ナウい都会で、ユルりと農業。“アーバンオアシス”と進化した農場
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「いつか都会の空き地すべてを農場にできたら、なんて僕たちは考えてるんだ」

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“スーパーヒップなネイバーフッド”として不動の人気を誇る、ブルックリンのウィリアムズバーグ地区。最寄駅のBedford Avenueを下車すればほら、ロールアップされたティーシャツの袖からタトゥーを覗かせたヒップスターに、首から一眼レフ、右手に地図を持った観光客。東京でいう代官山といったところか。
そんな都会に農場を作った男二人組がいた。はじまりは2013年春、近所の人々の力を借り、何十年と放置されたコンクリートと砂利のみの空き地を耕すところからはじめ、花と野菜で溢れる農場に蘇らせた。人々に愛され、都会に生きる人間の“憩いの場”として求められたが、オフィス建築のために立ち退きを要求され、惜しまれながらも2014年秋に「North Brooklyn Farms」は撤退した。

あれから1年。目の前に、なくなったはずの農場が広がっている。…
昨年取材した際に、冒頭の夢を語ったRyan Watson(ライアン・ワトソン)とHenry Sweets(ヘンリー・スイーツ)が新しい農場とともに帰って来た。取材陣に野菜を差し出す笑顔も健在。しかし、ただ帰って来たわけではないという。ウィリアムズバーグのコミュニティのために、さらなる進化を遂げているらしい。

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150年間“忘れ去られた土地”が「憩いの場」へ

 さて、今回一番の変化は拠点が移ったこと。といっても一つ道を挟んだ向かい側で、なんと150年も閉鎖されていた「ドミノシュガー」の工場跡地。昨年と同じディベロッパーからの紹介だったため、拠点探しは意外にも簡単だったという。しかし撤退から再スタートまでは、並々ならぬ労力を費やした。
「整備に取りかかったのが5月。当時はまだ高いビルが建ってたから、取り壊すところからはじめたよ」。ゼロからではなく、マイナスからのスタートを切ったわけだ。
 しかしその後、前Brooklyn North Farmsを立ち上げる際に協力してくれたボランティアの人々や、遊びに来ていた人たち、ご近所さんが今回も駆けつけて力を貸してくれたため、以前よりかなり大きなスペースにもかかわらず作業はスムーズに。なんとわずか“10週間”で農場のベースは完成したという。

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 また、以前コミュニティの皆で大切に育てていた木や花は友人宅で保管してもらうなどして、新しい農場にもう一度植え直したそうだ。「コミュニティで育てたものだから」とヘンリーは微笑む。誰も近寄らない殺風景なスペースが、またしても花と野菜、それから人々の声で活気づいた。

 キックスターター(クラウドファンディングで資金を調達するサービス)の支援もあり、2015年7月4日、「North Brooklyn Farms」の旗を再度掲げた。

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「野菜ってスーパーマーケットでできてるんじゃないの?」

 初めて農場を開いたとき、そう聞いてくる近所の子どもたちの多さに驚いた二人。「“育てる”を経験し、“収穫”を学んでほしい」と、昨年同様、幼稚園や小学校低学年の子どもたちへの菜園教育に尽力し続けている。ここには紫色をしたインディゴローズトマトをはじめ、スーパーではお目にかかれない野菜たちが育っている。そこから好奇心を持たせ、“野菜はスーパーから来ている”という現代の子どもたちの感覚を更生する。

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 また、ほぼ毎週日曜開催の採れたて野菜で調理するヴィーガン晩餐会「Sunday Supper at the Farm on Kent」は参加費75ドル〜85ドルと決して安価でないにも関わらず、チケットが10月まで売り切れ状態と、相変わらずの人気ぶり。ちなみに木曜はお肉を使った晩餐会も開催しているので、肉食系男子&女子にはこちらがオススメ。

 加えて今年から農場スペースの貸し出しを開始。自由の女神を横目にマンハッタンを一望しながらのウェデングパーティも良し、色鮮やかに実った花や野菜に囲まれてのバーベキューも良し、だ。もうひとつ新しくはじまったのが、「マジックボックス」の販売。会員になれば期間中、100%オーガニックの新鮮野菜や豆類、穀物などを購入できる。それぞれの野菜の栄養情報とレシピが同封されてくるのが魅力だ。これは元ボランティア参加者で、現在の晩餐会シェフによるもの。筆者のように得意料理は炒飯という大雑把な女子は、この機会に会員になってみてはいかがだろうか。

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“グリーン”に囲まれて“クリーン”な気持ちに

「ニューヨークにはエネルギッシュな人が多い。もちろんそれは大切。でもリラックスすることはもっと大切。エネルギッシュに生きていくためには、“充電”できる場所が必要なんだよ。そういう人たちがここに自然を求めてやってくる」。そう話す彼らは現在、ヨガや食事会、音楽とコラボレーションしたリラックスできるプログラムを考案中。近所の人たちが各々好きに集まり、繋がり、自然の中で楽しみながらリラックスできる場は、これまでにない都市農場となっていくはず。

 また、同市以外のアップステートなどにも農場を持ち、より多くの野菜を育て、より多くの人への提供を目指しているという。地元ボランティアの協力があったからこその農場。二人のコミュニティに対する恩返しの気持ちがそうさせている。

世界中の”都市農場”を繋ぐオアシスに

 期限を設けてスタートさせた昨年は「都会で行う農業が地元住民にどう受け入れられるか」「野菜はこの地でどう育つか」を探る実験的なものだったのに対して、双方に確信を得た今年は「コミュニティの繋がりをより重視した憩いの場」に進化していた。それを、「農場」を鍵に実現していっている二人だ。新拠点に移り、ここから新しい歴史がはじまるかと思いきや、実は今回も期間が限られている。3年から5年。「この先どうなるかは僕らにも分からないんだ。もちろん延長出来たら最高だけどね。そしていつかは、世界中のいろんな都市農場が繋がれたらいいなって思ってるよ」

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 犬の散歩がてら草木に水をやるおばちゃんに、ブランケットとサンドイッチ持参で芝生に寝転がるカップル。週に6日、パブリックスペースとして解放されているからこそある、なんとものどかな風景。地元住民がふらりと立ち寄り、そこで出会い何気ない会話を交わし、各々がスローなひとときをすごしているところを見ていると、「North Brooklyn Farms」はまるで、癒しを求めてやってくる人々の”アーバンオアシス”のようだ。冷たいコンクリートを開拓したように、花と野菜溢れるこの農場で、都市で固く凝った心をほぐしてくれる。3年後、5年後もこのオアシスがここにあることを切に願う。

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Photographer: Kohei Kawashima
Text:Yu Takamichi, edited by HEAPS

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