせたり。新宿ロフトでもあるぞよ。

H:45年分の実績が一番の説得力になるんですね。さぞかし、がっぽがっぽ?

F:全然カネにならないけどな。

H:あ、そうなのか…。そもそも、なぜバンドプロモーターになったの?

F:俺のプロモーター人生は、高校時代からはじまっていた。ハイスクールパーティーのため、まだ駆け出し中のブルース・スプリングスティーンがいたバンドをブッキングしたこともあったぜ。

まあ、俺の父ちゃんはさ、いわゆる“Mother And Father’s Italian Association”(頭文字をとると…もうお判りだろう)に関与してたわけ。だから、父ちゃんがバーに集金しにまわるときについて行ってさ。そこで知り合うバーマネージャーのためにバンドをブッキングしていたってわけよ。そうして自然とバンドプロモーターになった。俺の叔父さんもまあそっち方面だったんだけど、俺が一端のプロモーターになったとき、ザ・リッツ(旧ウェブスターホール)でレイ・チャールズのコンサートがあって、叔父さんを招待したわけ。「偉いぞ甥っ子よ。よく学習したな」って言われてさ。ぐふふふふ。

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ビースティ・ボーイズのマネージャー案件を断る

H:「このバンドのおかげで俺は一端のプロモーターになった」とかってありますか?

F:それはないな。俺を有名にさせたのは正直さと忠誠心、献身。そして正しい仕事をすること。

H:そのスタンスで、あの悪名高いバイカー集団「ヘルズ・エンジェルス」のためにもバンドを呼んでライブをセッティングしたことがあると。

F:あいつらバイカーには、筋金入りのロックンロールバンドを用意しないといけないな。シューゲイザー(ノイズギターとポップなメロディのロック)のバンドなんて連れてきたら、あとであいつらに殺されるわ!(冗談だがな)

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H:なんだかヤクザな仕事ですね…。

F:俺は、70年代、グレイトフル・デッド(カルト的な人気を誇るロックバンド)のセキュリティもやっていた。俺の番犬は体重60キロのジャーマン・シェパードに、70キロのロットワイラー、ドーベルマンだったんだけど、何かあったらキン◯マを噛みつくように調教したんだぜ。ぐふふふふ。

H:ガクガクブルブル(震)。犠牲になったキン◯マがなければいいのですが。

F:あとは、シェイスタジアム(ザ・ビートルズの公演で有名な)で演ったザ・フーだろ。ザ・クラッシュに、デイヴィッド・ヨハンセン(パンクバンド「ニューヨークドールズ」のシンガー)のライブでもセキュリティをやった。

とまあさ、70年代から音楽シーンをいろいろ見てきたわけだよね。それこそパンクに、ロフトジャズ(屋根裏部屋などに集まり演奏した若手前衛ジャズミュージシャンのシーン)、サルサ、ヒップホップ。あとさ、ビースティ・ボーイズがまだハードコアバンドだった頃から知っていて、やつらは俺にマネージャーになってほしい、と言ってきた。でもやつら、ヒップホップに転向するって。え、黒人音楽なんだから無理じゃねえの?(ビースティ・ボーイズは3人とも白人)ってなったんだけど、まあ知り合いのラッセル・シモンズ(ヒップホップ界の重鎮)に紹介だけはした。

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H:えぇぇぇ。でももしマネージャーになってたら、今頃こんな風にお喋りできなかったかも。

F:でな、俺はツアーヴァンの代わりに霊柩車を乗りまわしてたんだ。1962年式で全長6メートルのどでかい黒い霊柩車な。これ、すごい便利なの。ローラー(棺を出し入れするための)付きだからな。このローラーに重たい機材とかも乗せて、ガラガラって簡単に収納。10人くらいは余裕で乗れるし、女の子を呼んでパーティー。まさに、セックス・オン・ザ・ハイウェイだったぜ。ぐふふふふ。

ミスター・ウッド流、ロゴ&ステッカーのプロモ術

H:ミスター・ウッド、年がら年中喋っていますが、疲れないんですか?

F:いいや、話すことになんの問題もないよ。毎日、電話の着信音で起きるんだから。

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H:かかってくる電話が目覚ましアラーム代わりか。プロモーターとしての一日を教えて。

F:電話で起こされて昼の1時ごろにベッドから這い出てくるでしょ。で、新聞に目を通しながら飯を食う。そのあと、もらったCDを聴いてみたりするんだ。バンドがみんなCDをよこしてくるから、家にもう1万枚くらいあんの。2、3回通しで聴いて、ピンと来なければ“あとで聴く(Not Right Now)ボックス”にポイッてするわけ。だって俺が間違うことだってあるじゃないか。20年後に『“ビートルズ”のCDを持っている』なんてこともあったりするかもね。まあそれに要らないCDでもケースをとっとけば、壊れたのと取っ替えられるしな!ぐふふふふ。

H:ぐふふふふ。ここで、ミスター・ウッドの「俺流プロモーターの流儀」を教えてください。

F:まず観察力を鋭くしなきゃいけない。俺は毎回、ライブの記録をとってんだ。フライヤーの裏かなんかにメモすんの。「バンド名、バンドメンバーと担当楽器、ライブ会場、出演時間、ステージエリアとバーエリアにいる観客の人数。入場料を払った人数、ゲストリストの人数」。オールドファッションだろ? アルファベット順に10束くらいは溜まってる。ぐふふ。こうすることで、そのバンドの客の動きが見れる。このバンドのファンは夜8時くらいにアクティブだ、とかさ。

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H:大胆な性格に似つかぬ(?)地道な作業…。

F:あとはな、大きなベニューにブックする前に、俺の庭のオットーズでテストするんだ。ここでフリーのライブをして何人くるかな、って。みんな「40、50人来るから大丈夫さ」とか言うけど、わかんねえじゃん。だから、どれくらい客が来るか試してみる。フリーにして誰も来なかったら、もっと大きなベニューの有料ライブなら誰も来ないに決まってるじゃん。

H:まあ、確かに。

F:そして俺の(ブッキングした)バンドには、ピシッとさせる。時間通りに現れて、機敏に楽器をセットアップして、ライブでぶちまかして、終わったらさっさと片付ける。プロフェッショナリズムを教えるってこと。バンドたちに言うんだ、「ニューヨークで名声を得て、他のところで金稼げ」って。 昔、ふざけた態度をとるバンドがいたから、翌日、そのバンドが演奏するクラブに「ショーをキャンセルしろ」と電話したことがある。しかも、“機材を積み下ろした後”にキャンセルしろってな。ぐふふふふ。

H:ミスター・ウッドを怒らせると怖いですよ。

F:態度が悪いバンドは、トラブル起こして俺の評判も下げるからブッキングしない。電話で連絡しろと言うのにEメールで連絡してくるバンドも嫌だな。そのお前のファッ◯ン電話を使えよ!! 俺のやり方が気に食わなきゃ、ファッ◯・ユー。俺の悪口を言うやつもいるが、もしやつらがのたまう誹謗中傷が事実なら、俺はいまこうしてここにいない。だろ?

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H:その通りです。

F:あと俺流といえばだな、クラブごとにフライヤーのテンプレートをつくってあんのよ。そこには、このフランク・ウッド・ロゴも載せて。「フランクのロゴがあったから来たの」という女の子もいるぜ。ぐふふふ。そんでフランク・ウッド・フラッグもあるぞ。これをステージに掲げるとさ、ライブの写真に紛れこんでSNSで拡散されるわけ。

H:すごい、マーケティング術!

F:前なんかな、某ビール会社の社長と取引のミーティングがあったんだ。その2週間前に俺はフランク・ウッド・ステッカーを、会社の5ブロック周辺にある公衆電話ボックスや広告、工事現場の足場とかにペタペタ貼ったんだ。毎日自然に俺のロゴが社長の目に入るようにな。で、ミーティングの日、彼は俺の顔を見るなり、「あれ、どっかで会った顔だな」なんて表情をしたんだぜ。潜在的に俺の存在を植えつけて自分を売るってわけよ。

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H:ミスター・ウッドは、頭脳派。そして武闘派でもある。

F:ああ、テコンドー、合気道、太極拳なんでもできるよ。セキュリティのライセンスも持っているし。この前なんてセキュリティをしているとき、喧嘩を売ってきた客が俺の腹に肘鉄かましてきたんだが、こうして(腹筋がカチコチ)やったんだ。やつは驚いて「あ、ごめん冗談だよ〜」って。「どうだ、もう一回やるか」って脅してやったさ。ぐふふふふ。「俺のこと誰だか知っているか?」なんてほざくやつには「おい、こいつ自分のこと誰だか忘れちまったみたいよ」って切り返す。

(この日も外でセキュリティ中だったミスター・ウッド、突然口笛を吹いて散歩中の犬と戯れる)

H:さっきもベビーカーで通った赤ちゃんに声かけたり、常に目は忙しく動いているんですね。

F:酔っ払い集団とか招かれざる客もいるからな。一回、泥酔したドラァグクイーンが店のウィンドウを壊したことがある。同僚のセキュリティが警察に電話をかけている間、俺は知り合いのサツに直通で電話したわけよ。そしたら同僚が電話を切る前には、もう俺のサツが現場にいた。

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H:警官ともお友だち(笑)。

F:ぐふふ、サツはみんな俺のことを知っているさ。セキュリティの仕事は、その場を監督して、混乱を和らげて、「おやすみ」とみんなを家に無事帰すこと。これをまっとうする。

H:じゃあ最後に、ミスター・ウッドからの「これだけは覚えておけ」な人生の教訓を。

F:どんな状況においても、クソ馬鹿野郎な態度はとるんじゃないぞ。あと俺は大音量の音楽に囲まれて生活しているから耳をダメにして補聴器つけてんだ。おい若造、爆音ライブのときは耳栓しろよ。

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Interview with Mr. Frank Wood


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Photos by Hayato Takahashi
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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